音楽好きの世迷い言
The melody at night, with you
横山幸雄 プレイズ・リスト2013
2015-03-31-Tue  CATEGORY: 音盤紹介
最近妙にリストづいている気もしますが、こちらもリスト。横山幸雄によるリスト集のご紹介です。

yokoyama

ご存じの通り、彼は1989年のブゾーニコンクール第5位、1990年のショパンコンクールで第3位入賞するなど技巧派のピアニストで、個人的には岡田博美氏の後に続くテクニシャンだと思っています。数々のアルバムを録音していてそのすべてを私もフォローしているわけではないのですが、持ち前のメカニカルな強さが発揮されたショパンエチュード、そしてリストの超絶は、名盤数多の同曲の録音群の中にあっても特別な存在感のある2枚ではないでしょうか。他にもショパンのソナタやシャコンヌ、ラ・カンパネラなどが入ったヴィルトゥオーゾ名曲集は面白く聴かせてもらいました。

さて、このアルバム。収録曲はピアノソナタ、森のささやき、小人の踊り、愛の夢第3番、メフィストワルツ第1番と、ビギナーの中学生が選曲したかのような(なんて失礼)プログラムになっています。収録時間が51分と短いのが不満。ダンテソナタやハンガリー狂詩曲の抜粋あたりを入れてくれれば最高だったのに(・・・って、それでは私もベタな中学生)。

まずはソナタから。聴く前は、寸分の狂いも無いテンポと明晰なタッチでカッチリそしてややモタレ気味な音楽性でどっぷり聴かせてくれつつ、技巧の衰えはリスト超絶の時の7割がけ位かなぁと失礼なことを考えていて、そしてそれは大体当たっていたのですが(笑)、岡田氏のデビュー盤であるリスト集を聴いたときも感じたように、ある意味リストの曲としては希有な、唯一無二の演奏表現となっているのです。どうしてもリストと言うと豪華絢爛、轟音響き渡る音の洪水、という印象が聴く方も演奏するほうも先入観としてあるのではないかと思うのですが、このソナタを聴くと、伽藍のような静かな場所で数学の壮麗な理論をとうとうと見せ付けられている、そんな印象があります。リストの饒舌さには不釣り合いな場所ながら、数学のように理性的で論理的な演奏であるために、多くのきらびやかなパッセージを目にしてもそれほど背景との違和感がないのです。

そのように聴かせる要因はやはり揺るぎないテンポ感にあるでしょう。例えば、私がこの曲でいちばん好きな240小節目のnon legatoの右手のアルペジオと半音階を繰り返すところ、それに続く左手の長い半音階の下降も、全く揺るぎなく粒の揃いがカンペキで美しい。。460小節目からのAllegro energicoの箇所も、他の奏者などではテンションが上がっていく一方のところですが、妙に落ち着いてしまっているというか、醒めているわけではないのですが、確固たる技巧を礎にそれこそ数学の証明のように些かの紛れもなく弾き進められていきます(リストの曲を聴いていて数学を感じたのは初めてです笑)。特に左手の雄弁さと粒の揃いが素晴らしく、グイグイと迫ってきます。反面、やはり緩徐部分は陳腐な計算的表現を見せ付けられているというか、あまり心に迫ってきません。音色もそれほど変化を付けないストレートな感じ。また、この曲に限らず全体的に連続オクターヴはいま一歩さらなる迫力が欲しいところ(最近はメーター振り切っている演奏が多いので・・・)。このソナタの演奏は、私が邦人ピアニストとしては最も好きな1人である松本和将氏の演奏が(一部に若干のミスタッチ気味のところがあるものの)わびさびに溢れていて好きなのですが、その松本氏の日本人的な情緒溢れる演奏と対極にある感じです。

2曲目の森のささやきもテンポとタッチが安定しすぎてて、なんというかシュールとさえ言えるメカニック。続いて小人の踊り。これは前述の岡田氏の演奏がマイベストなのですが、さすがにその前では相手が悪いです。もちろん非常に丁寧なのですが、ちょっとテンポが遅め(3分超)で、なんというかアドレナリンが分泌されない演奏。岡田氏の方が突き抜けたように整った精緻さがありましたが、そこまで徹底してない印象です。お次はベタ曲No.1の愛の夢第3番。これは学年トップの優等生が模範演技した感じ。とにかく何から何まで巧すぎて、この曲の演奏でそんな表現をする時点でちょっと違うんではないかと思うほどで、もっとせき込んだり感情の揺さぶりを見せても良かったかなと。こんなラブレターを書いていては成就しないでしょ、という感じ。

トリを飾るメフィストワルツ第1番。これも優等生すぎて面白みに欠けるというか、リストらしい豪奢なところが薄まっている感があります。しかしながら頻出する重音トリル、急速な右手のフレーズの鮮やかさと正確さは私の手持ちの数多い盤の中でも相当上位でしょう。有名な跳躍部分前のクライマックスのところはブチギレてるエコノムやマツーエフ、そして女王ブニアティシヴィリのようなテンションが欲しいところですが、常に余力を残しているというか羽目は外さない感じ。路線としては我らが蒸留水、ルガンスキーに近いでしょうか。跳躍部分もかなり健闘している感じですが、他が鮮やかなだけにここだけ打鍵に明晰さを欠いてしまっているかもしれません。

以上、つらつらと偉そうに述べてしまいましたが、岡田氏の清潔感溢れるリスト集と同様、この横山盤は理知的な演奏表現が聴ける稀なリストアルバムとして高い存在価値があると言えそうです。技巧の衰えも予想では7割がけなどと書きましたが、正直ほとんど感じませんでした。スゴいです。横山氏の実演はチャリティ・コンサートでのラフマニノフのコンチェルト2番の抜粋(だったかな?)にしか触れたことがなく、しかもそのときはミスがかなりあったので、「CDでは相当編集するタイプなのかな」などと思ってました。そんなこともあり、彼のラフ3の録音は敬遠していたのですが、今回のリスト集の、以前のショパン・リストのエチュードとの変わらぬ芸風に尊敬の念さえ覚えたので、ちょっとラフ3も聴いてみようかと思ってきました。
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