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The melody at night, with you

音楽好きの世迷い言

Motohiko Ichino / Sketches

普段ジャズギターは90年代以降の盤を中心に聴いている。海外ギタリストの作品が多いが、日本人は布川先生しか聴いていないのかというと、もちろんそんなことはない(文京区立図書館でたくさん聴いた(笑))。今日は珍しく、日本人ジャズギタリストの作品を。


sketches
(サイン付き)


Motohiko Ichino / Sketches (2005録音)
市野 元彦 - guitar
東保 光 - acoustic bass
嘉本 信一郎 - drums
かみむら 泰一 - tenor sax (Tr 2,5,6,10)


市野元彦氏は1968年生まれ。大学卒業後に渡米し、バークリー音楽院にてミック・グットリックらに師事、帰国後2003年のギブソン・ジャズ・ギター・コンテストで優勝している。この作品は彼の初リーダー作である。例によって私は10年ほど前のジャズ・ギター・ブックの記事で市野氏を知った。


ジャズギターは、モダンジャズ・後期モダンジャズ・フュージョン寄り・フリージャズ寄り・コンテンポラリー等に大きく分けられるかと思うが、この作品はジャズをフォーマットとしつつも、どこか音響系・エレクトロニカな雰囲気を漂わせた1枚となっている。全曲が市野氏の作曲で、どれもオリジナリティがある。美しいが抒情的になりすぎないテーマ、やや暗めでモノトーンな録音でセピア色の写真のようにノスタルジックな雰囲気、そして何より磨き選び抜かれたギターのヴォイシングが非常に印象的だ(彼のサイトを見るとそれも頷ける)。CDの帯にあるように「心象風景」「音の~スケッチ」という紹介はまさに、という感じがする。


アルバムの雰囲気を思い切り乱暴に例えると、「エレクトロニカに転向したジョン・アバークロンビーがECMから離脱し親指で弾いたトリオ作品」という感じ(サックスはゲスト的参加)。"アンダーサム"と呼ばれる(らしい)右手の親指中心の奏法による透き通ったギターの音色が素晴らしい(この作品の使用ギターはブックレットに書かれていないが、彼は渋谷ウォーキンのアーチトップ・トリビュート、現在は同店のWestvilleを使っているはず)。


ECMレーベルのような、抒情的だけれどもどこか透徹したそっけないまでに冷たいがゆえに切ないような雰囲気はない。時折、ネックベンド(??)でピッチを揺らすところなど、音響系的というかオーガニックな印象さえ受ける。そして繰り返しになるが、ヴォイシングが本当に美しい。ソロも無駄な音は一切弾かないというか考え抜かれた音を紡いでおり、そのラインは私の知る他のどのギタリストにも例えることができない(アルバムの雰囲気はアバクロ的だが、プレイ自体は全く違う!)。私はこんなブログを書いてるので、ピアノもギターもテクニック重視で派手な超絶技巧作品が好みと思われそうだが、このような一見地味だが知的に洗練された音楽も大好きである。


プレイの中心は転回コードによる、素人ギター弾きの私からするとあまり聴き慣れない、しかし非常に惹きつけられるヴォイシングである。ブルーノートの典型的な用い方をしていないのか泥臭いような雰囲気は一切なく(※ 7曲目で一カ所あった)、洗練された響きがアルバム全体に通奏低音のように流れている。多くの曲はその和音をモチーフにジャズなビートで展開していき、旋律は現代コンテンポラリーのように抽象的ではなく、しかし甘ったるくキャッチーでもない、そしてどこか日本人的なわびさびを感じるもの(私がよく用いる例え)だ。サイドについても書いておこう。サックスが苦味を感じる実に渋い音色を聞かせるのだが、録音のせいかやや一本調子な音に聞こえる。ベースも音像のスケールが小さく、全体的に録音クオリティは少し残念な感じを受ける。ただ、ドラムの距離間は遠目だが、邪魔をしてないのがイイ(これギター作品では重要)。


この後、彼は佐藤浩一氏(布川先生のカルテットのピアニスト)らとrabbittoというグループを結成、より音響的・エレクトロニカに漸近した音楽を奏でている。私的にはそちらも大好きなのだが、一般的なジャズフォーマットからさらに離れ、おまけにギターのソロが少ないので紹介はまた別の機会にしようと思う。


というわけで、オーガニックかつノスタルジーに満ちつつも洗練された印象と、こじんまりとはしているが知的な雰囲気に満ちており、聴けば聴くほど心に沁みてくる懐の深い作品である。私の愛聴盤であり、大変オススメ。
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