音楽好きの世迷い言
The melody at night, with you
Kurt Rosenwinkel 『Caipi』
2017-02-25-Sat  CATEGORY: ギター作品
ジャズギターは私の準専門分野(??)だ。



語るとピアノ並みかそれ以上に長くなるのでこれまでブログに書くのを控えてきたが、そろそろガマンできなくなって来たのでいよいよ書く。


現代ジャズギター界の皇帝こと、カート・ローゼンウィンケルのニューアルバム、『Caipi』である。





フィジカルCDの発売日は昨日だったが、先行発売のハイレゾに手を出して聴き込んでいた(危うくハイレゾに気付かずCDを買うところだった)。家ではMac+Audirvana or VLCで鳴らし、通勤ではハイレゾのポータブル再生機を持っていないのでスマホとハイレゾ対応のイヤホンで聴いた。しかし、こないだの記事ではないが、ネット購入はなんとも味気ない。。。


カートの作品について、リーダー作は全部愛聴してきたし、彼の楽曲集のスコアを買ってにわか研究したこともある(生半可に奏法分析などをするとジャズギターマニアの方に怒られるのでやらない(苦笑))。彼の『Remedy』というヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ盤は私の無人島行きスーツケースに収められる最高に好きな作品だ(いつかこの盤についても書きたい)。


カートのリーダー作は2012年の『Star of Jupiter』以来、5年ぶりである。この前作『スター・オブ・ジュピター』は今をときめく凄腕ミュージシャンによる超コンテンポラリーなジャズカルテット。特にリードトラック『Gamma Band』では、もはやジャズでもロックでもプログレでもない、近未来の音楽セッションという感じの曲。ギターはリングモジュレーターを同時に鳴らしたかのような不可思議で宇宙的なサウンドで、強烈なコード進行の上を縦横無尽に未だかつて聴いたことのないソロをカートは弾きまくる。若き天才ピアニストとの誉れ高いアーロン・パークスも、ここでのソロは流石に苦しそうである(ちなみに私は同じアーロンでもゴールドバーグの方が好きだ)。



さて、話を『Caipi』に戻す。これはカート自らほとんどすべての楽器を演奏し、10年の歳月をかけて完成させたという驚きの作品である。いわゆる普通のコンテンポラリー・ジャズを期待すると肩すかしを喰う。ネット上ではライナーノーツの翻訳が読める。全曲のレビューを書きたかったのだが、こんなに立派な文章があるので書くのを止めた。しかし、ちょっとだけ語るなら、これほどまでに鮮やかな色彩を感じる音楽は初めてだ。このアルバムの美しいジャケットそのままの、実にカラフルなサウンドに満ちている。ジャズとボサノヴァを基調として、ブラジル音楽、ブルース、ソウルを織り交ぜ、さらにはテクノやポストロック、音響系への漸近までもが見てとれる(ライナーでエイフェックス・ツインが何度も引用されてるのにはビックリ)。何より驚くのは、歌入りだということだ(正しくは「声入り」かもしれないが)。声入りと言っても、ポップソングのようなAメロBメロサビの繰り返しとは違う。メロディは今までのカートの曲のテーマ調ではあるが、より取っ付きやすくそして美しい。曲によっては不可逆的な進行を見せ、プログレ的でさえある。


カートの略歴はこちらが詳しい(なぜかファーストアルバム『East Coast Love Affair』や2nd『Intuit』発売の経緯が書かれていないのが怪しいけれど)。これを読むと、カートが実は相当な宅録オタクだったことがわかるが、このアルバムはまさにそんな彼の本質が全面に出ている。彼の演奏するベースやドラム、そして以前から聴けていたピアノも上手く(当たり前と言えば当たり前だが、そのグルーヴは面白いことにギターの時とほとんど同じ!!)、多彩なゲストの起用も当たっている(目玉のはずのクラプトンの演奏だけは「?!?」と思わざるを得ない笑)。マーク・ターナーは相変わらずマーク・ターナーだし(J・レッドマンのように自己主張が強いわけでなく、C・ポッターのように先鋭的でもなく、M・ストリックランドやE・アレキサンダーのようにストレート・アヘッドでもない。要するに丁度良い)、「voice」担当のペドロ・マルティンズは、元パット・メセニー・グループのペドロ・アズナールかリチャード・ボナのようだ。声を楽器のようにジャズに用いるミュージシャンと言えばメセニーがいるわけだが、数百年後のクラシックとなりうるポピュラリティを備えつつ壮大で映画音楽的でさえあるメセニーに比べ、カートは自己の先鋭的な音楽性そのままに現代の音楽シーンに切り込んでいる気がする。それを理解する(できる)リスナーの醸成に時代の変遷を感じるのは私だけだろうか。


眼前に立ちはだかるようなコンプの効いたスネアやバスドラの音、ややラウドなベース(嫁は「床が揺れる」と)、(クラプトンに限らず)時折埋もれがちになるエフェクトかかりまくりのギター、細部までこだわったアレンジのシンセの入れ方など、宅録的に煮詰めまくった音楽である。はっきり言ってジャズの伝統的なフォーマットとは全く違うし、「ラテンジャズ」のコーナーに置くのが正しい分類だろう。手を入れ込み過ぎと感じる向きもあるに違いない。今までの彼のような、脱バップ・非ロックなジャズギターを期待していたギター小僧はガッカリするかもしれないが、私は本当に素晴らしい作品だと思う。ここには私の好きなジャンルが目一杯詰まっている。まさに、カートの新たな代表作と呼ぶに相応しい必聴の名盤である。ハイレゾはキメ細かすぎて聴き疲れするので、別ミックスによるマイルドなアナログレコードで出して欲しいが、まあ不可能だろう。


カートはこの4月に来日公演を行う。早速私はチケットを予約した。彼の実演は2010年と2011年にどちらも新宿ピットインで観た。2010年の公演では、演奏終了後にドラムのロドニー・グリーンが客席を歩いてきてある男性客の前で立ち止まり、周囲は何事かと思っていると、客の胸ポケットからICレコーダーを取り出し「これは何だ!」と怒鳴ったことを思い出す(笑)



ともあれ、現代ジャズギターの皇帝が、実は宅録オタクだったというのは私にとって嬉しすぎる驚きである。けれども最も驚くべきは、この作品の制作に「10年かかった」ということだ。これが10年前に彼の頭の中で鳴っていた音楽ならば、今の彼にはどんな音楽が聴こえているのだろう?

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