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The melody at night, with you

音楽好きの世迷い言

Kristjan Randalu / Absence (Ben Monder, guitar)

やはりライヴにはかなわない、という盤を。


クリスチャン・ランダル / アブセンス

IMG_20190213_122622.jpg

Kristjan Randalu, piano
Ben Monder, guitar
Markku Ounaskari, drums

エストニア出身、1972年生まれのジャズ・ピアニストによるトリオ作品だ。2017年録音で発売は昨年、レーベルはECMである。


勿論私のお目当てはベン・モンダーで、youtubeで彼の演奏を探してはmp3に落とすという涙ぐましい作業中に発見したのがこのピアニストとの共演ライヴだ。その後、ECMからトリオが発売されると聴き、早速購入、しかし下に述べる事情で書くのをすっかり忘れてしまい、今に至っている。


さて、ともかく内容を手短に述べると、全曲で静謐な音響と北欧的な抒情性が渦巻くジャズ、という印象。ベースレスかつドラムの音像がやや遠めということもあり、どこかクラシック(or現代音楽)の室内楽的な雰囲気も漂う。きちんとした4ビートジャズはほぼ皆無と言ってよく、フリーフォームでひたすらピアノが甘美にギターと絡み合うのだが、そこに狂気や諧謔が一瞬顔を出すのが彼の作品の特徴と言えるだろう。時折ギクッとする転調を挟んだり、単調なアルペジオの繰り返しにも際どいフレーズを織り交ぜたりして、甘ったるくなりがちな作風を引き締めている(5曲目など不気味さだけの曲もある)のは、なんとなくショスタコを思わせる。


肝心のベン・モンダーだが、サイド参加としての役割に徹しており、ディレイを効かせまくりでフィードバック奏法をするなど音響的な色付けのプレイに留まっている感じ。どこをどう切っても、「ECM」の一言で感想が済んでしまうのはやはりマンフレート・アイヒャーがプロデュースのためか(W・ムースピールの近作もそうだったし・・・)。いつものバリバリにファズの効いたギターでアドリブを弾きまくる箇所は1つもなく、6曲目で先ほど書いたフィードバック奏法でのディストーションが聴けるくらいである。


というわけで、期待して買ったCDなのだが、聴いた後はポトフだと思って食べたのに食塩水だったかのような味気無さ。ブログに書く価値もないと思って放っておいたわけだ。ところが、話はここからである。


youtubeでのライヴが凄まじいのだ。


アルバム3曲目の「Sisu」が、まるで別物に仕上がっている。ギターのアルペジオとタッピングハーモニクスにピアノの内部奏法、ベースの悩まし気なボウイングで実験音楽的に始まる。いかにもこれから何かが起こりそうな緊張感の中でピアノが変拍子的な曲のリフを弾き始めると、一気にスピーディなジャズへ展開(CDではなんとここで終わり(!)であった)。ランダルのピアノは耽美的な美しさと翳りは残しつつも力強いタッチでアウト感満載のフレーズを弾きまくり、そしてそして、モンダーが超ド級に歪ませたファズトーンで切り込んでくる!「そんなに歪ませたら箱モノ使ってる意味ないじゃん」というこちらの心配はどこ吹く風、ベコベコに潰れまくった音でバリバリにスウィープを決めまくる。グルーヴ感や指の回りがアレなところもあるが、ブッ飛んだ音色の潔さとブチ切れて突き抜けてる感が素晴らしい。ピアノとギターが交互にソロを取り合い、最後には再び元の抒情性を取り戻し、曲は静かに終わる。静寂と嵐、美と狂気が色とりどりのステンドグラスのように曲を彩っている。ファズの効いたギターはその狂気を演出するに十二分に相応しいと言えよう。また、やはりベースの存在感は大きい。アルバムの方はドラム入りなのにベースレスなのはランダルの意向なのかもしれないが、上モノとして自在に飛び回るギターの存在を考えるとベースによる「音の引き締め」は不可欠だったろう。長くなったが、このライヴははっきり言ってあざといし、狙い過ぎでやりすぎだと思う。が、私はこういうのが大好きである。アルバムではファズでのソロをアイヒャーが許さなかったとみるのが自然で、これが良くも悪くもECMなんだろう(大好きなレーベルです、念のため)。




・・・この壮絶な演奏を見た後ではアルバムの味気無さは際立つ。金を返せと言いたいレベルである。なお、youtubeでは他に、アルバムに収録されている別曲の「Lumi」も劇的な変貌を遂げて演奏されており、こちらも一見の価値がある。お試し頂きたい。
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ラ・サールとヴィニツカヤのラフ3

最近は自分のブログで何を書いて何を書いてないのか忘れることが多く、ちょこちょこ読み直している。ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番で評価未記入盤を見つけたので、改めて聴き直し、簡単に感想を書くことにする。


リーズ・ドゥ・ラ・サール / F. ルイージ/フィルハーモニア・チューリッヒ / original
随分前に聴いて、「パッとしない演奏だな」との記憶があり、評価を付けずにいたので久々に聴いてみた。第1楽章は私の許容範囲を2段階くらい超える遅さ(ノロさ)で、やはりガッカリ。録音のせいかピアニストのせいか、展開部の連打に限らず全体的に和音が軽く、そしてまたカデンツァがオリジナルということもあって、この楽章の印象はかなり良くない。しかし、第2楽章から持ち直す。もともと彼女のリスト集などで実は音楽性の面で高くできるピアニストだと思っていたのだが、それがここで発揮されている。とても抒情的で、柔らかさというかしなやかさのあるタッチを聴かせている。第3楽章は出だしの同音連打が案の定遅く、物足りない。しかし、これは彼女の作戦らしく、この曲でありがちなガンガン攻めまくる路線ではなく、優美な演奏で行く解釈のようである。また、スピード感にこそ欠けるものの、細かい指回りも精緻である。それまでは完全に伴奏に徹していて全く存在感のなかったルイージも興に乗ってきたのか、最後の方は弦楽器を前面に出してピアノを盛り立てる。というわけで、楽章が進むごとに盛り返した印象。演奏時間は相当遅い 17:51/10:49/14:57、☆は3つとする。


A. ヴィニツカヤ / E. アウトウォーター/ カラマズー交響楽団/ original / 2017年
以前書いたのとさほど印象は変わらないが、それでも記憶よりは良い演奏であった。ラ・サール盤の後に聴いたせいか、歯切れのよいタッチと推進力が心地よく、また和音に力強さもある(展開部はやはり弱さを感じるのが惜しいが)。カデンツァも勢いがあり、「馬力がない」などと書いたが悪くない。第2楽章も活発なオテンバ娘という印象の元気な演奏なのだが、録音のせいかオケのせいか、パサついたカツオ節みたいな潤いの無い弦の音色が残念。やはりアタッカの部分で派手にミスってるのが痛い。第3楽章はまずまずスピード感があり、しかも重低音を左手でエグってくるような音型が鮮やかなのが特に印象的。☆はやはり3つだが、ラ・サール盤よりは上だろう。演奏時間は 15:59/10:41/14:55 だが、終演後に拍手が入っているため、第3楽章の実際の演奏時間は14:16ほど。

NMLを見ると、スドビン、ギルトブルク新盤、フレイレなど、未聴の盤が多そうなので、近々聴き込む予定。この曲には冬が似合う。
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Matthew Stevens / Confidential

ティエンポ盤に続き、年始にゲットした激レア盤を。ただし、ジャズ。


マシュー(マット)・スティーヴンス『コンフィデンシャル』

mattste.jpg


新しくなった新宿ジャズ館の廃盤特集で見つけ、説明の帯には「ライヴ会場のみ販売」とある。相当なレア盤かもしれない。とりあえず手に取り、ネットで色々調べるが情報が出てこない。ジャケもきちんと販売されたCDみたいで怪しいので、ひとまず試聴をお願いしてブックレットを見てみる。

matste2.png
(サイン入り)


ご覧の通り、メンツが良い。ジェラルド・クレイトン(ジョン・クレイトンの息子)、ウォルタースミス3世、ジャマイア・ウィリアムス、そして私の好きなジョン・エスクリート。これが決め手となって、(私的にはかなり高かったが)試聴もそこそこに買ってしまった。なお、プレスCDではなく、裏青盤(CD-R)であった。

マット・スティーヴンスは、K・ローゼンウィンケル以降の今をときめくジョナサン・クライスバーグ、ラーゲ・ルンド、ギラッド・ヘクセルマン、マイク・モレノ、ジュリアン・レイジらの新鋭ジャズギタリストと比して、やや遅れて現れた感がある。初リーダー作が2015年の『ウッドワーク』だから、その実力が日の目を見るまでに時間がかかってしまったと言えるだろう。私は2009年秋に出版されたジャズギターブックvol.23で石沢功治氏がイチオシしている記事で彼を知ったのだが、2015年のこの『ウッドワーク』でようやくプレイを聴いたのだった。


さて、この謎のアルバムについて。


録音は2010年。曲は完全にコンテンポラリーを基調としたジャズ。聴く前はどこかのライヴハウスでの演奏をパッケージしたものかと思ったが、さにあらず。完全に計算されつくしたスタジオ作品で、ギターなども持ち替えているのか、それともオーヴァーダブしてるのか?という感じ。テーマで各メンバーのアドリブを挟む、という一般的なジャズスタンダード感はあまりない。ギターやピアノのリフを基にテーマを展開し、不可逆的な進行でたまにアドリブを挟む。プレイヤーの腕の見せ所を陳列する印象はなく、あくまでソング・オリエンテッドな感じさえ受ける。リズムはあまりジャズスタンダードのそれではなく、手数の多いドラムはロックやフュージョンの激しさも持ち合わせ、やたらとキメの細かい曲もある。ベースレスでオルガンが担当しているせいか、エレクトリック感が強めで、(よく私が用いる喩えだが)70年代のプログレ・ジャズを現代にブラッシュアップさせたような雰囲気だ。


1曲目はピアノとなんとアコギによるシンプルなリフに乗せて、何度かテーマを挟みつつ、オルガンとギターがテーマをバックにソロを取る。ドラムがシンバルを叩きまくって盛り上げつつ、ギターがここぞという所で入って来るので、壮大なスケール感がある。アルバム冒頭というよりはラストに回した方が良さそうな曲だ。2曲目はこれまたドラムが激しく、音数の多いイントロで始まる。クールダウンしてギターがカートの曲みたいに音数が少ないシンプルなメロディを反復したテーマを奏で、その後かなり抽象的なソロを引き続いて取る。テンポは変わるものの、この曲の半ば辺りがアルバム中で一番スタンダードなジャズビートか。曲の終わりはドラムが耳障りなほど暴れまくる。3曲目、細かいキメのあるテーマの後、ピアノにところどころ合いの手を入れられながらのギターのソロ。フュージョン風味が無きにしも非ずだが、ギターのグルーヴはコンテンポラリージャズのそれか。続いてサックスがソロを取る。エスクリートが絡んでくるのが彼が好きな私には嬉しい。最後はピアノのソロ。途端にスペースの出来た空間の中を、ドラムのプレイに合わせながらセンス良く弾いている。


4曲目はオルガンのコードに導かれつつ、サックスとギターで伸びやかなテーマ。ピアノ→サックス→ギターの順でソロを取っていく、最も長尺のトラックだ。ギターはバリバリ弾きまくる、という感じではないが、オリジナリティを感じる。ラーゲ・ルンドのように幅広いインターバルを織り交ぜてタテに自在に飛び回るというよりは、アダム・ロジャースやウルフ・ワケーニウス的なヨコに曲線的なラインを聴かせる感じか。5曲目はアルバムの中では比較的静かな曲調で、一休みな印象。ギターとピアノが2音から成るアルペジオを奏で、サックスが絡みだす。5曲目、6曲目もキメの細かいユニゾンなテーマのあと、ギターがソロを取る。アダム・ロジャースみたいな音色だが、彼より音がこもっておらず、流麗さでは敵わないがジャズギター弾きが喜びそうなフレーズを弾いている。その後のエスクリートのソロが「らしさ」全開で素晴らしい。そんなに長くないのが惜しいが(ちなみに私がエスクリートに注目したのは、A・ロジャースもサイドメンとして参加しているA・シピアジンの作品『BALANCE 38-58』だ。とても気に入っている)。最後の7曲目は比較的落ち着いたテンポで始まり、またまたカートみたいなシンプルなモチーフを繰り返すテーマをバックに、ギター、サックス、ピアノの順にソロを取る。ギターの音色はこの曲が一番心地良いかな。


アルバム全体の印象をまとめると、「アドリブソロのための曲」というよりは、緻密に計算された楽曲のまとまりを重視した作品であり、各プレイヤーのソロの見せ場は少なめな印象。特にギターは期待したほど弾きまくってないので私には些か物足りない。また、ドラムの手数が多すぎ、どう考えてもうるさすぎる。オルガンの使い方が一般的なジャズのフォーマットではなく、私からすると先ほど述べたようにプログレ・ロック的に感じる(勿論スティーヴンスの意図なのだろうが)。ピアノは流石に期待通りの貢献度。曲も、モティーフの反復からなるテーマが多く、出来は悪くないのだが「金太郎飴」な雰囲気もある。


ギターの音色は、メセニーとU・ワケーニウスとA・ロジャースを足して4で割ったところに、デヴィッド・ギルモア(フロイドの方にあらず)とW・ムースピール風味をブレンドした感じ。要するに、ナチュラルなアーチトップサウンドをマイク感のあるP.U.で拾った感じではなく、アンプからの出音を基準に音作りをした、サステインと柔らかい弾力性に富んだエレクトリックなサウンドだ。曲によってはギターを持ち替え(曲中でも?)、一部軽く歪ませている曲もあると思われ、クリーンさというか透明度はそれほどでもない。無理やりプレイを喩えれば、ロジャースに0.7をかけてギルモアのカツラを被った感じか。

・・・長くなったが、最後に。このアルバムの謎は簡単に解けた。現代ジャズ辞典のマット・スティーヴンスの項を見ると、「2010年にはウォルター・スミス三世、ジョン・エスクリート、ジャマイア・ウィリアムスを起用して『Emergence』を録音する。しかし発表には至らず、結果的に幻の初リーダー作になってしまっている(2014, NPR)。」とある。アルバムタイトルこそ違うが、4曲目に「Emergence」という曲があるし、メンツも同じであるので、これがその「幻の初リーダー作」なのだろう。おそらく権利関係のせいでお蔵入りになってしまったと思われる。次の2015年『ウッドワーク』の発表まで6年もかかってしまったわけだから、彼には思い出の詰まった作品であるに違いない。


そんなわけで、超激レアな雰囲気の漂う「幻の初リーダー作」であるが、正直その大きな期待からすると応えきれていない。「超名盤なので皆さん探しましょう」とか自慢げに書ければいいのだが、残念ながらティエンポ盤に続いて(負けではないが)レア盤勝負は2引き分けである。音盤道はそんなに甘くはない。
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Alexej Gorlatch / Chopin Etude Op.10 ほか

見落としていた盤を。アレクセイ・ゴルラッチのショパンのエチュード他のアルバムである。


ゴルラッチは、2006年の第6回浜コンで優勝した時からそのライヴCDを聴いて「優美な音楽性と、意外にテクニックも悪くないかも」と思って一応注目していたつもりだった。浜コンの実況CDに収録されているリストの超絶もけっこう巧いし、何より課題曲の日本人作曲家委嘱の作品の演奏がとても良かったのが印象に残っている。さらに、その後に出したベートーヴェンのコンチェルトやソナタのCDについて、kyushimaさんが好意的なレビューをしていたので私もNMLで聴き、確かに期待通りの演奏をしてくれていると感じ、たまに聴き直している。


そんな折、ユニオンに日参していてふとこのCDを見つけた。

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曲はショパン・エチュードOp.10全曲、シューマン幻想小曲集Op.12、ドビュッシー・前奏曲より4曲、音と香りは夕暮れの大気に漂う、西風の見たもの、亜麻色の髪の乙女、花火、録音年は2009年4月とある。10年近くこのCDに気が付かなかったというのはなんとも情けない。

2005年、ブレハッチが優勝したショパコンで彼はセミファイナルどまりだったと記憶していたせいか、私の中で彼とショパンはあまり結び付いてなかった(ベートーヴェンの演奏がよかったせいもある)。それで今回、練習曲を録音していたと知って、ちょっと意外な感じがした。彼は決して抜群の技巧派ではないが前述したように密かにしっかりしたテクニックの持ち主かも、と浜コンの時に感じたので、併録の2作品はあまり手の伸びない曲だったが思わずこのアルバムに飛びついた(余談ながら、浜コン最高位はブレハッチ→ゴルラッチ、、、国籍は違うが名前も芸風も似てるから、なんとなく同様の印象を持っている(笑))。

最近は忙しくてリビングで音楽が滅多に聴けないので、通勤の車内で聴いてみた。そしてすぐに、この録音の酷さに失望してしまった…。

とにかく残響が多く、ピアノが遠く、演奏を台無しにしている。ショパンやシューマンの技巧的な曲は勿論、緩徐曲でも音色の変化が感じられず、怒りさえ感じるほどである。残響を好む方には良いかもしれないが、私は苦手なのでコンサートホールの前から20番目以降のようなこの音質はちょっと許せない。聴いたことのないマイナーレーベルだからか。

気を取り直して、ショパンのエチュードから。1曲目の10-1の出だし数秒で残りの11曲の演奏の程度も大体予想できてしまうのが怖いところだが、思わず軽くガッツポーズ。スピードは標準的だが、タッチに重厚感があって実にクッキリハッキリとした弾きっぷり。ロルティのように細かい音色の変化で聴かせる余裕はなさそうだが、それでも変にテンポを揺らしたりせず、生真面目路線で2:02で弾き終える(欲を言えば、「んっ?!」と思うところが全くないわけではないが)。10-2はやや一本調子。10-3は歌い方が柔らかく、メチャ巧い。10-4と10-5はどちらも10-1同様の明晰っぷり。10-6はややかったるい。10-7は録音のせいかややモゴモゴしてるか。10-8も粒立ちがいい。10-9は重く、ショパンらしくないかも。10-10も残響多めの録音で損をしている。10-11はふわっとしたタッチが聴けるが、硬質なピアノの音色と残響が台無しにしている。10-12も重みのある打鍵で迫力十分。しかし録音が・・・。

お次のシューマンの幻想「小」曲集Op.12。1・3曲目は語り口が10-3同様ハマっていて素晴らしい。2曲目も力強く、シューマンというよりはベートーヴェン的。5曲目もシブくて1本筋が通ったカッチリした演奏。ラストの8曲目は貫禄というか格調の高さも感じられて良い。あまり聴かない曲集だが、良い演奏だと思う。

最後のドビュッシーの前奏曲からの4曲。ここでは前の2作曲家と違い、さらなる音色の変化を表現している。1曲目は時にボヤけたような、霧がかったような、フワフワの綿アメを抱きしめたような、そんな音色だ。2曲目は録音のせいもあって明晰さに欠ける(意図的かも)。有名曲の3曲目はヘタなわけがなく、非常に感傷的。ラストの花火は優等生的ではないヴィルトゥオジティも感じられる。


というわけで、このゴルラッチの見落としていた盤、演奏は全体的にかなり良いと思う。クッキリしたフォルテやメリハリのあるデュナーミクは確かにベートーヴェン向きかもしれない。だが、何度も言うように録音が酷い(やたらと重厚感のある音も、録音によるものなのかもしれない)。リビングで大音量でかけるとまだマシなのだけれども、大きなマイナスだ。演奏だけでは80点台前半を付けてもいいかなと思いつつ、トータルでは70点ほどか。聴き直す回数は少なそうだ。残響好きの方にはいいかも。
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福間洸太朗のショパン・ピアノソナタ第3番ほか

以前、読者の方に「福間さんのショパンのソナタ3番は良いですよ」とオススメ頂いて早速NMLで聴き、今回改めて聴き直したのでざっくりと感想を書きたい。

まず録音が良い。音像への距離、明晰さ、残響、どれも申し分ない。そして際立つ技巧の高さ。以前、NHKの超絶技巧のピアノ曲紹介の番組で知ったが、この人の(少なくともメカニカルな面での)テクニック力は本当に高いと思う。解釈はオーソドックスで整いすぎていると言えばそうなのだが、「決して優等生的にはなりませんよ」という決意表明のようなアツい瞬間がどの楽章にもあるのがニクい(単に私の思い過ごしかもしれないが(笑))。

演奏時間は13:06/2:49/9:23/5:11で、全体的に私の苦手な遅めなのだが、細部の完成度、全体のバランスと説得力が素晴らしい。特に第3楽章は飽きさせず、極めて美しい音色で歌っており、単なる技巧派ではないことが分かる。それでも、評価一覧の方にも書いたが、終楽章のテンポが標準的なのだけが惜しい。惜しすぎる(まあ楽譜の指定に従ったのだろうけど・・・)。コンサートではまた違うのだろうか?ショパンのソナタ第3番は是非今後、熱く飛ばしたライヴ盤を発売して欲しい。

そんなわけで、引き続いてNMLで彼の他のアルバムもつまみ食いしてみた。

まずはリストのパガニーニ大練習曲。過去のテクニシャンの名演と技巧では一歩も引けを取らない。ラ・カンパネラも、トータルの感銘度はともかく技巧的にはガヴリーロフよりもずっと精密。やはり優等生で終わらないのもイイ(尤も、ガヴリーロフのように最後で爆発というほどではないけれど)。M・レカリオ(ラエカリオ)のようなブッ飛んだテンポではないが、あの盤はちょっと向こう見ずのギャンブラーの為せる技というか、ミスはないもののどこか綱渡り的な危うさを感じるところも無きにしも非ずなのに比べ、この人には安心感がある。第5番はちょっと誠実に過ぎるかなとは思うが・・・しかし、音色もメチャクチャ明晰で綺麗である。第6番だけは、ところどころでタメがあるのが惜しいものの、勿論最後のアルペジオは凄まじいスピードで攻めまくる。聴き込み次第では、レカリオ盤やフィリペツ盤の比較対象に・・・?と思わせるほどの印象。

続いて、トッパンホールでのリサイタルライヴがあったのでスクリャービンのソナタ3番を聴いてみた。出だしからほんのちょっと音を引っかけるが、途方もなく和音がよく響く。スタジオ録音同様、音が濁りなく鳴る。ただ、全体的にタッチが明晰なので(意図的とは思うのだけれど)、曲想的にもう少しくぐもったような、霧がかった音色も織り交ぜてもらえるとよかったかも。

そしてイベリア第1巻。じっくり、かなり遅いテンポの箇所もあるが、急速部分との繋がりも自然で、さほど違和感はない。やはりタッチは明晰で、どこまでもビシッと和音が響く。セビリアの聖体祭の例の箇所も鮮やか!1回しか聴いていないので、アローチャ盤、岡田盤、アムラン盤、アンウィン盤と比較してどうなのかまでは言えないが、抜き出して聴いたラバピエスを聴く限りは相当イイ線言ってると思う。

・・・日本人男性ピアニストでテクニシャン系というと、岡田博美氏、横山幸雄氏などのレジェンドがいるが、勝るとも劣らない技巧の持ち主だと感じた。とにかく明晰な打鍵と正統派な解釈が印象に残る。演奏がストレートなだけに技巧の高さが際立つ。今後もウォッチしつつ、是非コンサートにも行ってみたい。
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