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ラフマニノフ・ピアノ協奏曲第3番聴き比べ~3つ星編その5~
2012-08-12-Sun  CATEGORY: ラフマニノフ・ピアノ協奏曲第3番聴き比べ
☆☆☆・清水和音/アシュケナージ/NHK交響楽団/2007年/ossia
 曲を通してやや遅めのテンポですが、技巧的に(最上の部類ではないにせよ)海外の有名ピアニストと遜色ない感じ。解釈も王道を行くもので、安心して聴くことができます。第1楽章の展開部は、スピードはそれほどでもないものの、打鍵が深く迫力十分。カデンツァも聴きごたえアリ。スケールがでかいです。第2楽章の歌も悪くありません。第3楽章は出だしも結構粒が揃っていて気合い十分。この人は歯に衣着せぬ物言いで、練習しないのに音大では余裕で首席だったとか色々武勇伝を聴きますが、やはり天才なんだと思います。「この曲を弾きたいがためにピアニストになった」というだけのことはある演奏。個人的な好みとしてはもっとテンポを上げて緊張感とか熱気をブレンドしてくれればと思いますが、日本人の中では演奏・録音・オケの総合で最上位に上げられると思います。


☆☆☆・ピサロ
 バランスが取れた演奏です。技術的にも不足はなく、抒情性にも欠けていません。第1楽章はテンポ遅め。和音連打もそこそこのスピード。カデンツァはossiaで非常にうまくまとまってます。第2楽章もソツなくこなしてます。第3楽章もテンポ遅めかと思いきや、意外と冒頭の同音連打にスピード感があり、良いです。後半の細かな音型もクリアで「この人、結構うまい」と思いました。ただ、数多の熱演と比べるとアピールは弱いです。ストロングポイントが欲しいというか、もうひとオシ欲しい感じ。それでも最初の1枚に薦めるのに躊躇しない内容です。


☆☆☆・ワイルド/ホーレンスタイン/original/
 ワイルドの録音は2番が特に評判が高く有名ですが、この3番も非常に素晴らしい出来。テンポが速めで勢いがあり、ロマンティックに歌うという点においても極めて優れています。スポーツ的な爽快感を備えた技巧と叙情を奏でることのバランスの良さは他の追随を許しません。聴かせどころを押さえたヴィルトゥオーゾらしい演奏と言えましょう。音質はモギレフスキー盤と同年代の録音とは思えないほど良いですが、やや残響が多く、膨らみがありすぎて若干締まりのない感じを受ける部分もあります(個人的な好みも勿論あるけど)。オケも素晴らしく、ピアノの存在感に負けていません。第3楽章にかなり大きなカットがあって、現代の演奏に聴き慣れていると大きく違和感を覚えるのが残念。それさえ無ければ決定盤のひとつになりえたかもしれないのですが・・・。ちなみにアンスネス盤と同じ箇所でややオケが音を外している気もして、惜しいです。
*というわけで、ヴィルトゥオーゾタイプの彼には2番の方が似合っているようです。


☆☆☆・レーゼル/ザンデルリンク・78年
 曲の隅々にわたって整った堅実な演奏。技巧も安定しており安心して聴けます。ロマンに浸り過ぎるようなテンポの揺れもなく、技術的に誤魔化しのない丁寧なピアノは禁欲的と言えるほど。解釈も実に標準的で教科書的。アゴーギクなどの表現に余り色気を出していないので、全体的にかなり生真面目な印象です(古典派の曲を聴いている感じ)、第1楽章カデンツァ前の和音連打はスピードもあって、なかなかの迫力。カデンツァもブロンフマン盤同様に打鍵が深々としていて非常に良い出来。第3楽章はもう少しテンポを速めて欲しかったかも(15分近くかかっています)。冒頭の同音連打も近年の技巧派の演奏と比べると、丁寧ではありますがスピード感に欠けるのは否めません。しかし、教会で録音しただけあって豊潤で煌びやかな残響がピアノにあり、硬質な音色と相まって崇高かつ荘厳な雰囲気を醸し出しています。オケもほの暗い翳りを聴かせており、良い部類に入るでしょう。ロシア的などっぷりとした情緒を感じさせるものではありませんが、細部まで引き締まった演奏は気分を選ばずに聴けるのが良いです。ドイツ人らしい職人気質を感じさせてくれる秀演。


☆☆☆・アルフィーディ/R.Defossez/Orchestre National de Belgiue/72年/ossia/LP

アルフィディ

 72年エリザベートコンクールライヴ(第3位)。テンポが非常に速いです。手持ちのossiaの盤(カット無し)の中では最短時間。急速部分も速いですが、全体的にちょっとせかせかしてる感があります。オケとあっていないところもありますが、ピアノが合わせようと修正する様が(悪い意味でなく)実にスリリング。第1楽章の中盤の和音連打は迷いのない力強いタッチ。カデンツァもあまりタメがなく飛ばしに飛ばします。まるでoriginalでも弾いているかのようです。第2楽章の緩徐部分はそこそこに歌ってます。音数が増えてくるとまたテンポを上げますが、カペルのような極端さは感じません。第3楽章がこの盤最大の聴きどころ。かなりのスピードにもかかわらず最後まで明晰に弾ききっています(手持ちの盤のカット無しの中では最短の演奏時間)。この速さでも大きなミスがほとんど無いのが凄いです。ただ、技巧的にキレがある反面、コクに欠けていてエチュード的な演奏になってしまっているというか、ロマンや叙情性はどこかに置き忘れられている感があります。その分、指回りを堪能するには最適の盤かも。さすがに1位は取れなかったようですが、テクニックは凄まじい(ただ、シェンのようなサイボーグっぽさはなく、随所で人間味が感じられます)。録音は悪いです。余談ですが、このコンクール当時、同じこの曲を弾いて喝采を浴びたカツァリスが9位に甘んじたのが有名です。その盤と比べると、スピードと精度ではカツァリスを上回りますが、総合的な面白さではほぼ互角というところ。


☆☆☆・カツァリス/ R.Defossez/Orchestre National de Belgiue /72年/ossia/Live/LP

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 カツァリスの名を一躍有名にしたレコード。演奏の方はというと、噂に聴いていた通り推進力に満ちていてスピード感溢れる演奏でした。同じコンクールでのアルフィーディの演奏も速かったですが、それよりも荒っぽいというかより良く言えば人間味があるという感じです。解釈などは近年CDで出された78年のスタジオ録音と基本的には変わりませんが、それと比べるとさすがにピアノはミスが多く雑な感じ。ただ、緊張感やピアニズムの引き締まりという点からは、スタジオ録音を上回るでしょう(スタジオ録音は元気がありすぎて余裕こき過ぎの所が無きにしも非ず)。第1楽章は出だしから速いテンポで飛ばしまくり。展開部の和音連打も快速で爽快感があります(連打の直前はちょっとオケとズレてますが)。カデンツは前半部分でややミスがあるものの、和音部分も音を鳴らしきっていて素晴らしい迫力。ここは後年のスタジオ録音よりも評価出来るところ。第2楽章は緩徐部分での彼らしい歌い回しと、後半での細かい急速音型でのクリアさが実に見事(アゴーギクで妙に肩を張る箇所があり、もう少しスッと流れて欲しいところもある。サイドブレーキを引いたまま発車した感じ)。ヴィルトゥオーゾらしさが出ています。ただ、楽章冒頭のオケの入りが頼りないことこの上ありません。終楽章は予想通りの爆演。同音連打はスタジオ録音ほど粒は揃ってませんが、メチャ速い!このテンポに太刀打ち出来るのはハフ、グティエレス(LP盤の方)、ドノホー盤くらいと思われます(カット無しの完全版に限定)。ちなみに、この楽章の演奏時間は拍手入りでおよそ12’50”で、スタジオ録音よりも30秒以上短い。全楽章を通じても2分近く速い。オケの荒さが目立ってくる面もありますが、カツァリスらしさが全開の演奏です。有名な練習番号58でのossiaはスタジオ録音ほどの精度とキレはないものの、彼の気合いが伝わってきます(重音での素早いパッセージなのでさすがの彼も苦しそう)。この曲のライヴ録音は色々聴きましたが、曲が終わらないうちに観客が拍手し始める演奏は初めて聴きました。観客の猛烈な興奮が伝わっています。録音は、同コンクールのアルフィディのLPよりも音量レベルが大きくて音色も明晰です(何故?)。音質やオケの出来を考えると近年発売されたスタジオ録音と総合的には一長一短という感じですが、ライヴならではの緊張感を味わうにはこちらの方が上かも(そもそも78年盤はスタジオ録音だけど)。


☆☆☆・カツァリス/Neumann//78年/ossia
 カツァリスの録音が、彼の立ち上げたレーベルからついに登場。話題になったエリザベートコンクールライヴのLPは入手困難なだけに、非常に楽しみにしていました。第1楽章は軽快なテンポで精確に弾き進めます。展開部は意外にもあまりスピードが上がらないので肩すかし(それでも数多の他盤と比べると十分に速いですが)。カデンツは前半が素晴らしく、後半もスラスラと苦もなく弾いているのが伝わってきます。第2楽章もヴィルトゥオーゾらしい演奏で、歌い方が上手い。第3楽章は快速テンポでぶっ飛んで行きます。特に出だしの同音連打の粒の揃いが凄まじく、彼らしいアクロバティックな技巧を見せつけている感じ(ハフほどの精緻さはありませんが)。(彼の弾くメフィストワルツでも感じたことですが)曲芸的な演奏と言ってもよいでしょう。有名なossiaも健在。後半では段々と地が出てきたのか、多少語尾があいまいになったり、ケレンみがかった表現も出てきます。オケもノッてきて最後は猛烈にアッチェレランドして終了。てっきりライヴ録音だと思ってましたが、スタジオ録音なんですね。それくらい白熱した演奏です。元気過ぎるカツァリスと比べるとちょっとオケがイマイチかも。放送録音風の音質なのも残念。


☆☆☆・ジャニス/ドラティ//61年・original
 力強く推進力に溢れた演奏。畳みかけるような勢いがあり、尚かつ歌心も兼ね備えています。師匠のホロヴィッツを彷彿とさせる重量感のある打鍵を聴かせ、一昔前のヴィルトゥオーゾ的な演奏と言えると思いますが、下品になり過ぎていないのが良いです(ホロヴィッツよりもケレンみが少ない)。とにかく勇壮感に溢れる演奏で、猪突猛進型の彼にこの曲は(協奏曲の第2番よりも)良く合っていると思います。ただ現代のピアニストのスマートな演奏を聴いた耳では、もう少し細部を丁寧に弾き通して欲しいかなという気はします(特に第3楽章が迫力はあるが、多少荒く聴こえる)。録音はピアノがオンマイクで存在感がありすぎるので、少々聴き疲れするかも(明晰さがあるのは良いけれども)。それとやはりカットがあるのが残念。また、オケの音色が痩せていて美しくないのが惜しいです。スタジオ録音でありながらこれほどの迫力に満ちた演奏は他に余り無いので、叙情性重視のもったりした演奏が苦手な人は特に気に入るでしょう。


☆☆☆・スコウマル
 第1楽章は比較的速めのテンポで、展開部の和音連打部分もなかなかのスピードを保っています。テクニックにはそれほど秀でたものを感じませんが、非常に手慣れた感じを受けます。カデンツはoriginal。ちょっとアゴーギクが激しめで、テンポがゴムのように伸び縮みする感があります。第2楽章の緩徐部分はぐっとテンポを落とし、ロマンティックで良いです。後半の細かい急速音型では少しタッチが浅いというか、小手先で弾いてる感じを受けなくもないです。アタッカで終楽章に行くところでは、キメのアルペジオに手を加えていて、「おッ」と思います。出だしの同音連打もそれなりに勢いがあって流麗ですが、若干音抜けを感じる箇所も。全体としてそれほど悪くない演奏だと思うのですが、テンポの揺れが少し気になり、2つ星にしようかとも悩みましたが、第3楽章の後半でも技巧が安定していることと、音楽性のセンスを買って星3つにします。
※スコウマルは1997年の浜松国際に出場し、1次予選すら突破できなかったので技巧的に心配していたのですが、上記にも書いた通り弾き込んでいる様子の演奏で、ちょっと見直しました。
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