音楽好きの世迷い言
The melody at night, with you
内田光子のショパン・ピアノソナタ集(東芝EMI旧録音)
2016-06-07-Tue  CATEGORY: 廃盤再発推進委員会
久々にCD化して欲しいLPのご紹介。東芝EMIから出た内田光子のショパンソナタ集旧録音です。

uchida

某掲示板でもCD化して欲しいレコードとしてこれが挙げる方がおり、「いつか買えたらいいな」と思っていたものでした。なかなかのレア盤なので、たまーにユニオンに出てくるものの、まずまず高価な割に足が早く、今回ようやくブログに載ったその日に取り置きの電話をしました(ちなみにセールでなく平日。オタクのブログチェックは忙しい笑)。店で試聴してコンディションがイマイチで迷ったのですが、思ったより安いし、担当してくれたのがかの猫丸さんだったので、信用して購入。現在の、妖怪のように小刻みに震えながらピアノを弾く求道的な彼女からは想像も付かないポージングのジャケです。

そのジャケはご覧のとおりのシミが酷く、これぞセピア色、という具合に変色してます。「盤質良好なら、ジャケなんて酷くても安いからむしろ歓迎」な私ですが、残念なことにやはりレコードのコンディションがよくない。猫丸さんも「ギリギリ盤質Bとさせて頂いてまして…」と言ってましたが、キズは少ないものの、ミゾがダメージを受けているのか盤の歪みがないのにも関わらず部分的に酷い音揺れがあります。そんなわけで、入手したLPでは演奏の真価を問える状態ではないのかもしれませんが、久々の更新に相応しい?好演だったので記事を書くことにしました。

解説によると、録音は1972年3月世田谷区民会館で行われたとあり、1970年のショパンコンクールで優勝後最初に録音したレコードで、なんと彼女のデビュー盤のようです。期待十分の中、例によって3番から聴き始めました。ショパコンでは2番を弾いているので、3番は苦手なのかなと思ったのですがこれが存外に素晴らしい。第1楽章は教科書的でストレートな解釈ですが、細部での柔らかなタッチが絶妙で、それでいてごくわずかに見せるspontaneousなアゴーギクとデュナーミクが曲に彩を添えており、時折見せる開放感のある和音の響きも相まって非常にフレッシュな印象を受けます。後年、PHILIPSから出た新録音は、これと比べると恐ろしく老成して修行僧のような達観した演奏に聴こえ、「ショパンらしくないな」と思ってしまいました。第2楽章も指が回る回る。ドビュッシーの12のエチュードで聴かれるように、彼女の技巧は確かなものがあるので安心して聴けます。私の分類で言うとアルゲリッチやバルボーザの流麗系ではなく、ポリーニやヤブウォンスキのカッチリ系なタッチ。非常に精緻な音の粒の揃いに舌を巻きます。第3楽章は音楽性の限界が露わになるところですが、私にとって10分を超えるモタレたような演奏は好みでない中、この演奏は8分台半ばでかなり理想的。ちなみに新盤は9分台半ばですから、およそ1分も短くなっており、この面でも解釈にかなりの違いが見られます。そしてお待ちかねの第4楽章、果たして、4分50秒を切る快速テンポでキッチリと仕上がっており、お見事と言いたくなる完成度。全体として、「考えすぎ」になる前の若さゆえの自発的なしなやかさのある演奏で、ショパンらしい愉悦に浸ることができ、しかもピアニスティックな面での満足度も新盤を大きく上回るものでした。

続いて第2番。若干21歳時のショパコンでは、今の彼女からは想像もできないライヴらしい熱いパッションに燃えた演奏が聴けましたが、この旧録音も概ね同様の路線でしかもスタジオ録音だけあって完成度が高まっており、要するに完璧。第1楽章で、和音は輝かしく華々しいまでにゴージャスで、第2楽章の和音連打や半音階での上昇、オクターヴなど見事。急速部分と緩徐部分のテンポの差がやや大きいのが気になるものの勢いに満ちており、知らない人が聞いたら女性ピアニストとは思わないでしょう。それでいてアルゲリッチやブニアティシヴィリのような「オテンバ感」がなく、あくまで優等生の学級委員長がスマートにリレーのアンカーを務めて爆走している、といった趣きがあります。葬送行進曲もタイム的には遅すぎないのですが、基本的にこの楽章が苦手な私にはそれでも不思議と遅く感じました。終楽章は1分20秒を大きく切る相当なスピード。ヒリヒリするような切迫感とキレのある指回りが堪能できます。

2番も3番も、録音はやや低音がボン付くもののピアノの音像との距離感が良く、残響も適度。惜しむらくはレコードのコンディションで、もう少し印象良く聴こえるのかも、と評価を保留したくなってしまいます。とりあえず2番は文句なしに☆、3番は☆に近い◎とします。

旧録音の演奏時間、2番が7:14、6:15、10:25(合算表示)、3番が8:47、2:42、8:37、4:48で、新録音は2番が7:31、6:44、9:17、1:36、3番が13:13(繰り返しあり)、2:40、9:36、5:09で全体的に相当速いことがわかります。


そんなわけで、これは是非ともCDで復刻してもらって、ノイズの無いピアノを楽しみたい1枚です!
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