音楽好きの世迷い言
The melody at night, with you
カティア・ブニアティシヴィリのショパン集
2012-09-25-Tue  CATEGORY: 音盤紹介
近年、その超絶技巧で話題となっているカティア・ブニアティシヴィリ(Khatia Buniatishvili)の新譜です。


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私もご多分に漏れずyoutubeでその圧倒的な演奏を目にし、リストアルバムを聴いてさらにブッ飛んだわけですが、第2弾のアルバムとしてショパン集を出してきたので早速飛びついて買ってきました。タワレコでも目立つところに平積みされていて、注目度も非常に高いようです。曲はワルツ第7番、ピアノソナタ第2番、バラード第4番、ピアノ協奏曲第2番、マズルカ第13番とテンコ盛りで、さらにボーナス映像が付いています。ちなみに私は輸入盤を買いました。


早る気持ちを抑えつつ聴いた感想はと言うと、一抹の不安が的中で最大級のガッカリとはまではいかないものの、かなり残念な気分です。


ワルツは針の先でつついたような繊細なタッチで聴かせますが、続くソナタ第2番第1楽章の開始1分で「これはダメかも」と観念しました。というのは、彼女の自由奔放で独特なアゴーギクが出だしから全開だったからです。リスト集を聴いた時にも若干感じていてイヤな予感がしていたのですが、このショパンではそれが前面に展開しています。ゴムのように伸び縮みするテンポで、重苦しいアルペジオの後、スピード感のある序奏が始まったと思ったら緩徐部分ではビタッと立ち止まるような歌い方。タッチは華々しいですが、コロコロ変わるテンポに落ち着いて聴いていられません。スケルツォも部分的に異常なほどのキレを見せますが、オクターヴ連打後の重音で駆け上げる箇所は意外にも軽めのタッチ。跳躍部分では解釈なのか技術的な問題なのか、とにかくやたらと間が空いて変です。葬送行進曲もネットリとやりたい放題な語り口。あまりにも前後の脈絡の無い弾きっぷりなので、どことなくトリオ部分はノクターンを聴いてるような錯覚を覚えました(そこだけ切り取ると聴き惚れるのですが)。終楽章は手持ちの中で最も軽いタッチで、数cmしか鍵盤が押されてないのではないかと思うほど独特の演奏。それでいて、言うまでもなく超高速(1:15)。技巧的には彼女の最大のライバル?と思われるユジャ・ワンとこの曲の演奏を比較すると、ワンの方が良く言えばストレートで悪く言えば工夫がない感じ、部分的なキレと全体的な歌のセンスはブニアティシヴィリに軍配が上がる感じです(そもそも演奏の方向性が違いますが)。


バラード4番も全体的に同様の印象。音楽性にセンスを感じますがに個人的好みのタイプではないです。局所的な最大瞬間風速はガヴリーロフやタラソフなどのテクニシャンを上回るものがあります(特に最後の追い込みはメフィスト・ワルツ同様もはや別次元の凄まじさ!)。これがリストの曲ならまだ頷ける部分もあると思いますが、ショパンでこれはねえ…という感じ。この曲は女性ピアニストではロール・ファヴル=カーンのような極めて詩情溢れるタイプの演奏が好きです(ほかでは松本和将のテクニックと音楽性のバランスが取れた演奏が好み。勿論、ガヴとかタラとかツィメも好きです)。


コンチェルトの2番は、オーケストラがある程度の歯止めになっているのかそこまで自由気ままではないにしろ、やはりこの間聴いたマルク・ラフォレの端正な演奏の方が好きです。終楽章などはアルゲリッチ2世と呼ぶほかないような凄まじい指回りで鮮やかに聴かせますが、それならライヴ録音のほうが良かったのかも。最後のマズルカはお祭りの後の埋草的な演奏。


というわけで、他盤と比較して光るものも勿論あるにはあるのですが、期待が高かっただけに大変残念です。このような奔放さがリスト集で目立たなかったのは、(ショパンと比較して)リストのアクの強いヴィルトゥオジティに隠れていたのか、それともショパンで本性が現れてしまったのか(笑)、どちらにせよ読者の方で私と同じような好みの方には正直オススメできません。youtubeには続々と動画がupされており、ブラームスの2番なども聴けるようですが、コンチェルトの方が彼女の激しさが薄まってよいのかも(昨年、ラフマニノフの3番を弾いた演奏がNHK BSで夏に放送されたらしいのですが、マニアとして失格なことに見逃してしまいました…そのうち録音してくれることを祈ります。最近は忙しくエアチェックやTVチェックはめっきりしなくなってしまいました)。


全然関係ないですが、ソニー・クラシカルって、ヒラリー・ハーンとかヴォロドスとか五嶋みどりとか、一聴してインパクトのあるわかりやすいテクニシャンが好きですよね。それはともかく、このCDの録音はなかなか良いと思います。


ショパンのソナタ聴き比べの方にも、そのうちこの盤を追加して更新しておきます。まだ聴き込んでないので、そのうちに彼女の独特な演奏に慣れるとよいのですが…。


※追記
聴きこまないうちにアレコレ書くのもなんだと思い、楽譜を見ながら聴いてみました(普段は滅多にこんなことをしませんが、楽譜を見ながら聴くとどのような演奏だったか思い出しやすいので。ちなみにパデレフスキ版)。すると期待に反した最初の印象に面食らったせいか、それほど悪くない演奏に感じました。技術的には最高峰に入ると言ってよいでしょう。

第1楽章はやはり全体的にsostenutoとほかの部分との落差が激しすぎるように思います(ルービンシュタインなんかはテクでは数段どころか数次元落ちるもののこの辺が非常に上手く、巧みなテンポ変化によってその後の右手オクターヴで旋律を奏でていく箇所で高揚感を演出しています)。オクターヴ連打前の重音で駆け上がっていく箇所がスピード感抜群で凄まじい(最後の跳躍で一瞬間が空きますが)。左手で5度と6度の重音を2拍3連で弾きつつ右手で3度の和音で畳み掛ける箇所も、解釈でしょうが変に粘ってタメが多いというか、スカッといかない感じ(こういう所が今回の彼女の演奏でいちばん気になるかも…)。

スケルツォでのオクターヴ連打後の右手5度6度の重音で上がっていく箇所はキーシン並みに鮮やかでかつ速いですが、ややタッチが軽めで不明瞭(尤も、この箇所の2回目がおそらく最速のクライネフもやはり軽めのタッチで彼女より不明瞭。ここが明晰で極めて力強いキーシンはやっぱり宇宙人です。ガヴリーロフやアンスネスもスゴい。逆にポゴレリチのショパコンライヴとラツィックはここがスタカートなので少しコミカルに聴こえる。ちなみに私が一番好きなバルボーザは1回目は軽めのタッチで速めのテンポながら気品のある感じで、2回目はよりスピード感を増して迫力を出しており、その対比が絶妙)、続く半音階上昇とオクターヴ連打の迫力も素晴らしいのですが、その直後の和音の短前打音と跳躍の部分で微妙にタメが入り、特に繰り返しの2回目後のオクターヴ跳躍はそれが大きく、ここでなぜ?というという感じ(まあ他にもそのような演奏は多いですが。ちなみに再現部も同様の印象)。また、楽章最後のオクターヴでディミヌエンドしていく箇所も、その直前のffとの対比が大きすぎ、嵐が突然消え去った感じで違和感。

葬送行進曲はかなり良い演奏だと思い直しました。音楽性のセンスは本当にあると思います。終楽章は出だしがペダルを使わず確かに見事なまでにsotto voceですが、legatoではない感じ。中盤からペダルを使ってlegatoになるところはキレ味鋭いです。もっとストレートにでもいいかなと思うところではありますが、表情付けが豊かでこれはこれで評価できるかなと。



というわけで、私にとって記念すべき60種類目のソナタ2番ですが、玉石混交の演奏…かな。それでも、最初に聴いた時より随分楽しめるようになりました。


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