音楽好きの世迷い言
The melody at night, with you
透明な魂の音楽〜Nick Drake『Pink Moon』〜
2017-05-07-Sun  CATEGORY: コラム
この4月で転職した。




それまでは時折TVを賑わすデカいだけの某組織にいたのだが、所属長から(私を含む十数人が)4年間に渡るパワハラを受け、闘い、そして私は退職した。




以前書いたように、酷いときで週に100時間働き、頭には10円ハゲが出来、心療内科に通い、家庭は崩壊寸前だった。始発で行って終電で帰った。土日も自宅で仕事をこなした。私の両隣りの人間が3ヶ月に渡って来なくなったこともあった(うち1人は1年経った今も戻れていない)。そのような気の狂った上司というものがこの世には存在するのだ。こう見えても私は、出世や名誉のためでなくささやかな気遣いと労いとを欲しながら仕事に誇りをもって働く類いの人間であった。パワハラ吹きすさぶ1年半ほど前、請われて大きなプロジェクトに関わっていたのだが、完遂した直後にその狂った悪魔の所業で魂に一撃を受けた。それは「心ない仕打ち」程度ではおよそ済まされない次元のものだった。これまでのパワハラを遥かに通り越し、常識では考えられない言動であった。そして未だに癒えることのない傷を私は心に負うことになった。



しかしながら、私は諦めの悪い男だった。



自分で言うのもなんだが、ロックンロールな破壊衝動任侠的犠牲精神とを備えていた私は、唾棄すべき権力者に対しみじめなまでに抗った。嫁を説得し、退職して告発すると心に誓い、転職活動と並行して知りうる限りのパワハラの証拠をかき集め、迫害されている同僚を見て観ぬフリの連中を説き伏せた。徐々に仲間を増やし、最終的には実名匿名合わせて10名以上が告発に協力してくれた。私だけでなく複数の人間がICレコーダーで録音した暴言を携え、自分ともう1人が代表して上層部に告発した。そこまでしてようやく、ほぼ毎日TVに顔を出している某氏も介入する事案となり、渋々上層部は重い腰を上げて動き始めた。



けれども、たった2度の事情聴取と、実名で名乗り出て告発した私ともう一人以外の証人を呼ばないというおざなりな調査の末、結局懲戒処分はなく驚愕の文書による“厳重注意”に留まった。本来ならば犯罪レベルのパワハラであり、新聞の紙面を飾っていいはずの出来事だが、当事者にお咎めはなかったのだ。こうして書いているだけで、キーボードを打つ手が怒りで震え、血圧が上昇するのがわかる。重ねて書くが私は諦めの悪い人間である。退職した今も職場の外から闘い続けている。知り合いの伝手を頼って、連休明けには某大手マスコミ関係者と会う予定だ。



今は(これまた)大きい某組織に運良く拾ってもらい、お陰さまで権力におもねることなく働くことが出来ている。期せずしてアカデミックな世界に戻ってきたので、これからは(mustではないが)研究成果も期待されるためプレッシャーはある。このように書くとご大層な人間と思われるかもしれないが、そんなことはない。採用面接では「学部時代の成績が素晴らしいですね(専門科目がオールC)」と皮肉を言われ、さらに「修論は指導教官が書いてくれました」と正直に話したが採用された。なんとも懐の深い組織だと思った。



さて、私の身の上話はこれくらいにして、そんな絶望のどん底にあった自分を支えてくれた音楽について書きたい。



pink_moon

ニック・ドレイク 『ピンク・ムーン』、生前わずか3枚のアルバムを残して26歳でこの世を去ったイギリス人天才シンガーソングライターの最後の一葉である。重度のうつ病のさなかにレコーディングされ、抗鬱剤の過剰摂取で死んだ彼の遺作であることも手伝ってか「アシッド・フォーク」と形容されることが多い(余談だが私はComusのようなバンドこそがAcid Folkだと思っている)。不可思議なイラストのジャケットもたぶんに影響しているだろう。けれども、私にはそのような禍々しい形容に属するような雰囲気をこの作品からは感じない。むしろ、どこまでも透明な魂をむき出しにした1人の青年の痛切な叫びが聴き取れるだけだ。そしてそれは、どこまでも儚く孤独で美しい。


退職金という名の泡銭が出たら、どんなに高くても彼のオリジナル盤を買うと決めていた。それは彼の透明な魂に少しでも近付きたいという、半ば信仰に近い気持ちだった。超極上の1stがユニオン渋谷からヤフオクに超高額で長いこと(3ヶ月位)出品されていてずっと狙っていたが、なんと金の入る1週間前に売れてしまった。GWには、この『ピンク・ムーン』の美盤が出るというので、ユニオン新宿レコードストアのUK廃盤セールに朝から並んだが、私が飛び付いたエサ箱の隣りの御仁に目の前でさらわれた。諦めきれず「検盤してキャンセルされるなら譲ってください」とお声をかけたが、勿論声がかかることはなかった。


それでも諦めの悪い私は、ネット上を探し回った挙げ句、学生時代に1度だけ入ったことのある高めの値付けの某レコ屋でついに購入した。ジャケットはそこそこの状態だが、盤質は一目見ただけで震えが来るような美しいコンディションとわかった。一応試聴してすぐ買うことに決めた。おまけにユニオンで逃した盤の6割弱の価格で買うことが出来、「これが俺の人生だ」などと一人うそぶいた。うちの子を連れて行ったが、店主からアーモンドを1袋貰ってぽりぽり食べてご満悦、カビ臭く狭い店内でyoutubeを見ながら良い子にして待っていた。まさに将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、である。これからこの店で散在することになりそうだ。


pink_rim


UKオリジナルは俗に‘ピンク・リム’アイランド・ラベルと呼ばれる盤で、MATはA-1U/B-1U。自宅でも聴いてみたが、CDとは驚くほど違う。ニックの、ささやくようなヴォーカルがさらに柔らかい。人によっては地味だと言う人がいるかもしれないが、このオリジナル盤を聴くとCDのほうはマスタリングで人工的に声を強調しているように感じてしまう。きらめくようなギターのアルペジオの音色も素晴らしい。ふわっとした空気感が実に心地よい。プチノイズやチリつく箇所は皆無ではないが、盤質にも文句なし。30分に満たないレコードに数万円を出すのは常軌を逸しているに違いないが、紆余曲折を経て良い買い物が出来たと思っている(読者諸兄は絶対にこんなことなされませんように)。



ところで、私が今勤めている職場では個人研究費が出る。



それでこのレコード代が落とせないかと一応領収書を貰ったのだが、研究費執行手順書を確認すると「CD・レコード購入のための支出は基本的に認められない」と書かれてあった。同じことを考える人間が居たのだなと思いつつ、自分を恥じたのであった。
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