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音楽好きの世迷い言
The melody at night, with you
ローラン・ビネ 高橋啓訳 『HHhH プラハ、1942年』
2018-02-04-Sun  CATEGORY: 読書
私にとって、日常生活で最も贅沢な時間の使い方は、映画を観ることである。


映画館は元より、家でDVDを観るにしても、2時間という途方もなく長い時間を、一度の中断もすることなく映画のみに没頭するというのは子どもが生まれて家庭がある現在、どう考えても不可能に近い。実際、ブラックな職場で働いていたここ数年は家でも外でも映画を観た記憶が無い。学生時代はTSUTAYAで借りてきて年に100本くらい観ていたが、これに音楽も加わっていたのでまあ廃人同然だった。

次に贅沢なのは本を読むことだ。特に仕事に関係のない長編小説を読むのは中断しても映画ほどのダメージはないものの、物語の臨場感を保ちつつ内容の忘却を避けるためにも読み切るまでに間をあけたくない。空き時間があるとどうしても音楽、特にレコードを聴くのを優先してしまう。そのため読書もここのところ出来ていなかったが、転職して時間が出来たので最近ようやく再開できた。超絶ミーハーな私は、ノーベル賞を受賞したカズオ・イシグロの『日の名残り』『私を離さないで』を続けざまに読んだ。『日の名残り』はアンソニー・ホプキンス主演の映画を観た記憶があったが、完全に内容を忘れていた。『私を離さないで』は、2016年にTBSでドラマ化されていたのを嫁が観ており、私はドラマを一切見ないのだがその時は「気持ち悪い話だな」と思った記憶がある。両作ともしみじみとした人生の哀しみを感じつつ深く感動することができた。

そんなわけで、読書の時間ができたのをいいことに、もっぱら古本ばかりをブックオフに通って買っている。昨日奇跡の夕方出勤(むしろ休ませろという話)があったので、1日で読んでしまって感激したのがこちらの作品。

HHhH

本屋大賞作品なら外れがないと思い、ミーハーな私は買ってみた(1560円で定価より1000円安かった)。帯から内容を引用しよう。


「ユダヤ人大量虐殺の首謀者、金髪の野獣ハイドリヒ
彼を暗殺すべく、二人の青年はプラハに潜入した。」


・・・恥ずかしながら、実は私は世界史未履修世代の1人である。私の出身高校では社会で必修のはずの世界史を理系では履修せず、未履修のまま卒業したのだ。この問題が発覚した当時、母校のHPで「世界史は適切に履修しています云々」と記載があり、8年ほど前に卒業した我々への謝罪は一切なかった。酷い話だ。兎も角、世界史は池上さんの本で読んだくらいしか知識の無い私は、これが史実であるとは途中まで知らず、「なんだか変な書き方だな」と違和感を覚えながら読み進めた。この小説がほんとうに変わっているのは、訳者の解説から引用すれば「小説を書く小説」だということである。作者は徹底的な時代考証を行い、資料を集め、その上で史実を土台にした一切の創作を可能な限り排除しようとする。登場人物の会話も「これは想像」と書き添える徹底ぶりだ。このノンフィクションを書き上げる過程を、作者の一人称で、時に自分の父親やガールフレンドも交えながら語り続ける。創作を交えた他の作品を容赦なくこき下ろしている箇所もある。極めて大雑把に言えば、執筆のありようがつらつらと書かれているブログを読んでいるような、不思議な雰囲気の作品である。過去と現在の織り交ぜ方が巧みで、構成は大胆かつ劇的、暗殺を狙う襲撃へ物語は収束していく。その反面、作者の独り言も多く、私にはまどろっこしく感じる。正直、3割以上削った方が引き締まった作品になったのでは、とも思う。


それでも読み終えて感激したのは、やはりこれが史実だということである。わずか80年程前の、人間世界の途方もない凄惨さには目を覆いたくなる。ナチスについては、(これもベタだが)V・フランクルの『夜と霧』『死と愛』及び周辺作を読んで人並みに知ってはいるつもりであったが、ひとつの具体的な史実を多角度から深く掘り下げて読んだのは初めてだったのでただただ衝撃であった。ハイドリヒ襲撃で母国のために殉じようとした青年たちの物語は平和ボケしている私の心を強く打った(ちなみに私はこのブログではノンポリを貫きたいと思っている。勿論、政治信条は強く持っているが)。


史実に忠実と書いたが、読後にウィキペディアで調べたところ、この本に書かれているのと違う記述がいくつかあった。ネタバレを避けるため白文字で以下に書く(PCでは逆に目立ってしまうのでご注意)。


・最後の教会での立てこもりの戦闘は8時間と本に書いてあるが、ウィキには2時間とある。

・本では「最後の弾をおそらく自害のために使った」と書かれていたが、ウィキでは服毒したとある。なお、ガブチークの遺体写真の顔には傷がない。



・・・まあウィキペディアの方を信用するのはどうかと思うが、ちょっと気になったので書いてみた。最後に完全な蛇足だが、憶測によって事実を置き換える瞬間への恐ろしいまでの執着、細部への極めて強烈なコダワリ(むしろ作者はそれを強調する)に、最近の私は作者の発達障害を疑ってしまう。うちの子もなにか好きなものを極めてほしいものだ。
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