音楽好きの世迷い言
The melody at night, with you
一瞬の煌めき~Keith Crossが残した2作品~
2017-06-17-Sat  CATEGORY: ロック・ポピュラー音盤紹介
私は学生時代からプログレを細々と断続的に聴き続けているのだが、ここ数年は特にフォーク寄りの作品も聴くようになった。今回はその中で無人島行きスーツケースへ新たに収めることとなった1枚をご紹介する。


T.2. 『IT'LL ALL WORK OUT OF BOOMLAND』


1970年、イギリスのDeccaから出たハードロックバンド、T.2.のデビュー盤である(再発SHM-CDではT.2と表記されているが、ここではジャケに忠実にT.2.と表記する)。


ブリティッシュ・プログレ・ハードの系列に連なるこのアルバムは、サイケとブルースを基調にしつつも、暗く陰りのあるいかにも英国然としたハード・ロックを聴かせてくれる1枚だ。アンダーグラウンドの匂い立つような(良い意味で)B級感のあふれる内容となっている。メンバーはトリオ編成で、リーダーでドラムとリード・ヴォーカルのピーター・ダントン、ベースとコーラスのバーナード・ジンクス、そしてギター、キーボードにコーラスのキース・クロスだ。


1曲目「IN CIRCLES」、出だしからキース・クロスの不愛想なリフに乗せた歪んだギターの音色が全開で、思わず身を乗り出す。当時の写真を見ると、P-90をマウントしたレスポールを使っているのだろうか、独特の抜けが良くも太い音色がたまらなく魅力的。曲はダントンの筆によると思われるが、地下的ブリティッシュ・ハードロックでありながら随所にプログレ的な展開を見せる。トリオ編成でも薄くならない音響のアレンジに加え、執拗な反復、静と動の対比が見事だ。ダントンのドラムも手数が多めでなかなか演奏力がある。


クロスのギターはクリームなどの影響を見せつつ、よく言えばシンプル、悪く言えばやや単純稚拙なフレージングもあるものの、演奏は実に堂々としたものだ。トレモロピッキングによるハーモナイズド・チョーキングや、ブルージー過ぎないフレーズは個人的にかなりのツボである。勢いと指に任せた速弾きも悪くない。ネット上の情報を信じるなら、なんとこの時17歳。当時教則本も少なかったであろう中で、ディミニッシュを駆け上がるリフ、フィードバック奏法によるノイズやクリーントーンでのカッティングなどなど、時折洗練された音使いを聴かせる。重ねて書くが、ギターの歪みのセンスが良い!彼はメロトロンも担当しているようだから、クラシックピアノの素養があるのかもしれない(ポッと出の17歳がこれだけのギターに加えてキーボードまで弾けるというのはそれくらいしか思いつかない)。


この後、T.2.は解散。90年代に入って評価の高まりを受けてクロス抜きで再結成する。音源を出すが、不参加のキース・クロスの動向は杳として知れない。




彼は何者なんだろうか。




ティーンながら抜群のギターを奏でる彼は、T.2.解散後の1972年に1枚のアルバムを同じくDeccaから出す。そこではT.2.で聴かせたハードなギターとはまるで違う、別人のように老成されたプログレッシヴ・フォークを聴かせるのだ。そしてこのアルバムこそが、私にとって無人島行きの新たな1枚である。


Keith Cross & Peter Ross 『Bored Civilians』


keithcross


寒々とした街角を歩く2人の男を写したジャケットが郷愁を誘うが、それにたがわぬ、そしてそれ以上に洗練されたプログレッシヴ・フォークの傑作である。


キース・クロスの相棒はSSWのピーター・ロス。彼の曲はボブ・ディランの影響を感じさせ、アメリカ音楽的な「キャッチーさ」を内包しつつも厳然たるブリティッシュ・フォークとして踏みとどまっているのは、やはりキースの深い思索を感じる作曲センスによるだろう。

1曲目、ロスの「THE LAST OCEAN RIDER」、美しいアコギのストロークで幕を上げる。エモーショナルなヴォーカルが曲を進めるが、バンドが入ってくると単なるフォークソングではない姿を見せる。エレキギターのブルージーな挨拶代わりの短いソロを挟んで、アコギのアルペジオに導かれるように程良い疾走感のフォーク・ロックが始まるのだ。重ねられるギターがどこまでも美しい。2曲目、アルバムタイトルのクロスによる「BORED CIVILIANS」。ジャケットそのままの、寂しげなアコースティックの音色。3曲目はサンディ・デニーも書いたフォザリンゲイ「PEACE TO THE END」、なぜかこれがEPとしてシングルカットされているようだ。ポップで作品の中ではやや浮いている感もあるが、豊かな彩りを加えているとも言える。2人のヴォーカルは判別しかねるが(ネット上によるとクリーンで透明感のある方がキース・クロスらしい)、どちらもなかなか上手く味わい深い。

前半のハイライトは4曲目、クロスの「STORY TO A FRIEND」。コンガなどのパーカッションも交えつつ、後ろに重心の乗った軽快なビートでロスがハスキーでソウルフルに歌い上げたなら、それはもはやブラック・フィーリングすら感じさせる。T.2.でも聴かれた静と動の対比はここでも巧みで、気が付くとCaravanのジミー・ヘイスティングスのフルートと心地よいシンセに手を引かれながら駆け出していくさまは、カンタベリー・ミュージックの最良のエッセンスが抽出されているとも言えるだろう。これは最もプログレッシヴな1曲。5曲目のロス「LOVING YOU TAKES SO LONG」はそのまま現代のUKチャートを駆け上がりそうな(そして米国的歌メロを備えた)名曲。ロスはこれを切なく切なく歌い上げる。45年前とは思えない、古さを微塵も感じさせない曲の完成度だ。6曲目のクロス「PASTELS」はフォーキーで幾重にも重なったコーラスが美しい。ビートルズ的なエヴァーグリーン感にすら溢れている。アコギのアルペジオもT.2.からは想像も付かないsensibleなもの。7曲目、ロスの「THE DEAD SALUTE」は、どこかカントリーな雰囲気が漂う明るい曲。8曲目、クロスの「BO RADLEY」は美しいピアノの伴奏が印象的なバラード。胸が熱くなる。


ラストの共作「FLY HOME」はこれがフォークアルバムだということを今一度思い出させてくれるギターのストロークで始まり、2人のヴォーカルは抒情的なメロディを紡いでいく。やがてストリングスが加わり、霧がかった明け方の街をそっと去っていくような、そんな静かな美しさに満ちている。再発CDのボーナストラック2曲は、これまたかぶと虫的なUKソング。その高すぎるクオリティに不勉強な私は「誰かのヒット曲のカバーなのか??」とすら思ってしまう。こちらは韓国盤も出ているようだ(BIG PINKなど韓国はフォーク再発にアツい)。


多彩なゲストも光っており、ベースはNick Lowe、エルトン・ジョンのバンドやプロコル・ハルムにも参加したDee Murray。ドラムはSteve ChapmanかTony Carr。Sid Gardnerはベースとキーボード、Jenny Masonはコーラス。Lea Nicholsonはマイク・オールドフィールドもその作品に参加しているヴォーカリスト。ナザレスにも在籍したBilly Rankinはギターでの参加のようだが、当時13歳??しかもチェロを学んでいたというから、ストリングスでの参加が彼か。Tony Sharpはオックスフォード大でも教鞭を取ったオルガニスト??Andy SneddonはEast of Edenにも参加したベーシスト。Chirissie Stewartはベーシスト(やたらベースが多いな)。Brian Coleは1972年に亡くなったアメリカ人ベーシストと出てくるので不明。プロデュースはPeter Sames、60年代半ばからプロデューサーとして活躍した人らしい。アレンジと指揮はTony Sharpが担当しているとある。Googleで調べただけなので、詳細をご存じの方はご教示頂けると幸いだ。


2枚に共通しているのは、Deccaだからなのか録音が良いということだ。どちらもアナログで聴きたい音質である。しかし、2枚ともアナログは高い。恐ろしく高い。特に、「Bored~」の方は「幻の名盤叢書」でも2つ星のレア盤であり、状態良好のものはDiscogsで€800以上からというありさまだ。ごく最近ebayでユニオンにあるものより状態の良いの盤が出たが、やはり手が出せない価格までアッという間に昇ってしまった。


17歳でのT.2.、そして多彩なゲストの中でも19歳ながら老練たる作曲センスを見せつけたこの「Bored Civilians」。Keith Cross、1953年生まれだという彼は、存命ならば今どこで何をしているのだろう?これらの傑作を世に出した後、彼はどうしていたのだろう?

10代の終わりに眩いばかりの煌めきを放つ2枚のアルバムを残して、彼は歴史の狭間に埋もれてしまった。
スポンサーサイト
ページトップへ  トラックバック0 コメント0
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
TB*URL
<< 2017/08 >>
S M T W T F S
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -


余白 Copyright © 2005 The melody at night, with you. all rights reserved.