音楽好きの世迷い言
The melody at night, with you
the Anthony Wilson trio 『our gang』 音源聴き比べ
2016-02-20-Sat  CATEGORY: 音源聴き比べ
本日は私の最も好きなジャズギタリストの1人である、アンソニー・ウィルソンのリーダー作品を音源聴き比べとともにご紹介。

the Anthony Wilson trio / our gang


Anthony2

1. Our Gang
2. Chitlins Con Carne
3. Britta's Blues
4. Time Flies
5. Road Trip
6. Luck Be A Lady
7. I Want You (She's So Heavy)
8. Prelude To A Kiss

Anthony Wison:Guitar
Joe Bagg:Hammond B-3
Mark Ferber:Drums
(2000年録音)

彼に興味を持ったのは、ダイアナ・クラールの名盤ライヴ『Live in Paris 』を聴いて、1曲目の「I Love Being Here With You」の知的で練られたソロ、そして7曲目の「Devil May Care」での、絶妙なグルーヴに乗せた信じられないほどドラマチックな名演(勿論耳コピした)に、雷に打たれたような衝撃を受けたからでした(Amazonのレビューを見ると皆さん同じ感想を抱かれてるようです)。私は知りませんでしたが、ジェラルド・ウィルソンというジャズ・オーケストラの生き字引(だった)アーティストの息子だそうです。どおりでトリオ作品の他はビックバンドものが多いと思いました。

ところで、以前ダイアナ・クラールのサポートギタリストは超絶技巧のラッセル・マローンが務めていました。ウェス・モンゴメリーとジョージ・ベンソンを足して2で割ったようなマローンも私は好きですが、アンソニー・ウィルソンを聴いてからというもの、彼の知的でsensitiveなソロと、そして何より素晴らしいギタートーンに完全にやられてしまいました。

Anthony1

ジャズギター・ファン垂涎のナチュラルフィニッシュの1958年製Gibson Byrdland(あのコンディションでフルオリジナルなら200万以上??)で紡ぎだされるそのトーンは、音の輪郭が明晰でありながら尖ったところが全くなく、時にはクラシックギターのナイロン弦を思わせるような美しい透明感としなやかな弦の弾力を帯びた驚異的な音色です。往年のジャズギターレジェンド、例えばケニー・バレルなどの音色は、私にはナチュラルすぎて「カシカシペシペシ」と乾いて聴こえて苦手なのですが、ウィルソンの音はどこまでも柔らかく陰影に富んで深みがあり、熟成された極上の赤ワインを思わせます(現在、彼はメインギターを超高級ギターのモンテレオーネに替えているようです。後述する『Savivity』の時点で、録音で使用しているとのこと)。


さてこのアルバム。正直なところを言うと、この後同じメンバーで2005年に出した『Savivity』のほうがトリオとして成熟し、各々のソロの出来も良いかもしれません(THE DIGのジャズギター・ディスクガイドでもギタリスト兼ライターの山中氏によって『Savivity』の方が取り上げられている)。しかしながら私は、オープニングを飾るウィルソンのオリジナル「Our Gang」の、まさに「魂を撫で回す」かのようなギターを聴くだけでも十分にこのアルバムの価値があると思います。曲のテーマ自体は、(ド忘れしましたが)ジャレットが演ってるスタンダードとケーデンス部分が似てて「どっかで聴いた感」があるのですが、それにしても取っ付きやすく美しいメロディ。ソロでは派手な速弾きに走ることなく、知的かつ洗練された音使いで熟成されたギタートーンをこれでもかと聴かせます。


それにしても、ため息が出るほど本当に美しいトーン...!


先ほど引き合いに出したバレル作のギタースタンダードである2曲目「チトリンズ・コン・カルネ」は重心が後ろに乗ったリズム感が聴きもの。バレルの名演との聴き比べも楽しい。3、4曲目はウィルソンのオリジナル。「Britta's Blues」は美しいバラード。ブルージーなフレーズも泥臭くなく洗練されているのが特徴。「Time Flies」はスピーディでドラムの妙技が目立つ。ウィルソンは音数を増やしながらも、構成の巧みさを保ったソロ。5曲目「Road Trip」はオルガンのジョー・バグの曲。印象的な転調と取っ付きやすいテーマが非凡な作曲センスを感じさせます。ギターの音色とオルガンの響きのなんと見事に合うことか。。シナトラで有名な6曲目「Luck Be A Lady」は実に控えめなギターの独奏から始まりますが、リズミカルなテーマに入ると一転、明るいノリに変貌。ソロは伸びやかで音の跳躍が多く、さらにはオルガンソロの時のギターのバッキングが実にオイシイ。7曲目、意表を突いたビートルズ「I Want You (She's So Heavy)」は気だるくブルージーなアレンジ。3分過ぎからの曲調が変わるところはドラムのエイトっぽいビートで弾きまくる感じ。オルガンはハーモニックマイナー系を織り交ぜてるのかエキゾチックなフレーズを連発。10分近い演奏でけっこう満腹...。ラストのスタンダード「Prelude To A Kiss」は繊細なフレーズを連発。オルガンとドラムをよく聴きながら抑えたプレイ。少し物足りない余韻を残してアルバムは終わります。一聴すると地味ですが、聴くたびに味わい深さに気付かされる渋ーい1枚。


ウィルソンのギタープレイの特徴はロックやブルース、ボサノヴァなどの様々なジャンルを内包し、ジャズを基調としながらもトータルな音楽性として聴かせるところにあると思います。それぞれの色が目立つことなく調和を感じさせる演奏と言ったらよいでしょうか。例えば、彼の他のトリオ作品に『JACK OF HEARTS』というアルバムの中の6曲目に「VIDA PERDIDA ACABOU」という曲があるのですが、なんというかポップでカントリーちっくなアルペジオをテーマに据えつつもなぜだか不思議とジャジーに進んでいき、アブストラクトな短いオブリを挟んで実に心地良く曲が閉じられます。是非聴いてみて頂きたい1曲です。彼の奏でる音楽には、ジャズを幹としつつもあらゆるジャンルを枝葉として伸びる一本の木のような、豊かな音楽性と統一感とがあるのです。「分かりにくい」とか「渋すぎる」と感じる人がいても当然ですが、私はたまらなく好きです。そんな彼を支えるメンバーの演奏も秀逸。オルガンのジョー・バグは自分の役所をわかっているというか、出すぎず出なさすぎずトリオとしての音の厚みも考えたプレイ。良いオルガニストだと思います。ドラムのマーク・フェーバーと組んでリーダー作を出しているようなので、今度聴いてみたい。



さて、それでは音源聴き比べに参りましょう。


① 輸入盤CD(GRV1008-2)
始めに聴いた彼のリーダー作がコレだった。一発で極上の音色と曲の良さにやられたのは上に書いたが、そもそもの録音も良い!ややギターが小さいかなとも思うが、オルガンの音が実によく録られていてジョー・バグのセンスの良いソロが堪能できる。このGroove Noteというレーベルは音質にこだわってるらしく、律儀に録音マイクなどの機材までもクレジットされており、CDでも十分に満足できる音質である。

② ハイブリッドSACD(GRV1008-3)
SACDプレーヤーを購入してからというもの、手持ちの愛聴盤のSACD盤を検索する日々を送っていたところ、この作品がヒットしすぐにポチった。届いてすぐに聴いたが、正直CDを聴いた時との差はそれほど感じなかった(それほど元の録音が良い)。ところが、聴き比べしようとCD→SACDと続けて聴くと全然違う!誰でも判る音の「彫り」の克明さ。SACDと比べると、CDはギターがパサついて高音がうるさく聴こえるようになってしまった。SACDは上にも書いたようにギターの音色が時折「クラシックギターか」と思うほどの透明感と柔らかさ・しなやかさを備え、太くウォームで手の指の動きまで見えるようだ。判別容易なドラムはそもそものリアルさが段違いで、ハモンドオルガンは豊かな音の厚みが全然違う。音の分離も素晴らしい。断然SACDが良い。


③ LP(GRV1008-1)
シリアルナンバーは700番台で、若干後ろのプレスになるのだろうか。針を落とすと出だしの1音からしてCD・SACDとは別物の表現である。デジタルメディアが「各楽器の音のリアルさ」でもって演奏を伝える表現なのに対し、アナログは「音全体の塊りとして演奏を聴かせる」表現である。悪く言えば音の分離が甘いが、ギターが「ギター」、オルガンが「オルガン」として聴こえるのではなく、ひとカタマリの演奏の中での「ギター」あるいは「オルガン」として聴こえる。マスタリングやミックスの違いがあるのかどうかは判らないが、レコードを聴いた後でSACDを聴くと、ややドラムのスネアがうるさく大きすぎるように聴こえる。ちなみに4曲目の「Time Flies」と5曲目「Road Trip」は贅沢な45回転の片面1曲で、さらに音質が良い。上の評価と逆になるが、レコードを聴くとSACDの音の分離の良さは良し悪しかも。レコードは極めて耳馴染みが良く、聴き疲れしない。CDは音のパサ付きが、そしてSACDは音の細部がリアルすぎるため、若干聴き疲れする。それでもトータルとしてSACDの方が良い。


満足度をCDが90点とすると、SACDは98点、LPは95点(Steely Danの時と同じ点数基準ではありません。あくまでこのアルバム限定の話)。SACDはハイブリッド盤であるので、断然こちらを薦めます。アマゾンによると、4月に新譜が出るらしいです。フォーマットはLPとCDとmp3の3つがすでに予約受付として出ていますが、SACDやハイレゾはどうなんだろう・・・出来れば、部屋聴き用のLPと外出時用のmp3の2つで勘弁して欲しいな(苦笑)


そのうち、彼のリーダー作品ディスコグラフィーを書く予定・・・
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