音楽好きの世迷い言
The melody at night, with you
10年ぶりのLet Down~True Love Waits: Christopher O'riley Plays Radiohead~
2016-09-10-Sat  CATEGORY: 音盤紹介
この夏、私の音楽仲間周辺でちょっとした話題になった出来事があった。







RADIOHEADが10年ぶりに名曲「Let Down」をライヴで演奏したのである。







http://rollingstonejapan.com/articles/detail/26325/2/1/1





UKロックに詳しくない人が聞いたら「だからどうした」と思われるかもしれないが、これは事件である。

クラシックで喩えるなら、マウリツィオ・ポリーニがコンサートでリストの超絶やラフマニノフを弾いたようなものだ(ちょっと違うかww・・・実際、ポリーニが超絶を弾くレアな動画を見たことある。巧かった気がする)。彼らは同時に代表曲「Creep」の封印も7年ぶりに解いた。日本では2003年にサマソニで数年ぶりにクリープを突然演奏している(記憶が定かではないが、その直前のイギリスツアーでも久々に演奏していたはず)。





まるで海外のフェスのような観客の絶叫であるが、ここは日本である(ちなみに私はこの公演に行く予定だったが、当日券が売り切れてしまい涙を飲んだ。行った友人が「人生でいちばん感動した。号泣して見知らぬ隣りのおっさんと抱き合った」と言っていた)。その後、手元のブートによるとクリープは演奏したり演奏しなかったりを繰り返していたように思う。

http://andmore-fes.com/special/707/






さて、「Let Down」である。






RADIOHEADが私の最も敬愛するバンドであることは以前書いたが、彼らの曲の中でも最も好きな曲のひとつが(ベタだが)レットダウンだ。


万華鏡のような煌くギターのアルペジオ、シンプルながら美しく憂いのある旋律、そしてそれをエモーショナルに歌い上げるトム・ヨークのヴォーカル・・・UKロックの代表的名曲としての条件をすべて兼ね備えていると言っていい。


この曲が彼らのライヴセットに載らなくなった経緯は他に譲るが、今回10年ぶりに演奏されたレットダウンの、その「10年前」のライヴと思われるブートがこれである。



trill11.jpg





実はこのブートが存外に素晴らしいのだ。


まずはこちらのセットリストを見てほしい。


trill22.jpg


「2+2=5」「Kid A」「Fake Plastic Trees」「Arpeggi」(※この後、曲名が「Weird Fish/Arpeggi」になる)「Ideoteque」「Karma Police」「Paranoid Android」「Just」、そして「Let Down」である!


初期の作品は少ないものの、90年代後半~00年代前半の名曲が随所に散りばめられている。ここまでバランスよく配置されたセットリストはそうそうない!(勿論、かなりマイナーな曲もあるが)。何より、当時まだ未発表の新曲でありながらすでに名曲を約束されていた「Weird Fish/Arpeggi」も収録されているのがオイシイ。オーケストラと共演したこの動画は、ロックも聴くクラシックファンにも受けがよいだろう。




その上、「Let Down」である。当時、すでにライヴでは演奏されない幻の曲になってしまっていたが、イントロのギターのアルペジオが鳴り響いたときの、観客の戸惑いにも似た大歓声には背筋がゾクゾクする。


この他に私の好きな「A Wolf at the Door」(この曲で聴かれるオルガンのようなシンセの音はボーズオブカナダの影響を受けている?)がもし入っていたら、国宝に指定していただろう。


録音はサウンドボードでなくオーディエンス録音なのだが、観客の歓声もそれほど大きくなく、まさに会場で聴いているような臨場感のある音質である。しかし、ちょっと残念なことに、トムや他のメンバーのテンションが、2000年代前後の奇跡のようなライヴとは違って少し大人しいのが惜しい。それでも「Let Down」におけるトムの、90年代の感情爆発のヴォーカルと違って諦念さえ感じる静かな歌い方は、原曲と同じ感動がある(サビで歌い方を微妙に変えているのが興味深い)。


このアルバム、ネット上のブート店では5000円を超える価格で常時売り出されているが、ユニオンに出れば1000円前後で買える(私は1200円で購入した)。モノがモノだけにあまり出てこないが(私もここ5年で2回だけ遭遇)、それだけに見つけたときの嬉しさは大きい。私が所有する数あるブートレグの中でも、近年モノではダントツに推せる。(ブートを勧めるのもアレだが)レディオヘッド・ファンの方には是非ともオススメしたい1枚だ。




さてさて、このブログは(一応)クラシック音楽がメインのブログなので、ピアノ作品の紹介をしておこう。レディオヘッドの作品をピアノ編曲したアルバムが出ている。それがこちらの作品だ。



True Love Waits: Christopher O'riley Plays Radiohead


truelove.jpg


ピアノを弾いているクリストファー・オライリーは、レコード会社が連れてきた「レディオヘッド好きの便利屋スタジオ・ピアニスト」などではなく、(ネット上では誰も書いていないようだが)1981年のブゾーニ国際ピアノコンクールで第6位に入賞しているトップ・ピアニストだ。彼は他にもクライバーンやリーズ等の国際コンクールで入賞歴がある。そこらの「なんちゃってピアニスト」とは一線を画すのだ(とは言え、彼の弾くバッハ=ブゾーニのシャコンヌなど、クラシックど真ん中の名曲は数多の名演と比べて遜色あるが)。このような実績のあるピアニストが、レディヘの編曲集を出していることに我々は感謝しなければならないだろう。



そして、「Let Down」、である。



このピアノが実に素晴らしい。冒頭のアルペジオの再現を聴いただけで、この編曲の勝利を確信する。Aメロの2回目の繰り返しから徐々に音数が増え、声部がどんどん複雑になっていく。サビの主旋律が単純なだけに音が物足りなく感じるところだが、オライリーはリズムを変えたり、わずかなトリルを織り交ぜて工夫している。静かでsensitiveな間奏部分の語り口は流石超一流のプロと思わせる。コーダでは、ホロヴィッツ編のリストのハンガリー狂詩曲第2番を思わせる「タールベルクの3本の腕」で3声部を巧みに奏でて、大いに大いに盛り上げる。彼はロックソングの編曲を「わかってる」という感じだ。


冒頭を飾る傑作「エヴリシング・イン・イッツ・ライト・プレイス」の巧みな編曲、ロックに現れることのない音階が主題の「エアバッグ」の迫力、「ブラックスター」での絶妙なデュナーミク、リリカルでナイーヴな「ナイヴズ・アウト」、ちゃんとギターのイントロのままの「ユー」にはニンマリするし、タイトルトラックであり新譜にも別Ver.が収録された「トゥルー・ラヴ・ウェイツ」は息を飲む静けさで、リサイタルで取り上げてもいいのではないかと思うほどスケール感と広がりのある「モーション・ピクチャー・サウンドトラック」、、、などなど、思わずアルバム全曲を挙げてしまいそうになるほどの名演・名編曲揃いである。彼はほんとうにレディオヘッドが好きなのだと思う。ピアノ好き、レディオヘッド好きの方は是非1度聴いて頂きたい名盤である。彼はこの後、RADIOHEADのカヴァー・アルバムをもう1枚出している。



レディオヘッドはロック以外の多くのミュージシャンにカバーされているアーティストだ。


ジャズ畑の人には、ブラッド・メルドーのアート・オブ・トリオVol.4での「Exit Music (For A Film) 」のライヴ演奏が空前絶後の名演で、レディヘも聴くジャズ好きの方には必聴である。




最後にもう一度、「Let Down」。




J-POP好きの方には、コトリンゴの「picnic album 2」にウィスパーボイスで歌われるレットダウンが収録されている(ビョークのハイパーバラッドも!)。こちらはレディオヘッドが好きだという方すべてにオススメできる。




たまにはこんな変化球もお許し頂ければ幸いである。

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