音楽好きの世迷い言
The melody at night, with you
Nick Drake / Five Leaves Left 初版をめぐる一考
2017-08-04-Fri  CATEGORY: ロック・ポピュラー音盤紹介
ニック・ドレイクに心酔しているという事は以前にも書いた。


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この作品の初版(ブラックボールラベル)は絶大な人気があり、アイランド・レーベルでも1969年の9月~12月の間にプレスされ、わずかに2作しか存在しないという激レアラベルである。


しかし実際にはバイヤーの営業努力??により、この「ファイヴ・リーヴズ・レフト」のUKオリジナル盤は結構出回っている。ebayやDiscogsを覗けば10万前後で常時売りに出ており、日本のレコード屋でも年に数点売りに出るレコードだ。例えば、今年の初めにはディスクユニオン新宿中古センターに状態EX程度のものが約10万で売られていたし、ほぼ同様のコンディションの盤がロックレコード館にほぼ同様の値段で売られていた(そちらはなぜか当時の新聞の広告?付きという珍しいものだった)。それらは比較的長く壁を飾っていたが、近ごろの急なアナログブームのせいか1・2カ月して2枚とも立て続けに売れてしまった。ほぼ同じ頃、渋谷中古センターが超美品を15万超という国内で私が知る限り最高額で売りに出し、ヤフオクに並行出品しても案の定長いこと売れなかった。それを私は買おうと思っていたが4月初旬に売れてしまったことは以前書いた。 


これには後日談がある。ヤフオクで売れてから数週間後の4月下旬にジャケ/レコードのコンディション表記が全く同じ盤が新宿HMVレコードショップでGWセールの目玉品として売りに出たのだ。その価格、なんと18万over!それもすぐに売れてしまった。なぜ私が値段を知っているかと言うと、ネット上ではSOLD OUTになっていたのに店舗に行くとまだ「中身はレジ保管」状態でジャケのコピーだけ店に売りに出ており、「お宅のサイトで見ましたがこれはもう売れてるはずですよ」と私が哀しいお節介をしたからだ(ユニオンのセールばかりに気を取られてHMVをチェックしてなかった。迂闊だった)。ユニオンとHMVの盤質一致の偶然の符合、この盤がどうしても欲しかった私は下種の勘繰りをしてしまうが、憶測にすぎないのでこれ以上は書くのをやめる。


さて本題。このレコード、どれが初版の「初期プレス」なのか、議論の余地があるのだ。


まず背景について説明しよう。この盤にはミスプリントがあることが知られている。裏ジャケの、本来4曲目の「Way to Blue」と5曲目「Day is Done」の表記が入れ替わっているのだ。ちなみにDiscogsではここ1年くらいでようやく「Misprint」についての記述が追加された。その後情報は累積し、現在はそれに「Gatefold」「Adv」を加えた3種類のUKオリジナル盤(と思われる盤)が売られている。共通しているのはすべて「ブラックボール」ラベルということだ。初盤とされるラベルについて表にまとめると次のようになる。

ラベル名スリーブヴィニール
テクスチャー×
スムースA (Adv)××
スムースB (Gatefold)×



このスムースラベル「Adv」盤を売りに出していた業者が興味深いことを書いている。


「スリーブの裏側のアイランドのスタンプがグリーンのものは発売前のいわゆるプロモ盤」であり、「スリーブもラベルも両方ミスプリントのものが初版で、ラベルが訂正されたものは後期プレスである」(意訳)。


事実、ebayでこれと同じスムースA(××)盤の超絶美品を韓国の業者が売りに出した。私が見る初めてのダブルミスプリント盤だったが、恐るべきことに£1,536.11(約22万!!)という途方もない価格で落札されたのだ・・・!このレコード、半世紀近く前の盤なのに、今まさに封を切られた新品同様のレコードにしか見えず、最初は「偽物だろう」と思っていたのだが、ラベルやスリーブ、マトリクスを確認した限りでは本物だった。これは私の知る限り、このレコードの最高販売価格だと思う(「天井を上げちまいやがったな」と思わざるを得なかった)。この考えに基づいてラベルの違いをプレス順に並べるとすれば、

ラベル名スリーブヴィニール
スムースA (Adv)××
スムースB (Gatefold)×
テクスチャー×


とするのが自然だ。しかし、である。


前述したHMVのGWセールでのレコードの説明を見て驚いた。お読み頂ければわかるように「テクスチャーラベル=アーリープレス」、と書かれているのである。Discogsにはテクスチャーラベルについての情報は現時点(2017/8/4)では書かれていない。ユニオンで出ていたUKオリジナル盤にもテクスチャーという説明の記述はなかったように思う。これは一体どういうことなのだろう。


Discogsの業者が正しいのか、それともHMVの担当者は何か別のソースを頼りに書いているのか、どうしたことかと思いネットを色々調べてみると、このラベルについて詳細な情報を書いているこちらページにたどり着いた。やはり世界は広い。2012年にこのページが書かれて3500人が見たというので、情報としては広まっていてもよさそうだがまだ知られていないようだ(HMVの担当者はこれを読んで説明を書いたのだろうか)。


さて、この筆者は、この2つ目の表のように考えるのが自然と書きつつも、なぜかテクスチャー・ラベルの方に価値を置いているのだ。この筆者はこれらのプレスを所有した上で「テクスチャーラベルの方がより高値で取引され、その豊かなサウンドに感銘を受ける」と書いている(真実はPerhaps we will never know.ということらしいが)。この筆者はスリーブのグリーンスタンプの違いについては言及していない。


60〜70年代のレコードのテクスチャーラベルについては巷間色々な情報が出回っている。私が勉強させて頂いているgeppamenさんはピンクフロイド「アニマルズ」のテクスチャーラベルについてこのように書いている。そのほか、このレコードに限らずテクスチャーラベルについてネット上では「音が良い」「オリジナル盤の中でも初期のプレス」「チリノイズが多い」など、評価が分かれるが概ね「音質の良い盤」という意見が多い。けれども、テクスチャーラベルはレコードを問わずやはりレアである。この「Five〜」に関して言うと、私がこの1年でネット(Discogs、ebay、CD&LP、ヤフオク)や店で見たこのレコードのオリジナル盤とされるものは十数枚あるが、そのほとんどがスムースラベルB(×〇)だった。写真で確認できたテクスチャーラベルはHMVのものを含めわずかに2枚しかなかった。スムースラベルA(××)に至っては、前述したebayの1枚のみだ。


そろそろ出ることのない結論に移ろう。私はスムースラベルA(××)盤のレアさとその価格に恐れをなし、上述したページの意見(テクスチャーラベルが最も良い音質である)を信じてテクスチャーラベルを手当たり次第に探した。Discogsで登録した「ほしいアイテムが出品されています」メールが来るたびに、仕事中だろうが何だろうが(joke)「このレコードはテクスチャーラベルか?」という問い合わせのコピペ文を速攻で送りつけた。海外はいい加減なレコ屋と商売っ気で脂ぎったセラーとに大別されるので返信率は高くないのだが、写真を送ってもらうとほぼ全て「スムースラベルB(×〇)」であった。「テクスチャーラベルだったが、売れてしまったよ。残念」という悲しいメールが来たこともある。


そんな業者らとのやり取りを10回近く繰り返し(中にはイギリスの大学で美術と情報工学を教えてるというコレクターと20回近くもの報われない往復書簡(笑)を交わしたこともある)、ようやくテクスチャーラベルを持っているイタリアのレコード屋を見つけた。例によってDiscogsで引っかかったレコードは残念ながらスムースラベルB(×〇)であった(ちなみにその値段は800ユーロ)のだが、何回もメールをやり取りしていくうちに「探したらテクスチャーがあったよ」という怪しすぎるメールが追加で来て、嘘だろうと思い写真を送ってもらって確認すると間違いなくテクスチャーラベルであった。そのレコ屋はテクスチャーの価値を分かっていないようだった。値段は書かないでおこう。


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(分かりづらいが表面がテクスチャー加工でデコボコしている。また、リムの縁に沿った線がスムースラベルより深く切れ込みのように入っている)


先ほどの「どれが初期プレスか」という問題について、届いたテクスチャーラベルのマトリクスでこれら3種のどれが最も若い盤かを特定できるだろうと思っていたのだが、「A//2」のあとの枝番号??のような数字が判別不能で断念した。色々送ってもらったスムースラベルのものもこれと同じような印になっている。

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ちなみにDiscogsではスムースラベルA(××)が、

Matrix / Runout (Side 1): ILPS 9105 A // 2 1 1 7
Matrix / Runout (Side 2): ILPS 9105 B // 2 1 1 1

と記載されているが、テクスチャーもスムースBも、記されているマトリクスの文字数はこれよりも少なく、どう解釈すればよいのかわからない(ダブルミスプリント盤をお持ちの方は是非情報をお寄せください)。


レコード屋は「これは厳密にEX−と鑑定できる!」とメールしてきたが、はたして送られてきたレコードのA面はキズだらけであった(泣)指で触れてわかる深い傷が2か所あり、盛大な周期プチノイズ(プチどころでなく「パァチ!」)が丸々1曲半延々と続く始末。おまけにジャケットも退色や折れ、スレ、カスレに溢れていた。大枚叩いて酷いレコード掴まされたと怒り心頭だったのだが、爪楊枝を使って丁寧に傷を補正し、洗浄液で丁寧に洗うと聞き違えたかと思うほど音がクリアになり(流石はオリジナル盤)、キズの割にはA面のノイズもごく小さく「プティ」程度までなんとか軽減できた(ただし、A面ばかり聴き込んだのか全体的にかなりヒスノイズが目立つ・・・)。盤の歪みによる音揺れがなかったのが幸いだった(その場合はおそらくどうしようもない)。


長くなったがテクスチャーラベルの音質である。私はスムースラベル2種をどちらも聞いたことがない。よって、比較することができない(だから出せない結論である)。最も見かけるスムースラベルB(×〇)でも最近は10万以上が当たり前であるこの盤を、ラベル違いで買うことは未来永劫ないだろう。私の音盤歴でぶっちぎりの最高額を支払ったというバイアスを考慮しても、音は良い。非常に良い。というか、アナログが良いのだろう。ウォームな低音の自然な伸び、ニックのヴォーカルの空気感、そして何よりストリングスの美しさが素晴らしい(クラシックでも弦はアナログに限ると思っているが、この盤を聴いてその思いはもはや確信に変わった)。初版にはチリノイズが多いという話もネット上で見かけたが、神経質な私でもほとんど気にならなかった。



それにしても・・・素晴らしい作品だ。時代やジャンルを超えた普遍的とも言える美しさがある。



今のところ手持ちで音質を比較できるのはCDとSHM-CDの2種。価格差100倍以上のレコードに続けてCDを流すが、ピンクムーンの時同様やはりヴォーカルの印象の違いが大きい。CDの方は声が前面に出てくるようにマスタリングされているのがわかる(高音にフォーカスされ過ぎている)。対してアナログは地味だが、毎回書いているように耳なじみが滅茶苦茶良い。ヴォリュームを相当上げてもキツさがない(子守りの日に、皿洗いをしながらでも十分に聴こえる大音量であっても、うちの子が「パパうるさい!」と言わないのは珍しい)。だがもちろん初版のレコードなぞ買わずにCDをオススメする(余談だがSHM-CDとの違いは車で聞くとよくわかった。SHMはクリアで輪郭のはっきりした音だが、車のショボいオーディオだとキンキンしているのがわかる)。今後とも追加で音源を購入したときは、聴き比べに追加したいと思っている。


長くなったが以上が調査結果である。世の先輩コレクターの皆さんは真実をご存知でこんな記事を鼻で笑われるのかもしれないが、一応このアルバムをこよなく愛する1人として、ちょっとした記事を書いてみた次第である。Perhaps we will never know.

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