音楽好きの世迷い言
The melody at night, with you
ショパンのピアノソナタ第2・3番のベストは?〜アントニオ・バルボーザというピアニスト〜2015/1/22更新
2015-01-22-Thu  CATEGORY: お気に入りピアニストの紹介
更新履歴
2015/1/22 追記しました。
2015/1/7 ワルツ集を追加しました。
2013/9/1 末尾にスケルツォ集を加筆しました。




今回は是非紹介したいと思っていた盤について、大それたタイトルで書いてみます。世の中に数多存在するショパンの第2・3番ソナタのベスト盤はどれか?などと大風呂敷を広げますが、無茶をご承知頂いた上でお読み頂ければ幸いです(2012/5/16初掲載)。


まず、クラシックピアノのファンならkyushimaさんのこのページhttp://homepage3.nifty.com/kyushima/cd/Chopin-sonata-2.htmlは御存知かと思います。私もこのページでたくさん勉強させて頂き、数多くの名盤を知ることが出来、大変に実りある音楽生活を送れていることに感謝しています。

kyushimaさんが挙げている高評価の盤は大体持っているのですが、その中では特に第2番ではポゴレリチ、第3番はアンスネスが好きです。ポゴレリチのショパン・コンクールライヴは傷が多めですが、尋常ではない緊張感がたまらないのと、冒頭のアルペジオがこれ以上なく自分のツボにピッタリはまった弾き方をしているのが最高にグッときます。さらにブログのほうで紹介されているロジャー・ライトのシドニー・コンクールライヴも、飛びぬけたテクはありませんが極めて音楽性が高く、個人的に2番の演奏の中では最も詩情を感じます。


そのほか、第2番で気に入っている盤はガヴリーロフの演奏です。彼のショパンの2番は手に入る正規録音としては都合3回録音しています。最初のEMI盤はテクニック的に全盛期の圧倒的な技巧で硬めの音質に乗せてバキバキザクザク弾き進む様が痛快極まりなく、次のDG盤はそれより多少大人になって格調の高さをも供えたバランスの良い名演と言えると思います(DG盤はレコ芸の座談会でも推薦されていたような)。ところが、3つ目のK&Kから出たリサイタルのライブ盤は、干されて?隠遁を経た録音のせいか、キレキレだったテクニックは見る影もなく、「買ってはいけない」盤になっています。個人的には最初のEMI盤が大のお気に入りで、併録のバラード第4番なども驚異的な技巧を見せつけており(ストレッタの和音連打のエグいこと!)、愛聴しています。しかし、これらはどうしても身ぶりの大きいロシア的な演奏で、ともするとショパン的かどうかの点で疑問が残り、ベスト盤として推すには少し抵抗があります。


さらに悩むのは第3番の方です。これは元々が取っつきやすい名曲ということで、誰が弾いてもある程度サマになる半面、本当に心揺さぶられる演奏は少ないような気がします。グールドの怪演やCD化されていないダン・タイソン(新録音のCDでないショパンコンクールライヴのLPのほう)のライブゆえのややミスタッチはあるものの知情の整った演奏や、録音が悪いのですが同じくLPのみのフー・ツォンの力強く歌心抜群の演奏も良いですが、万人に推せる盤が2番以上に少ない。アンスネスのセンス抜群の演奏が強いて言えばオススメですが、個人的にポゴレリチの2番ほどハマった感じではないです。



そんな中で、「1人のピアニストの演奏が、2番も3番もそれぞれベスト」と言ったら皆さんは信じるでしょうか。私自身「無茶なこと書いてるなあ」と思いつつも皆さんにご紹介したいのです。



そんなわけで随分勿体ぶってしまいましたが、私が2・3番の両方でベストだと思うのは、アントニオ・バルボーザ(Antonio Barbosa)の演奏です。





彼はピアノ好きの間では知る人ぞ知るピアニストとして、あのホロヴィッツが賞賛し、ルービンシュタインよりも詩的と言われたブラジル人ピアニストです。残念ながら1993年に心臓発作で亡くなってしまったそうです(それにしても、キャッチフレーズのスケールがデカすぎ)。


彼の録音として有名なのはショパンのマズルカ全集のCDで、ネットでは通販ショップから個人ブログに至るまで激賞の嵐です。私も大好きです。他にはyoutubeにショパンのスケルツォのLP音源が上がっており、そこでも素晴らしい演奏を聴くことができます。リストのダンテソナタやドビュッシーのアルバムも出しています。

また、ヴァイオリンのワンダ・ウィウコミルスカと組んで室内楽のアルバムをコニサー・ソサエティから幾つか出していて、ブラームスのVnソナタなどは出だしのピアノの数小節を聴いただけでバルボーザの素晴らしい音楽性が判ります。この盤はウィウコミルスカの人気も手伝って、特に入手困難なようです(個人的にウィウコミルスカのヴァイオリンは苦手なのでバルボーザのピアノを聴く盤と化してます)。


しかし、なぜかバルボーザがショパンのソナタ第2番・第3番のレコードを出している事は(私が検索した限りでは)ネット上に全く情報が載っていません。この演奏がとにかく素晴らしい。


2番は、ショパンの作品を見渡した中ではかなり異端の音楽としか思えない強烈な暗さや陰鬱さ、ある意味での取っつきにくさを持っていると思います。個人的には、そのような異端さを全面に押し出した演奏、例えばポゴレリチやガヴリーロフ、あるいはLazicのような「墓場であらぶる風のごとくモーレツに弾く」という演奏を好んで聴いてきました。ところがこのバルボーザの演奏は、ショパンの音楽が本来持っている美しさや繊細さ、詩情をいささかも失わず、それでいてこの曲が持つデモーニッシュな魅力も兼ね備えている、という稀有な演奏なのです。


第1楽章の劇的な序奏からその後の主題への見事な流れ、オクターヴ連打の迫力と確実性(スピードは十分ですがほんのわずかにタメが入る)、第2楽章もやや軽めのタッチながら軽快なテンポで急速部分を弾ききり、聴かせどころの第3楽章はモタレ過ぎずスッキリとしたテンポで(ここが重いのは正直苦手)、それでいて崇高さを感じさせ、さらに終楽章は彼の流麗なテクニックが全開。

彼の演奏の特徴としては、「バキバキ」弾くのではなく滑らかでスムーズな指回りが挙げられるでしょう。ショパンの抒情性や繊細さを表現するのにピッタリではないかと思います。それでいてテンポを落とし過ぎずにリリシズムを表現できるタイプで、ショパン演奏に対する個人的なツボを押さえています。


それが存分に発揮されたのが第3番です。第2番以上のとてつもない名演で、どこまでも詩情あふれる歌に満ちています。第1楽章は速めのテンポで音楽が自然に呼吸するかのようなアゴーギクが絶妙。前述した指回りが第2楽章のスケルツォで花開きます。力強さがありながら音色が美しく、決して品の良さを失わない、そんな知と情の絶妙なバランスがこの演奏にはあります。第3楽章もそれほど粘らないのが個人的な好みにピッタリ。そして最大の聴きどころは終楽章。4分台半ばという超高速テンポで、大きなタメを入れず、ビロードのような滑らかさで疾風のごとく駆け抜けていきます。陳腐な表現ですが、最初に聴いた時は「レコードの回転数がおかしくなった」のかと思いました。余談になりますが、家人は学生時代にソナタ3番を弾いていて一家言を持っており、私が何気なくこのレコードをかけていると「この人の演奏がダントツで素晴らしい」と言ったので、私の思い入れやひいき目に留まらず良い演奏なのかなと思います。


残念ながらCD化された形跡が無く、レコードの存在もあまり知られていないようで、私も7年間で2度(8年間で3度に更新に)しか見た事がありません(もちろん、毎日ebayや海外通販をチェックしているわけではありませんが…)。1度はお金を払ったのに海外から送られてこなかった、なんてこともありました。


barbosaus

(こちらは輸入盤の方です。音は先に紹介した見本盤のほうが良いです。たまたま入手できてラッキー)

というわけで、是非とも今後バルボーザの再評価が進み、何かの拍子でこのレコードがCD化されることを切に切に祈っています。

☆ショパンのソナタ2番聴き比べ


☆ショパンのソナタ3番聴き比べ

※おまけ:私が所有しているバルボーザのレコードについてコメントを書きます。

ショパン・ピアノソナタ第2番・3番:素晴らしいの一言に尽きる。特に第3番は非の打ちどころが無い。これ以上の演奏はちょっと想像できない。ちなみに演奏時間は2番が5:14/6:12/6:14/1:26、3番が8:36/2:24/8:23/4:32で全体的にかなり速め。

ショパン・ポロネーズ集:これも素晴らしいが、全体的にややヴィルトォーゾ的な演奏で好みが分かれそう。特に5番・6番では執拗に低音を強調するのが印象的。幻ポロは個人的にオールソン旧盤(や録音が素晴らしいロルティ盤)の方が好きだが、ロマンチストの彼としては意外にも情に傾き過ぎない演奏。

ベートーヴェン・ピアノソナタ第21番・30番:ワルトシュタインが絶品で、彼のロマンティックなピアニズムと曲想がピッタリハマってる。力強く、それでいて抒情的。それに対し、30番の方は(というか後期ソナタは)個人的に端正で格調高い演奏が好きなので、振幅のあるロマンに傾いている彼の演奏は自分の好みから外れる。


2013/9/1/追記

ショパン・スケルツォ集:youtubeに上がってたコンディションの悪い音源に我慢できず、状態の良いものを探していたところ、ようやく美盤をget(しかもサンプル盤!)。素晴らしい。個人的にソナタ集と同じくらいのお気に入りになりました。スケルツォは最近の盤では俊英ベンジャミン・グロヴナーの超絶技巧かつ才気溢れる演奏に驚嘆しましたが、バルボーザのこの盤はそこまでのテクはないものの十分に水準以上で、彼の特長である詩情と力強さの両立がスゴい。ところてん(※スケ2の冒頭から来た音大用語?)を弾いた家人もソナタの時同様に「この人はイイ!」と感心。いやはや、もう我が家はバルボーザのトリコで客観的なレビューなぞ出来なくなってしまいました。





2015/1/7/追記
手に入れたと思っていたのになぜか棚になかったバルボーザのワルツ集、記憶を辿るとソナタ集が海外から届かなかったのと同じ業者だったのかも。ようやく年始のセールで見つけました。

barbosawaltz

曲はワルツのOp.18、Op.34-1、Op.34-2、Op34-3、Op.42、Op.64-1、Op64-2、Op.64-3、Op.69-1、Op.69-2、Op.70-1、Op.70-2、Op.70-3、Op.遺作となっています。

・・・もうね、これがスケルツォ集かそれ以上の感動。長調の曲は軽やかに空を舞う小鳥の羽根のごとき指回り。ソナタやスケルツォで見せたテクニックが全開。聴いていて愉悦を覚えることこの上ありません。ちょっとテクニックを魅せすぎなんじゃないの、というギリギリのところで寸止め、ショパンらしい叙情性や切なさ、上品さを失わない絶妙なバランス。完璧で最高。今までワルツ集だけを好んで聴くようなミーハーな人間は信じられませんでしたが、明日からはそんな人間になりたいと思います。しかーし、レコードのコンディションは「B」ということだったのに、実際はB面が手で触ってわかるほどに砂が付いたようにザラザラ。水洗いしてもプチノイズ入りまくりで怒り心頭。神保町ユニオンめっっっ。コンディションの良い盤をebayで探すかな。。。ともあれ、youtubeで親切な人が上げていますので、是非聴いてみて下さい。


これでバルボーザのショパン系の音源はすべて紹介できたかと思います(マズルカ集は少し触れただけですが)。現在、マズルカ集以外CD化されておらず、そのマズルカ集も素晴らしいものの、CD化されていないと思われるLP音源に比べると霞んでしまうほどにご紹介したレコードは素晴らしいものです。

2015/1/22/追記
なななんと、iTunesストアで検索したところ、ワルツ集がレコードからデジタル音源化され、ダウンロード販売されていることに気付きました!盲点でした!しかも、ワルツ集のみならず、ダンテソナタまでも・・・!これは感涙モノです。。。おまけに、これまで見たことないシブいジャケ写です(ダウンロードしたアートワークが保存できないのでご紹介できませんが)。デジタル化にあたって、いかにもレコード特有のピアノの音色というか、バルボーザの一連のレコード音源で聴かれるようなちょっと軽めの音になっているのが惜しい(もっと上手く復刻してもらえれば・・・)。私はジャズとクラシックの弦モノはレコードで聴くのが断然良いと思っているスノッブですので、実はピアノはデジタル録音のほうが好みです(ヴァイオリンやチェロのレコードはアナログのノイズが気にならなずむしろ音の太さが楽しめるが、ピアノはどうしても気になってしまう)。

それにしても・・・素晴らしい、素晴らしすぎる演奏です。テンポの揺れの振幅が結構あって、一聴すると自由気ままな演奏なはずなのに、ごく自然に音楽に浸れる驚異的な歌のセンスに加え、胸のすくテクニック。そして我々がもっている「ショパンらしさ」というイメージそのままの、華やかで優しげで軽やかで、どこか悲しげで憂いのあるピアノ。

是非とも、是非とも残るショパンのソナタ、スケルツォ、ポロネーズ、ベートーヴェンのソナタをデジタル化して欲しいものです・・・!
スポンサーサイト
ページトップへ  トラックバック0 コメント2
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
久しぶりです
コメントシグレイン | URL | 2015-01-07-Wed 22:29 [EDIT]
こんばんは。
お年玉をもらいそびれてちょっぴりショックなシグレインです。

レコードの名盤がCDになってくれることを切に望みます。生まれてきたのが遅いせいで、レコードは持ってないし、再生できる環境がないんです。

バルボーザはもちろん、ワイセンベルクの古い方のソナタ3番も是非聞きたいのですね。アシュケナージのエチュードが復活するようにCDの廃盤は復活してもレコードの廃盤は復活しないのでしょうかねえ。

さてさて、こっちにコメントするとちょっとそれてしまうのですが、ショパンのワルツはフランソワのモノラルが好きですね。フランソワはいつも通り癖がありまくりなのですが、実は1962年頃を境に芸風が変わっているんです(私見ですが)。有名な録音は63年のワルツや64年のソナタで、テクニックが衰えてきてスローテンポなのですが、私の好きなモノラルの方のワルツは58年でまだテクニックがあり速めですし、55年のソナタ2番は(ライブのような熱さで傷はあるものの)5分、5分、6分、1分ちょっとという爆演です。

多分好みの演奏がお互い違うので、気に入らないかもしれませんが、後年とは違う演奏も聞いて欲しいです。36枚組のボックスに全部入ってます。
レコードは良いです
コメントA太 | URL | 2015-01-10-Sat 18:29 [EDIT]
シグレインさま

ご無沙汰しております。
私もレコード世代ではありませんが、レコードでしか聴けない音源が多すぎるので機器の購入を決意した次第です。最初は1万円のフルオートの安物プレーヤーでしたが、今は両親が使っていたものを使用してます。
ハイレゾも良いですが、やっぱりアナログも良いので、是非導入をオススメします。安いものでも十分にレコードの良さを楽しめると思います。

お年玉、今度はワイセンベルクを検討しますね。ここ数年でレコード音源は相当数CDとして復刻されているので、バルボーザもワイセンベルクも可能性はあると思いますよ。ただ、ペトロフの古いメロディア音源は音が悪いということで一部CD化されないままなので、レコードを手に入れない限り永久に聴けないものがあるのも事実です。残念です。

ワルツは、抜粋は他曲の抱き合わせとして聴いてきたものの、全集としてはほとんどマジメに聴いてこなかったので(オールソンのBOX盤くらい?)、機会があればフランソワ聴いてみますね。
トラックバック
TB*URL
<< 2017/09 >>
S M T W T F S
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30


余白 Copyright © 2005 The melody at night, with you. all rights reserved.