FC2ブログ
音楽好きの世迷い言
The melody at night, with you
最近聴いている音楽 vol.75~バッハ・フランス組曲第5番~
2018-02-13-Tue  CATEGORY: 雑多な話題
ピアノの先生をしている女性と結婚するのが夢だった。



・・・しかし、夢は現実と違った。防音室でグランドピアノを前に、美しい音楽について夫婦で語り合う。そんなことは結婚以来一度もしたことがない。大体が、夫婦の会話にクラシックのピアノ曲が上ることすら年に数度しかない。オタクはその筋の専門家と結婚しても幸せになれないのか?…まあいい。今日はそんな私の悲哀に満ちた日常に現れた、ごく稀な機会についてお話ししよう。


嫁が「フランス組曲5番の演奏は誰のを持っている?」と聴いてきた。飛んで火にいる夏の虫、こんな話題を私に嫁自ら振ってくることはほとんどない。途端に饒舌になるのが気持ち悪くて仕方ないらしい。いつもノソノソ動く私が、秒速2mでキビキビ動くのはレコードをかけ替える瞬間だけだといつも皮肉を言う。


兎も角、「いちばん好きなのはシモーヌ・ディナースタインのライヴ、次にアンデルジェフスキ、模範的なのはシフかな。グールドは嫌いでしょ?」とベラベラ喋ると、案の定「キモい」と言われた。気を取り直してディナースタインの『ベルリン・コンサート』を聴かせると、「悪くはない」。左手が好みでない、とも言う。続いてアンデルジェフスキを聴かせると、「装飾しすぎ」で、「音が違う。楽譜はなんの版なの?」と聴いてきた。オタクにそんなことは分かる由もない。「散々聴いているのに音の違いも分からないの?違和感ないわけ?これだから弾けもしないオタクは…」と文句を言いはべる。オタク男は黙って耐えるのみである。シフはPCに埋もれているはず、と言うと、「聴いたからいい」と言う。じゃあ何がいいんだ、と嫁に問うと、



「シフの最近の演奏が凄いのよ」



と言う。はっきり言って、私の方が彼女より10倍は普段から寸暇を惜しんでピアノ曲を聴いているはずだ。正直、今更シフ?と思った。しかもその上、youtubeに上がっているコンサートだという。悪いけどシフはもうおじいちゃんだし、ライヴに期待なんてできるんかいな、と反論しつつとりあえず言われるがままに観てみた。


これが凄かった。


ディナースタインと比べるとちょっと味付けは物足りない感じはするけど、(私の考える)正攻法でまっとうな感じのバッハを弾いてる。どの声部もきちんと丁寧で、特に左手の雄弁さがいい。派手さはないが、しみじみと曲の良さが伝わってくるタイプの演奏だ。何より、映像を見ると完全に脱力しきった運指が凄まじい。今はほとんど弾けない私だが、かつてピアノを嗜んだ者の一人として、この凄さくらいは幾らなんでも分かる。なんだか悔しいので、私の好きなガヴォットは出だしのテンポがノロめで溌剌さがない、と粗探しをしたら、「徐々に速まるし、前楽章との一貫性よ!」と言う。グールドは楽章だけでなく、一曲を通してテンポ、彼の言うパルスを統一してだねえ、と言いかけて止めた


さて、嫁は最近有名なピアノ講師のレクチャーに通い始め、その先生の言葉通りにシフが弾いていたことに感銘を受けたのだと言う。具体的に言うと、映像の7:15辺り、左手で音階を下りていく箇所でわざわざ指を入れ替えて弾いている。「4の指が適切な音色を表現するのに適した指なのです」とその講師は言ったという。まさにシフがそのように弾いていたので、「あの先生の言うことは間違っていない。凄い人なんじゃないか」と思ったとのことなのだ。本当にスゴいピアニストは、アンタみたいなオタクがつまらないという地味な緩徐楽章での歌い方、音色の磨き方に全てを賭けるのよ、みたいなことを嫁は言った。「若い頃のシフの演奏はダメ。指も回りすぎだし、派手で丁寧さや奥深さに欠ける」とものたまった。なるほどな、と思った。その観点からすると、確かにシフのこの演奏は(8年近く前のものだが)素晴らしい。次がその演奏である。





こんな風にごくごくたまーーーーーーに結婚してよかったな、ということが年に数回だけある。読者の皆さんとも感動が共有できたらと思う。陳腐なセリフで恐縮だが、齢を重ねた円熟の境地にあるシフのこの演奏、是非ご覧頂きたい。
スポンサーサイト
ページトップへ  トラックバック0 コメント0
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
TB*URL
<< 2018/08 >>
S M T W T F S
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -


余白 Copyright © 2005 The melody at night, with you. all rights reserved.