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The melody at night, with you

音楽好きの世迷い言

Dayna Stephens / I'll Take My Chances (guitar: Charles Altura)

渋谷のアーチトップギター専門ショップ、「ウォーキン」さんのFacebookでオススメされていたギタリスト、チャールズ・アルトゥーラの参加作品をget。2013年の録音である。


リーダーはテナー&バリトンsaxのデイナ(ダイナ)・スティーブンス、ジェラルド・クレイトンのピアノ&ハモンド、ジョー・サンダースのベース、ビル・スチュアートのドラム、それにヴォーカルでベッカ・スティーヴンスが1曲参加している。曲は10曲中6曲がオリジナル、スタンダードは1曲だけで、メルドーやアーロン・パークスの曲なども取り上げており、いかにもコンテンポラリーな感じ。

自称なんちゃってギタリストの私としてはギターのアルトゥーラがお目当てなのだが、彼の本格的なソロはまず2曲目から。音色は柔らかめのテイストだが、芯も程よく残ったアルデンテな感じ。とにかく使用音域が広く、ネックの上から下まで縦横無尽に駆け巡る。A・ロジャースやJ・V・ルーラーのような超高速派ではないが、かなり速いテンポの中、滑らかかつ流麗なフレーズを聴かせている。5度音程を重ねてオクターヴで素早く上下動したり(ラヴェルの水の戯れみたい)、HR/HMのギタリストがよく使うディミニッシュのアルペジオをジャズ用にブラッシュアップしたかのような分かりやすいフレーズも織り交ぜ、それでいて使うハーモニーは現代の新感覚派な印象。プレイも音色も、一番近いのはラージュ(ラーゲ)・ルンドだろうか。サイドマンとしての参加であまり目立たないが、かなり気に入った。

リーダーのダイナ・スティーブンスはゴツい見た目とは裏腹に、堅実で押しがそこまで強くない音色。他のプレイヤーにも光を当てる空気の読み方に感じる。クレイトンのピアノもメルドー的な感じはあるが卓越しており、スタンダードを謡ったベッカ・スティーヴンスはメチャうま、しかしビル・スチュアートだけはやっぱりちょっとうるさいかな(苦笑)

というわけで、チック・コリアにも注目されているというアルトゥーラの味見盤としては実に良かった。是非リーダー作を出してほしい。それにしても、Criss Cross Jazzは、なんというか誠にギタリストへの理解があるレーベルで、本当に有難い。白に黒字で統一されたCDの背や裏ジャケで、ユニオンでも見つけやすいし(笑)
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布川俊樹氏の音楽

ジャズにおいて、ギターという楽器の地位が低いのではないかと感じていた。



職場などで趣味の話をする。「昔ジャズをかじりまして」と言うと、必ず「カッコいいですね!サックスですか?それともピアノですか?」と訊かれる上に、「ギターなんですけどね」と告げると「はあ」となんとも気の抜けた反応が帰ってくる。こちらが「ロックをやる年でもなくなったので・・・」と話しても何故か言い訳をしてる感じになってしまう。そこに、ジャズギターへの敬意は(ひょっとすると私自身も含めて)感じられない。


ジャズの花形楽器であるサックスやピアノに比して、ギターはいかにも地味だ。音色はともかく、音量のダイナミクスさでは勝負にならない(そもそもマイク・・・P.U.・・・がないと聞こえない)。「ジャズ」と聞いて一般の人がサックスのブロウをイメージするのは致し方ないところがある。そんな中にあって、ギターの利点は逆説的ではあるがその手軽さ、敷居の低さにあるだろう。サックスやトランペットなど初心者は音すら容易に出せないし、ピアノはデカいし、移調を考えるとギターのそれとは段違いの困難を伴う(ギターは入り口としてTAB譜があるので譜面に弱くなるマイナスもあるが)。楽器人口を考えればギターは圧倒的に多く、マーケットとしてジャズギターも大きいに違いない。にも関わらず、冒頭に書いたようにジャズギターに対して長いこと私は引け目を感じていた。




ところが近年、そんな私の印象は大きく変わりつつある。




コンテンポラリー・ジャズにおける最近のギターの隆盛を考えると、私にとってはむしろギターの存在こそが「イカしたジャズの象徴」である。私自身がギターをやるというひいき目も大きいが、今ではバンドにギターが入っていないと「クールじゃないな」と思うことすらある(勿論、一般の音楽リスナーにここまでの感覚は求めない)。「コンテンポラリー」の旗印をギタリスト達が担ってると考えるほどだ。これはギターがエフェクターによって様々な音色を出すことができるという楽器の性格にもよるのだろうが、アーティスティックな面ではカート&ターナーの双頭バンドの影響が大きいのではないだろうか。大げさでなく、彼らがきっかけでジャズギターの地位向上がなされ、コンテンポラリーギターが人口に膾炙していったように感じる。この辺りは以前の記事のカート・ローゼンウィケルのライヴレポートと聴き比べにも似たようなことを書いた記憶がある。



さて、前置きが長くなってしまったが、今日はそんなジャズにおけるギターのさらなる地位向上(??)を図って、布川俊樹氏の音楽を紹介したい。



先に言っておくと、布川俊樹氏は私のジャズの師である。というとなんだかスゴそうだが、私はプロのギタリストではないどころか大してギターも上手くはなく、個人レッスンをたった2年間しか受けていないので弟子を名乗る資格すらない。おまけに「師匠」と呼ばせて頂くほど練習熱心な生徒でもなかった(すでにブラックに勤める社会人だったせいもある)。ここでは、アーティスト布川俊樹の音楽をひどく熱心に聴いた1人のファンとして、ジャズギターの良さを広めるこの一稿を読者の皆さんにお送りしたい。


私は布川師匠のことを「先生」と呼んでいるので、ここでも先生と呼ばせて頂くことにする。先生の音楽と初めて出会ったのはアルバム作品ではなく、ジャズギターの教則本だった。「ジャズギターの金字塔」という、なかなか強気なネーミングの本だ。当時、HR/HMに中高時代を捧げた私は、左手の指回りと右手のピッキングにはかなりの自信を持っており、「そろそろオトナの階段を登ろうかな」と思ってなんとなく上から目線でジャズに手を出した、きっと日本全国にゴマンと居たであろう「勘違いギター少年」の1人だった。


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そして私は、TAB譜通りに弾いても全くジャズに聞こえないという驚愕の経験をするのである。先生の模範演奏CD(今となっては初版付属のCDはリニューアル版と一部収録曲が違うので貴重!!)からは「ジャズそのもの」が流れてきた。これが私と先生、そして「ジャズのグルーヴ」との出会いだった。


布川先生はグルーヴの塊りのようなアーティストである。内蔵に手を突っ込まれてぐわんぐわんとえぐられるような、強烈に心地よいグルーヴで聴く者を捉えて話さない。私が何度かブログで書いている「グルーヴが備わっていれば、メジャースケールを上昇しただけでもジャズになる」という台詞は、レッスン中の先生の言葉だ。それまでジャズを「複雑な和声とスケールによるアドリブ音楽」としか思っていなかった私の印象を、根底から覆すほどのインパクトを先生の演奏はもたらした。それ以来、ジャズでは「フレージングの違い」よりも、「グルーヴの違い」によってギタリストを種別するまでになった。


いい加減に書くなら、カートは浮遊感があり、たまにつっかえたようなところもある。アダム・ロジャースはフレージングのみならずグルーヴも流麗、ジェシ(・ヴァン・ルーラー)は鋭くて、どちらも共通するのは置き場所にミリ単位の細かさがある感じ。B・フォアマンはややジャストで前のめり気味か。ピーター・バーンスタインは現代的で非常に柔らかい印象(大好きだ)。ウルフ・ワケーニウスはメセニー信者であるのでトーンもフレージングも勿論グルーヴもよく似ている。宮之上さんはオーセンティックでモダン寄りな感じ。岡安芳明さんや、最近youtubeで有名な宇田大志さんなどのお弟子さん達も伝統的なグルーヴに感じる。イケメン菅野義孝氏は若干ハネが強いか(彼の1949年製ギブソンES-175を沼袋オルガンジャズクラブでちょっとだけ弾かせてもらったことがある。超良い人!)。プロのギタリスト達が皆そうであるように、布川先生はその誰とも似ていない。拍に対する8分音符の置き方で各ギタリストのグルーヴのアナライズは可能だろうが、本稿の主旨でないので止めておく(生半なことを書くとジャズギターマニアの方が来襲して怒られる(笑))。


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CD棚で目に留まった愛聴盤


大学時代、隣りのサークルの一番ギターの上手いヤツが布川先生のレッスンを受け始めたと言うので譜面を見せてもらった。TAB譜でなく、五線譜を見てジャズのスタンダードを弾く彼をカッコいいと思った(ピアノをやっていて譜面は読めたが同音異弦のギターにはほとんど役に立たない!)。当時私は院試の勉強で忙しく、彼とはそれきりになってしまった。それから10年近く経って、思い切って先生にメールを出し、教えを乞うことになったのだった。


そろそろ本題に入ろう。そんないちファンであり生徒だった私オススメの先生の作品をご紹介。


Depature/布川俊樹
(1998年) 

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 なんと言ってもこれはイの一番に挙げねばならない。LAレコーディング、メンツはピーター・アースキン(ds)、マーク・ジョンソン(b)、そして故ボブ・バーグ(ts)である!!!キーボードをVALISの盟友、古川初穂氏が務めている。

先生ご本人は「野球少年と大リーガー」のようにご自身のエッセイで書かれているが、「名球会員と大リーガー」とはじめに訂正させて頂こう。まずね、曲が超カッコいい。先生って、メロディメーカーなんです。そこらのジャズギタリストがなんちゃってスタンダードみたいな安っぽいメロのオリジナルをササッと書いちゃうのとはワケが違う。1・5・9・10曲目とか聴いてみて欲しい。そんでアースキン最高。最高。1曲目の出だしのライドのレガートなプレイだけで悶絶必至。そしてそしてボブ・バーグ。ボブ・バーグ。渋みのある、独特のサックスの音色がクセになるというか、私は大好きだ。

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(サム・ジョーンズのリーダー作。ボブ・バーグ、シダー・ウォルトン、ブルー・ミッチェル、ビリー・ヒギンズという私の大好きなメンツ。1978年MUSE録音のUSオリジナル盤)

クラシックで喩えると、ミクローシュ・ペレーニのチェロの塩辛い音色のような感じだ。そんな超絶メジャーリーガーを向こうに回し、先生は果敢に挑んでいく。ハイライトは5曲目。達人たちのスリリングな豪速球キャッチボールをお聴きあれ。



・Childhood's Dream/福田重男、布川俊樹
(2011)

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(両巨匠のサイン付き)

 30年来の盟友という、福田重男氏のピアノとのデュオ。これは我が家思い出の一枚である。実は、福田重男氏はうちの嫁のジャズの先生なのだ。とあるサックス奏者がリーダーのライヴを聴きに行って「あの人のピアノはスゴい!!」と珍しく嫁が興奮し(こんなことは滅多にない)、渋谷に通って習い始めた。そして、代官山レザールにこのCDのレコ発ライヴに出かけたのだった。


福田先生、体調不良でヘロヘロ


・・・勿論、プロだから演奏は最高だった。私のジャズライヴ観戦の中でも最高の感激のひとつだったと言ってもいい。とにかく、1曲目の「Hope In The Cave」が最高にカッコいい。当時、チリで起きた炭坑閉じ込め事故にインスパイアされて書いたというこの曲は、先生の書いた曲の中でも特に好きな1曲だ。

ここで一つ断っておく。ジャズミュージシャンにはありがちだが、CDよりもライヴのほうが断然演奏がいいのだ。まさに「音楽は観客と共に創る」と言えよう(だからきっとジャズはライヴ盤が多いのだ)。残念ながら、このCDも白熱のライヴ演奏には劣る。是非、コンサートに行ったことがないというライトなジャズリスナーの方はライヴに足を運んでみて頂きたい。ロックと違って座って観れるし、クラシックと違って酒を飲みながら、目の前で生の演奏を楽しめるのだ。レザールでの両先生の演奏は本当に本当に素晴らしかった・・・!!この店はウナギの寝床のように細長くて狭く、ホームパーティで巨匠2人が演奏してくれているかのようなのだ。しかも、ライヴチャージにおつまみが付いてドリンク飲み放題コミコミで5000円!!(採算はどうなってるんだ)・・・話が逸れた。先生の「ホープインザケイヴ」のソロでは鳥肌全開で涙が出てきたような気がする。先生愛用のヤマオカ製アーチトップギターの柔らかな音色も最高だ。絶妙な音の輪郭と自然なサステイン(欲しい。。。)。

「僕ら結婚してるんです」と言ったら、先生達はアンコール曲決めていいよ、と言って下さり、自分たちの結婚式で夫婦で演奏を披露した「My Romance」をお願いした。大好きな曲を、我々それぞれの先生2人に演奏して頂いたのは一生の思い出である。そんなこともあって、このアルバムは先生の作品の中で最も好きな1枚である。



・The Blood Trio/布川俊樹(2004)

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 ジャズギターでのトリオというのは、ギタリストのあらゆる力量の全てが問われると思う。6本弦でメロディも伴奏も何もかも表現しなければならない。ジェシ・ヴァン・ルーラーもトリオを何作か出していて、「制限があるからこそクリエイティブな演奏ができる」というようなことを雑誌で語っていた気がする。

このトリオ作品での先生の演奏も凄まじい。メンツはdsが山木秀夫氏(!!!)bが長年連れ添ってる相棒の納浩一氏である(近年、巷のジャズスタンダード譜面集を「青本」から「黒本」に切り替えさせたあの人、と言えばジャズをやる人なら全員に通じるだろう)。曲がいいのは勿論なのだが、日本を代表する山木氏の超絶ドラミングに煽られ、先生もド熱いソロを披露している。ジャケットの淡い幾何学的な模様も大好きだ。


・布川俊樹SJP/TRIO LIVE~天空の滝~
(2016録音)

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クラシック・ピアニストの世界について、私の尊敬するレビュワーの方は「栴檀は双葉より芳し」と評した。しかし、ことジャズの世界にあっては様相が異なる。そう、ジャズギタリストは年々上手くなるのだ。メセニーもデビュー時も上手かったが今は宇宙人だし、カートも2006年録音の『Remedy』を境に宇宙人になった。アダム・ロジャースは最初から宇宙人だ。これはクラシックピアノが、よりテクニック(狭義のメカニック)の面を多く占めていることに対し、ジャズが他の演奏者とのコミュニケーションにより演奏を創っていくために経験が必要となることによるものだろう。

さて先生のギタートリオ最新作。メンバーはSJPでお馴染みの高瀬裕(b)、安藤正則(ds)。いやーメチャスゴい。来年還暦を迎える(信じられない!)布川先生の、飽くなき向上心の為せる驚異的な演奏である。以前の作品が下手だと言っているのではない。紡ぎ出される音楽に余裕があるのだ。私の好きな「Hope In The Cave」もギタートリオでやるとまた全く違う味わいが出てくる。これもジャズの面白さだ(それにしても・・・高瀬氏は激ヤセされましたね。別人かと思いました。先生のFBによると、アスリート並みに身体を鍛えられているとの事)。


・DuoRamaシリーズ

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これは普段ジャズを聴かない一般の音楽リスナーに最も勧められる3枚である。とにかく癒し系だ。かと言って、イージーリスニングジャズとは全く違う、ギター&ベースのデュオ(ギターを重ねたりパーカッションが入ったりもする)の技術の粋が極まった演奏と言えよう。特に、1&2は先生のメロディメーカーとしての稀有な才能が最もほとばしっている2枚であろう。スタンダーズのほうは全ジャズギタリスト必聴!私がブログタイトルにしたジャレットのあのアルバムの1曲目、「I loves you,Porgy」を演奏しているが、感涙必至の超絶的名演である。私も先生からこの譜面集を買ってコピーしようとしたが相変わらず同じように聞こえない(なんて下手なんだ)。フィンガリングの巧みさ、ピッキングニュアンスの繊細さは人間国宝級である(ギター弾きならこの演奏の凄まじさがわかるはず・・・)。


・布川俊樹/スタンダード・ジャズ・プロジェクト
(2009)

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意外にも先生初のジャズスタンダード集。メンバーは上に挙げた最新作でもお馴染みの高瀬裕(b)、安藤正則(ds)に今をときめく佐藤浩一(p)である。彼はこのバンドに参加後、急速に知名度を上げ、洗足の非常勤講師についた(先生の慧眼は流石である)。山岡ギターの素晴らしい音色を体験できる1枚で、本格的にジャズギターのスタンダードモノを聴いてみようと考える方にオススメだ。特に3曲目は、ギターでここまで歌えるのかと思うほど素晴らしいグルーヴが全開である。自分のジャズバンドのライヴでまんま先生のアレンジで「You're The Sunshine Of My Life」を演奏した(レッスンで先生に弾き方を聴き倒した笑)。



・VALIS/The Last Gift
(2003)

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1985年結成、日本のコンテンポラリー・ジャズシーンを18年間に渡って牽引してきた布川先生のリーダーバンド、『VALIS』。先生の好きなSF作家、フィリップ・K・ディックの1981年の作品名から採られたバンド名だと記憶しているが(私の壮絶な勘違いかもしれない)、この偉大なバンドについて語ることは私の力量を遥かに超えてしまう。この作品は、そのバンドからの最後の贈り物である。

先生はご自身のエッセイで、「自分が最も気に入っているソロ」を、この作品の2曲目「Beat Panic」の演奏だと書いておられる。必聴。同曲では盟友古川氏のブチ切れたソロも素晴らしい。多言は要さない。緻密な楽曲とアレンジ、めくるめく万華鏡のようなグルーヴの渦を是非とも体験して頂きたい1枚。


さて、他にも紹介したい作品はまだまだある。先生のアルバムの中で最もファンキーなオルガン・トリオの『The Road To Jazz Jungle』。saxにVALISの小池修氏が参加している。私が特に愛聴している盤だ。

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最近、新作&再発が出たウルトラマンジャズ・シリーズも聴き逃せない。先生のソロの中で、私が最も好きなのはウルトラマンジャズ・ライヴの「ウルトラマンレオ」のソロである。ゾクゾクするような白熱の展開が素晴らしい。以前、このライヴ盤は特にレアとなり、ヤフオクでも滅多に出て来なかったが(ベスト盤が再発されてから立て続けに2枚出て、今も古い方が2800円で出ている)、今回の再発ベスト盤にリマスタリングで再収録されたので、是非聴いてみて頂きたい。


最後に、マニアックな方向け。先生の教則本のCDは先生がソロとバッキングの1人2役をして録音しているのだが、それが驚異的に素晴らしい。特に、『金字塔スタンダード編2』の模範演奏CDはジャズギター好きには垂涎モノの演奏である。アップテンポの「CONFIRMATION」「MOMENT'S NOTICE」などは死ぬほどカッコいい!また、リニューアル版の「金字塔」には、私の思い出の曲「My Romance」が無伴奏で収録されている(重ねて書くが初版とCDの収録曲が違うのでどちらも揃えよう)。先生も書かれているが、教則本の模範演奏という枠を超えて音楽鑑賞の対象としても素晴らし過ぎる演奏である。これらはヤフオクでは高値だが、ブックオフにはフツーの値段で置いてあることがあるので(私も保存用に買った)探してみるとよいかもしれない。

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KURT ROSENWINKEL'S CAIPI BAND @Motion Blue YOKOHAMA (2017/4/16)

新年度最初のレビューはコンサートの感想を兼ねた音源聴き比べである。


以前書いた通り、モーションブルー・ヨコハマにカート・ローゼンウィンケルの日本ツアー最終日に行ってきた。


店の受付前には、カートにギターを提供している渋谷のウォーキンのブランド、Westvilleのギターが飾ってあった。見るからにクオリティの高そうなギターで、私は涎をガマンしながら脇を通り抜けた。ウォーキンオーナーの西村さん(West Ville)の姿も見えた。お店のFBではツアーの貴重なオフショットが見られる。客席はジャズギターマニアと思しき青年・中年で溢れていた。中には、私の一番好きなジャズギターライターの石沢功治さんの姿もあった気がする(紙面で拝見しただけでお会いしたことがないので不確かだけど)。

比較的早めに予約したせいか前から数列目が取れ、カートがほぼ目の前に見える位置で観ることができた。現代ジャズギターの皇帝ことカートの注目のライヴなのですでに多くの人がライヴレポートを書いているが、私がひと言で感想を言うなら、最高だった

バンドメンバーはカートとドラムのビル・キャンベルを除いて皆若く、20代か30代に見える。Voのペドロ・マルティンズはやや小柄で童顔、少年のように若いがどこかロックスター然とした佇まいで、ルームウェアのようなボトムズにRADIOHEADの『OK Computer』のトムの顔が載ってるTシャツを着ていた。ガムを噛みながら、歌にギターにキーボードに(AppleのラップトップもSEか何かで使っていた模様)大活躍だった。ピアノのオリヴィアは相当な美人で歌も上手く、しかも非常にリリカルなソロを弾いていた。カートやペドロが大汗をかいているのに、まさしく汗一つかかずにベースのフレデリコは淡々とリズムを刻んでいた。パーカッションのアントニオはあまり目立たない。

カートのメインギターWestville Vanguard Plus DC
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(ギターシンセ的なサウンドが多かった気がする。照明のせいで赤く見えるが、実際にはワイン色っぽい茶色)


カートの使用エフェクター
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(これを見て私は『JOEMEEK』というエフェクターメーカーがあることを知った。そのものズバリ人名を付けるとは)


ペドロのギター
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(よく見るとfホールをテープでふさいである)


メンバー
Kurt Rosenwinkel (g,vo)カート・ローゼンウィンケル(ギター、ヴォイス)
Pedro Martins(g,key,vo) ペドロ・マルティンズ(ギター、キーボード、ヴォイス)
Olivia Trummer(p,key,vo) オリヴィア・トルンマー(ピアノ、キーボード、ヴォイス)
Frederico Heliodoro(b,vo) フレデリコ・エリオドロ(ベース、ヴォイス)
Antonio Loureiro(per,vo) アントニオ・ロウレイロ(パーカッション、ヴォイス)
Bill Campbell(ds) ビル・キャンベル(ドラムス)

セットリスト
1.Caipi
2.Kama
3.Casio Vanguard
4.Time Machine (新曲)
5.No the Answer (新曲)
6.Chromatic B
7.Interscape
8.Ezra
9.Recognized (新曲)
10.Hold On
(Encore)
11.Little b

(漏れや間違いの可能性もあるのでご容赦を)

カートが1人で練り上げた宅録サウンドを、生身のバンドメンバーで再現するとこうも変わるのかと思うほど印象は異なっていた。勿論、ラウドなベースやタイトなドラムのスネアは恐ろしくアルバムのままなのだが(ベースがビリつくところまで同じ!)、音やリズムの揺らぎ、空気感が全然違う。やはりライヴはいい。私の記憶が確かなら、新曲を3曲やっていた。よりスタンダードなPOPソング寄りというか、ロック調ですらあった。曲の終わりはドラムがドコドコ叩いて終わるし、カートもロックギタリスト的な弾き終わりを見せるなど、ギター小僧だった私には感涙モノである。時にはエレクトロニカ風なアレンジもあり、ドラムのつっかえたようなリズムは、ペドロのTシャツのままに時折レディオヘッド的ですらあった。「ブラジリアン・プログレッシヴロック・ジャズ」とでも形容できそうな感じだ。

カートのギターはもはやデビューの頃とは大きく変貌を遂げている。独特のリズム感と浮遊するメロディは健在だが、バリバリ弾きまくる。歴史的名盤『The Remedy』以降、明らかにカートのテクニック(クラシック的に言うとメカニックの部分)が向上している。純粋に速弾きの割合が増え、音数が増加しているのもそうだし、ある意味HR/HM的なスウィープなども増えた(今回のライヴでもランフレーズで頻繁に用いていた。ヴォイシングが複雑で私には分からなかったが笑)。現代のジャズギタリストでここまで明らかな進化(というと偉そうだが)を感じさせるのは彼ぐらいではないか(まあメセニーもそんな感じだけど。逆にAdam Rogersのように「もう上手くなりようがない程に上手い」タイプもいる)。兎も角、ソロは彼らしい唯一無二のフレージングで、ライヴならではの聴衆を熱狂の渦に惹き込むような盛り上がりを感じさせるラインだった。ささやかながらギターを嗜む人間として、これまで色々なギタリストの演奏を見たが、あらゆる意味でここまで自在に楽器を操るギタリストを私は他に知らない。本当に感動的だった。彼のヴォーカルは流石にペドロの美しい歌声と比べるとかなりイマイチだったが、ギターを弾きながら歌う姿はロックミュージシャンかのようで、ロック好きの私には嬉しかった。

残念ながらM.B.Y.の音響バランスはイマイチで、カートやペドロは曲中に何度もマイクの音量を上げるようジェスチャーしていたし、曲の良いところでハウることもあった。まあこれはデカめのベースを指示したバンド側にも責任があるかもしれないが。ともかく、これまでに見たライヴの中でも特に素晴らしいものだったと思う。


終演後、他の客がレジとは違う行列を作っているので何事かと思っていると、なんとサイン会があるという。おまけに受付にはLPが売られていたのだ!レコードが販売されていたとは、全く気付いてなかった。嬉々として並ぶこと20分、メンバー全員が現れ、1人1人にサインをしてくれた。カートに握手をしてもらったが、温かく大きな手だった。ペドロに「私もOKコンピューターが好きだ。いいTシャツを着てるね」というと、そんなことを言う客は他にいなかったのか驚いていた。皇帝はにこやかにそして気さくにファンの1人1人と話をしていた。こんなに小さなライヴ会場で、座って酒を飲みながら目の前でアーティストを見ることが出来、おまけに握手とサインと会話付きなんて、ロックの世界ではおよそ考えられないことだ。こんなところにもジャズというジャンルの良さがある。


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①ハイレゾ(flac 96kHz/24bit)
以前書いた通り、音の色鮮やかさはこれまでに聴いたどのアーティストの作品よりも素晴らしい。過剰とも言えるほどキメ細かに煮詰められたアレンジはハイレゾにピッタリである。情報量が多過ぎるので何度聴いても楽しめる。しかし、イヤホンで聴くと聴き疲れ感がハンパない。


②レコード
LPには9曲しか入っていない。ハイレゾは日本独自のボーナストラック『Song for our Sea』があって全12曲なのに比べるとかなり損な感じだ。ちなみにLPに入れられることなく落ちた2曲は『Ezra』『Interscape』である。

これまでこの"音源比較"コーナーで書いたように、アナログは音の一体感、塊り具合が特徴である。ハイレゾの、驚異的な音の分離と明晰さとは別次元だ(別表現と言ったほうがよいかもしれないが)。残念ながらハイレゾのようなカラフルさはかなり後退してしまっている。


毎回同じことを書くようだが、音楽に求めるもので良し悪しは変わってくるというのが率直なところである。通勤時はハイレゾを聴きまくったが、職場に着いた時の耳の疲労感というものはかなりある。リビングでハイレゾを流すとその緻密な表現に驚かされる。続けてレコードを聴くとまったく違う音像だ。正直、ギターも引っ込んでるし、SEなどの効果音の雰囲気もそれほど出ていない。ただし、心地良さはレコードが上回る。(9曲だし)あっという間にアルバムを聴き終えてしまう。


総合的にはハイレゾが上回るだろう。しかし、発売元のソングエクス・ジャズでの購入限定のようだが、このLPにはハイレゾのダウンロードコードが封入されている。私がM.B.Y.で買った輸入盤にはついてなかった(ウォーキンの好意でCaipiのジャケを模したピックは貰えた)ので、ハイレゾもレコードもそれぞれ買ってしまった私はなんだか哀しいというかなんというか・・・。

ちなみに同行してくれた友人は通常のCDを買っていた(音質的には一番損をしてる?)。

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Kurt Rosenwinkel 『Caipi』

ジャズギターは私の準専門分野(??)だ。



語るとピアノ並みかそれ以上に長くなるのでこれまでブログに書くのを控えてきたが、そろそろガマンできなくなって来たのでいよいよ書く。


現代ジャズギター界の皇帝こと、カート・ローゼンウィンケルのニューアルバム、『Caipi』である。





フィジカルCDの発売日は昨日だったが、先行発売のハイレゾに手を出して聴き込んでいた(危うくハイレゾに気付かずCDを買うところだった)。家ではMac+Audirvana or VLCで鳴らし、通勤ではハイレゾのポータブル再生機を持っていないのでスマホとハイレゾ対応のイヤホンで聴いた。しかし、こないだの記事ではないが、ネット購入はなんとも味気ない。。。


カートの作品について、リーダー作は全部愛聴してきたし、彼の楽曲集のスコアを買ってにわか研究したこともある(生半可に奏法分析などをするとジャズギターマニアの方に怒られるのでやらない(苦笑))。彼の『Remedy』というヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ盤は私の無人島行きスーツケースに収められる最高に好きな作品だ(いつかこの盤についても書きたい)。


カートのリーダー作は2012年の『Star of Jupiter』以来、5年ぶりである。この前作『スター・オブ・ジュピター』は今をときめく凄腕ミュージシャンによる超コンテンポラリーなジャズカルテット。特にリードトラック『Gamma Band』では、もはやジャズでもロックでもプログレでもない、近未来の音楽セッションという感じの曲。ギターはリングモジュレーターを同時に鳴らしたかのような不可思議で宇宙的なサウンドで、強烈なコード進行の上を縦横無尽に未だかつて聴いたことのないソロをカートは弾きまくる。若き天才ピアニストとの誉れ高いアーロン・パークスも、ここでのソロは流石に苦しそうである(ちなみに私は同じアーロンでもゴールドバーグの方が好きだ)。



さて、話を『Caipi』に戻す。これはカート自らほとんどすべての楽器を演奏し、10年の歳月をかけて完成させたという驚きの作品である。いわゆる普通のコンテンポラリー・ジャズを期待すると肩すかしを喰う。ネット上ではライナーノーツの翻訳が読める。全曲のレビューを書きたかったのだが、こんなに立派な文章があるので書くのを止めた。しかし、ちょっとだけ語るなら、これほどまでに鮮やかな色彩を感じる音楽は初めてだ。このアルバムの美しいジャケットそのままの、実にカラフルなサウンドに満ちている。ジャズとボサノヴァを基調として、ブラジル音楽、ブルース、ソウルを織り交ぜ、さらにはテクノやポストロック、音響系への漸近までもが見てとれる(ライナーでエイフェックス・ツインが何度も引用されてるのにはビックリ)。何より驚くのは、歌入りだということだ(正しくは「声入り」かもしれないが)。声入りと言っても、ポップソングのようなAメロBメロサビの繰り返しとは違う。メロディは今までのカートの曲のテーマ調ではあるが、より取っ付きやすくそして美しい。曲によっては不可逆的な進行を見せ、プログレ的でさえある。


カートの略歴はこちらが詳しい(なぜかファーストアルバム『East Coast Love Affair』や2nd『Intuit』発売の経緯が書かれていないのが怪しいけれど)。これを読むと、カートが実は相当な宅録オタクだったことがわかるが、このアルバムはまさにそんな彼の本質が全面に出ている。彼の演奏するベースやドラム、そして以前から聴けていたピアノも上手く(当たり前と言えば当たり前だが、そのグルーヴは面白いことにギターの時とほとんど同じ!!)、多彩なゲストの起用も当たっている(目玉のはずのクラプトンの演奏だけは「?!?」と思わざるを得ない笑)。マーク・ターナーは相変わらずマーク・ターナーだし(J・レッドマンのように自己主張が強いわけでなく、C・ポッターのように先鋭的でもなく、M・ストリックランドやE・アレキサンダーのようにストレート・アヘッドでもない。要するに丁度良い)、「voice」担当のペドロ・マルティンズは、元パット・メセニー・グループのペドロ・アズナールかリチャード・ボナのようだ。声を楽器のようにジャズに用いるミュージシャンと言えばメセニーがいるわけだが、数百年後のクラシックとなりうるポピュラリティを備えつつ壮大で映画音楽的でさえあるメセニーに比べ、カートは自己の先鋭的な音楽性そのままに現代の音楽シーンに切り込んでいる気がする。それを理解する(できる)リスナーの醸成に時代の変遷を感じるのは私だけだろうか。


眼前に立ちはだかるようなコンプの効いたスネアやバスドラの音、ややラウドなベース(嫁は「床が揺れる」と)、(クラプトンに限らず)時折埋もれがちになるエフェクトかかりまくりのギター、細部までこだわったアレンジのシンセの入れ方など、宅録的に煮詰めまくった音楽である。はっきり言ってジャズの伝統的なフォーマットとは全く違うし、「ラテンジャズ」のコーナーに置くのが正しい分類だろう。手を入れ込み過ぎと感じる向きもあるに違いない。今までの彼のような、脱バップ・非ロックなジャズギターを期待していたギター小僧はガッカリするかもしれないが、私は本当に素晴らしい作品だと思う。ここには私の好きなジャンルが目一杯詰まっている。まさに、カートの新たな代表作と呼ぶに相応しい必聴の名盤である。ハイレゾはキメ細かすぎて聴き疲れするので、別ミックスによるマイルドなアナログレコードで出して欲しいが、まあ不可能だろう。


カートはこの4月に来日公演を行う。早速私はチケットを予約した。彼の実演は2010年と2011年にどちらも新宿ピットインで観た。2010年の公演では、演奏終了後にドラムのロドニー・グリーンが客席を歩いてきてある男性客の前で立ち止まり、周囲は何事かと思っていると、客の胸ポケットからICレコーダーを取り出し「これは何だ!」と怒鳴ったことを思い出す(笑)



ともあれ、現代ジャズギターの皇帝が、実は宅録オタクだったというのは私にとって嬉しすぎる驚きである。けれども最も驚くべきは、この作品の制作に「10年かかった」ということだ。これが10年前に彼の頭の中で鳴っていた音楽ならば、今の彼にはどんな音楽が聴こえているのだろう?


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