音楽好きの世迷い言
The melody at night, with you
人類史上最強のライヴ〜MAGMA『LIVE』音源聴き比べ〜2017/5/20追記
2017-05-20-Sat  CATEGORY: 音源聴き比べ
2017/5/20 Victor 20bit K2 盤(Charlyライセンス)紙ジャケCDを追加



録音として聴ける人類史上最高のライヴは何か?




フルヴェンのバイロイト第9のSACD?それとも、音質ならレコードにこだわってFALP盤?いやいや、第9に限っても壮絶という点ではテンシュテットのBBCから出てる1985年ライヴの方が・・・




「最高」と銘打つと異論反論が多いに決まっていますし、私もどれか一つを選ぶことなどできません。しかしながら、「最強」のライヴ、ならば私は確実に「コレしかない・・・!」という1枚を選ぶことができます。




それが今回ご紹介する、フランスが誇るプログレッシヴ・ロック・バンド、MAGMAによる1975年の『LIVE』です。


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「最強」とは何を意味するのか?メンバーがケンカに強いのか?(笑)そして、クラシック音楽サイト(のはず)なのに何故プログレなんだ?と思われるかもしれません。順に書いていきたいと思います。




このアルバムは、音楽の持つ躍動感、エネルギー、そして演奏者のみならず、観客も含めたライヴ空間において生み出されるほとばしるような「生命力」が、私の聴いたどの録音作品よりも「強い」のです。実に力強く、まばゆいばかりに美しい。時に怪しく、狂気に満ちて、常軌を逸しているかのような壮絶なテンション。何より、「ライヴ」でなければ、生み出されることはなかったであろうという必然が、何よりもこの作品の価値を高めています。私が10年以上前に某SNS上に書いたレビューを紹介しましょう。



「コバイア星からやってきたフランス人、クリスチャン・ヴァンデ率いるプログレッシヴ・バンドの伝説的なライヴを収めた2枚組CD。僕が聴いてきた全てのアルバムの中で最強の作品である。最強の定義も意味もここでは述べないが、とにかく聴けば納得してもらえるはずだ。

 『マグマ』で検索してファンサイトを見てみて欲しい。どれほどの人がこの作品を畏怖し崇拝し讃えているか。「とても人間の所為ではない」「ライヴとは思えないがライヴでなければありえない演奏」「鼻血が出る」などの表現は決して大げさではなく、この「作品を聴いた人間は皆「事実だ」と答える。マグマのように演奏出来たバンドは現実に存在せず、かつて存在したこともなく、これからも存在しないだろう。
 
 7/8拍子のアルペジオをシーケンサーのように正確無比に弾き続けつつ曲の骨子を刻むキーボード、複雑で長大な構成の曲を絶妙のタイム感と多彩な装飾で駆け抜けるギター、インプロヴィゼーションでヴァンデと堂々と渡り合う当時17歳とは到底思えないロックウッドの叫ぶような狂気のヴァイオリン、マグマをマグマ足らしめる大きな存在となっている、コバイア語で歌われる不気味なヴォーカル&コーラスの迫力は既存のポップスに聴き慣れた人へ鉄槌を下すこと間違いなしであり、脱退したもう一人の異星人、ヤニク・トップの穴を見事に埋めたパガノッティが奏でる地獄の底を這うような音色のベースは、この楽器をどう弾けばそのような音が出せるのか僕には全く想像もつかない。そしてそれらの楽器全てをまとめ、鼓舞し、爆発させるヴァンデの燃えさかるようなドラム・・・。
 
 奇数拍子のリズムで執拗に繰り返されるフレーズに極度の恐怖感を覚え、徐々に加速しながら導火線にジリジリと火が着き、ついには爆発していくような緊張感と迫力に満ちたインタープレイの連続は聴く者の耳を捕らえて離さない。一体これはなんなんだ。大曲『コンタルコス』の驚異のブレイクでは耳を疑うこと間違いなく、『ハーイ』の高揚感・疾走感はどこまでも高く上り詰め、終曲『メカニック・ザイン』ではこの世の全てを超絶する驚愕の演奏のオンパレード。恥ずかしながら臆面もなく「奇跡」の演奏と言わせて頂こう。それはもはやプログレでもジャズ・ロックでもなく、マグマというジャンル以外の何ものでもなかった。」



・・・我ながら読み返すと恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまうのですが、これは私の所有するすべてのアルバムの中で、最も大切に思っている作品の1つなのです(他にはRADIOHEADの『OK computer』や、おなじみアントニオ・バルボーザのショパンピアノソナタ集、カート・ラダーマーのゴルトベルクなどがあります)。




さて、そんな大切な作品なので、出来るだけ良い音で聴きたい、というのは当然です。かと言って、メディア別にコンプリートするつもりもさらさらないのですが、ふと手持ちの3種類を聴き比べようと思い立ちました。なお、今回の聴き比べにおいて、2枚組すべてを聴き通したのは、体力の問題と家庭の事情により下記の②と③です。その上で、私の最も好きな「Mekanik Zain」を3種類交互に聴き比べました。予めご了承ください。






①輸入盤2枚組CD(SEVENTH Records)

②SHM-CD(SEVENTH Records)

③フランス・オリジナルUTOPIA盤CYL2-1245


 


学生の時にサークルの先輩に薦められて買って聴いたのが①の2枚組。私にとって初めてのマグマ体験であり、それまでの音楽観を変えてしまうようなとてつもない衝撃を受けた。それこそ何百回聴いたかわからない。私も楽器を演奏する人間の端くれとして、「プレイアビリティ」によって音楽の質が高まって行くようなジャンルが好きだ。クラシックはその究極だと思う。極限まで磨き抜かれたロルティやポリーニのショパンエチュードは我々の心を捉えて離さないし、ルービンシュタインのバッハ=ブゾーニのシャコンヌは枯淡の境地にあって、技術だけではない何かが魂に訴えかけてくる。


そしてジャンルは違えど、このマグマの『ライヴ』はプレイヤーの演奏能力が極限まで引き出され、ライヴならではの即興性と興奮が奇跡の演奏を創りだした。それは1日10時間のリハーサルに励むという、途方も無い努力と技術の結晶でもある(その上でさらに個人練をしていたのだろうか?恐ろしい)。


さてこの名盤、まず聴き慣れたセヴンス盤CD①から聴いてみる。


良い。実に良い。何度聴いたかわからないが、聴くたびに同じ感動を味わえる。音はヴォリュームを少しずつあげても音がキンキンせず、実に自然。シンバルの音の細やかさや各楽器の定位と空気感もよくわかる。この歳になって冷静に聴いてみると、いかにもアナログ音源をCD化したのっぺり感というか金属的な音の佇まいがあるが、それほど気にならない。


次にSHM-CD②。あくまで個人的な印象であるが、クラシックファンの間ではSHM-CDの評判はよくないように思う。尊敬する加藤さんのページでも否定的な評価をされており、私自身も幾つかSHM-CDを聴いたが、特にピアノは不自然に音が強調されている感がある気がしてあまり好きではなかった。


ところが、スティーリー・ダンの『プレッツェル・ロジック』のSHM-CDをたまたま聴いたところ、そのクリアな音立ちにビックリしたのだ。特にヴォーカルの印象の変化が大きい。iPodに取り込んでみても違いは顕著だった。そんなわけで、「忠実な原音再生が求められるクラシック」ではSHM-CDは不利で、「多様な音が入り交じったロック」ではSHM-CDは有利なのかも、と推察したのだ。そんなとき、池袋のユニオンで紙ジャケの当盤を見つけ、多少のプレミア(中古なのにほぼ定価)が付いていたものの、音質向上してるかもと期待を持って買ったのだった。


さて、前置きが長くなったがSHM-CD②を聴いてみる。①と同じヴォリューム設定で聴くと、凄まじい爆音!(耳が死ぬかと思った)相当レベルを持ち上げて音圧を稼いでいるようである。これがクリア。めちゃくちゃクリア。それでいて、音の輪郭がはっきりとしており、ぼやけることがない。加えて各楽器の音の分離の良さや、耳馴染みの良さがハンパではない。音数の多い情報が整理・整頓されて耳に届けられるのは非常に心地が良い。特に、ヴォーカルのクリアさは特筆ものだ。臨場感がグッと増している。



素晴らしい。本当に素晴らしい音質だ。



買ってよかったと思った。ここで止めておけば幸せだったのかもしれない。ところが、アナログ好きとしてフレンチプレスのユートピア盤のオリジナル・レコードを聴かないわけにはいかなかった。何故なら、愛読させて頂いているgeppamenさんのブログで「セヴンス盤CDより遥かに音質が良い」と書かれていたからだ。これは避けて通るわけにはいかない。そこで、ebayやDiscogs、さらにはCD&LPでフランスオリジナルのレコードで探した。結構枚数が出ており、常時入手が可能な感じであったが、音質を聴き比べるのだからなるべく良いコンディションのものを選んで購入した。ジャケの状態はイマイチだったが、フランスから送料込みで4000円で入手できたので格安と言ってよいだろう(ちなみに入手時期はSHM-CDよりずっと前)。




というわけで、レコード③。



ムム、、、こ これはあまりよくない。



・・・おかしい。レコード単体で聴いたときは気にならなかったのだが、こうしてCD2種と聴き比べるとよくない。レンジが狭く、低音は出ているものの音ヌケが悪い。シンバルは飛散する音がザラついており、何よりヴォーカルが遠い。これは痛い。その場の空気感というか臨場感というものもアナログ特有の致し方ないノイズのせいか、どうも聴き取ることができない。これはレコード原理主義者としてガッカリだった。。SHM-CDの方が断然良いではないか。




ここで止めてもよかったのだが、家族が不在だったのでせっかくだからさらにヴォリュームを上げて「メカニック・ザイン」を3種類もう1周しようと思った。防音室ではないリビングなので近所からのクレームが不安だったが、聴いていて耳が痛くなるギリギリまで音量を上げて再び聴き始めた。




するとどうだろう、評価が一変したのだ!




これには驚いた。まず通常盤CD①。ヴォリュームを上げても音の輪郭が壊れず、自然に全ての帯域が持ち上がる。高音がキンついたり、低音が被り気味になったりすることがない。ただ、あるところで音が薄味になるというか、中域が物足りなくなるポイントがあった。それでも最初の評価が大きく揺らぐことはない。




ところがSHM-CD②、これが酷い有様だったのだ!まず、音の輪郭が崩れる。細かくイコライジングしてCD化を行ったのだろうが、楽器によって音の密度に差が現れた。特に顕著だったのはマグマの命とも言えるヴァンデのドラム。スネアの音色が潰れて「ボテッ」と聞こえてしまい、全然美しくない!そして何より、最初に聴いたような感激が確実に薄まってしまっている。なぜだろうと何度か繰り返し聴いてあることに気付いた。




ヴァイオリンの音色が美しくないのである。




この作品で最もテンション高く叫び続けているロックウッドの壮絶なヴァイオリンの音色が、完全に飛んでしまっている。何度聴いてもあまりの名演に耳を奪われ、音色の退化にまで恥ずかしながら気付くのに時間がかかってしまったのだ。まるでCD化に失敗したクラシックのCDを聴いているかのようだ。ペンチで潰して平らに伸ばしたかのような、そんな無機質で無表情な音になってしまっている。





そして、もしやと思って再度聴いたフランスオリジナル盤LP③。音量はすでに爆音に近い。


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凄まじい。これこそMAGMAの『LIVE』である・・・!




喉元に銃口を突きつけられているような、ヒリヒリとした緊張感の中を執拗に繰り返されるリフの上で、縦横無尽に弾きまくるロックウッドのヴァイオリン。その豊かに伸びた中域は音色に艶があって実に素晴らしい!パガノッティのベースはとんでもない音の太さで、これを聴いてしまうとSHM-CDは昭和製の掃除機の断末魔のようだ。先ほど気になったヴォーカルの定位の遠さは全く気にならない。ヴァンデのドラムも相変わらず煮えたぎっているまさにマグマのようで、スコンスコンと叩かれる高めのピッチのスネアの音色が実に爽快極まりない。やはりレコードは原音再生の忠実度という観点からすると大きくデフォルメしているのは間違いないが、その当時の時代・空気感・バンドメンバーや録音スタッフ、プロデューサーの感性がこの歴史的名作を生み出したのだ。後年のものがどれだけリマスタリングを施そうとも、超えられない「音」が、この黒いヴィニールには詰まっているのだ。心の底から感激した。




さらにヴォリュームを変えて聴いてみた結果を表にまとめてみると以下のようになる。



メディア音量小音量中音量大
セヴンス盤通常CD
セヴンス盤SHM-CD×
フランスオリジナルUTOPIA盤LP
ビクターK2(Charly)盤


普通に聴く音量ならSHM-CDは非常に優秀。私もiPodや車のHDDには①でなく②をリッピングして通勤中・運転中に聴いている。レコード③のナロウレンジな感は否めないのだが、レコードから飛び出してくる音のカタマリの圧倒的な迫力は何者をもなぎ倒すような凄まじいもので、すべてのマグマファンに是非とも聴いてもらいたい素晴らしいオーディオ体験である。結局のところ、geppamenさんが正しかったのだ。これにより、「弦楽器はレコードフォーマットが優位」という自説の補強が(まさかマグマの『ライヴ』によって!)再びなされた気がする。



・・・と思って、SHM-CD盤の解説ブックレット読んでみると、日本にマグマを普及させた貢献者の一人である元ディスクユニオン営業部長の竹川真氏が次のように書いていた。



「この「LIVE」実はCharly原盤のビクター盤も存在する。その音もSEVENTH盤に比べオリジナルミックスからのリマスターでもあるため、渾然一体のあの圧巻な音が見事に再現されている。一方SEVENTH盤は24チャンネルマルチトラックからのリミックス盤のためCharly原盤では捉えられない細かい音も収録され音の分離感はすこぶるいいが、ひとつの音の塊で一気に聞き手を喝破するような迫力は乏しい。よって今回のリマスターはその圧巻な音をきめ細かい分離感を残しながら再現することに重点を置く作業となった。ところが送られたマスターはCDとほぼ同内容の音質でベースのロウ感の足りないものだったため、再現するのに大変な日数を要してしまった。単純にロウをあげてもこもってしまうので、結局は聴覚で一番説得力あったある帯域のみを持ち上げてマスタリングをしたものである(後略)」



このように私がこのSHM-CDに抱いた印象とほぼ同じことが書いてあり、結局のところこのフォーマットはSHM-CD盤のメディアとしての優位性が問える商品ではないような気がしてきた。そして、アマゾンのレビューなどでは酷評されているCharly原盤も聴いてみなければ、という気になってきた。うーんまた出費のかさみそうな宿題を見つけてしまったな。。。



2017/5/20追加
Victor 20bit K2 盤(Charlyライセンス)紙ジャケCDを購入。ジャケ裏には2001 Charly Licensing ApSと書かれている。どうやら上記チャーリー盤をビクターがデジタル化したものらしい。さて、上で書かれているように、CDながらアナログのような音の塊りで襲いかかってくる迫力が比較的小さい音量でも出ている。ところが、ヴォリュームを上げるとなんというか粗が目立ち始める。スカスカとは言わないまでも、音の緻密さが薄れてくる感じ。時間帯の都合で大ヴォリュームには出来なかったのでそこは未評価だが、全体的にそれほど悪くはない(というか内容が素晴らし過ぎてどの盤でも感激してしまう)。

ところで、geppamenさんがCDとLPの音質の違いについて、波形を表示して明晰に論じられているので是非ご覧頂きたい。ちょうど、私がこのマグマのレコードでヴォリュームを上げた時の音質について書いた感想と奇しくも合致する内容が科学的に(?)書かれており、「我が意を得たり」という感じである。






・・・実はこの他に、おそらく80年代のテストプレスLP(2枚目のみ)を所有しているのだが、それはまたの機会に。


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音源聴き比べ一覧
2017-05-20-Sat  CATEGORY: 音源聴き比べ
音源メディア(フォーマット)の違いによる音質聴き比べです。


第1回 Steely Dan『Two Against Nature』 音源聴き比べ CD/DVD-Audio/LP

第2回 the Anthony Wilson trio 『our gang』 音源聴き比べ CD/LP/SACD

第3回 Pat Metheny Group 『Imaginary Day』 音源聴き比べ CD/DVD-Audio

第4回 MAGMA『LIVE』 音源聴き比べ CD/SHM-CD/LP(France Utopia Original)

第5回 番外編 Steely Dan 『Aja』 LP聴き比べ

第6回 DREAM THEATER 『METROPOLIS PT.2:SCENES FROM A MEMORY』音源聴き比べ CD/SHM-CD/LP(US Original)

第7回 Kurt Rosenwinkel 『Caipi』 音源聴き比べ Hi-Res/LP

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KURT ROSENWINKEL'S CAIPI BAND @Motion Blue YOKOHAMA (2017/4/16)
2017-04-22-Sat  CATEGORY: 音源聴き比べ
新年度最初のレビューはコンサートの感想を兼ねた音源聴き比べである。


以前書いた通り、モーションブルー・ヨコハマにカート・ローゼンウィンケルの日本ツアー最終日に行ってきた。


店の受付前には、カートにギターを提供している渋谷のウォーキンのブランド、Westvilleのギターが飾ってあった。見るからにクオリティの高そうなギターで、私は涎をガマンしながら脇を通り抜けた。ウォーキンオーナーの西村さん(West Ville)の姿も見えた。お店のFBではツアーの貴重なオフショットが見られる。客席はジャズギターマニアと思しき青年・中年で溢れていた。中には、私の一番好きなジャズギターライターの石沢功治さんの姿もあった気がする(紙面で拝見しただけでお会いしたことがないので不確かだけど)。

比較的早めに予約したせいか前から数列目が取れ、カートがほぼ目の前に見える位置で観ることができた。現代ジャズギターの皇帝ことカートの注目のライヴなのですでに多くの人がライヴレポートを書いているが、私がひと言で感想を言うなら、最高だった

バンドメンバーはカートとドラムのビル・キャンベルを除いて皆若く、20代か30代に見える。Voのペドロ・マルティンズはやや小柄で童顔、少年のように若いがどこかロックスター然とした佇まいで、ルームウェアのようなボトムズにRADIOHEADの『OK Computer』のトムの顔が載ってるTシャツを着ていた。ガムを噛みながら、歌にギターにキーボードに(AppleのラップトップもSEか何かで使っていた模様)大活躍だった。ピアノのオリヴィアは相当な美人で歌も上手く、しかも非常にリリカルなソロを弾いていた。カートやペドロが大汗をかいているのに、まさしく汗一つかかずにベースのフレデリコは淡々とリズムを刻んでいた。パーカッションのアントニオはあまり目立たない。

カートのメインギターWestville Vanguard Plus DC
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(ギターシンセ的なサウンドが多かった気がする。照明のせいで赤く見えるが、実際にはワイン色っぽい茶色)


カートの使用エフェクター
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(これを見て私は『JOEMEEK』というエフェクターメーカーがあることを知った。そのものズバリ人名を付けるとは)


ペドロのギター
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(よく見るとfホールをテープでふさいである)


メンバー
Kurt Rosenwinkel (g,vo)カート・ローゼンウィンケル(ギター、ヴォイス)
Pedro Martins(g,key,vo) ペドロ・マルティンズ(ギター、キーボード、ヴォイス)
Olivia Trummer(p,key,vo) オリヴィア・トルンマー(ピアノ、キーボード、ヴォイス)
Frederico Heliodoro(b,vo) フレデリコ・エリオドロ(ベース、ヴォイス)
Antonio Loureiro(per,vo) アントニオ・ロウレイロ(パーカッション、ヴォイス)
Bill Campbell(ds) ビル・キャンベル(ドラムス)

セットリスト
1.Caipi
2.Kama
3.Casio Vanguard
4.Time Machine (新曲)
5.No the Answer (新曲)
6.Chromatic B
7.Interscape
8.Ezra
9.Recognized (新曲)
10.Hold On
(Encore)
11.Little b

(漏れや間違いの可能性もあるのでご容赦を)

カートが1人で練り上げた宅録サウンドを、生身のバンドメンバーで再現するとこうも変わるのかと思うほど印象は異なっていた。勿論、ラウドなベースやタイトなドラムのスネアは恐ろしくアルバムのままなのだが(ベースがビリつくところまで同じ!)、音やリズムの揺らぎ、空気感が全然違う。やはりライヴはいい。私の記憶が確かなら、新曲を3曲やっていた。よりスタンダードなPOPソング寄りというか、ロック調ですらあった。曲の終わりはドラムがドコドコ叩いて終わるし、カートもロックギタリスト的な弾き終わりを見せるなど、ギター小僧だった私には感涙モノである。時にはエレクトロニカ風なアレンジもあり、ドラムのつっかえたようなリズムは、ペドロのTシャツのままに時折レディオヘッド的ですらあった。「ブラジリアン・プログレッシヴロック・ジャズ」とでも形容できそうな感じだ。

カートのギターはもはやデビューの頃とは大きく変貌を遂げている。独特のリズム感と浮遊するメロディは健在だが、バリバリ弾きまくる。歴史的名盤『The Remedy』以降、明らかにカートのテクニック(クラシック的に言うとメカニックの部分)が向上している。純粋に速弾きの割合が増え、音数が増加しているのもそうだし、ある意味HR/HM的なスウィープなども増えた(今回のライヴでもランフレーズで頻繁に用いていた。ヴォイシングが複雑で私には分からなかったが笑)。現代のジャズギタリストでここまで明らかな進化(というと偉そうだが)を感じさせるのは彼ぐらいではないか(まあメセニーもそんな感じだけど。逆にAdam Rogersのように「もう上手くなりようがない程に上手い」タイプもいる)。兎も角、ソロは彼らしい唯一無二のフレージングで、ライヴならではの聴衆を熱狂の渦に惹き込むような盛り上がりを感じさせるラインだった。ささやかながらギターを嗜む人間として、これまで色々なギタリストの演奏を見たが、あらゆる意味でここまで自在に楽器を操るギタリストを私は他に知らない。本当に感動的だった。彼のヴォーカルは流石にペドロの美しい歌声と比べるとかなりイマイチだったが、ギターを弾きながら歌う姿はロックミュージシャンかのようで、ロック好きの私には嬉しかった。

残念ながらM.B.Y.の音響バランスはイマイチで、カートやペドロは曲中に何度もマイクの音量を上げるようジェスチャーしていたし、曲の良いところでハウることもあった。まあこれはデカめのベースを指示したバンド側にも責任があるかもしれないが。ともかく、これまでに見たライヴの中でも特に素晴らしいものだったと思う。


終演後、他の客がレジとは違う行列を作っているので何事かと思っていると、なんとサイン会があるという。おまけに受付にはLPが売られていたのだ!レコードが販売されていたとは、全く気付いてなかった。嬉々として並ぶこと20分、メンバー全員が現れ、1人1人にサインをしてくれた。カートに握手をしてもらったが、温かく大きな手だった。ペドロに「私もOKコンピューターが好きだ。いいTシャツを着てるね」というと、そんなことを言う客は他にいなかったのか驚いていた。皇帝はにこやかにそして気さくにファンの1人1人と話をしていた。こんなに小さなライヴ会場で、座って酒を飲みながら目の前でアーティストを見ることが出来、おまけに握手とサインと会話付きなんて、ロックの世界ではおよそ考えられないことだ。こんなところにもジャズというジャンルの良さがある。


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①ハイレゾ(flac 96kHz/24bit)
以前書いた通り、音の色鮮やかさはこれまでに聴いたどのアーティストの作品よりも素晴らしい。過剰とも言えるほどキメ細かに煮詰められたアレンジはハイレゾにピッタリである。情報量が多過ぎるので何度聴いても楽しめる。しかし、イヤホンで聴くと聴き疲れ感がハンパない。


②レコード
LPには9曲しか入っていない。ハイレゾは日本独自のボーナストラック『Song for our Sea』があって全12曲なのに比べるとかなり損な感じだ。ちなみにLPに入れられることなく落ちた2曲は『Ezra』『Interscape』である。

これまでこの"音源比較"コーナーで書いたように、アナログは音の一体感、塊り具合が特徴である。ハイレゾの、驚異的な音の分離と明晰さとは別次元だ(別表現と言ったほうがよいかもしれないが)。残念ながらハイレゾのようなカラフルさはかなり後退してしまっている。


毎回同じことを書くようだが、音楽に求めるもので良し悪しは変わってくるというのが率直なところである。通勤時はハイレゾを聴きまくったが、職場に着いた時の耳の疲労感というものはかなりある。リビングでハイレゾを流すとその緻密な表現に驚かされる。続けてレコードを聴くとまったく違う音像だ。正直、ギターも引っ込んでるし、SEなどの効果音の雰囲気もそれほど出ていない。ただし、心地良さはレコードが上回る。(9曲だし)あっという間にアルバムを聴き終えてしまう。


総合的にはハイレゾが上回るだろう。しかし、発売元のソングエクス・ジャズでの購入限定のようだが、このLPにはハイレゾのダウンロードコードが封入されている。私がM.B.Y.で買った輸入盤にはついてなかった(ウォーキンの好意でCaipiのジャケを模したピックは貰えた)ので、ハイレゾもレコードもそれぞれ買ってしまった私はなんだか哀しいというかなんというか・・・。

ちなみに同行してくれた友人は通常のCDを買っていた(音質的には一番損をしてる?)。
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DREAM THEATER 『METROPOLIS PT.2:SCENES FROM A MEMORY』音源聴き比べ
2017-03-22-Wed  CATEGORY: 音源聴き比べ
ブログのアドレスでずっと気になっておられた方がいるかもしれないので10年目の告白をすると、私はドリームシアターが大好きである。



青春の何年かを、彼らに捧げたと言っても過言ではない。

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ジョン・ペトルーシは私のヒーローだった。スコアやヤングギターを買い揃え、来る日も来る日も彼のフレーズをコピーした(ジャズのセッションでもたまにペトルッチ的なトライアドフレーズを弾いてしまうことがある笑)。

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彼らの作品の中で最も好きなアルバムがこの第6作目の「メトロポリス・パート2 シーンズ・フロム・ア・メモリー」である(勿論、I&MやAwakeも捨て難いが)。このアルバム発表後に来日した2000年5月の東京近郊の全4公演は全て観に行った。横浜ベイホールではスタンディングで暴れ回り、数メートル先のステージ上のペトルーシと目が合ったときは死んでもいいとさえ思った。私も若かった。

このアルバムについては多くの人が様々なところで書いているので、内容については割愛させて頂く。超絶技巧のジョーダン・ルーデスの加入でクラシカルなフレージングを増したアレンジが、コンセプト・アルバムとなった本作にはピッタリだと思う。ギターの話をすると、私の記憶が確かならこの頃ペトルーシのギターは、アイバニーズの自身のシグネチャーモデル「ピカソ」からミュージックマン(アーニーボール)の現行のモデルへと移行する過渡期にあったはずだ。このアルバムはピカソで録音されたと記憶しているが(ヤングギター10年分は就職したときに捨ててしまった)、ピカソギターはアイバニーズらしいソリッドで音抜けの良いサウンドに仕上がっている。この後はよりハイエンド??なミュージックマンに変わるので、ギターの中域が良く伸びて艶のある音色に変化するが、個人的にはやや音の身が詰まり過ぎに感じる(別に所有しているからピカソの肩を持っているわけではない笑)。


というわけで、音源聴き比べである。

今回は通常CD、SHM-CD、LPの3種類を聴き比べる。平日昼間に休みを取ると、ちょうど嫁と息子は幼稚園仲間とウルトラマンを観に新宿へ出かけるという奇跡のような半日があったので、遠慮なく大音量で聴き比べた。時間の都合で、(ほぼ)通して聴いたのはSHM-CDで、通常CDとLPは前半5曲後半3曲とさせて頂いた。アマゾンをはじめとするネット上では賛否両論、SHM-CDの音はスゴい、いや通常盤が最高だ、などと色々書かれているが、さて。


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①通常CD
これを買ったのは某MKGJという塾でアルバイトをしていたときだ。発売日に買ってバイト後22時過ぎに帰り、疲れのあまり聴きながら途中で寝落ちしたのを覚えている。それ以来、何百回も聴いた。ともかく20世紀最後の年はこのアルバムとクラムボンの『まちわび まちさび』をひたすら聴いていた。音質だが、大音量で流すとあの時の思い出が鮮やかに蘇る。自分にとって聴き慣れた音で、安心して聴けるバランス。特に不満などあるわけもない。


②SHM-CD
メタルの世界にも、と言ってはなんだが、音質向上ムーヴメントの波はやってきた。このSHM盤は2009年、デビュー20周年記念SHM-CDコレクションでデジタル・リマスターということで発売された。ちなみに比較的発売から日が浅いにも関わらず、大人気2nd『Images and Words』のSHMはユニオンで5000円over、3rd『Awake』も3000円overという状況である。ちなみにこの『SFAM』のSHM盤はユニオンで1600円だった(いつか他盤の聴き比べも書きたい)。

聴いてみると、MAGMAの時のような明らかな違いは感じないものの、SHM-CDらしく、各パートの音の分離が明瞭でヌケの良いサウンドである。特にヴォーカルが前面に出てきているように感じられる。さらに音量を上げて3、4曲目のみ①と聴き比べると、①は密な空気感の中で音が渾然一体となって感じるのに対し、この②は分離した各楽器各パートの隣り合う音の狭間まで見て取れるような感じ(現代の録音のせいか、MAGMAの時のようなスカスカ感をSHM-CDに感じない)。音が非常にクリアで明瞭。しかし、通常CDと目の覚めるような違いがあるわけではない。少なくとも、私の愚耳ではそこまで聴き分けられるものではない。


③LP
数年前に池袋のユニオンで6000円弱ほどで入手。近年の再発盤ではなく、これは2011年のUSオリジナルでシリアルナンバーはNo.2309。結構後ろの方のプレスになる。状態はEXとあったが、まずまずか。

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聴いてみると、例によってアナログらしく、耳馴染みが良いというか、耳に優しい。当然だが、CD2種と全く違う。ヴォーカルとギターが気持ち遠めで、音の輪郭がボヤケ気味、各パートがモチャっとしていると感じる人がいるかもしれない。レコードに聴き慣れていない人は「アレレ」と思うかも。しかし、聴き続けても疲れることがない。素晴らしいのはD面で、曲調がレコードの特性にマッチしているのか、ラブリエの歌がグッと胸に迫ってくる。終曲のペトルーシのギターの音も柔らかくて絶品である(ただし、C面ラストの『One Last Time』はさすがに内周ギリギリまで収録されているためノイズが酷くなってくる)。以上はレコード原理主義者の私の感想なので半分は聞き流して頂きたい。


レコードの後に再びSHM-CDを流すと、そのリアルさ、明瞭さ、ピッチの安定感に愕然とする。けれども、聴き続けてくると幾分高音部のシャリシャリ感が気になってくるというか、聴き疲れをする(通常CDではそこまで感じない。単に聴き慣れているからかもしれないが)。正直、一長一短で、いつものように点数化するほどの違いには感じられなかった。通勤のイヤホンでは通常CD、車ではSHM-CD、家で独りならLPと使い分けるかもしれない。



というわけで、玉虫色の結論で大変申し訳ないが「どちらかのCDを持っている人は改めて別種を買い直す必要は無い。ただし、レコード好きな方はD面のためだけにLPを買う価値有り」と書かせて頂きたい。他にも、別マスタリングや再発LPも出ているようなので、気が向いたら購入して追加予定。ともあれ、青春の1ページを紐解いた感があり、恥ずかしいやら懐かしいやら。


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Steely Dan 『Aja』 〜マトリクスの謎〜
2017-01-12-Thu  CATEGORY: 音源聴き比べ
私ごときが語れることではないのだが、あえて書いてみる。


スティーリー・ダン「エイジャ」のUSオリジナル盤レコードの音質比較である。


世の中にはスティーリー・ダンの熱烈なファンの方がいるに違いないので、ひょっとしたらすでに結論が出ているのかもしれない。ネットで検索して出てくる最も有名なものはこちらだと思う。USオリジナル盤をマトリクス違いで4種、さらに高音質4種聴き比べる(それも素晴らしい機器で!)という、もの凄いブログだ。


ちなみに私の手持ちのUSオリジナル盤のマトリクスは上記のブログにもあるA面●AB 1006(RE-3)-A 1A掻き消し 1B、B面●--------------B 1A掻き消し 1Dで、数年前に3000円弱で購入したもの。コンディションがとても良いのでこれを愛聴してきた。ユニオンで1A/1Bや1C/1A(両方とも英国旗なし)を試聴したことはあるが、盤質がイマイチなので見送ってきた。最近は両面1A/1Aを見かけてない。


さて、先月のクリスマス頃、DiscogsでなんとAjaの「Promo」盤が売りに出ているのを見つけ(それも至ってフツーに)、状態が良さそうなのと$20と格安だったこともあって買ってみた(結局送料込みで5000円overにはなってしまったが・・・)。それがつい先日届いた。


ところが残念なことに、届いたのは「Promo」のレコードではなかった。。ジャケットにあるはずのステッカーがない。これには参った。10年以上海外オークションや通販を利用していると、「Almost perfect」や「Mint condition!!!」とか書いておきながら、プチノイズどころか針飛びや盤の歪み、さらには偏芯まであるレコードが届くことはままある。何度経験してもガッカリする。勿論、先方に文句を言って(ダメ元で)「せめて半額の$10返せ」とメールしたが案の定返事はない。


ここで終われば単なる愚痴なのだが、せっかくなのでレコードを再生してみた。中くらいのヴォリュームでかけてビックリ。素晴らしい音が流れてきた。慌てて前述の手持ちを引っぱり出して来て比較する。出だしはそんなに違いはないが、ヴォーカルが入ってくると分かる。1B/1Dの方は(よくある表現だが)うっすいヴェールというか膜が1枚かかっているような音だ。マトリクスを見てみると、なんとA面●AB 1006(RE-3)-A以降のマトリクス表記が無い。


aja.jpg
(何十枚も撮ったが上手くmatが写らない・・・AB 1006(RE-3)-Aとだけ刻まれているのがお分かりになるだろうか)


そのような盤が存在することはDiscogsに書いてあるので知っていたが、実際に見たのは初めてだ。ひょっとすると、これは本当にプロモ盤なのかもしれない(ただし、Discogsの一番上の最も初版と思われるマトリクスも同様にRE-3の末尾の1Aが無いものが記載されている)。

私の予想はこうである。販促プロモ用としてプレスした盤で末尾1Aなしの盤が、プロモ用の他に一部初期盤として販売に回った。中には、プロモステッカーが貼っていないものもあるだろう。よって、商業用の量産盤の中では、RE-3以降の1A無しのものが最も若いマトリクスなのではないか、ということである。私は今回、その後者のほうを期せずして入手したのかもしれない。


上記ブログのコメント欄には、マニア垂涎のテストプレスを所有されている方が登場している。確か去年も渋谷で『Aja』のテストプレスが出た。私も欲しくて並ぼうかと思ったが、とても手の出る価格ではなかろうと思い結局諦めた。ユニオンで1A/1Aに近い1A/1Bなどでも近年は5000円を超えてしまうようだ。ましてヤフオクは海外モノに手を出さない方や近所にユニオンのない方も参入するので価格が高くなりやすい。それならば、Discogsの格安「promo」盤に一か八かでチャレンジするのもよいかもしれない、というのが今回の記事の趣旨である。


以上、哀しき庶民派からの報告でした。
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