音楽好きの世迷い言
The melody at night, with you
デヴィッド・グレイルザンマーの『Baroque Conversations』
2012-06-04-Mon  CATEGORY: 音盤紹介
たまには新譜の話題を。個人的に大注目しているデヴィッド・グレイルザンマー(David Greilsammer)の新作です。


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レーベルを移籍したようで、大手SONYからの発売となっており、彼の世界的な活躍がファンとして嬉しいです。実を言うと馴染みの薄い曲ばかりだったのでスルーしようかとも思ったのですが、以前紹介したアルバムのように現代曲を配置していることから、これはまた面白いことをやってくれてそうだと思い、購入してみました。2011年10月の録音です。


アルバムはⅠからⅣまで4つのパートに分かれており、それぞれバロック時代の曲が2曲、現代曲が1曲ずつ収録されています。曲はラモーやクープラン、ヘンデル、フローベルガー、ギボンズ、フレスコバルディ、スウィーリンクなどのバロック時代の作曲家と、フェルドマン(1964年作曲)、Porat(b.1982)、Sahar(b.1978)、Lachenmann(b.1935)などの現代のコンポーザーの曲となっています。


聴いてみて率直な感想は、ああ、やっぱりこのピアニストは知的好奇心を強く刺激してくる自分好みのタイプだけれど、さすがにこれはやりすぎかな、といったところでしょうか。


まず、バロックの曲は細部までコダワリを感じさせる期待通りの演奏。冒頭のラモーのガヴォットの最初の数小節を聴いただけで、たちまち彼のピアノに惹きこまれてしまいました。変幻自在の音色と乾いたタッチを時に織り交ぜ、立ち止まるような大胆なアゴーギクや鋭いスタッカートなど表現意欲に溢れています。部分ごとにかなりテンポを変えているのですが、マクロではインテンポを保っているので、極めて情感がこもっていながらバロックらしい格調高さをいささかも失っていません。テクニックにもキレがあり、急速音型でもすべての音がコントロールされ、表情付けられているのが凄い。それでいて対旋律が現れる箇所ではまるで2匹の生き物が意志を持ってうごめいて行くかのような知的さを感じさせます。

ジャンルは違いますが、彼の演奏を聴いていてRADIOHEADのOK Computer 『パラノイド・アンドロイド』が頭に浮かんできました(レディオヘッドは私の最も好きなミュージシャンなのです)。以前にも書きましたがポゴレリチというかツィモン・バルトというか、慣習に囚われないスタイルはグールドを思い起こさせるというか、そんなイメージ(シュタットフェルトよりも断然グールド的な印象を受けました)。ただし、苦手な人は全く受けつけないタイプかも。個人的には、脳みそをグルグルかき混ぜてくるような演奏にたまらなくハマりました。


続いて間に入る現代曲。これが「なぜ」としか言いようのない強烈なミスマッチ。グレイルザンマー自身、「バロックの傑作とコンテンポラリー、まだ見ぬ2つの世界の出会いがこれ以上無い感動を私に与えてくれる」みたいなことをライナーで書いてますが、個人的には出会わなくても良かったのでは、としか思えません。

フェルドマンの静謐な曲はまだいいのですが、Poratという若手の作曲家の『Whaam!』という2010年の曲は、ライナーによるとジャズのハード・バップ期のミュージシャンであるエリック・ドルフィーやオーネット・コールマン、セロニアス・モンクなどにインスパイアされた曲らしく、よくわからない和音の強打で激しく始まったかと思えば、拍子感が無いままよくわからないコードを刻んだり、後半の方では突然ビートが入って激しく同音連打して、最後はピアノの蓋?か何かをドン!と閉めたような強烈な音で終わってます。細かいトリルが出てくる部分はスクリャービンの後期ソナタとソラブジっぽくなくもないような気がしないでもないような気がするのですが、とにかく暴力的な響きと緊張感が曲を支配しています。これがクープランとヘンデルの曲にサンドイッチされてるのだから、けっこうキツいものがあります。私はジャズが大好きで師について研鑽を続けつつ演奏もしているのですが、ジャズっぽい和声やリズムはこの曲からは微塵も感じられません。うまく言えませんが、ドルフィーやコールマン、モンクなどの『孤高の存在』に敬意を払ったアティテュードから生まれた曲なのかな、という印象です。ライナーを読んだ後では、ドルフィーの暴力的な響きやモンクのスタンダードに見られる神経症的な面が強いて言えば感じられ無くも無いですが。

私はどちらかと言えば現代曲にもアレルギーが無いほうですし(大井さんのクセナキスとか好きです。実演での彼のバッハやモーツァルトなども素晴らしかった)、前回紹介した彼のアルバムでも曲間に入っていたケージなどの現代曲がアルバムの中で良いアクセントになっていてそれが彼の高い音楽性を示していると思ってましたが、今作はさすがにちょっと聴き手へのハードルが高すぎるかなと。それでも他の現代曲は部分的にプリペアドされたピアノを用いた曲だったりで(録音作業が大変そう)、意外と面白かったのですが。


一番の失敗は輸入盤を買ってしまったことです。私の拙い英語力では彼がどういう意図でこのような配置を組んだのか読み取れず(なんか色々書いてる)、残念です。機会があれば日本盤の方も購入してみたいと思います。


というわけで色々書いてきましたが、再び彼のピアノのトリコになってしまったことは間違いなく、今後とも注目したいです。ホームページを見ると指揮もやっているようで、大いに納得。次回はバッハを中心にまた斬新な解釈を聴かせて欲しいと思います。



おまけ:CDの中ジャケはこんな感じ(ケースが反射してて見にくいです)。パンクとかメロコアみたいな、クラシックではおよそお目にかかれないド派手なジャケに、ますます彼に惹かれてしまいました(実は私はマッド・ハニーとかも好きなのです)。


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