音楽好きの世迷い言
The melody at night, with you
続・第2回日本国際音楽コンクールライブ〜小川典子の豪腕〜
2015-03-15-Sun  CATEGORY: 音盤紹介
先日の第2回日本国際のレコード、2枚目のご紹介です。これには第2位の小川典子によるリストのピアノソナタ、プロコフィエフのピアノソナタ第7番という、重量級のド真ん中な2曲が収録されています。

小川さんというと、例によってラフマニノフの3番と、ベートーヴェンの第9をワーグナーがピアノに編曲した盤くらいしか聴いたことがなくて、ずば抜けたテクニックを期待するというよりは音楽性に注目して聴いてみました。

まずはリストの方です。このソナタは実はあまり好きな曲ではなく、それほど積極的に多くの盤を聴いているわけではないので感想は短め。序奏から力強く、録音のせいかタッチが硬めで明晰。珍しくスコアを見ながら聴いたのですが、いやはやブ厚い和音の連続に果敢に立ち向かっています。第1主題のアルペジオにもキレがあり、私の好きな179小節目からのsempre ppのところも美しい。250小節目辺りから出てくる半音階のフレーズ、右手も左手も非常に精緻で巧み。301小節のレチタティーヴォの所、和音の間の取り方が絶妙で、緊張感に溢れてます。再現部後の553小節目辺りから何故かフレーズが飛んだような?ミスがあるのが惜しい。ストレッタのprestoでのオクターヴでまたミスに動揺したような箇所アリ。終わりちょっと前のアンダンテ・ソステヌートのところなど、全体的に遅いところは遅く、という感じで若干の不自然さも。それでも、全体的に小川さんの印象を大きく変える技巧の豪快さにビックリ。この曲は近年出がらし状態のアムラン盤が出てガッカリしてるところにブニアティシヴィリ盤という決定打が出たので、このレコードにはライヴ盤特有の緊張感を聴くのを楽しむという価値がありそう。

続いてプロコフィエフの戦争ソナタ。第1楽章の出だしこそ元気が良いですが、その後はなんというか音色が柔らかく微温的で、のんびりしてます。抒情性を重視しているのかもしれませんが、イマイチ成功していない感じ。第2楽章、同じような路線のまま牧歌的に進み、どことなくノクターンを聴いているような雰囲気。一末の不安を抱きつつ聴き所の終楽章。これがリストのソナタ同様、存外に快速テンポで、しかも頑ななまでにインテンポを保ち、タッチは峻厳なまでに冷徹で緻密。最後の方の右手の大きな跳躍も間が空くことなくジャーン!とヒットさせ、恐ろしいことに演奏タイムは3:00!残念なのは最後の方に行くにしたがってボロボロとミスタッチが増え、しかもテンポを落とさないのでどことなく惹き飛ばしている感じなのが惜しいです(スタジオ録音ですがラエカリオ盤的)。それでも、コンクールライヴでこの技巧のキレはかなりのものがあります。この当時、小川さん21歳ですが、若さ溢れる思い切りのよい演奏を楽しませてもらいました。生で見てたら相当興奮したでしょう。

というわけで、2枚目の小川さんの演奏も非常に楽しませてもらいました。第2回にして日本人のワンツーフィニッシュですが、本当にそれだけのことはあるテクニックではないでしょうか。録音のせいか、2人ともやや歌が硬めなのが気になりますが、この調子で残りのピアニストの演奏にも期待したいと思います。

・・・しかし、このコンクールは中止になったせいか、この第2回ピアノ部門の情報はwikiにも載っていない有様で、ネットに情報が漂っていないのはピアノファンとしてなんだか哀しいです。この駄文がその演奏を留めた記録として、誰かの役に立つことを祈って。
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第2回日本国際音楽コンクールライブ〜岡田博美の超絶技巧〜
2015-03-13-Fri  CATEGORY: 音盤紹介
以前岡田博美のメジャーデビュー盤であるリスト集をご紹介したとき、彼のレコードデビュー盤である第2回日本国際のLPがどうしても手に入らないと書きましたが、ついに入手しました。


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吉祥寺のFine Day Musicという小さなレコード屋が売りに出したもので、オークションで落札したのですが支払いと受け取りが店頭で出来、せっかちな私は送料も手数料も省けた上に見本盤でレコードのコンディションも良く、大満足。ちなみにこのお店、狭くて商品の点数も少なめ、さらに値段もかなり高めですが、ざっと見たところではけっこうなレア盤やコンディションの良いレコードが多く、近所の方は訪れてみてはどうでしょうか。


さて、実は入手前は、岡田博美という日本を代表する希代のテクニシャンの、メカニック的に全盛期であったと思われる頃の演奏をドキュメント的に鑑賞できればいいかなという程度の期待しか持っていませんでした(なんて失礼な・・・!)。それと言うのも、収録曲がブラームスのパガニーニ変奏曲第1・2巻とプロコフィエフのコンチェルト2番という難曲で、その上コンクールライヴということもあり、ミスや録音上の瑕疵も色々あるでしょうから、繰り返し聴くに値する内容ではないだろうと予想していたのです。


ところがところが!そんな失礼極まりない予想は快速テンポで始まるパガニーニの主題を聴いてフッ飛びました。第1変奏も力強く、テンポもそれほど落とさずに健闘しています。彼は音楽性がやや淡泊と思ってましたが、第5変奏もまずまず気持ちがこもってます。オクターヴと重音の連続である第8変奏も気合い十分で、力が入るあまり一瞬音が割れ気味に。第11変奏はもう一段の愉悦感が欲しいところ。第13変奏のグリッサンドは2度目のほうが迫力が増す感じ。そしてそして最難関の第14変奏、キーシンやミケランジェリほどではありませんが、期待を十分に上回る相当なスピード!最近聴いた中では、この変奏に関しては、軽いタッチで拍子抜けしてしまったユジャ・ワン盤、タラソフ盤2種よりスピードでは勝っているでしょう。第2巻の方も重音が安定。第5・6変奏のようなレジェロな変奏はリスト集で見せた指回りが全開で極めて軽やか。第9・10変奏は重めというか少し野暮ったい。第12変奏はうって変わって聴かせます。第13変奏はイマイチ硬め。最終変奏はこれも左手のオクターヴが力強くスピード感抜群。iTunesに入っていたガヴリリュク2種と単純にスピードを比較すると、スタジオ盤は互角以上、マイアミライヴより確実に上と言った感じです。おまけに驚くほどミスも少ない。何より、コンクールの、なんとも言えない空気感(オーディエンスノイズ、ホールエコーなどがあいまった緊張感)が伝わってくるのがコンクール好きの私にはたまりません。ちなみにこの曲の第1巻はタラソフのA&E盤を、最終変奏だけ編集ソフトでキーシン盤に切り貼りしたものを愛聴しています(笑)。


続いてプロコの2番(順番的にはこちらがA面)。実は第1楽章以外はあまり感度が高くない曲なのですが、やはり第1楽章のカデンツァが聴きもの。長大なアルペジオの部分は胸のすく快速テンポ。同じコンクールで言うと2003年エリザベート覇者のエッカードシュタインよりもこの部分はグイグイと引き込まれる爽快感があります。第2楽章はカッチリと整った几帳面なタッチ。終楽章の両端の迫力もかなりのもの(オケも相当吠えていて、そこだけサチり気味)。全体的に、熱くねちっこくというよりかは、岡田氏らしい冷静かつ緻密な演奏。かといって、この曲のグロテスクなドロドロ感が出ていないわけではありません。この曲はあまり数を持っておらず、手持ちですぐに出てくるのはレーゼル、デミジェンコ、エル=バシャ(エリザベートライヴの方)、エッカードシュタイン、クライネフ、コジューヒン、ユジャ・ワン辺りで、キーシンやユンディ・リも未聴なのであまり偉そうなことは言えないのですが、この演奏もライヴながら立派な出来と言えると思います。


というわけで、岡田氏の、このとき25歳ですでに完成されているピアニストといった感じのこのレコード、望外に楽しむことができました。こんなスゴい演奏を聴かされては優勝も当然でしょう。2枚目も徐々に聴いていきたいと思います(岡田氏の演奏ばかり聴いていて足止め中)。
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益田正洋 『SONATA』
2015-01-24-Sat  CATEGORY: 音盤紹介
先日聴いたバッハ集が素晴らしかった益田氏(その後プレリュードとフーガ、アレグロを山下盤と聴き比べたら情感の込め方や味わい深さが全然違った)の他のアルバムを見つけたので、2匹目のドジョウを狙って購入。

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曲はブローウェル:ソナタ、ヘンデル=福田進一:ソナタOp.1-15、ソル:ソナタOp.15-2、トローバ:幻想的ソナタ(日本人初録音)となっています。

まずはブローウェルのソナタ。第1楽章はのっけから現代音楽的雰囲気がバリバリで、無拍子的な箇所が続いたかと思えば、突然とっつきやすいメロディが現れたりと、困惑します。第2楽章は「スクリャービンのサラバンド」という、ピアノファンが食い付くような副題が付いており、「4度の積み重ねを主体とする神秘和音とギターの開放弦の響きのある種の共通性」が表現されているのですが、なんだかよく分からないうちに3分少しで曲が終わってしまいます。「パスクィーニのトッカータ」と題された終楽章は打って変わって力強く快速調でミニマルで技巧的な反復音型が連続したり、バチン!とギターを響かせたりしますが、あまり解決を見ることなく唐突に曲が終わります。この曲は正直、1度聴いたらもういいかなという気分です。

そんな1曲目に続き、彼の師である福田進一氏編曲のヘンデルのソナタ。これがバッハ集を思い起こさせる心地よい響きに満ちており、ホッとします。元はヴァイオリンの曲ということですが、福田氏によると思われる和音の増強が実に自然で、まるでギターのために書かれたかのようです。私がバッハ集で驚嘆した、フレーズの途中で微妙に音色を変化させるさじ加減も相変わらず素晴らしい。バッハの曲とはまた違った、明るく伸びやかで親しみやすい曲想がいいですね。残念なのは11分程度と曲が短いことでしょうか。

3曲目、ソルのソナタ。クラシックの作曲家の中で最もギターのための曲を書いた人だそうですが、私はあまり興味がなかったのでこれまでまともに聴いてきませんでした。スペイン生まれだからなのか、どことなく開放的で牧歌的な取っつきやすいメロディです。この曲を先ほどのヘンデルのヴァイオリン原曲と比べると、やはりギターのために書かれたという点で、音響&音量的な充実さに違いを感じます。幼稚な表現ですが、こちらの曲の方が「ギターの色々な弦が鳴っている」と言えます。単一楽章で8分程度とこちらも短い。

最後のモレーノ=トローバ(※トロバとも。ライナーノーツからして統一されていない)の幻想的ソナタ。セゴビアがギターの地位向上のために作曲を呼びかけたのに応えて作られたとのことですが、セゴビアの手で伏せられてしまい、彼の死後発見され、益田氏が日本初演・初録音したとのことです。トローバと言えば、以前ご紹介した山下和仁盤でのソナチネの華やかな曲調が印象的でしたが(山下氏が再録音するだけのことはある)、こちらもなかなかの佳曲。やはりどことなくスペインを感じさせるメロディとリズムが頻発します。ただ、益田氏の控えめな(?)キャラクターとの相性はどうなのかな、という気がしなくもありません。もっと彼の他のアルバムを聴いてみようと思います。


というわけで、ブローウェルのソナタはワケワカメ系で、ヘンデルやその他の曲もバッハ集ほどの感銘は受けませんでしたが、なかなか味の出てきそうなアルバムでした。さて、クラシックギター系のライナーノーツはほとんど濱田滋郎氏が手がけてるのではないかと思うのですが、氏の豊富な知識を駆使した曲目解説と、ギターへの愛が伝わってくる評論文には非常に好感を持っています。この記事を書くにあたり、氏のライナーノーツの表現を「 」内で一部お借りしたことを記しておきます。

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益田正洋『Bach on Guitar』
2015-01-18-Sun  CATEGORY: 音盤紹介
本日は久々にギターによるアルバムをご紹介。日本人ギタリスト益田正洋によるバッハ作品集です。

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収録曲はプレリュードとフーガ、アレグロBWV998、組曲ホ長調BWV1006a(原曲は無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番BWV1006)、ソナタ第1番BWV1001、そして無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番1004よりシャコンヌとなっています。

一時期、ギターによるシャコンヌにハマって色々集めていたことがありまして、今回レコード屋で久々にギター版シャコンヌのCDを見かけて思わず買い求めたものです。

全く知らないギタリストでしたし、何気なく手にとったので正直ほとんど期待せずに聴いたのですが、これが大当たり、いやそれどころか無人島行きのCD用スーツケースの中に選ばれそうな1枚となりました。

ギターを弾く私にとって、(いつか詳しく書きたいのですが)バッハ作品をギターで奏するときに求めるものは、まず第一に「音色の均一性」です。例えばクラシックのギタリストで思い浮かべると、福田進一氏によるバッハのシャコンヌは、ブリッジ寄りのピッキングなどを活かしてcrispyな音を多用するなど、ヴァイオリンでの表現を念頭に置いているのか極めて多彩な音色を奏でていますが、私の個人的な趣味はどちらかと言えば音色の粒を揃えるピアノでの表現に近いほうが好みで、音もボディの鳴りを活かしたふくよかな弦の音色が理想です。

これはジャズギターを聴く(弾く)際も同じで、ウェス・モンゴメリーは私のHeroの1人ではありますが、親指の爪によるピッキングは非常に豊かな音色をかもし出すものの、その音色の種類の多さが落ち着かなく感じてしまうのです。ギターだと、(結構高価ですが)べっ甲製のピックで弾くと親指の爪で弾いたような音色をかなりの具合で再現することが出来、音色も均一にできます(ブルース系のギタリストはよく使いますが、ロックやジャズの人はあまりべっ甲製は使わないですね)。まあほとんどのジャズリスナーは私の好みとは逆でしょうが。

さて、脱線してしまいましたが、最初のプレリュードとフーガ、アレグロから聴き始めると、まさに私の好みとする均一で安定したピッキングにより弾き進められています。そのためデュナーミクの幅が小さく感じられるのですが、淡々と弾かれているようでいて和音のバランスの細部にいたるまで神経を込めて弾かれており、美しく繊細に弦が響いています。

益田氏の演奏の方向性として、声高に自分を主張してロマンティックに弾き上げるのではなく、自分の演奏表現を通してではあっても、あくまでバッハの曲そのものに語らせたいとしているかのようです。喩えるなら、日々の祈りを捧げている修道士の厳かな信仰のような、誠実で生真面目で禁欲的な解釈に感じます。聴く人によってはダイナミックレンジが狭く、スケール感に欠けて地味だというかもしれません。しかし、これは名演です。プレリュードの、道端に小さく咲いた花のようにさりげない美しさ、フーガでの低音弦の絶妙な音量と声部のバランス。ここでも先ほど述べた音色の均一性が光ります。終わりの和音の切ない響かせ方、そんな何気ない箇所にむしろ私は耳と心を奪われてしまいます。打って変わってアレグロは力強く曲を締めくくっており、非常にメリハリが効いています。

続くパルティータ第3番の組曲は、わかりやすくとっつきやすい曲調で、弾き方によってはありきたりになったり個性に走って逆にダサダサになってしまうところですが、ここでもかぶりの大きいアゴーギクを行うことなく、インテンポを保ち明晰で深みのある音色で弾かれています。プレリュードで左手の大きなポジションチェンジのときに少しタメが入るのが惜しいですが、ロンド風ガヴォットの心地よくはじけたリズムには、ヴァイオリンやピアノには無いギターの特性を活かした表現が聴けて、ギターを愛する人間にはたまらない愉悦感を与えてくれます。2度目の主題の繰り返しでは先ほど述べたcrispyな音色をさりげなく用いたり、弾き終わりにごく小さなトリルを織り交ぜたり、自己主張の強すぎないそのさじ加減が素晴らしい。

次のソナタ第1番、こちらはヴァイオリンで名演が数多いためそちらと比較してしまうのですが、これもギターという楽器を活かした演奏になっていると思います。すなわち、トレモロ奏法以外では(サステインペダルのあるピアノよりも早く)音が減衰してしまうギターの特徴を解釈の基礎として、音の減衰に合わせたテンポやデュナーミクの設定になっているのではないでしょうか。それに真っ向から立ち向かうギタリストもいますが、ギターであることをわきまえたとも言えるこんなに素直な解釈で素晴らしい演奏が出来るのだと、バッハの作品の懐の深さに、そして益田氏の演奏能力の高さに驚かされます。それでも、ヴァイオリンの演奏の刷り込みが強いだけに、このアルバムの中では若干印象が薄いほうかもしれません。

トリを飾るシャコンヌ。この曲は私も弾こうとして第1部の中程までは録音もしたことがあり(今聴くと笑ってしまうような演奏ですが)、容易には満足することが出来ず色々聴きました。今、演奏内容を詳細に比較したギター版シャコンヌの聴き比べを数年がかりで?執筆中なのですが(下書きしてるのがカテゴリに表示されちゃってます笑)、手持ちの数十種類の中でもこれは今のところベストを争う出来です。

解釈の基本は先ほどから述べているギターであることを自覚した演奏表現なのですが、やはり音色の磨き方が尋常でない。それとなく弾かれていながら実は途方もなく精魂を注がれている、といういぶし銀の演奏です。譜面を起こしながら細かく聴きこんだわけではありませんが、冒頭12小節目最後の和音は、こんなにさりげなく柔らかく弾く解釈は私には思い付きもしませんでしたし、それにより変奏をマクロで見渡したときにこんなにも自然に美しく響いていくとは想像だにしませんでした。このような、奇をてらったわけでない弾き手のぬくもりというか優しさに触れられる箇所がほかにいくつもあります。

技巧面ではお決まりの32分音符の急速部分も、どうしても比較してしまう人間を超えた山下盤3種にはとても及びませんが、他のギタリストと比べて水準以上で健闘している部類でしょう(どうやらプリングオフを巧く駆使してスピードを稼いでいる?)。長大なアルペジオが続く例の有名な部分は、益田氏の師事した福田氏と同じアルペジオの譜割りになっており、途中で山なりのアルペジオの形を変え、さらに同箇所の最後の部分はジョン・ウィリアムスが弾いたように6連符にして弾かれています。この部分は福田氏そっくりの編曲なので、ひょっとしたら師の演奏を参考にしたのかもしれません。こうするとリズムのつながりが変わってしまうのであまり私は好きではなく、山下版のように4音をモチーフとして弾ききって欲しいのですが、益田氏の演奏は曲を通して一貫したテンポ感があるのでそこまで不自然に感じません。ちなみにこの箇所は師である福田氏の演奏の方がキレと安定感があります。後は…長くなるのでギター版シャコンヌ聴き比べの機会に(笑)

録音も、明晰で粒立ちの良いギターの音色が捉えられており、残響で色が付いてしまっているのが残念ですが(クラシックギターの録音はサステインを稼ぐために残響をやたら多く取るきらいがあり、私は好きではない)、それでも許容範囲。ヴォリュームを上げるとサーというノイズが聴こえるなどオーディオ的クオリティはそんなに高くないのかもしれませんが、ギターを録音した他盤と比較しても優秀な部類でしょう(私の理想はギターの多重録音でゴルトベルクを弾いたカード・ラダーマーのほぼ残響ゼロの音色です。この盤はバッハの無伴奏ヴァイオリンの聴き比べ等で有名な素晴らしいサイトCD試聴記でも好録音と書かれています。ちなみにこのアルバムも無人島行きスーツケースに真っ先に入ります)。

というわけで、いつもショパンのソナタを短く要約してそっけなく感想を書いている私が珍しく長々と書いてしまったのもこのアルバムがとにかく素晴らしいからであり、益田氏の高い演奏能力と誠実そうな人柄が伝わってくるこのCDは、控えめに言っても私の持っているバッハを弾いたギター作品集、いや、ピアノやヴァイオリンによるバッハ作品を含めた中でも、とりわけ素晴らしい1枚に挙げられるものだと言えますし、何時でも気分を問わず聴く事のできる虚飾の無い解釈と、さりげなくも細部まで練られた演奏が逆に新鮮にさえ聴こえるというのは、ギターによるバッハの新たな演奏表現の可能性を示しているとさえ言える感動的なアルバムです。

ギター好きの方も、ピアノ好きの方も、是非、ご一聴を!
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ジェイムズ・トッコのショパン前奏曲集(LP)
2015-01-10-Sat  CATEGORY: 音盤紹介
シリーズ化しそうな、CD化されていない(と思われる)LP紹介(ただし、CD化して欲しいものとは限りません)。ジェイムズ・トッコ(James Tocco、米1943-)によるショパンのプレリュード集です。


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これはアマゾンでもebayでも常時売りに出てることの多いレコードですが、どうやらCDにはなっていないようです。ちなみに彼は1973年のエリザベート国際で第8位に輝いています。

私が長年探し続けているCDが3枚あって、そのうちの1枚がkyushimaさんのページで高評価されているトッコのバッハ=リストのオルガン編曲集なのです。未だに店頭はおろかebayでも見たことがありません。アメリカ生まれということで彼ののディスコグラフィーにはコープランドやマクダウェル、バーンスタインのものが多く、あまり興味を引かれないのでこれまで聴いたことがありませんでした(アメリカのウィキには載ってませんが、フランクのヴァイオリンソナタを出してるので、そちらは聴いてみたい)。というわけで、恥ずかしながら初めてお耳にかかるピアニストなわけですが、kyushimaさんのレビューによるとテクニシャン系とのことなので、比較的期待を持って聴きました。収録曲は作品28と遺作の変イ長調の前奏曲、それに作品45の嬰ハ短調の前奏曲です。

・・・これが、とっても微妙な内容。作品28全曲で演奏時間が41分を超えるということで、かなり遅めのテンポの苦手なタイプの演奏だとは思ってましたが(ちなみにポゴレリチは45分超え)、出だしのハ長調がまず野暮ったい。3番は彼の指回りが堪能できますが、第7番太田胃散は飲み過ぎたのかちょっとモタレ過ぎじゃない?という、歌が不器用な感じ。第8番・第10番などの短調系の急速フレーズは巧いですが、録音のせいかあまり洗練されてはいないです。第12番ではリズムにちょっとクセ有。全体的に長調系での歌い方にいまひとつ。第15番が最も象徴的な演奏で、デュナーミクに難があるというか、弱音の使い方が一本調子で素っ気ないのがよく分かります。逆に第16番の音の粒立ちやスピード感はかなりのもの。第23番も、ここまで強弱とか抑揚が感じられないのは録音のせいもあるのかもしれません。終曲の右手の細かい動きは鮮やかです。

そんなわけで、技巧的には秀でたところを感じるものの、抒情性とか音楽性の点では疑問符が付く感じで、曲が本人のキャラクターに合っていない印象です。おそらくこれがデビュー盤ですが、なぜショパンの前奏曲を選んだのでしょうか。同じショパンでも、エチュードとかスケルツォとかならハマってそうなのに。バッハ=リストは彼向きだと思われるので、是非聴いてみたいです。引き続き探索します。
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