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The melody at night, with you

音楽好きの世迷い言

Matthew Stevens / Confidential

ティエンポ盤に続き、年始にゲットした激レア盤を。ただし、ジャズ。


マシュー(マット)・スティーヴンス『コンフィデンシャル』

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新しくなった新宿ジャズ館の廃盤特集で見つけ、説明の帯には「ライヴ会場のみ販売」とある。相当なレア盤かもしれない。とりあえず手に取り、ネットで色々調べるが情報が出てこない。ジャケもきちんと販売されたCDみたいで怪しいので、ひとまず試聴をお願いしてブックレットを見てみる。

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(サイン入り)


ご覧の通り、メンツが良い。ジェラルド・クレイトン(ジョン・クレイトンの息子)、ウォルタースミス3世、ジャマイア・ウィリアムス、そして私の好きなジョン・エスクリート。これが決め手となって、(私的にはかなり高かったが)試聴もそこそこに買ってしまった。なお、プレスCDではなく、裏青盤(CD-R)であった。

マット・スティーヴンスは、K・ローゼンウィンケル以降の今をときめくジョナサン・クライスバーグ、ラーゲ・ルンド、ギラッド・ヘクセルマン、マイク・モレノ、ジュリアン・レイジらの新鋭ジャズギタリストと比して、やや遅れて現れた感がある。初リーダー作が2015年の『ウッドワーク』だから、その実力が日の目を見るまでに時間がかかってしまったと言えるだろう。私は2009年秋に出版されたジャズギターブックvol.23で石沢功治氏がイチオシしている記事で彼を知ったのだが、2015年のこの『ウッドワーク』でようやくプレイを聴いたのだった。


さて、この謎のアルバムについて。


録音は2010年。曲は完全にコンテンポラリーを基調としたジャズ。聴く前はどこかのライヴハウスでの演奏をパッケージしたものかと思ったが、さにあらず。完全に計算されつくしたスタジオ作品で、ギターなども持ち替えているのか、それともオーヴァーダブしてるのか?という感じ。テーマで各メンバーのアドリブを挟む、という一般的なジャズスタンダード感はあまりない。ギターやピアノのリフを基にテーマを展開し、不可逆的な進行でたまにアドリブを挟む。プレイヤーの腕の見せ所を陳列する印象はなく、あくまでソング・オリエンテッドな感じさえ受ける。リズムはあまりジャズスタンダードのそれではなく、手数の多いドラムはロックやフュージョンの激しさも持ち合わせ、やたらとキメの細かい曲もある。ベースレスでオルガンが担当しているせいか、エレクトリック感が強めで、(よく私が用いる喩えだが)70年代のプログレ・ジャズを現代にブラッシュアップさせたような雰囲気だ。


1曲目はピアノとなんとアコギによるシンプルなリフに乗せて、何度かテーマを挟みつつ、オルガンとギターがテーマをバックにソロを取る。ドラムがシンバルを叩きまくって盛り上げつつ、ギターがここぞという所で入って来るので、壮大なスケール感がある。アルバム冒頭というよりはラストに回した方が良さそうな曲だ。2曲目はこれまたドラムが激しく、音数の多いイントロで始まる。クールダウンしてギターがカートの曲みたいに音数が少ないシンプルなメロディを反復したテーマを奏で、その後かなり抽象的なソロを引き続いて取る。テンポは変わるものの、この曲の半ば辺りがアルバム中で一番スタンダードなジャズビートか。曲の終わりはドラムが耳障りなほど暴れまくる。3曲目、細かいキメのあるテーマの後、ピアノにところどころ合いの手を入れられながらのギターのソロ。フュージョン風味が無きにしも非ずだが、ギターのグルーヴはコンテンポラリージャズのそれか。続いてサックスがソロを取る。エスクリートが絡んでくるのが彼が好きな私には嬉しい。最後はピアノのソロ。途端にスペースの出来た空間の中を、ドラムのプレイに合わせながらセンス良く弾いている。


4曲目はオルガンのコードに導かれつつ、サックスとギターで伸びやかなテーマ。ピアノ→サックス→ギターの順でソロを取っていく、最も長尺のトラックだ。ギターはバリバリ弾きまくる、という感じではないが、オリジナリティを感じる。ラーゲ・ルンドのように幅広いインターバルを織り交ぜてタテに自在に飛び回るというよりは、アダム・ロジャースやウルフ・ワケーニウス的なヨコに曲線的なラインを聴かせる感じか。5曲目はアルバムの中では比較的静かな曲調で、一休みな印象。ギターとピアノが2音から成るアルペジオを奏で、サックスが絡みだす。5曲目、6曲目もキメの細かいユニゾンなテーマのあと、ギターがソロを取る。アダム・ロジャースみたいな音色だが、彼より音がこもっておらず、流麗さでは敵わないがジャズギター弾きが喜びそうなフレーズを弾いている。その後のエスクリートのソロが「らしさ」全開で素晴らしい。そんなに長くないのが惜しいが(ちなみに私がエスクリートに注目したのは、A・ロジャースもサイドメンとして参加しているA・シピアジンの作品『BALANCE 38-58』だ。とても気に入っている)。最後の7曲目は比較的落ち着いたテンポで始まり、またまたカートみたいなシンプルなモチーフを繰り返すテーマをバックに、ギター、サックス、ピアノの順にソロを取る。ギターの音色はこの曲が一番心地良いかな。


アルバム全体の印象をまとめると、「アドリブソロのための曲」というよりは、緻密に計算された楽曲のまとまりを重視した作品であり、各プレイヤーのソロの見せ場は少なめな印象。特にギターは期待したほど弾きまくってないので私には些か物足りない。また、ドラムの手数が多すぎ、どう考えてもうるさすぎる。オルガンの使い方が一般的なジャズのフォーマットではなく、私からすると先ほど述べたようにプログレ・ロック的に感じる(勿論スティーヴンスの意図なのだろうが)。ピアノは流石に期待通りの貢献度。曲も、モティーフの反復からなるテーマが多く、出来は悪くないのだが「金太郎飴」な雰囲気もある。


ギターの音色は、メセニーとU・ワケーニウスとA・ロジャースを足して4で割ったところに、デヴィッド・ギルモア(フロイドの方にあらず)とW・ムースピール風味をブレンドした感じ。要するに、ナチュラルなアーチトップサウンドをマイク感のあるP.U.で拾った感じではなく、アンプからの出音を基準に音作りをした、サステインと柔らかい弾力性に富んだエレクトリックなサウンドだ。曲によってはギターを持ち替え(曲中でも?)、一部軽く歪ませている曲もあると思われ、クリーンさというか透明度はそれほどでもない。無理やりプレイを喩えれば、ロジャースに0.7をかけてギルモアのカツラを被った感じか。

・・・長くなったが、最後に。このアルバムの謎は簡単に解けた。現代ジャズ辞典のマット・スティーヴンスの項を見ると、「2010年にはウォルター・スミス三世、ジョン・エスクリート、ジャマイア・ウィリアムスを起用して『Emergence』を録音する。しかし発表には至らず、結果的に幻の初リーダー作になってしまっている(2014, NPR)。」とある。アルバムタイトルこそ違うが、4曲目に「Emergence」という曲があるし、メンツも同じであるので、これがその「幻の初リーダー作」なのだろう。おそらく権利関係のせいでお蔵入りになってしまったと思われる。次の2015年『ウッドワーク』の発表まで6年もかかってしまったわけだから、彼には思い出の詰まった作品であるに違いない。


そんなわけで、超激レアな雰囲気の漂う「幻の初リーダー作」であるが、正直その大きな期待からすると応えきれていない。「超名盤なので皆さん探しましょう」とか自慢げに書ければいいのだが、残念ながらティエンポ盤に続いて(負けではないが)レア盤勝負は2引き分けである。音盤道はそんなに甘くはない。
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