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The melody at night, with you

音楽好きの世迷い言

Kristjan Randalu / Absence (Ben Monder, guitar)

やはりライヴにはかなわない、という盤を。


クリスチャン・ランダル / アブセンス

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Kristjan Randalu, piano
Ben Monder, guitar
Markku Ounaskari, drums

エストニア出身、1972年生まれのジャズ・ピアニストによるトリオ作品だ。2017年録音で発売は昨年、レーベルはECMである。


勿論私のお目当てはベン・モンダーで、youtubeで彼の演奏を探してはmp3に落とすという涙ぐましい作業中に発見したのがこのピアニストとの共演ライヴだ。その後、ECMからトリオが発売されると聴き、早速購入、しかし下に述べる事情で書くのをすっかり忘れてしまい、今に至っている。


さて、ともかく内容を手短に述べると、全曲で静謐な音響と北欧的な抒情性が渦巻くジャズ、という印象。ベースレスかつドラムの音像がやや遠めということもあり、どこかクラシック(or現代音楽)の室内楽的な雰囲気も漂う。きちんとした4ビートジャズはほぼ皆無と言ってよく、フリーフォームでひたすらピアノが甘美にギターと絡み合うのだが、そこに狂気や諧謔が一瞬顔を出すのが彼の作品の特徴と言えるだろう。時折ギクッとする転調を挟んだり、単調なアルペジオの繰り返しにも際どいフレーズを織り交ぜたりして、甘ったるくなりがちな作風を引き締めている(5曲目など不気味さだけの曲もある)のは、なんとなくショスタコを思わせる。


肝心のベン・モンダーだが、サイド参加としての役割に徹しており、ディレイを効かせまくりでフィードバック奏法をするなど音響的な色付けのプレイに留まっている感じ。どこをどう切っても、「ECM」の一言で感想が済んでしまうのはやはりマンフレート・アイヒャーがプロデュースのためか(W・ムースピールの近作もそうだったし・・・)。いつものバリバリにファズの効いた歪んだギター(※ 追記:記憶が曖昧だったので調べたが彼が歪み系エフェクトで使用しているのはRATのディストーションだった)でアドリブを弾きまくる箇所は1つもなく、6曲目で先ほど書いたフィードバック奏法でのディストーションが聴けるくらいである。


というわけで、期待して買ったCDなのだが、聴いた後はポトフだと思って食べたのに食塩水だったかのような味気無さ。ブログに書く価値もないと思って放っておいたわけだ。ところが、話はここからである。


youtubeでのライヴが凄まじいのだ。


アルバム3曲目の「Sisu」が、まるで別物に仕上がっている。ギターのアルペジオとタッピングハーモニクスにピアノの内部奏法、ベースの悩まし気なボウイングで実験音楽的に始まる。いかにもこれから何かが起こりそうな緊張感の中でピアノが変拍子的な曲のリフを弾き始めると、一気にスピーディなジャズへ展開(CDではなんとここで終わり(!)であった)。ランダルのピアノは耽美的な美しさと翳りは残しつつも力強いタッチでアウト感満載のフレーズを弾きまくり、そしてそして、モンダーが超ド級に歪ませたファズトーンで切り込んでくる!「そんなに歪ませたら箱モノ使ってる意味ないじゃん」というこちらの心配はどこ吹く風、ベコベコに潰れまくった音でバリバリにスウィープを決めまくる。グルーヴ感や指の回りがアレなところもあるが、ブッ飛んだ音色の潔さとブチ切れて突き抜けてる感が素晴らしい。ピアノとギターが交互にソロを取り合い、最後には再び元の抒情性を取り戻し、曲は静かに終わる。静寂と嵐、美と狂気が色とりどりのステンドグラスのように曲を彩っている。ファズの効いた歪みまくったギターはその狂気を演出するに十二分に相応しいと言えよう。また、やはりベースの存在感は大きい。アルバムの方はドラム入りなのにベースレスなのはランダルの意向なのかもしれないが、上モノとして自在に飛び回るギターの存在を考えるとベースによる「音の引き締め」は不可欠だったろう。長くなったが、このライヴははっきり言ってあざといし、狙い過ぎでやりすぎだと思う。が、私はこういうのが大好きである。アルバムではファズでのソロをアイヒャーが許さなかったとみるのが自然で、これが良くも悪くもECMなんだろう(大好きなレーベルです、念のため)。




・・・この壮絶な演奏を見た後ではアルバムの味気無さは際立つ。金を返せと言いたいレベルである。なお、youtubeでは他に、アルバムに収録されている別曲の「Lumi」も劇的な変貌を遂げて演奏されており、こちらも一見の価値がある。お試し頂きたい。
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