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The melody at night, with you

音楽好きの世迷い言

続・Charles Altura

以前、ジャズ・ギタリストのチャールズ・アルトゥーラが気になるという記事を書いたのだが、それから彼がサイド参加した作品を3枚ほど聴いた。アメリカで「ネクスト・ライジングサン」と評判の彼の、ジャズ方面からの視点でレビューしてみたい(お分かりのように、私は1人のアーティストを深く掘り下げるタイプである)。


まずは彼の出世作??と思われる、チック・コリアのアルバムから。なぜか録音年の記載がないが、おそらく2013年初頭だと思われる。

IMG_20190210_082636.jpg


・・・実を言うと、私はチック・コリアが苦手である。何度も書いているようにキメの多いテクニカル・フュージョンが楽しめないのだ。演ってる本人たちは自身の演奏能力を十全に発揮する機会が多くて楽しいのだろうが、なんというかグルーヴに身体を委ねる喜びに欠けるというか・・・勿論、一概にフュージョン全部がダメなわけではないが・・・。

さて、結論から述べると、これはまさしく私の苦手なフュージョンであった。多作で知られるC・コリアとの先入観ということもあると思うのだが、いかにも超絶技巧の職人たちが集まって短時間で仕上げた「こしらえものの秀作」という感じがする。

ところで、アルトゥーラのギターは巧い。凄まじく巧い。youtubeでもライヴ映像を見ることができるが、HR/HM的なメカニカルな能力と、ジャズ・フュージョン的な和声的能力の両方を兼ね備えているという感じがする。アコギでの凄まじい早弾きなども聴けるので、どちらかと言えば前者寄りな印象がこの盤では強いが、以前紹介したD・スティーヴンスの盤では完全なジャズ寄りのプレイだったので、懐の深いギタリストなのだろう。とにかく卓越した指の運動能力に(久々に)耳を奪われた。

ブックレットの写真を見ると、どうやらストップテイルピースのギブソンES-335を使用しているようだ。テイルピースとブリッジの間に布??のようなものを挟んでいる。音色はエレクトリックな他の楽器群に埋もれないよう、基本的には薄く歪ませ、サステインも長めであり、箱モノ的なピッキングニュアンスのふくよかさやアタック感は楽しむことができない。

というわけで、彼が参加していなければおそらく聴くことはなかったであろう作品(苦笑)



続いて、ジャズ・ベーシスト、マット・ブリュワーのリーダー作品『アンスポークン』(2016)。

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実は彼のオリジナルは苦手である。以前、彼のリーダー作『Mythology』にラーゲ・ルンドが参加しているというので買って聴いたのだが、どれもテンポがノロく、出来損ないのフリージャズかゲンダイオンガクか??と思って頭に来て、短気な私はヤフオクかなにかで売り飛ばしたのだった(だから正直内容はよく覚えていない・・・音源は残してあると思うが。金の無い学生時代と違って、最近はあまり音盤を売らなくなったのだけれど)。


そんなわけで一抹の不安があったものの、アーロン・パークスも参加してるし・・・ということで買ってみた。


結論から言うと不安ド的中。この人はドロドロしたアンダンテ曲しか書かないのか、という記憶があったのだが、今回もそれ。1曲目はまあ掴める旋律があるので許せるが、それ以降はなんだかモヤモヤしててパッとしない曲ばかり(3曲目のフリーゼルの曲はなかなかイイ)。5曲目の『EVIL SONG』という3分ほどの曲は私からすればまさに悪意と邪悪に満ちたキモ過ぎる曲。演奏者のソロらしきソロもなく、意味が分からない。パーカーの『CHERYL』だけはスタンダードだけに、演奏者たちのまっとうなソロが聴けるのが救いだ。

ブリューワーへの悪口が続いてしまったが、アルトゥーラの話だった。はっきり言って、バシッ!と目立つソロがそもそも少なく、高揚感のある曲も少ないので評価に困る。また、音色はやはりセミアコを使用していると思われ、曲によっては薄く歪ませたりして、その音のよく伸びる具合を考えると結構コンプとかのエフェクトも使ってそうな感じ。正直、『ヴィジル』路線の音色で、個人的にはあまり好きではない。


唯一の救いと言えば、パークスのピアノが素晴らしいこと。2曲目の冒頭の繊細なタッチでの抒情的なフレーズにゾクッとする。まるでクラシックピアニストの演奏のようだ。以前、「アーロンはパークスよりゴールドバーグの方が好き」と書いたのだけれど、彼の若い頃の小生意気な「オレ天才なんです」感がいい具合に角が取れてきて、真の天才に仕上がってきた感がある(なんて偉そうなんだ。でも、カートの2012年『スター・オブ・ジュピター』の1曲目「ガンマ・バンド」のソロは難解??な展開に勢いとリズムだけで何が言いたいのか分からんかったし・・・)。というわけで、パークスの煌めく才能ばかりが目立つ盤。おそらく今後、ブリュワーのリーダー作に手を出すことはないだろう。



さて、3つは最新盤。つい3日前に発売されたてホヤホヤの新譜である。

トム・ハレル『インフィニティ』(2018)

tomhha.jpg


いつものようにユニオンに出かけると、いい具合のクリーントーンでバシバシとカッコいいフレーズを弾くギターが耳に飛び込んできた。これはもしやと思ってレジで確認するとこの盤てあり、やはりアルトゥーラのギターであった(!)。

Tom Harrell(tp, flh)
Mark Turner(ts)
Charles Altura(el-g, ac-g)
Ben Street(b)
Johnathan Blake(ds)
Adam Cruz(prec M3 only)


コード楽器がギターのみで、いよいよアルトゥーラの本領が発揮されるかと思い、ワクワクして聴いてみた。


これまでに紹介した4枚と比較して、もっとも一般的なジャズ・フォーマットに近い。全曲がトム・ハレルによるものだが、あまり非ジャズ・ビート的な曲(というかロックっぽいドラム)もあり、単なるジャズ・スタンダード感だけに留まらない。ブリュワーの曲よりは断然好ましい。目玉の1人であるマーク・ターナーはいつ聴いてもマーク・ターナーで、例の高音域からヒュルリと降りてくる手グセフレーズが聴けて思わずニヤリとしてしまう。ドラマーは起伏に富んだビートを叩き出しており、私好みの、なんというかロックなエリック・ハーランド感があって巧いと思った。


アルトゥーラの話をすると、活躍度ではこれまでで一番なのだが、正直なことを言うとジャズ的語彙の限界も見えた感がある。カートやL・ルンドなど、普段から先鋭的なハーモニーを駆使するギタリストばかり聴いているせいだと思うのだけれども、要は物足りないのだ。ハレルがバップ寄りのアドリブを繰り出すために、「空気を読んで」分かりやすいソロを弾いたのかもしれない。アコギでのソロもちょっと普通で、なんだかポップスのセッション・ギタリストが弾いているみたいだ。それでも私が店頭で聴いてカッコいいと思ったフレーズは、D・スティーブンスのリーダー作に参加したときにも聴いた感じの、ペンタ的な1弦につき2音ずつ弾くものに多少の味付けしつつ下降・上昇するもので、手グセなのかもしれない(それでもリカルド・グリーリの「ソレしか弾けないのかお前」みたいな手グセオンパレードでは勿論ない)。また、卓越した指回りを見せつける場面もやっぱり空気を読んだのか少なく、地味なソロが多い。


ギターの音色に関しては根本的な変化が感じられる。録音が2018年の終わり頃なので、これは彼が渋谷ウォーキン『Westville』にエンドースされた後だと思われ、ウェストヴィル製のセミアコギターを使用しているのではないか。クリーントーンはヒラヒラしてて軽めながら不思議と芯があり、同ブランドのサイトでのKurtのyoutubeで聴ける音と同じキャラクターである。これまでの音色より私好みである(単に一般的なジャズ形態の作品に合わせただけかもしれないが。それにしても・・・ウェストヴィルの躍進はすごい。今度はメセニーの"トリビュート・モデル"だってさ。売れるだろうなぁコレ)。


というわけで、アルバム1枚を聴き終わると、曲のモチーフもリフの反復を基調にしていて似通った感があって、おまけにアルトゥーラのソロも地味で、悪くはないのだが惜しい。彼はテレンス・ブランチャード監修の映画でもギターを弾くなど、各方面に引っ張りだこのようだが、いつか腰を据えてジャズなフォーマットでリーダー作を出してほしいと思う。私が一番好むコンテンポラリー・ジャズは、J・レッドマンらのジェイムズ・ファームのような音楽性なのだが、あそこにギタリストとしてアルトゥーラが参加してくれれば最高なのだけれど。おしまい。
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Daisuke Abe / On My Way Back Home

続けて日本人ジャズギタリストの作品を。



阿部大輔 『On my way back home』 2004年録音

阿部大輔:guitar
Walter Smith:tenor sax
Aaron Parks:piano
Matt Brewer:bass
Rodney Green:drums
Gretchen Parlat:vocals (tr 4,6)

阿部大輔氏は1978年生まれ、洗足学園短期大学ジャズ・コースで道下和彦氏に師事、同校首席で卒業後渡米、バークリー音楽院でミック・グッドリックらに師事、在学中に"Louis Belson Award"を受賞し、2002年卒業。その後、NYに滞在し、2005年にリリースされたのがこの初リーダー作品である。まずはともかく、御覧の通りメチャクチャメンツが凄い。今をときめくアーロン・パークス、マット・ブリュワー、ロドニー・グリーンら素晴らしいサイドメンを集めている。


さてこのアルバム、全曲阿部氏のペンによるものだが、一番の要点を述べるととにかく曲が良い。いわゆる一般的な編成のジャズ作品だが、どれも印象的なテーマで、見た目の通り(??)いかにも生真面目そうな日本人が書いたバランスの良い(≒ベタすぎない)メロディックな曲が揃っている。タイトルトラックの1曲目、アップテンポでいかにもギタリストが書きそうな旋律。アドリブはやや堅い??感じがしてすぐ終わってしまう。他のソリストも、「曲に馴染んできたかな?」と思うところで終わるので、物足りない。2曲目、メセニーにも通じるキャッチーで分かりやすい佳曲。非常に印象に残る。3曲目、これも比較的速めのテンポ。ギターの音がM・モレノみたいで、プレイも若干そんな印象がある。これはサックスのソロに行く前のサブテーマみたいのが実に美しい。ただし、やはりソロは短い。4曲目、歌が入ってくるが、このヴォーカリストがまた良い声で、おまけに曲もいい(歌詞はなんとロドニー・グリーンが書いたという)。当時二十歳そこそこと思われるパークスの伴奏も光る。曲に合わせ、ここではアコギをプレイしているのが「わかってる」という感じがする。


5曲目、最も長尺の曲(8:15)で、ようやくたっぷりソロを取ってくれたという感じ。クインテットなら10分くらい演奏してほしい。6曲目の歌、さっきよりもアブストラクトでちょいとダークな、不思議な切なさを備えた曲。ギターはフルアコで、歌と時折ユニゾンしつつ、ソロも取る。7曲目、これも快速テンポで、あまり旋律が跳躍しない、1曲目同様な感じのテーマの曲。ブリュワーのベースがようやくグイングイン来る。テナーも一発目にガツンとしたソロで本領発揮。続くギターソロがこれまた短い!(そのあとにドラムソロを入れるせいだろうか。それも短いが)。この曲にはパークスが参加しておらず、阿部氏のバッキングを堪能できる。8曲目、なぜかこの曲だけギターソロの音色がかなり前面に来て力強い(というか各楽器のソロごとに音がフォーカスされて解像度が著しく上がる感じ)。阿部氏のソロは広い音域を跳び回り、抽象的な現代詩をそらんじているような演奏。パークスのソロはやや常識の範囲内かな。スミスのソロも少々盛り上がりにかける。テーマもアルバム前半に比べれば少し取っつきにくいか。終曲、サックスとピアノが巧みなユニゾンで伸びやかなテーマを奏でる。直後にブリュワーのベースソロ。音が少しコモり気味なのが惜しいかな。ギターソロはラーゲ・ルンドみたいな広大なアルペジオが登場する。個人的な好みとしてはやはり短すぎる。


ギターのプレイは先に述べたように、私の知っている他のギタリストで例えるならばマイク・モレノに一番近い気がする。使用ギターはギブソンの1970年初期のES-330で、この年代の個体は日本ではあまり見かけない。サンサンゴと同じシェイプのシンボディながら、センターブロックのないフルアコ構造で、サステインが強すぎず鳴りがふくよかな感じ。モレノっぽいと書いたのは、空間系のエフェクトを強めにかけていること(笑)透明感がありながらも芯のある音色で、けっこう私好みである。録音は各楽器のバランスが良いのだが、曲によってはベースが小さく感じるのが勿体ない(Vo曲は聞こえるがそれ以外がかなり低音が物足りないのでリビングで聴くときはウーハーを上げている)。


というわけで、感想をまとめる。アルバム前半に特に良い曲が揃っており、サイドの演奏も実力通りに素晴らしく、ギターは派手さが無くやや印象には欠けるが好みの音色で、各奏者のソロが短いのが一番惜しいところ。もう15年も前の作品だが古さは全くなく、他の欧米のコンテンポラリー・ジャズギター作品に微塵も聴き劣りしない良作だと思う。現在も阿部氏はNY在住で活躍とのこと。下に氏の動画を貼っておく。この時と同じスタイルの演奏ながら、さらに深みを増した艶やかなギターが聴ける(ドラムが近く、ギターが小さいのが残念・・・)。





なお、彼のHPにはジャズギター講座の紹介があり、「ジャイアント・ステップスをペンタだけで弾く」などの実に有益な動画がある(私はこの手法を、最初にジャズギターを教えて頂いた菅原邦弘先生に、「スコット・ヘンダーソンが「こんなの1日中続けられるよ」と言ってペンタで弾きまくってるんですよ」と習った記憶があるが、知らない方は驚かれるのではないかと思う)。

来日されたらライヴにも行ってみたい。
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Motohiko Ichino / Sketches

普段ジャズギターは90年代以降の盤を中心に聴いている。海外ギタリストの作品が多いが、日本人は布川先生しか聴いていないのかというと、もちろんそんなことはない(文京区立図書館でたくさん聴いた(笑))。今日は珍しく、日本人ジャズギタリストの作品を。


sketches
(サイン付き)


Motohiko Ichino / Sketches (2005録音)
市野 元彦 - guitar
東保 光 - acoustic bass
嘉本 信一郎 - drums
かみむら 泰一 - tenor sax (Tr 2,5,6,10)


市野元彦氏は1968年生まれ。大学卒業後に渡米し、バークリー音楽院にてミック・グットリックらに師事、帰国後2003年のギブソン・ジャズ・ギター・コンテストで優勝している。この作品は彼の初リーダー作である。例によって私は10年ほど前のジャズ・ギター・ブックの記事で市野氏を知った。


ジャズギターは、モダンジャズ・後期モダンジャズ・フュージョン寄り・フリージャズ寄り・コンテンポラリー等に大きく分けられるかと思うが、この作品はジャズをフォーマットとしつつも、どこか音響系・エレクトロニカな雰囲気を漂わせた1枚となっている。全曲が市野氏の作曲で、どれもオリジナリティがある。美しいが抒情的になりすぎないテーマ、やや暗めでモノトーンな録音でセピア色の写真のようにノスタルジックな雰囲気、そして何より磨き選び抜かれたギターのヴォイシングが非常に印象的だ(彼のサイトを見るとそれも頷ける)。CDの帯にあるように「心象風景」「音の~スケッチ」という紹介はまさに、という感じがする。


アルバムの雰囲気を思い切り乱暴に例えると、「エレクトロニカに転向したジョン・アバークロンビーがECMから離脱し親指で弾いたトリオ作品」という感じ(サックスはゲスト的参加)。"アンダーサム"と呼ばれる(らしい)右手の親指中心の奏法による透き通ったギターの音色が素晴らしい(この作品の使用ギターはブックレットに書かれていないが、彼は渋谷ウォーキンのアーチトップ・トリビュート、現在は同店のWestvilleを使っているはず)。


ECMレーベルのような、抒情的だけれどもどこか透徹したそっけないまでに冷たいがゆえに切ないような雰囲気はない。時折、ネックベンド(??)でピッチを揺らすところなど、音響系的というかオーガニックな印象さえ受ける。そして繰り返しになるが、ヴォイシングが本当に美しい。ソロも無駄な音は一切弾かないというか考え抜かれた音を紡いでおり、そのラインは私の知る他のどのギタリストにも例えることができない(アルバムの雰囲気はアバクロ的だが、プレイ自体は全く違う!)。私はこんなブログを書いてるので、ピアノもギターもテクニック重視で派手な超絶技巧作品が好みと思われそうだが、このような一見地味だが知的に洗練された音楽も大好きである。


プレイの中心は転回コードによる、素人ギター弾きの私からするとあまり聴き慣れない、しかし非常に惹きつけられるヴォイシングである。ブルーノートの典型的な用い方をしていないのか泥臭いような雰囲気は一切なく(※ 7曲目で一カ所あった)、洗練された響きがアルバム全体に通奏低音のように流れている。多くの曲はその和音をモチーフにジャズなビートで展開していき、旋律は現代コンテンポラリーのように抽象的ではなく、しかし甘ったるくキャッチーでもない、そしてどこか日本人的なわびさびを感じるもの(私がよく用いる例え)だ。サイドについても書いておこう。サックスが苦味を感じる実に渋い音色を聞かせるのだが、録音のせいかやや一本調子な音に聞こえる。ベースも音像のスケールが小さく、全体的に録音クオリティは少し残念な感じを受ける。ただ、ドラムの距離間は遠目だが、邪魔をしてないのがイイ(これギター作品では重要)。


この後、彼は佐藤浩一氏(布川先生のカルテットのピアニスト)らとrabbittoというグループを結成、より音響的・エレクトロニカに漸近した音楽を奏でている。私的にはそちらも大好きなのだが、一般的なジャズフォーマットからさらに離れ、おまけにギターのソロが少ないので紹介はまた別の機会にしようと思う。


というわけで、オーガニックかつノスタルジーに満ちつつも洗練された印象と、こじんまりとはしているが知的な雰囲気に満ちており、聴けば聴くほど心に沁みてくる懐の深い作品である。私の愛聴盤であり、大変オススメ。
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Vic Juris / Roadsong

最近レコードについて書いてない気がしたので、ジャズ絡みの盤を。

vic

ヴィック・ジュリス / ロードソング

1977年/MUSE/MR-5150
Vic Juris(g)
Barry Miles(key)
Terry Silverlight(ds)
Rick Laird(b)
Jon Budsrr(b) ※A3
Richie Cole(as) ※B1,B4

1953年生まれのジャズギタリスト、ヴィック・ジュリスのデビュー盤である。もうそろそろおじいちゃんな歳だが、近年もバリバリSteepleChaseから作品を出している(全然チェックしてないけど…)。

このレコードは私のバイブルであるTHE DIGによるディスクガイド、『JAZZ Guitar』で「未CD化のアナログ」ということで知った覚えがある。Discogsを見てみると、残念ながら今に至ってもCD化はされていないようだ(ジョン・ストーウェルのデビュー盤とかは確かCDになってるのに・・・)。最近、数年ぶりにジャズのセッションに出かけたこともあってギターづいていることもあり、久々に取り出して聴いてみた。

うーん何度聴いてもポップ。キャッチーなメロディのテーマとAOR風なカッティング、そしてギターはマルティーノライクな16分の直線的ラインとポキポキした音色で弾きまくる弾きまくる。当時24歳だが曲の分かりやすさとよく回る左手のテクニックが凄い。すでに完成されている感がある。

A1「Roadsong」は勿論ウェス。オクターヴを交えるギターのリズムの締まりが凄い。ドタバタしたドラムのコンプが効いたバスドラはジム・ホール『アランフェス~』のスティーヴ・ガッドみたいだ。ソロはどこまでもマルティーノ感満載で弾きまくり。A2、ジュリスのオリジナルですんごいポップ。野原で子どもが駆けてるような、昭和の終わり~平成初期のNHKの天気予報のバックで流れてそうな曲。A3、ジュリス作。さらにバラード的でギターのナチュラルハーモニクスとシンセが美しく絡み合う。テーマも実に分かりやすい。チョーキングも織り交ぜるが、そのタイム感・ピッチ感は只者ではない。ラリー・コリエルっぽさも漂う。A4はシルヴァーライトの曲で短いがジュリスの派手なソロが聴ける。

B面はすべてジュリスのオリジナル。スピードはマルティーノを超え、J・ウィルキンス的でさえある(なお、ライナーによると1曲だけ参加のジョン・バーはウィルキンスのアルバムへの参加経験があるらしい)。B1はキレのあるカッティングにアルト・マッドネスことリッチー・コールが混ざってきて、よりAOR的というかフュージョン的。ただし、私の苦手な「コーラスびんびんギター&細かすぎるキメ」はないのでとても聴きやすい。B2はこのアルバムの中でも最もキャッチーなテーマ。正直恥ずかしくなるくらい。ドラムのビートが心地良い。ギターの音のコモりがやや強いのが惜しい。ソロは教科書的で分かりやすいが、やっぱりところどころで一瞬マルティーノが顔を出す。トライアド+αな手グセのアルペジオを繰り返しつつ、フェイドアウトで終わる。B3はテンポが速く、さらに途中でチェンジする。テーマは直線的でスピーディ。バリー・マイルズが切り込んで来てシンセのソロが始まる辺りなんかは、ナショナル・ヘルスのデイヴ・スチュアートみたいだ。ラストのB4、リッチー・コールとのユニゾンでちょっとフュージョンにありがちなテーマを奏でる。まずジュリスがバリバリ弾きまくり、その後コールがテーマの崩し風な出だしから控え目で短めのメロディックなソロを取る。アウトロでもジュリスは弾きまくってアルバムは幕を閉じる。

もう42年も前の作品だが、当時としても非常に分かりやすくて「バリバリのジャズギター作品」ぽさは薄いかも。プレイもメジャーペンタ率が思いのほか高いというか、急速フレーズもクロマチックを織り交ぜたシンプルなラインに聴こえる。ただし、キャッチーなテーマ連発ながらイージーリスニングな印象がないのはやはり高いテクニックによるものだろう。むしろこの演奏の「分かりやすさ」は、ジャズギター聴き始めのギター小僧にイチオシできる快作だと思う。

それにしても・・・ダグ・レイニー(1956)、メセニー、ディ・メオラ(1954)、リー・リトナー(1952)、ロベン・フォード、ジョンスコ(1951)という同年代の充実ぶりは凄い(ジュリスは渡辺香津美と同い年)。

「アナログレコード」カテゴリの記事であるから音質についても書いておこう。残念ながら、音質はそれほど良くなくて、オーディオ的な楽しみは少ない。録音エンジニアはかのR・ヴァン・ゲルダーだが、ジュリスの趣味でギターの音がコモリがちなのもあるし、前述したドラムのコンプ感に時代を感じるし、全く存在感のないベース、シンセの音量のバラつきなど、もう少しなんとかして欲しかったと思う。尤も、私の持ってるのは邦盤なので、USオリジナルはもっと良い音なのかもしれない。気長に探してみようと思う。
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Matthew Stevens / Confidential

ティエンポ盤に続き、年始にゲットした激レア盤を。ただし、ジャズ。


マシュー(マット)・スティーヴンス『コンフィデンシャル』

mattste.jpg


新しくなった新宿ジャズ館の廃盤特集で見つけ、説明の帯には「ライヴ会場のみ販売」とある。相当なレア盤かもしれない。とりあえず手に取り、ネットで色々調べるが情報が出てこない。ジャケもきちんと販売されたCDみたいで怪しいので、ひとまず試聴をお願いしてブックレットを見てみる。

matste2.png
(サイン入り)


ご覧の通り、メンツが良い。ジェラルド・クレイトン(ジョン・クレイトンの息子)、ウォルタースミス3世、ジャマイア・ウィリアムス、そして私の好きなジョン・エスクリート。これが決め手となって、(私的にはかなり高かったが)試聴もそこそこに買ってしまった。なお、プレスCDではなく、裏青盤(CD-R)であった。

マット・スティーヴンスは、K・ローゼンウィンケル以降の今をときめくジョナサン・クライスバーグ、ラーゲ・ルンド、ギラッド・ヘクセルマン、マイク・モレノ、ジュリアン・レイジらの新鋭ジャズギタリストと比して、やや遅れて現れた感がある。初リーダー作が2015年の『ウッドワーク』だから、その実力が日の目を見るまでに時間がかかってしまったと言えるだろう。私は2009年秋に出版されたジャズギターブックvol.23で石沢功治氏がイチオシしている記事で彼を知ったのだが、2015年のこの『ウッドワーク』でようやくプレイを聴いたのだった。


さて、この謎のアルバムについて。


録音は2010年。曲は完全にコンテンポラリーを基調としたジャズ。聴く前はどこかのライヴハウスでの演奏をパッケージしたものかと思ったが、さにあらず。完全に計算されつくしたスタジオ作品で、ギターなども持ち替えているのか、それともオーヴァーダブしてるのか?という感じ。テーマで各メンバーのアドリブを挟む、という一般的なジャズスタンダード感はあまりない。ギターやピアノのリフを基にテーマを展開し、不可逆的な進行でたまにアドリブを挟む。プレイヤーの腕の見せ所を陳列する印象はなく、あくまでソング・オリエンテッドな感じさえ受ける。リズムはあまりジャズスタンダードのそれではなく、手数の多いドラムはロックやフュージョンの激しさも持ち合わせ、やたらとキメの細かい曲もある。ベースレスでオルガンが担当しているせいか、エレクトリック感が強めで、(よく私が用いる喩えだが)70年代のプログレ・ジャズを現代にブラッシュアップさせたような雰囲気だ。


1曲目はピアノとなんとアコギによるシンプルなリフに乗せて、何度かテーマを挟みつつ、オルガンとギターがテーマをバックにソロを取る。ドラムがシンバルを叩きまくって盛り上げつつ、ギターがここぞという所で入って来るので、壮大なスケール感がある。アルバム冒頭というよりはラストに回した方が良さそうな曲だ。2曲目はこれまたドラムが激しく、音数の多いイントロで始まる。クールダウンしてギターがカートの曲みたいに音数が少ないシンプルなメロディを反復したテーマを奏で、その後かなり抽象的なソロを引き続いて取る。テンポは変わるものの、この曲の半ば辺りがアルバム中で一番スタンダードなジャズビートか。曲の終わりはドラムが耳障りなほど暴れまくる。3曲目、細かいキメのあるテーマの後、ピアノにところどころ合いの手を入れられながらのギターのソロ。フュージョン風味が無きにしも非ずだが、ギターのグルーヴはコンテンポラリージャズのそれか。続いてサックスがソロを取る。エスクリートが絡んでくるのが彼が好きな私には嬉しい。最後はピアノのソロ。途端にスペースの出来た空間の中を、ドラムのプレイに合わせながらセンス良く弾いている。


4曲目はオルガンのコードに導かれつつ、サックスとギターで伸びやかなテーマ。ピアノ→サックス→ギターの順でソロを取っていく、最も長尺のトラックだ。ギターはバリバリ弾きまくる、という感じではないが、オリジナリティを感じる。ラーゲ・ルンドのように幅広いインターバルを織り交ぜてタテに自在に飛び回るというよりは、アダム・ロジャースやウルフ・ワケーニウス的なヨコに曲線的なラインを聴かせる感じか。5曲目はアルバムの中では比較的静かな曲調で、一休みな印象。ギターとピアノが2音から成るアルペジオを奏で、サックスが絡みだす。5曲目、6曲目もキメの細かいユニゾンなテーマのあと、ギターがソロを取る。アダム・ロジャースみたいな音色だが、彼より音がこもっておらず、流麗さでは敵わないがジャズギター弾きが喜びそうなフレーズを弾いている。その後のエスクリートのソロが「らしさ」全開で素晴らしい。そんなに長くないのが惜しいが(ちなみに私がエスクリートに注目したのは、A・ロジャースもサイドメンとして参加しているA・シピアジンの作品『BALANCE 38-58』だ。とても気に入っている)。最後の7曲目は比較的落ち着いたテンポで始まり、またまたカートみたいなシンプルなモチーフを繰り返すテーマをバックに、ギター、サックス、ピアノの順にソロを取る。ギターの音色はこの曲が一番心地良いかな。


アルバム全体の印象をまとめると、「アドリブソロのための曲」というよりは、緻密に計算された楽曲のまとまりを重視した作品であり、各プレイヤーのソロの見せ場は少なめな印象。特にギターは期待したほど弾きまくってないので私には些か物足りない。また、ドラムの手数が多すぎ、どう考えてもうるさすぎる。オルガンの使い方が一般的なジャズのフォーマットではなく、私からすると先ほど述べたようにプログレ・ロック的に感じる(勿論スティーヴンスの意図なのだろうが)。ピアノは流石に期待通りの貢献度。曲も、モティーフの反復からなるテーマが多く、出来は悪くないのだが「金太郎飴」な雰囲気もある。


ギターの音色は、メセニーとU・ワケーニウスとA・ロジャースを足して4で割ったところに、デヴィッド・ギルモア(フロイドの方にあらず)とW・ムースピール風味をブレンドした感じ。要するに、ナチュラルなアーチトップサウンドをマイク感のあるP.U.で拾った感じではなく、アンプからの出音を基準に音作りをした、サステインと柔らかい弾力性に富んだエレクトリックなサウンドだ。曲によってはギターを持ち替え(曲中でも?)、一部軽く歪ませている曲もあると思われ、クリーンさというか透明度はそれほどでもない。無理やりプレイを喩えれば、ロジャースに0.7をかけてギルモアのカツラを被った感じか。

・・・長くなったが、最後に。このアルバムの謎は簡単に解けた。現代ジャズ辞典のマット・スティーヴンスの項を見ると、「2010年にはウォルター・スミス三世、ジョン・エスクリート、ジャマイア・ウィリアムスを起用して『Emergence』を録音する。しかし発表には至らず、結果的に幻の初リーダー作になってしまっている(2014, NPR)。」とある。アルバムタイトルこそ違うが、4曲目に「Emergence」という曲があるし、メンツも同じであるので、これがその「幻の初リーダー作」なのだろう。おそらく権利関係のせいでお蔵入りになってしまったと思われる。次の2015年『ウッドワーク』の発表まで6年もかかってしまったわけだから、彼には思い出の詰まった作品であるに違いない。


そんなわけで、超激レアな雰囲気の漂う「幻の初リーダー作」であるが、正直その大きな期待からすると応えきれていない。「超名盤なので皆さん探しましょう」とか自慢げに書ければいいのだが、残念ながらティエンポ盤に続いて(負けではないが)レア盤勝負は2引き分けである。音盤道はそんなに甘くはない。
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