音楽好きの世迷い言
The melody at night, with you
廃盤レコードセール顛末記
2017-05-13-Sat  CATEGORY: コラム
以前書いたように、GW中2回ほどディスクユニオンのセールに行ってきた。以下はその顛末であり、セール未体験のレコードファンの方に向けて駄文を書いてみたい。



2回とも新宿ロックレコードストア店に並んだ。まずはUKプレミアム廃盤レコードセール。中古レコードだから廃盤で当たり前だしヘンな呼び名だと思うのだけれど、最近はレコードの新譜も増えてきたからあながち間違ってはいない。この名称の方が客を呼べるのだろう。整理券を配られるちょうどの時間に行ったが9番。先行き不安に思う。ナナメ向かいにあったマックがいつの間にか閉店していたので、仕方なく東南口の方のマックで開店まで時間を潰す。開店5分前、店先に戻っていよいよ突撃準備。集まったのは20人前後か。周囲はベテランばかりで、私が一番若い部類であった(いつもブログを拝見しているgeppamenさんと思われる方の姿も見えるが、人違いだとまずいのでお声をかけられない)。エレベーターで順に案内される。幾ら新宿駅東口近くの好立地とは言え階段のない店舗を選んだのはユニオンのミステイクだろう、店員も常連に「すみません」と漏らしていた。


さて、レコードセールは朝イチで並んだからと言って、お目当ての盤を必ずしもgetできるわけではないことを、セール未経験の方にまずお伝えしたい。有り体に言えば、運が必要なのだ。


開始の合図と同時に、客はレコードの入った箱(以下エサ箱と言う)に突撃する。開店したてのディズニーランドかUSJか年末の福袋商戦みたいな光景で、(私も含め)いい年のオッサンが熱くなって猛ダッシュする姿に一般の方々はドン引きすること間違いなしだ。さて、お目当ての盤がエサ箱の一番手前の見えるところにあったり壁に飾られていれば即getできるのだが、一度に数百枚も出るため大抵はエサ箱に潜んでいる。そこで、次々にエサ箱を漁っては移動し、また漁る・・・を繰り返す。開始30秒ですべてのエサ箱に客が飛び付いているので、エサ箱の数にもよるが整理番号15番くらいまでならその箱の「最初の客」になれる可能性があり、運良く目的のレコードを掴める場合がある(エサ箱が少なめの店舗だとこうはいかない)。その後はうまいことみんな1箱ずつ横にズレてお目当ての盤を探していくわけだ。


ここでひと言物申したいのだが、常連さんの中には「これキープしとこうかな」と思った盤は迷いなく手に取って次々にキープしてしまう方がけっこういらっしゃるのだ。とんでもなく高額なレア盤を一度に10枚近くキープし、おせちの重箱を抱えるようにして盤を漁り続ける御仁がいたりする。そしてその重箱の総額は軽自動車が買えるほどなのである。資産家の方なのかもしれないが、はっきり言ってこれはいかがなものかと思う。手に取った盤を全て買うなら文句はないが、実際には検盤してキャンセルする場合もあるわけで、目についた盤をとにかく多く抱えた人のほうが先手を打てていい思いをするというのはどうなのか。なかには発掘途中に平気で半分以上エサ箱に戻す方がいて、自分でレコードを掘りつつそのような人の動向を目で追うのは大変だ。その後の検盤で何十分もキャンセル待ちするのは、店にも客にもお互い相当な時間の無駄ではないだろうか。


ここは、ユニオンが一度に持てるレコードは3枚までなどとルールを定めるべきだと考える。3枚を選んだら一度カウンターに預けてもらうなどの処置を取るべきではないか。そうすれば、ほんの少しの間の戦線離脱となるがかなり平等性(何のだ)は確保されると思う。私は先日書いたように、私の目当ての盤を抱えている方には積極的に声をかけてキャンセルする時は回してもらうようお願いする(皆さん結構応じてくれる)。また、友人同士で並んでいるグループは明らかに確率的に目当ての盤を捕獲しやすいので、今後は私も数少ないレコードファンを伴って掘りに行こうと考えている(昼飯くらいは奢らねばならないだろう)。


先日書いたように、残念ながら私の一番のお目当ての『ピンク・ムーン』は私が掘ったエサ箱のひとつ隣りの箱から掘り出された。その時の気持ちたるや「俺の人生こんなのばっか」である。運良く掴めて財布がGOサインを出したら買おうと思っていたComusの1stもどなたかに捕獲されたようだ。そんな中、空手で帰るのはイヤだと思い、「買わなきゃ」とセールの熱っぽい雰囲気に飲まれつつ半ば半泣きになりながら焦って買ったのが次の2枚。

Hatfield and the North / THE ROTTERS' CLUB : UK-original mat A-1U/B-1U
hatrotters

学生の頃、この盤はいつかオリジナルで所有したいと思っていた憧れのレコードだったが、近年はジャケ&盤ともにEX以上のコンディションだと1万を超えてしまっていたので手を出さなかった。ところが今回セールで掴んでみると、なんと驚きの4000円台!盤はEX+ながらジャケがかなりイマイチな状態のためか格安で、毎度ながら「花より団子」な私は飛び付いたのだった。しかし、やはりこの盤は内容以上にジャケットの価値が高いのだとわかったのが少し哀しかった(笑)

内容的なことを言うと、巷間よく言われることだがフィル・ミラーのギターがとにかく酷過ぎる。指も回ってない上に、肝心のアドリブがひどい(あれで書きソロだったら泣くしかない)。ギター初心者が難しい音使いを目指して弾こうとするときに陥りがちな「迷い指」とも呼ぶべきフレージングになっている。それでもR・シンクレアをはじめ、独自のポップセンスで牧歌的でさえある魅力的なカンタベリー・ミュッジックを展開する。B面の大曲も好きだ。帰宅して2回ほど聴いたが、A面のコンディションが特に良く、満足であった。


NATIONAL HEALTH / NATIONAL HEALTH : UK-original mat A1/B1
national

これはジャケに魅力が無いせいか(笑)オリジナルでも2000円台で出るが、マトリックスが若くコンディションが良いものを探しており、今回ようやく捕まえた。なんと言っても1曲目がイイ!フィル・ミラーは相変わらずヘタクソだが、前述の盤ほどひどくない(苦笑)それにしてもデイヴ・スチュアートは良い曲書くなあ・・・。

2ndもオリジナルで持っているが、こちらも同じくらい好きな盤だ。初めて検盤したとき、アメコミみたいな漫画風のラベルを見てビックリしたのだが、これで初版だそうだ。



さて翌日、今度はUSプレミアム廃盤セールに並ぶ。UKの時よりも明らかに若者が多く、客層の違いが面白い(昨日、私の目の前で『ピンクムーン』をgetした御仁の姿もまた見える)。今日の私のお目当てはSteely Danの『Aja』テストプレス。もしくはプロモジャケ&両面マト1Aの盤だ。前日同様とにかくエサ箱を光の速さで漁りまくる。まずは早速「PROMO」の金色ステッカーが眩しい両面1A盤を掴む!値段は、げげっっ、、22000円!完全な予算オーバーだが買えないわけではない。とりあえずキープ(笑)そして、引き続きその他の箱も絨毯爆撃。ところがテストプレスはどれだけ漁っても出て来ない。もう掴まれたか?と思いつつ周囲を見渡すが、テストプレス特有のジャケなしレコを抱えてると思われる人はいない。諦めず探し続ける。すると、なぜかセールとは関係ないエサ箱奥の通常の「R」のところにテストプレスが潜んでいたではないか!それは川底に潜む黄金のシャケのごとく、輝いて見えた。私にウインクしているようだった。誰かが開始直後に嫌がらせで隠したのだろうか、兎も角、吃驚してそれを掴んで引き上げる。やった、ついに俺はやったんだ!と手に取って値札を見ると、価格は驚愕の289000円。。うーーーん ごめんなさい 前言撤回、、、とりあえずキープしよう






私は熱気溢れるセールの喧噪をよそに、フロアの片隅で『Aja』2枚を抱えてしばし呆然と立ち尽くしていた。





すでに前の職場から(の手切れ金に等しい)退職金は振り込まれていた。その1/4を嫁にバレないようとある細工をしてコッソリプールしたのは、結婚生活で初めて私が彼女を裏切った瞬間だった。何も酒や女やギャンブルにつぎ込むわけではない、ちょっぴり高いレコードに使うだけだ。可愛いものではないか。それに嫁がカルティエの時計が欲しいというから買ってあげようとさえ思っているんだ(いちばん安いのだけど)。優しい夫ではないか。10円ハゲが出来るくらい身を粉にして働いたのだ、これぐらいやったってバチは当たるまい。ちっとも私は悪くない・・・そう自分に言い聞かせようとした。




俺には買えるッッ



買う金はあるんだッッッ





10分ほどだろうか。地下の工事現場で働くカイジが給料日に悩んだように、私は人生でも稀なほどに悩んだ。その短い間に、あらゆるシミュレーションを行った。幾ら歴史的名盤とは言え30万出せるか?それだけの音質的な価値はあるか?いや、ない。この間Discogsで買ったマトの(RE-3)以降表記無し盤は十分に素晴らしい音質だった。しかしマニアとは不思議なもので、異常に高過ぎる値段ゆえに逆に欲しくなる。なにしろ約30万は強烈だ。そんな価値のあるレコードは早々ない(昨日スパイロジャイラの3rdが28万で茶水に出てるのを見た。チューダー・ロッジは18万)。特にこんな人気盤の極上コンディション、次はいつ出るか分からない(しかし一昨年渋谷でテストプレスが出ている。ひょっとしたらこの盤かもしれない)。出てきたとしてもその時は、今度こそ手の届かない価格になっているに違いない。とすると、投資だと思って買ってしまうのはどうだ?銀行に預けたり株を買うよりよっぽど割がいいだろう。レコードファンという私の専門性が活かせる(Ajaのテストプレスが暴落することは未来永劫あるまい)。嫁だって(ナイショにするけど)賛成してくれるに違いない!そう悪魔が囁いた。

















・・・けれども悩みに悩んだ末、結局私は買わなかった






私は覚悟を決め、長縄跳びの列に戻るようにすすっとレコ掘り爆撃に戦線復帰し、ひっそりとテストプレスをエサ箱に戻した。さようならテストプレス。やはり俺には買えない。それが私の導き出した結論だった。


私は妻を愛している。リビングのレコード棚に、29万のエイジャをしれっと潜ませたままこの先の人生を送ることは不可能だった。それは、すぐ手の届くところに愛人を囲っているようなものだからだ(たぶんこの考えは間違っている)。それに、幾ら値上がりしても私は売らないだろう。それは投資資金の回収を放棄することに等しい。敗北感漂う中、いち早く検盤に並び、手元に残ったプロモの盤質をチェックした。一目見て、それは私の所有する盤より遥かに劣るコンディションと分かった。しかもマトリックスはきっとこちらの方がレイトだろう。プロモステッカーの貼られたジャケットに両面1A盤を入れ替えたものと思われた。つまり、推測するに私の持っている盤と逆の状況だ。プロモジャケのために2万以上出すことはできない。こちらもキャンセルした。



これでいいんだ、、よかったんだ。



そう言い聞かせながら私はセールを後にしてとぼとぼと休日出勤に向かった。西新宿で『Pink Moon』を買って感激の涙を流すのは、その5日後のことだった。



(今回の記事はユニオンからクレームが来たり嫁バレした場合、削除します)
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最近聴いている音楽 vol.54〜Lucas Debargueのメジャーデビュー盤〜
2017-05-13-Sat  CATEGORY: 雑多な話題
今日は大学院時代の指導教官に会ってきた。


再び研究の世界でお世話になる可能性があることの報告と、先生に十数年前しっかりとご指導頂いたお陰で再就職出来たことのお礼をしてきた。勿論、詰まらない手土産を持参した。自分で言うのもなんだが私は義理堅いのだ。5年ぶりにお会いしたが元気そうで何よりだった。先生は非常に真面目で丁寧な方なのだが、やはり研究者、ゼミでは非常に厳しく、研究室に入るときは当時を思い出して胃が痛くなった(余談だが先生はその昔、タモリの『トリビアの泉』で「封筒に何枚一万円札が入るか科学的に解説して欲しい」というアホな取材を申し込まれ、即座に断っている)。


そんなわけで、勤務先に向かう車内で聴いていた盤がこちら。


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若手フランス人ピアニスト、リュカ・ドゥバルグのSONYからのデビュー盤だ。彼は2015年のチャイコフスキー・コンクールで第4位に入賞し、一躍世界の注目を浴びた(らしい)のだが、その経歴がスゴい。11歳でピアノを始め(私より遥かに遅い)、15歳でピアノの勉強をやめ、17歳から20歳まではピアノにすら触れず、正式なピアノの教育を受けたのは20歳から。チャイコンで入賞したのはそのわずか4年後という、どう考えても常人ではない驚くべき才能の持ち主である(まあルガンスキーも8歳でベートーヴェンのピアノソナタ全曲を暗譜で演奏したというから、歴史に名を残すピアニストは概してこのレベルの天才なのだろうけれど)。

残念ながらチャイコン時の演奏は全く知らず、去年の3月に出たこの盤にも乗り遅れてしまった感は否めないのだが、1回聴いただけで簡単に感想を書いてみる。曲はスカルラッティのソナタ4曲、ショパンのバラード4番、リストのメフィストワルツ第1番、ラヴェルの夜のガスパール、グリーグのメロディOp.47/3、シューベルトの楽興の時第3番、それにスカルラッティ/ドゥベルグ編のK208に基づく変奏曲と、比較的大通りをゆく選曲だ。録音は2015年11月20-22日のライヴ録音とある。複数日程なので、きっと編集はされているのだろう。


スカルラッティの最初の3曲は聴いたことがなかった。一聴して、いかにもフランスのピアニストらしい、明晰で澄み切ったやや線の細い、しかし芯の強さを感じるようなタッチ。K141は私の好きなグレイルザンマーも演奏している曲で技巧の比較が出来るが、この曲に関しては彼よりもテクが1段半は上。特に同音連打がお得意なようだ。


ショパンのバラード4番。12分を超える演奏だがロマン的に傾き過ぎないのは、やはり明晰でサラサラした音色のせいか。また、音価を伸ばすところと短く切るところの解釈が私と全く合わず残念な感じ。それでもライヴでこの技巧は相当なものだ。ストレッタの例の和音連打もなかなかの迫力。それでも好みとはとても言えない。


メフィスト1番はさらに残念な感じのミスマッチ。技巧は十分過ぎるものの彼の演奏はなんというか思い入れがあまり感じられないタイプ(それでいて情感を込めていないわけではないというなんとも形容し難い演奏)。跳躍部分はその前からかなりテンポを落とすのもガッカリを増幅させる。


けれどもこのサクサクサラサラ感は『夜のガスパール』ではかなり面白かろう、と思ったら果たしてその通りだった。バルトとか(同曲の録音は残していないが)デミジェンコなどの霧がかったタッチとは対極にある明晰な打鍵で、構造物の骨組みまで見通せるように緻密に弾きあげており(ムストネンほどではないが)、ある意味爽快。オンディーヌはどこかロルティのようだが、あそこまでみずみずしくなく、どちらかと言えば乾いた繊細さで、細部まで練ってある神経質なところはポゴレリチなのだが、どこか健康的な印象を与えるのはティボーデのようでもある(矛盾している表現のようだがそうなのです)。絞首台もシュフの名演ほどでないが音の響きで聴かせる。スカルボは10分超えでどうかなと思ったが、主部に入るところのトリルがやたら長かったり、終わり前の低音ウネウネでためまくったりで時間がかかっているため、技巧のキレは変わらず(ちなみにこの曲の終わりには拍手が入っているので実際には10分切るくらいである)。ライヴでこの出来ということを考えるとグロヴナーやティエンポ並みのテクニシャンなのかもしれない(ソニーは分かりやすいテクニシャンが好きだなぁ)。ただし、やはり私とはどこか感じる部分が違う気はする。チャイコンでも弾いたというメインの曲でようやく本領が見えた感じだ。

アンコール的なグリーグはやっぱり頂けない。音色の変化が少ないのが曲に合っておらず、心に響いてこない。有名なシューベルトのアレも特に面白さがあるわけでなく、同様にイマイチ(これを弾かれて観客は戸惑ったのではないか)。最後のスカルラッティは編曲が良いのかどうか分からないが短く静かに奏でられてアルバムは幕を閉じる。

全体として、これまでのフランス人ピアニストと同じような印象ではあるが、テクニックの完成度は非常に高い。無理矢理喩えるのなら、サッパリ薄味に改宗したポゴレリチと、エンジニアに生まれ変わったデュシャーブルを足して2.1で割った感じだろうか。残念ながら私との波長はいまひとつ合わなかったが、この1枚で見捨てるには惜しい感じ。

それにしても、スカルラッティは先日紹介したグレイルザンマーが大のお気に入りなのだが、同じ曲を演奏してどうしてここまで演奏が違うのだろうか。本当にクラシックは面白い。そして何度聴いてもやはりGreilsammerは凄い。彼の奏でる音楽の持つ引力が他とはまるで違う。その意味でグールドのようだ。


話が逸れたが、ともあれ彼は技巧が優れ、面白いピアニストであるのは確か。2枚目は選曲次第で聴いてみてもいいかな・・・というところ。また、彼はジャズも演奏するそうだが、そちらのほうが案外面白そうかもしれない(是非カプースチンのソナタ第2番を)。
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最近聴いている音楽 vol.53〜LuisiのMahler 9番新譜〜
2017-05-09-Tue  CATEGORY: 雑多な話題
昨夜は某記者とジャズカフェで飲んだ。


録音を聴かせると驚いていた。正直うちで記事にするのは難しいがTVや週刊誌ならすぐに喰いつくでしょう、紹介することもできますと言っていたが、私は別にセンセーショナルな復讐劇を目指しているわけではないので、言葉を丁寧に選び、無理な約束をしない彼の紳士的な対応が逆に嬉しかった。その気になれば相当大きなスキャンダルにできるレベルのようだ。兎も角、社会の眼である記者からフラットな意見が聴けて満足だ。今後の動向も随時お知らせすることになった。偶然にも同い年であり、紹介してくれた友人と共にまた飲みましょうと約束して別れた。


さて、そんな道すがら聴いていたのが、ファビオ・ルイージの新譜(と言っても裏青盤だが)。DIRIGENTレーベルから出たマーラーの9番。オケはルイージが2017年から首席指揮者を務めているデンマーク放送交響楽団。録音は2016年9月1日。某クラシックネット通販で購入したのだが、届くのに1ヶ月かかり、おまけに5400円(!)だった。


結論から言うと、ソコロフに続いて買ってはいけない盤である。聴いてみると出だしから壮大な「サー」というノイズ。あまりに酷い。それでも楽章が進むにつれて気にならなくなっていくが、音楽を楽しめる次元ではない。録音表記は「DDD」とあるが、なぜこんな音なのか理解に苦しむ。一昔前のラジオのエアチェックのようだ。オケの音自体はよく捉えている。解釈は今までのルイージとほぼ変わらず、素晴らしいものだ。しかし、オケも弱い。ホルンは甚だ不安定だし、弦も、なんだかつるんとした板の上でマヨネーズをこねくり返しているような、力強さに欠ける音色だ。第4楽章の例のヴァイオリンソロもヘロヘロすぎて70年代脱力UKフォークみたいである。ルイージにはもっと有名なオケを振ってもらいたい。。。


というわけで、こんなものを5400円で堂々と売る神経がわからない(まあこんな盤を買う方が悪いのだけれど。自業自得だ)。ユニオンに出るとCD-R盤は1200円程度で買えるだろうが、それでもこの盤は買ってはいけない。MDRとの超名盤には言うに及ばず、録音に傷のあるスイス・ロマンド管の盤にも遠く及ばない音質であると思う。参った。。そのうちルイージの音盤紹介の方も更新しておきたい。
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透明な魂の音楽〜Nick Drake『Pink Moon』〜
2017-05-07-Sun  CATEGORY: コラム
この4月で転職した。




それまでは時折TVを賑わすデカいだけの某組織にいたのだが、所属長から(私を含む十数人が)4年間に渡るパワハラを受け、闘い、そして私は退職した。




以前書いたように、酷いときで週に100時間働き、頭には10円ハゲが出来、心療内科に通い、家庭は崩壊寸前だった。始発で行って終電で帰った。土日も自宅で仕事をこなした。私の両隣りの人間が3ヶ月に渡って来なくなったこともあった(うち1人は1年経った今も戻れていない)。そのような気の狂った上司というものがこの世には存在するのだ。こう見えても私は、出世や名誉のためでなくささやかな気遣いと労いとを欲しながら仕事に誇りをもって働く類いの人間であった。パワハラ吹きすさぶ1年半ほど前、請われて大きなプロジェクトに関わっていたのだが、完遂した直後にその狂った悪魔の所業で魂に一撃を受けた。それは「心ない仕打ち」程度ではおよそ済まされない次元のものだった。これまでのパワハラを遥かに通り越し、常識では考えられない言動であった。そして未だに癒えることのない傷を私は心に負うことになった。



しかしながら、私は諦めの悪い男だった。



自分で言うのもなんだが、ロックンロールな破壊衝動任侠的犠牲精神とを備えていた私は、唾棄すべき権力者に対しみじめなまでに抗った。嫁を説得し、退職して告発すると心に誓い、転職活動と並行して知りうる限りのパワハラの証拠をかき集め、迫害されている同僚を見て観ぬフリの連中を説き伏せた。徐々に仲間を増やし、最終的には実名匿名合わせて10名以上が告発に協力してくれた。私だけでなく複数の人間がICレコーダーで録音した暴言を携え、自分ともう1人が代表して上層部に告発した。そこまでしてようやく、ほぼ毎日TVに顔を出している某氏も介入する事案となり、渋々上層部は重い腰を上げて動き始めた。



けれども、たった2度の事情聴取と、実名で名乗り出て告発した私ともう一人以外の証人を呼ばないというおざなりな調査の末、結局懲戒処分はなく驚愕の文書による“厳重注意”に留まった。本来ならば犯罪レベルのパワハラであり、新聞の紙面を飾っていいはずの出来事だが、当事者にお咎めはなかったのだ。こうして書いているだけで、キーボードを打つ手が怒りで震え、血圧が上昇するのがわかる。重ねて書くが私は諦めの悪い人間である。退職した今も職場の外から闘い続けている。知り合いの伝手を頼って、連休明けには某大手マスコミ関係者と会う予定だ。



今は(これまた)大きい某組織に運良く拾ってもらい、お陰さまで権力におもねることなく働くことが出来ている。期せずしてアカデミックな世界に戻ってきたので、これからは(mustではないが)研究成果も期待されるためプレッシャーはある。このように書くとご大層な人間と思われるかもしれないが、そんなことはない。採用面接では「学部時代の成績が素晴らしいですね(専門科目がオールC)」と皮肉を言われ、さらに「修論は指導教官が書いてくれました」と正直に話したが採用された。なんとも懐の深い組織だと思った。



さて、私の身の上話はこれくらいにして、そんな絶望のどん底にあった自分を支えてくれた音楽について書きたい。



pink_moon

ニック・ドレイク 『ピンク・ムーン』、生前わずか3枚のアルバムを残して26歳でこの世を去ったイギリス人天才シンガーソングライターの最後の一葉である。重度のうつ病のさなかにレコーディングされ、抗鬱剤の過剰摂取で死んだ彼の遺作であることも手伝ってか「アシッド・フォーク」と形容されることが多い(余談だが私はComusのようなバンドこそがAcid Folkだと思っている)。不可思議なイラストのジャケットもたぶんに影響しているだろう。けれども、私にはそのような禍々しい形容に属するような雰囲気をこの作品からは感じない。むしろ、どこまでも透明な魂をむき出しにした1人の青年の痛切な叫びが聴き取れるだけだ。そしてそれは、どこまでも儚く孤独で美しい。


退職金という名の泡銭が出たら、どんなに高くても彼のオリジナル盤を買うと決めていた。それは彼の透明な魂に少しでも近付きたいという、半ば信仰に近い気持ちだった。超極上の1stがユニオン渋谷からヤフオクに超高額で長いこと(3ヶ月位)出品されていてずっと狙っていたが、なんと金の入る1週間前に売れてしまった。GWには、この『ピンク・ムーン』の美盤が出るというので、ユニオン新宿レコードストアのUK廃盤セールに朝から並んだが、私が飛び付いたエサ箱の隣りの御仁に目の前でさらわれた。諦めきれず「検盤してキャンセルされるなら譲ってください」とお声をかけたが、勿論声がかかることはなかった。


それでも諦めの悪い私は、ネット上を探し回った挙げ句、学生時代に1度だけ入ったことのある高めの値付けの某レコ屋でついに購入した。ジャケットはそこそこの状態だが、盤質は一目見ただけで震えが来るような美しいコンディションとわかった。一応試聴してすぐ買うことに決めた。おまけにユニオンで逃した盤の6割弱の価格で買うことが出来、「これが俺の人生だ」などと一人うそぶいた。うちの子を連れて行ったが、店主からアーモンドを1袋貰ってぽりぽり食べてご満悦、カビ臭く狭い店内でyoutubeを見ながら良い子にして待っていた。まさに将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、である。これからこの店で散在することになりそうだ。


pink_rim


UKオリジナルは俗に‘ピンク・リム’アイランド・ラベルと呼ばれる盤で、MATはA-1U/B-1U。自宅でも聴いてみたが、CDとは驚くほど違う。ニックの、ささやくようなヴォーカルがさらに柔らかい。人によっては地味だと言う人がいるかもしれないが、このオリジナル盤を聴くとCDのほうはマスタリングで人工的に声を強調しているように感じてしまう。きらめくようなギターのアルペジオの音色も素晴らしい。ふわっとした空気感が実に心地よい。プチノイズやチリつく箇所は皆無ではないが、盤質にも文句なし。30分に満たないレコードに数万円を出すのは常軌を逸しているに違いないが、紆余曲折を経て良い買い物が出来たと思っている(読者諸兄は絶対にこんなことなされませんように)。



ところで、私が今勤めている職場では個人研究費が出る。



それでこのレコード代が落とせないかと一応領収書を貰ったのだが、研究費執行手順書を確認すると「CD・レコード購入のための支出は基本的に認められない」と書かれてあった。同じことを考える人間が居たのだなと思いつつ、自分を恥じたのであった。
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KURT ROSENWINKEL'S CAIPI BAND @Motion Blue YOKOHAMA (2017/4/16)
2017-04-22-Sat  CATEGORY: 音源聴き比べ
新年度最初のレビューはコンサートの感想を兼ねた音源聴き比べである。


以前書いた通り、モーションブルー・ヨコハマにカート・ローゼンウィンケルの日本ツアー最終日に行ってきた。


店の受付前には、カートにギターを提供している渋谷のウォーキンのブランド、Westvilleのギターが飾ってあった。見るからにクオリティの高そうなギターで、私は涎をガマンしながら脇を通り抜けた。ウォーキンオーナーの西村さん(West Ville)の姿も見えた。お店のFBではツアーの貴重なオフショットが見られる。客席はジャズギターマニアと思しき青年・中年で溢れていた。中には、私の一番好きなジャズギターライターの石沢功治さんの姿もあった気がする(紙面で拝見しただけでお会いしたことがないので不確かだけど)。

比較的早めに予約したせいか前から数列目が取れ、カートがほぼ目の前に見える位置で観ることができた。現代ジャズギターの皇帝ことカートの注目のライヴなのですでに多くの人がライヴレポートを書いているが、私がひと言で感想を言うなら、最高だった

バンドメンバーはカートとドラムのビル・キャンベルを除いて皆若く、20代か30代に見える。Voのペドロ・マルティンズはやや小柄で童顔、少年のように若いがどこかロックスター然とした佇まいで、ルームウェアのようなボトムズにRADIOHEADの『OK Computer』のトムの顔が載ってるTシャツを着ていた。ガムを噛みながら、歌にギターにキーボードに(AppleのラップトップもSEか何かで使っていた模様)大活躍だった。ピアノのオリヴィアは相当な美人で歌も上手く、しかも非常にリリカルなソロを弾いていた。カートやペドロが大汗をかいているのに、まさしく汗一つかかずにベースのフレデリコは淡々とリズムを刻んでいた。パーカッションのアントニオはあまり目立たない。

カートのメインギターWestville Vanguard Plus DC
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(ギターシンセ的なサウンドが多かった気がする。照明のせいで赤く見えるが、実際にはワイン色っぽい茶色)


カートの使用エフェクター
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(これを見て私は『JOEMEEK』というエフェクターメーカーがあることを知った。そのものズバリ人名を付けるとは)


ペドロのギター
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(よく見るとfホールをテープでふさいである)


メンバー
Kurt Rosenwinkel (g,vo)カート・ローゼンウィンケル(ギター、ヴォイス)
Pedro Martins(g,key,vo) ペドロ・マルティンズ(ギター、キーボード、ヴォイス)
Olivia Trummer(p,key,vo) オリヴィア・トルンマー(ピアノ、キーボード、ヴォイス)
Frederico Heliodoro(b,vo) フレデリコ・エリオドロ(ベース、ヴォイス)
Antonio Loureiro(per,vo) アントニオ・ロウレイロ(パーカッション、ヴォイス)
Bill Campbell(ds) ビル・キャンベル(ドラムス)

セットリスト
1.Caipi
2.Kama
3.Casio Vanguard
4.Time Machine (新曲)
5.No the Answer (新曲)
6.Chromatic B
7.Interscape
8.Ezra
9.Recognized (新曲)
10.Hold On
(Encore)
11.Little b

(漏れや間違いの可能性もあるのでご容赦を)

カートが1人で練り上げた宅録サウンドを、生身のバンドメンバーで再現するとこうも変わるのかと思うほど印象は異なっていた。勿論、ラウドなベースやタイトなドラムのスネアは恐ろしくアルバムのままなのだが(ベースがビリつくところまで同じ!)、音やリズムの揺らぎ、空気感が全然違う。やはりライヴはいい。私の記憶が確かなら、新曲を3曲やっていた。よりスタンダードなPOPソング寄りというか、ロック調ですらあった。曲の終わりはドラムがドコドコ叩いて終わるし、カートもロックギタリスト的な弾き終わりを見せるなど、ギター小僧だった私には感涙モノである。時にはエレクトロニカ風なアレンジもあり、ドラムのつっかえたようなリズムは、ペドロのTシャツのままに時折レディオヘッド的ですらあった。「ブラジリアン・プログレッシヴロック・ジャズ」とでも形容できそうな感じだ。

カートのギターはもはやデビューの頃とは大きく変貌を遂げている。独特のリズム感と浮遊するメロディは健在だが、バリバリ弾きまくる。歴史的名盤『The Remedy』以降、明らかにカートのテクニック(クラシック的に言うとメカニックの部分)が向上している。純粋に速弾きの割合が増え、音数が増加しているのもそうだし、ある意味HR/HM的なスウィープなども増えた(今回のライヴでもランフレーズで頻繁に用いていた。ヴォイシングが複雑で私には分からなかったが笑)。現代のジャズギタリストでここまで明らかな進化(というと偉そうだが)を感じさせるのは彼ぐらいではないか(まあメセニーもそんな感じだけど。逆にAdam Rogersのように「もう上手くなりようがない程に上手い」タイプもいる)。兎も角、ソロは彼らしい唯一無二のフレージングで、ライヴならではの聴衆を熱狂の渦に惹き込むような盛り上がりを感じさせるラインだった。ささやかながらギターを嗜む人間として、これまで色々なギタリストの演奏を見たが、あらゆる意味でここまで自在に楽器を操るギタリストを私は他に知らない。本当に感動的だった。彼のヴォーカルは流石にペドロの美しい歌声と比べるとかなりイマイチだったが、ギターを弾きながら歌う姿はロックミュージシャンかのようで、ロック好きの私には嬉しかった。

残念ながらM.B.Y.の音響バランスはイマイチで、カートやペドロは曲中に何度もマイクの音量を上げるようジェスチャーしていたし、曲の良いところでハウることもあった。まあこれはデカめのベースを指示したバンド側にも責任があるかもしれないが。ともかく、これまでに見たライヴの中でも特に素晴らしいものだったと思う。


終演後、他の客がレジとは違う行列を作っているので何事かと思っていると、なんとサイン会があるという。おまけに受付にはLPが売られていたのだ!レコードが販売されていたとは、全く気付いてなかった。嬉々として並ぶこと20分、メンバー全員が現れ、1人1人にサインをしてくれた。カートに握手をしてもらったが、温かく大きな手だった。ペドロに「私もOKコンピューターが好きだ。いいTシャツを着てるね」というと、そんなことを言う客は他にいなかったのか驚いていた。皇帝はにこやかにそして気さくにファンの1人1人と話をしていた。こんなに小さなライヴ会場で、座って酒を飲みながら目の前でアーティストを見ることが出来、おまけに握手とサインと会話付きなんて、ロックの世界ではおよそ考えられないことだ。こんなところにもジャズというジャンルの良さがある。


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①ハイレゾ(flac 96kHz/24bit)
以前書いた通り、音の色鮮やかさはこれまでに聴いたどのアーティストの作品よりも素晴らしい。過剰とも言えるほどキメ細かに煮詰められたアレンジはハイレゾにピッタリである。情報量が多過ぎるので何度聴いても楽しめる。しかし、イヤホンで聴くと聴き疲れ感がハンパない。


②レコード
LPには9曲しか入っていない。ハイレゾは日本独自のボーナストラック『Song for our Sea』があって全12曲なのに比べるとかなり損な感じだ。ちなみにLPに入れられることなく落ちた2曲は『Ezra』『Interscape』である。

これまでこの"音源比較"コーナーで書いたように、アナログは音の一体感、塊り具合が特徴である。ハイレゾの、驚異的な音の分離と明晰さとは別次元だ(別表現と言ったほうがよいかもしれないが)。残念ながらハイレゾのようなカラフルさはかなり後退してしまっている。


毎回同じことを書くようだが、音楽に求めるもので良し悪しは変わってくるというのが率直なところである。通勤時はハイレゾを聴きまくったが、職場に着いた時の耳の疲労感というものはかなりある。リビングでハイレゾを流すとその緻密な表現に驚かされる。続けてレコードを聴くとまったく違う音像だ。正直、ギターも引っ込んでるし、SEなどの効果音の雰囲気もそれほど出ていない。ただし、心地良さはレコードが上回る。(9曲だし)あっという間にアルバムを聴き終えてしまう。


総合的にはハイレゾが上回るだろう。しかし、発売元のソングエクス・ジャズでの購入限定のようだが、このLPにはハイレゾのダウンロードコードが封入されている。私がM.B.Y.で買った輸入盤にはついてなかった(ウォーキンの好意でCaipiのジャケを模したピックは貰えた)ので、ハイレゾもレコードもそれぞれ買ってしまった私はなんだか哀しいというかなんというか・・・。

ちなみに同行してくれた友人は通常のCDを買っていた(音質的には一番損をしてる?)。
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