音楽好きの世迷い言
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Cecile Ousset のショパン・ピアノソナタ第2番ほか(LP)
2017-12-30-Sat  CATEGORY: 音盤紹介
探していた盤を安く捕獲。


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セシル・ウーセのショパン集である。これは1981年の録音と思われ、80年代後半にEMIで録音したショパンのソナタ2番とは別の音源のようである。つまり、未CD化ではなかろうか。

今から1年ほど前にユニオン新宿クラ館で3000円弱で見つけ、「高いなぁ」と思い、その時は試聴のみして「EMI盤の方がいいかも」とスルー(レコード音源は古いせいか私好みの演奏の率が低い)。それからすぐに売れてしまい、やっぱり買うべきだったかと思ってたところ、つい今月久々にユニオン茶水のクラ館で再発見。しかし、それもやはり3000円弱。買おうかどうか迷ったが手持ちが足りずまたも断念(多分まだ売れてない)。そしてつい先日、新宿クラ館でなんと2000円を切る価格でシュリンク付きの当盤が売られていたためようやくgetと相成った。

ousset2

収録曲はソナタ2番、エチュードOp.10-4,8,12、ノクターンOp.27-2、バラード4番。王道というよりベタすぎると言っていい内容だ。ユニオンで試聴するときはヘッドホンで思い切り針音が目立つため、部屋で聴くよりも大抵印象は悪くなる。その分を補正して「EMI盤」と比較して一度は見送ったわけだが、その判断は誤っていたようだ。おそらくは何度も録り直しがきかなかったせいか、出だしからポロポロとわずかな弾き損じは出てくるもの、テクニックのキレ自体はEMI盤を上回るように感じる(録音年が早いこともある)。第1楽章の急速部分、第2楽章のオクターヴ連打の迫力が素晴らしく、女流だからという非力さは微塵も感じられない(タメが少ないのもいい)。第3楽章も解釈は至ってフツーだが、まずまずモタれない。終楽章は真っ当にすぎるかな。

B面のエチュードも抜粋だがOp,10-4は高い技巧を感じる。10-8は左手を強調させるのが意外と面白い。10-12は標準的だがスピード感でほんの少し物足りないのと、ソナタ同様わずかに弾きこぼしがある。ノクターンはアゴーギクでそんなに揺れない感じがいい。バラード4番は遅すぎないのが私好み。しかし、所々でテンポの増減速が激しめで、ヒステリックな印象。オテンバ感が漂う。ストレッタの和音連打のスピードはやや物足りないか。バラード4番はなかなか決定的な演奏がない。技巧と叙情性、何より美音の3拍子を揃えた私好み演奏がなかなかない。1997年の浜コンでのタラソフの演奏が今のところ最高点かもしれないが、あれはミスが目立つのが惜しい。。


というわけで、ソナタ2番の演奏はEMIに引けを取らず、としたい。全体的に有名曲を並べた割に演奏の質が高く、満足な1枚だった。


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Sang Mi Chung / Haydn - Medelssohn - Chopin
2017-12-22-Fri  CATEGORY: 音盤紹介
ショパンのピアノソナタ第3番のところで取り急ぎ評価のみ載せた盤。


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Sang Mi Chungという全然知らなかった韓国人ピアニストだが、例によってショパンのソナタ第3番が含まれており、(最近はそれだけでは買わないが)終楽章が久しぶりに見かける5分切りの4:54というので購入を決意。1999年5月、ニューヨークでの録音である。


収録曲は、ハイドンのピアノソナタ第43番、メンデルスゾーンの無言歌集よりOp.19-1・3、Op.62-1の3曲、ショパンのマズルカOp.41-1、ノクターンOp.32-1、そしてソナタ第3番である。ソナタを保険として、それ以外は微妙にど真ん中を外した選曲にコダワリが感じられるのが私の期待を高めた。


出だしのハイドンの数小節を聴いただけでこれは大当たりだと分かった。指回りが秀逸で軽やかかつ明晰で、残響が不思議にモワッとした録音のせいか、輝くような音色というよりは、どこか夢うつつのようなはかなさと気だるさの中を気にも止めずスイスイ弾き進む、そのギャップが面白い(DemidenkoのConifer盤みたいな音質)。


メンデルスゾーンの無言歌集、これはババヤン盤がお気に入りで、それと比較すると語り口はまずまずか。ここではじっくりと時間をかけて歌うが、3曲で8分ほどで終わってしまうのが惜しい。ショパンのマズルカ、躍動感があるものの、例えばグールドなどのリズム感の一貫性があるタイプでないのだが、自由奔放ではない自制されたアゴーギクに譜読みの深さを感じさせる。余談だがノクターンOp.32-1の最後のほうでは、はてこんな時代が下ったフレーズがあったかとびっくりする。


お待ちかねのソナタ第3番、とにかくテンポが速い。せっかちと思う人がいるに違いないが私としては嬉しい。第1楽章もカッチリとしたタッチで急速部分も安定。第2楽章もかなりの快速で駆け抜ける。2分台前半なので相当に速い。こりゃ第3楽章もサラサラしてるかなと思ったら9分台半ばをかけてじっくり歌ってる。歌のセンスはそれほどではなく、デュナーミクや音色の変化も少なめで、静かに柔らかく奏でる感じで、悪くない。終楽章はヤブウォスキ〜R-アムラン系統のカッチリしたタイプで、胸のすくスピードでタメも入れずにグイグイ進む(終わりの最難所部分の左手がやや不明瞭か)。演奏時間は、8:34、2:17、9:34、4:54で総じて速い。歌のセンスがやや硬いせいかショパンらしい華やかさはそれほど感じられず、幾分惜しいが十分に◎を付けられる。


本人のHPには年齢が書かれていないが、ライナーによると1965年にソウルで生まれ、ジュリアードで学んだということだから、現在の韓国人ピアニスト隆盛時代の先駆けの一人だったのかもしれない。他にもスクリャービンやベートーヴェンのオムニバスなどがディスコグラフィーにあり、見つけたら聴いてみたいと思う(メディア原理主義者としては、なるべくiTunesでは買わないようにしている・・・ACCよりWAVのほうが音質も良いだろうし・・・アーティストには1円も入らないのが申し訳ないが)。


こういう知らないピアニストで大当たり、はレア盤をゲットするのと同じくらい嬉しい。
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Kit Armstrong / FRANZ LISZT SYMPHONIC SCENES
2017-12-20-Wed  CATEGORY: 音盤紹介
予告通り、キット・アームストロングのリスト集。


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これは昨日書いたバッハ&リゲティ集の2年後、2015年の録音である。今度はタワレコから収録曲等を引く。

『キット・アームストロング / リスト:交響的情景』

【曲目】
リスト:
1) 夜の行列 S.513a
2) メフィスト・ワルツ第1番『村の居酒屋での踊り』S.514
3) タッソーの葬送凱旋 S.112-3
4) メフィスト・ワルツ第2番 S.515
5) 栄えよポーランド S.113
6) メフィスト・ワルツ第3番 S.216


・・・正直、メフィストワルツ第1番以外は記憶にない曲なのが情けない。メフィストワルツの2番・3番は確かカツァリスが4番まで弾いていた盤で聴いたはずだが、全然覚えていない。「75点」の前作から期待より不安の方がやや大きくなったが聴いてみた。

予想通り、1曲目は全く親しみの無い曲で、タイトル通りなんとも言えない暗く静かな曲。時折細かいトレモロを挟むが、前半はそんなに派手派手しくない。後半から音数が増えるが、やや音がにごるというか和音がそこまで綺麗に鳴り切っていないのが気になる。曲としては地味で、これをオープニングに持ってくるのはちょっと不思議。演奏としては、モノクロームなタッチで音色の種類が少ないが、格調高い系統の解釈。

唯一耳に馴染んでいるメフィストの1番。全体的に落ち着き過ぎというか、覇気に欠ける。また、ラッサンでもフリスカでも明らかに他盤と違う?弾き方をしている箇所が幾つかあって(譜面を見ながら聴いていないがトレモロの箇所等)、異稿なのか譜読みのミスなのか分からない。歌い方は躍動感に欠けるがまずまず。細かい音型はしっかり弾かれているので、音の並びがよくわかって面白い。例の跳躍部分はあからさまにスローだが、その後の右手が大きく動き回る部分の迫力はスゴかったりと、テクの出し惜しみは感じる。「能ある鷹は爪隠す」系の演奏なのかもしれないが、曲を通した平均を取ると地味に過ぎる。また、手のサイズの問題なのか、1曲目でも感じたように一部の和音があまり美しく響いていないのが気になる(曲の弾き終わりなど)。というわけで、数多の熱演に比べると私としてはかなり物足りない。

3曲目、これも全然記憶にない曲で、地味である。彼の落ち着いたキャラには合っているかもしれない。ここから、曲への親和性がないため、薄い感想になってしまう。4曲目、メフィストの2番も粒立ちがよくプラモデルのパーツが透けて見えるような明晰さのある演奏。しかし、執拗な繰り返しがシューマンのソナタ第3番のようで、聴いていてクドくて飽きる。1番とは似ても似つかないな。。右手の細かいフレーズでの鮮やかさは曲によってはハマると良さそう。5曲目も地味地味過ぎてコメントに困る。6曲目のメフィスト3番も、聴き比べをすると面白そうなんだけど・・・というところだが、極めて精緻なトレモロの連続が鮮やかで、ポテンシャルは感じる。もっと技巧を見せ付けて欲しい。


というわけで、ひと言で述べるならリストの地味な曲を落ち着いた解釈でモノクロームに格調高く、しかし地味に仕上げた(仕上がった)感じ。ゴルトベルクのように驚異的なまでに抑制されたタッチや演奏の自発的な面白みなどには欠ける。地味なリスト集としてはヴォロドスのアルバムが思い浮かぶが、あれは曲は地味だが技巧のレベルの高さと歌い方で楽しめたものの、この盤ではその水準にはない感じ。昨日のバッハ/リゲティ集に引き続き、70点台前半というところか。


1人のピアニストが全ての曲を上手く弾くわけではないのが当然なので、むしろゴルトベルクがかなり掘り出し物だったとするのが正しい評価だったようだ。彼には今後、バッハの平均率やブラームス、シューベルト、ラヴェルあたりが合いそうなので、最高点(ゴルトベルク)は高いものを出していることだし、めげずに注目してみたい。

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Kit Armstrong / Bach Ligeti Armstrong
2017-12-19-Tue  CATEGORY: 音盤紹介
キット・アームストロングの他のCDをユニオンで安く見つけたので早速購入。録音は2013年なので、当時若干21歳の時の演奏ということになる。


881.jpg



以下、収録曲はHMVから引いた(輸入盤と曲順が違うようなので一部入れ替えた)

・J.S.バッハ:最愛なるイエスよ、われらここに BWV.634
・J.S.バッハ:主よ、汝のうちにのみわれ望みを持つ BWV.712
・J.S.バッハ:ただ神の摂理にまかすもの BWV.690
・J.S.バッハ:我らが救い主、イエス=キリスト BWV.666
・J.S.バッハ:イエスはわが喜び BWV.713
・J.S.バッハ:甘き喜びのうちに BWV.729
・J.S.バッハ:高き天よりわれ来たり BWV.738
・J.S.バッハ:いと高きところにある神にのみ栄光あれ BWV.715
・J.S.バッハ:いと高きにいます神にのみ栄光あれ BWV.711
・J.S.バッハ:主イエス=キリスト、我らを顧みたまえ BWV.655
・J.S.バッハ:キリストは死の絆につきたまえり BWV.625
・J.S.バッハ:おお人よ、汝の大いなる罪に泣け BWV.622
・アームストロング:ファンタジー・オン・バッハ (2011)
・J.S.バッハ:パルティータ第1番変ロ長調 BWV.825
・リゲティ:『ムジカ・ルチェルカータ』より第4,3,10,9,5,7楽章


またそれほど聴き込めていないのに書いてしまう。まずはゴルトベルクで感銘を受けた、得意と思われるバッハのコラール。やはり抑制されたタッチ、禁欲的でしっとりと落ち着いた演奏になっている。タッチのコントロールぶりはゴルトベルクのBDほどではなく、あれがライヴということもあってあのような柔らかいスタッカートとも言うべき抑えた表現になっていたのかと思う。演奏の傾向としては、シュフ、ブレハッチ系統のバッハと言えるかもしれない。グレイルザンマーやムストネンのようなある種の突き抜けたあざとさや挑戦的な弾き方ではない。フーガ的な部分では、彼の特徴である、どの声部も独立した人間が別々に弾いているかのように等しく聴こえてくるのはここですでに健在である。コラール群は1曲1曲が短いこともあって演奏の特徴がやや見えづらいが、無機質のようでいてどこか温もりのある解釈がじんわりと心に染み入ってくる。ただし、これはゴルトベルクの先入観があるせいかもしれず、「いたってフツーの演奏」と思う人がいる可能性はある。それでも、比較的長めのBWV.622での音楽性は素晴らしいと思う。


次は自作の「ファンタジー・オン・バッハ」。10分ほどの曲で、出だしは緩徐的に複数の声部がメロディの形をとらずに不気味に川の上流でうごめく感じ。プロコフィエフの中期のソナタをゆっくり弾くとこうなるかも、というフレーズが延々と続く。どこがバッハなのかは全く分からない。すごく数学を感じるのはきっとこれも先入観のせいだろう。中盤からは曲の音数も勢いも増していき、激しく流れる川のごとくなっていく。音使いは現代的そのもの。後半はまたゆったりとしたプロコフィエフ調というかリゲティ、メシアン等の雰囲気となる。面白いかどうかで言えば面白くない。


つづいてバッハのパルティータ1番。これはアンデルジェフスキの1・3・6番の抜粋をよく聴いていたが、あのような品の良い躍動感はないが、落ち着いた優美な演奏。欲を言えば、やや普通っぽい演奏の感じがするので、ゴルトベルクBDのような超コントロールされたタッチを聴かせてほしいところだが。


最後はリゲティのムジカ・リチェルカータ。色々なところで色々なピアニストが抜粋で弾いている(私の好きな盤だと例えばババヤン)が、今回初めて聴いた曲もある。ピアニスティックな曲は少なめで、と言えば緩徐的なものが選ばれているようである。最後の7番はババヤンも弾いていて、左手が無窮動な動きを繰り返す分かりやすい曲なので覚えていたが、彼よりテンポがかなり遅いが凛とした透明感のある右手の語り口が良い。他の曲は詳しくないので、バッハのようにタッチの精妙さや解釈の新鮮さという楽しみ方ができない分、面白さは薄いか。


…というわけで、かなり期待してハードルを上げて聴いたわけだが、75点というところか。バッハは優れものの演奏と言えるものの、他の選曲が王道というわけでもないので、聴き比べの楽しみも出来ず、突き抜けた解釈も聞けず、イマイチ不完全燃焼な印象は残る。音楽性では光るものがあるが、技巧的には特にズバ抜けているというわけでもなさそう。


うーんやはりゴルトベルクBDの1枚で天才と決めつけるのは早計だったようだ。お次は彼のリスト集について書く予定。
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キット・アームストロング/バッハ「ゴルトベルク変奏曲」とその先人たち
2017-12-17-Sun  CATEGORY: 音盤紹介
巷で話題のキット・アームストロング(Kit Armstrong)によるバッハのゴルトベルク変奏曲ほかである。

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ネット上の様々なところで絶賛されており、(たまに良いレビューを書かれる方が現れる)Amazonでも高評価だったので気になっていた。年末ということもあり財布の紐が緩んだ勢いでBlu-ray Disc盤を買ってみた。ユニオンで中古が4500円だから、なんともまあ高い(普段ならおそらく買わない)。

2016年3月、アムステルダムのコンセルトヘボウでのコンサートライヴである。後半のゴルトベルクの前にByrdやSweelinck、Bullなどのバロックの作曲家の作品が収録されている。いつも通り、詳しくないのでこれらの演奏については特にコメントしない。


ゴルトベルクは不思議と楽譜を見ながら聴きたくなる曲なので、今回も眺めつつ聴いた(9年前にイム・ドンヒョクの演奏もやはり見ながら聴いていた。だからと言って何か音楽的な分析が私に出来るわけではないが)。以下はスマホ片手にメモした感想である(便所の落書きレベルなので期待されません様)。

アリア:繰り返す。
第1変奏:かなりノロい。
第2変奏:子どもたちが次々と顔を出すように、しかし底抜けに陽気というわけではない。
第3変奏:メチャクチャ遅い、沈滞、そろそろと。
第4変奏:チャーミングな演奏だがやはり抑制されている。慈しみとも優しさとも違う。
第5変奏:両手交差で初めて明らかなミスをする。タッチは相変わらず抑制されている。
第6変奏:間を置かずにやや力強く。やや崩壊気味の危ういところも?
第7変奏:本人は笑顔で、飛び跳ねるように弾く。右手の32分が軽やか。右手と左手の対話というより、それぞれの自由なお遊戯をみているかのよう。しかし、園児が演じているのは完成された現代劇。
第8変奏:律儀。
第9変奏:美しいカノン。
第10変奏:フゲッタ。格調高い。
第11変奏:この辺りからスイッチが入ったのか勢いがわずかに出てくる。しかしアルペジオは丁寧。終わる頃には元の抑制された知性。
第12変奏:やや引きずるようなカノン。
第13変奏:やや間を入れておごそかに開始。流石にかったるい。どこまでもリピートして天国的に長い。終わるかと思うが繰り返す。後半は前打音の処理が独特。
第14変奏:弱音で始め、軽やかというよりはサラサラ。後半の32分は今まででいちばん力強く。
第15変奏:実に難解。数学的なカノン。複数の声部が全て等しく主張してくる。
第16変奏:オーバーチュア。流石に力強く、威厳をもって堂々と。32分の下降が鮮やか。後半はどこかグールド的。トリルの決まり具合がスゴい。最後ほんのわずかにミス。
第17変奏:やや間を開けてそろそろと。左手も等しく主張。弱音が美しい。
第18変奏:間を開けずに、分かりやすいカノン。貴族の子どもが乗馬の訓練。
第19変奏:乗馬の練習が続く。
第20変奏:疲れた子どもは野原で子馬とじゃれあい、時にかけっこ。後半の左手の精妙さ。タッチがスゴ過ぎる。くぐもったような、それでいて芯のある音色。
第21変奏:哀しみの旋律も引き締まった力強さをもって、前を向こうと優しく諭されているような、しかしそれは大人ではなく、健気な子どもが静かに哀しみをたたえつつ。
第22変奏:哀しみを乗り越えた先の長い重音トリル。決して彼は調子には乗らない。
第23変奏:鮮やかなタッチ。精密な音の置き方がスゴい。スケールの上下動は素晴らしく鮮やか。両手交差も余裕(右手を凝視)。
第24変奏:しなやかな力強さのあるカノン。後半、どの子どもたちも等しく主張。
第25変奏:苦手。出だしは憂鬱だが途中からそれほど重くなく、くどくなく展開。これも長い。
第26変奏:そろそろと気持ち良さそうに、わずかに笑顔を浮かべて。後半の左手も気品がある。どうしてこんなにも透明に和音が響くのか。
第27変奏:アタッカで芯のある力強さをもって、トリルも丁寧。見せ付けるような感じが全くない。
第28変奏:後半だというのに定規で測ったかのように均一なトリル、丁寧な音、疲れを知らない彼の技巧のポテンシャルが最高度に表れる。
第29変奏:和音がややモタるがこれは解釈の模様。途中ほんの少しミス。後半の表情付けがスゴい。
第30変奏:大きく間を開けて、静かに、前奏の力強さはなく、飄々とテンポ良く、徐々に力強く。けれど思い入れが全くないのとは違う、なんというか新しい表現。
アリア:感動的。

日本最高のクラシック系サイト、Classical CD Information & Reviewsの加藤さんがこの盤について、それ以上付け加えることのない感想を書かれているので、私なんぞの落書きよりもそちらをご覧頂きたいが、私なりに手短かに述べると、タッチが極めてコントロールされており、どこまでも知性的としか言い様の無い表現に満ちている。似ているピアニストが思い当たらないのでクレーム覚悟で無理矢理喩えると、ムストネン4割+グレイルザンマー3割+シュフ2割+ポゴレリチ1割というところだろうか。しかし書いた直後に全然違う気もしてきた。


とにかく抑制された知性、賢者のごとき音楽表現なのである。それでいて、子どものような純真無垢さと、虚飾の無い透明な音色でもって我々に静かな感動を届ける。グールドやランゲル、デルシャビナ、ベッカー、ディナースタイン等私の好きな聴き慣れたどの演奏とも違う。聴く者にとって好みの解釈かどうかに関わらず(実際演奏の出だしを聴いた時は私の好みではないと感じた)、自在な演奏でありながらあたかも普遍的な美しさに聴こえてしまう術というものを彼は知っているかのような演奏表現なのだ。その上で演奏を通して彼の誠実な人柄が見えるようですらある。

今ゴルトベルクを弾かせて、このように慣習に囚われず独自の自由自在な表現を行い、しかもそれが逆説的に普遍的な類いの美しさと感動をもたらすような演奏ができるピアニストが、私には他に思い当たらない。強いて言えば、グレイルザンマーかH・シュフくらいではないかと思う。技巧的なことでいうと、B・グロヴナーのほうがテクニシャンかもしれないが、音楽的な表現というか知性という観点での垂直方向の深さは比較にならない。ただし、これは私の一方的な印象もあるので、人によってはこの演奏が「こねくり回し」と感じる人もいるだろう。ゴルトベルク自体で比較すると、タッチの軽やかさ・鮮やかさはデルシャヴィナ盤を上回り、ランゲル以上に自在な表現で、音色のまろやかさはディナースタイン級と言える。と言うと派手な演奏に聴こえるかもしれないが、抑制されたタッチと解釈に底知れない知性を感じるのだ。


こんなことを書くのは私自身どうかと思うが、そしてまたこの1枚だけで判断するのは早計だが、疑うこと無き天才としか言えない。ブレンデルが今まで出会った最高の才能と評したそうだが、それも頷ける。今までに私が聴いた事のないタイプなので、大変戸惑っている。Amazonなどの商品紹介には「数学の博士号を取り、」と書かれていたので、慌ててMathSciNetで論文を検索したが出て来なかった。本人のページを見たらMasterと書かれていたので、修士だろう。業者の皆さんは訂正したほうがよいのではないか。数学オリンピックにも出場したというクリッヒェルもそうだが、ピアニストはやはり理系だ。


・・・コンセルトヘボウの観客、そしてこの演奏を視聴したリスナーのおそらく全員が、最後のアリアの途中でここだけ「繰り返さない」ことに気付く。その瞬間、この25歳の天才の演奏との別れが近付いていることを悟り、寂しく切ないまでの感情を胸に抱くのだ。映像付きということもあるが、彼の演奏に深い感銘を受けた。年末年始は彼を深く聴き込んでみようと思う。

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