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Nick Drake / Five Leaves Left 初版をめぐる一考
2017-08-04-Fri  CATEGORY: ロック・ポピュラー音盤紹介
ニック・ドレイクに心酔しているという事は以前にも書いた。


jacket.jpg


この作品の初版(ブラックボールラベル)は絶大な人気があり、アイランド・レーベルでも1969年の9月~12月の間にプレスされ、わずかに2作しか存在しないという激レアラベルである。


しかし実際にはバイヤーの営業努力??により、この「ファイヴ・リーヴズ・レフト」のUKオリジナル盤は結構出回っている。ebayやDiscogsを覗けば10万前後で常時売りに出ており、日本のレコード屋でも年に数点売りに出るレコードだ。例えば、今年の初めにはディスクユニオン新宿中古センターに状態EX程度のものが約10万で売られていたし、ほぼ同様のコンディションの盤がロックレコード館にほぼ同様の値段で売られていた(そちらはなぜか当時の新聞の広告?付きという珍しいものだった)。それらは比較的長く壁を飾っていたが、近ごろの急なアナログブームのせいか1・2カ月して2枚とも立て続けに売れてしまった。ほぼ同じ頃、渋谷中古センターが超美品を15万超という国内で私が知る限り最高額で売りに出し、ヤフオクに並行出品しても案の定長いこと売れなかった。それを私は買おうと思っていたが4月初旬に売れてしまったことは以前書いた。 


これには後日談がある。ヤフオクで売れてから数週間後の4月下旬にジャケ/レコードのコンディション表記が全く同じ盤が新宿HMVレコードショップでGWセールの目玉品として売りに出たのだ。その価格、なんと18万over!それもすぐに売れてしまった。なぜ私が値段を知っているかと言うと、ネット上ではSOLD OUTになっていたのに店舗に行くとまだ「中身はレジ保管」状態でジャケのコピーだけ店に売りに出ており、「お宅のサイトで見ましたがこれはもう売れてるはずですよ」と私が哀しいお節介をしたからだ(ユニオンのセールばかりに気を取られてHMVをチェックしてなかった。迂闊だった)。ユニオンとHMVの盤質一致の偶然の符合、この盤がどうしても欲しかった私は下種の勘繰りをしてしまうが、憶測にすぎないのでこれ以上は書くのをやめる。


さて本題。このレコード、どれが初版の「初期プレス」なのか、議論の余地があるのだ。


まず背景について説明しよう。この盤にはミスプリントがあることが知られている。裏ジャケの、本来4曲目の「Way to Blue」と5曲目「Day is Done」の表記が入れ替わっているのだ。ちなみにDiscogsではここ1年くらいでようやく「Misprint」についての記述が追加された。その後情報は累積し、現在はそれに「Gatefold」「Adv」を加えた3種類のUKオリジナル盤(と思われる盤)が売られている。共通しているのはすべて「ブラックボール」ラベルということだ。初盤とされるラベルについて表にまとめると次のようになる。

ラベル名スリーブヴィニール
テクスチャー×
スムースA (Adv)××
スムースB (Gatefold)×



このスムースラベル「Adv」盤を売りに出していた業者が興味深いことを書いている。


「スリーブの裏側のアイランドのスタンプがグリーンのものは発売前のいわゆるプロモ盤」であり、「スリーブもラベルも両方ミスプリントのものが初版で、ラベルが訂正されたものは後期プレスである」(意訳)。


事実、ebayでこれと同じスムースA(××)盤の超絶美品を韓国の業者が売りに出した。私が見る初めてのダブルミスプリント盤だったが、恐るべきことに£1,536.11(約22万!!)という途方もない価格で落札されたのだ・・・!このレコード、半世紀近く前の盤なのに、今まさに封を切られた新品同様のレコードにしか見えず、最初は「偽物だろう」と思っていたのだが、ラベルやスリーブ、マトリクスを確認した限りでは本物だった。これは私の知る限り、このレコードの最高販売価格だと思う(「天井を上げちまいやがったな」と思わざるを得なかった)。この考えに基づいてラベルの違いをプレス順に並べるとすれば、

ラベル名スリーブヴィニール
スムースA (Adv)××
スムースB (Gatefold)×
テクスチャー×


とするのが自然だ。しかし、である。


前述したHMVのGWセールでのレコードの説明を見て驚いた。お読み頂ければわかるように「テクスチャーラベル=アーリープレス」、と書かれているのである。Discogsにはテクスチャーラベルについての情報は現時点(2017/8/4)では書かれていない。ユニオンで出ていたUKオリジナル盤にもテクスチャーという説明の記述はなかったように思う。これは一体どういうことなのだろう。


Discogsの業者が正しいのか、それともHMVの担当者は何か別のソースを頼りに書いているのか、どうしたことかと思いネットを色々調べてみると、このラベルについて詳細な情報を書いているこちらページにたどり着いた。やはり世界は広い。2012年にこのページが書かれて3500人が見たというので、情報としては広まっていてもよさそうだがまだ知られていないようだ(HMVの担当者はこれを読んで説明を書いたのだろうか)。


さて、この筆者は、この2つ目の表のように考えるのが自然と書きつつも、なぜかテクスチャー・ラベルの方に価値を置いているのだ。この筆者はこれらのプレスを所有した上で「テクスチャーラベルの方がより高値で取引され、その豊かなサウンドに感銘を受ける」と書いている(真実はPerhaps we will never know.ということらしいが)。この筆者はスリーブのグリーンスタンプの違いについては言及していない。


60〜70年代のレコードのテクスチャーラベルについては巷間色々な情報が出回っている。私が勉強させて頂いているgeppamenさんはピンクフロイド「アニマルズ」のテクスチャーラベルについてこのように書いている。そのほか、このレコードに限らずテクスチャーラベルについてネット上では「音が良い」「オリジナル盤の中でも初期のプレス」「チリノイズが多い」など、評価が分かれるが概ね「音質の良い盤」という意見が多い。けれども、テクスチャーラベルはレコードを問わずやはりレアである。この「Five〜」に関して言うと、私がこの1年でネット(Discogs、ebay、CD&LP、ヤフオク)や店で見たこのレコードのオリジナル盤とされるものは十数枚あるが、そのほとんどがスムースラベルB(×〇)だった。写真で確認できたテクスチャーラベルはHMVのものを含めわずかに2枚しかなかった。スムースラベルA(××)に至っては、前述したebayの1枚のみだ。


そろそろ出ることのない結論に移ろう。私はスムースラベルA(××)盤のレアさとその価格に恐れをなし、上述したページの意見(テクスチャーラベルが最も良い音質である)を信じてテクスチャーラベルを手当たり次第に探した。Discogsで登録した「ほしいアイテムが出品されています」メールが来るたびに、仕事中だろうが何だろうが(joke)「このレコードはテクスチャーラベルか?」という問い合わせのコピペ文を速攻で送りつけた。海外はいい加減なレコ屋と商売っ気で脂ぎったセラーとに大別されるので返信率は高くないのだが、写真を送ってもらうとほぼ全て「スムースラベルB(×〇)」であった。「テクスチャーラベルだったが、売れてしまったよ。残念」という悲しいメールが来たこともある。


そんな業者らとのやり取りを10回近く繰り返し(中にはイギリスの大学で美術と情報工学を教えてるというコレクターと20回近くもの報われない往復書簡(笑)を交わしたこともある)、ようやくテクスチャーラベルを持っているイタリアのレコード屋を見つけた。例によってDiscogsで引っかかったレコードは残念ながらスムースラベルB(×〇)であった(ちなみにその値段は800ユーロ)のだが、何回もメールをやり取りしていくうちに「探したらテクスチャーがあったよ」という怪しすぎるメールが追加で来て、嘘だろうと思い写真を送ってもらって確認すると間違いなくテクスチャーラベルであった。そのレコ屋はテクスチャーの価値を分かっていないようだった。値段は書かないでおこう。


IMG_20170803_235932-1488x1984.jpg
(分かりづらいが表面がテクスチャー加工でデコボコしている。また、リムの縁に沿った線がスムースラベルより深く切れ込みのように入っている)


先ほどの「どれが初期プレスか」という問題について、届いたテクスチャーラベルのマトリクスでこれら3種のどれが最も若い盤かを特定できるだろうと思っていたのだが、「A//2」のあとの枝番号??のような数字が判別不能で断念した。色々送ってもらったスムースラベルのものもこれと同じような印になっている。

IMG_20170804_000052-1984x1488.jpg

ちなみにDiscogsではスムースラベルA(××)が、

Matrix / Runout (Side 1): ILPS 9105 A // 2 1 1 7
Matrix / Runout (Side 2): ILPS 9105 B // 2 1 1 1

と記載されているが、テクスチャーもスムースBも、記されているマトリクスの文字数はこれよりも少なく、どう解釈すればよいのかわからない(ダブルミスプリント盤をお持ちの方は是非情報をお寄せください)。


レコード屋は「これは厳密にEX−と鑑定できる!」とメールしてきたが、はたして送られてきたレコードのA面はキズだらけであった(泣)指で触れてわかる深い傷が2か所あり、盛大な周期プチノイズ(プチどころでなく「パァチ!」)が丸々1曲半延々と続く始末。おまけにジャケットも退色や折れ、スレ、カスレに溢れていた。大枚叩いて酷いレコード掴まされたと怒り心頭だったのだが、爪楊枝を使って丁寧に傷を補正し、洗浄液で丁寧に洗うと聞き違えたかと思うほど音がクリアになり(流石はオリジナル盤)、キズの割にはA面のノイズもごく小さく「プティ」程度までなんとか軽減できた(ただし、A面ばかり聴き込んだのか全体的にかなりヒスノイズが目立つ・・・)。盤の歪みによる音揺れがなかったのが幸いだった(その場合はおそらくどうしようもない)。


長くなったがテクスチャーラベルの音質である。私はスムースラベル2種をどちらも聞いたことがない。よって、比較することができない(だから出せない結論である)。最も見かけるスムースラベルB(×〇)でも最近は10万以上が当たり前であるこの盤を、ラベル違いで買うことは未来永劫ないだろう。私の音盤歴でぶっちぎりの最高額を支払ったというバイアスを考慮しても、音は良い。非常に良い。というか、アナログが良いのだろう。ウォームな低音の自然な伸び、ニックのヴォーカルの空気感、そして何よりストリングスの美しさが素晴らしい(クラシックでも弦はアナログに限ると思っているが、この盤を聴いてその思いはもはや確信に変わった)。初版にはチリノイズが多いという話もネット上で見かけたが、神経質な私でもほとんど気にならなかった。



それにしても・・・素晴らしい作品だ。時代やジャンルを超えた普遍的とも言える美しさがある。



今のところ手持ちで音質を比較できるのはCDとSHM-CDの2種。価格差100倍以上のレコードに続けてCDを流すが、ピンクムーンの時同様やはりヴォーカルの印象の違いが大きい。CDの方は声が前面に出てくるようにマスタリングされているのがわかる(高音にフォーカスされ過ぎている)。対してアナログは地味だが、毎回書いているように耳なじみが滅茶苦茶良い。ヴォリュームを相当上げてもキツさがない(子守りの日に、皿洗いをしながらでも十分に聴こえる大音量であっても、うちの子が「パパうるさい!」と言わないのは珍しい)。だがもちろん初版のレコードなぞ買わずにCDをオススメする(余談だがSHM-CDとの違いは車で聞くとよくわかった。SHMはクリアで輪郭のはっきりした音だが、車のショボいオーディオだとキンキンしているのがわかる)。今後とも追加で音源を購入したときは、聴き比べに追加したいと思っている。


長くなったが以上が調査結果である。世の先輩コレクターの皆さんは真実をご存知でこんな記事を鼻で笑われるのかもしれないが、一応このアルバムをこよなく愛する1人として、ちょっとした記事を書いてみた次第である。Perhaps we will never know.

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最近聴いている音楽 vol.58〜Polarisの7インチ盤2枚〜
2017-07-14-Fri  CATEGORY: ロック・ポピュラー音盤紹介
それにしても、本当にアナログレコードブームだ。


私の予想した通り、OKコンピューターのブルー・ヴィニル盤はプレミアが付きつつある(ハイレゾ盤もHD tracksで買った。今月はカセット付きの18000円のBOXも出る。本気で泣きそうである)。過去の名盤のアナログ再発が著しい。それも、お金の余裕のあると思われる40代以上をターゲットにしたリプレスが大流行りの模様だ。ザ・スミスに、ドナルド・フェイゲン、スピッツ、こないだ話題に挙げたばかりのヴァーヴ『アーバン・ヒムス』、ニック・ドレイク(おっと、これはアナログでなくSHM-CDの最新リマスターという、最も購入を悩ませる阿漕なやり口!)、さらには伝説の100枚限定プレスと言われる高柳昌行/阿部薫『解体的交感』などなど、枚挙にいとまがない。愛車は火の車、買い替えを2年後の車検前に延期した今の私だ、全部買ったら破産してしまう。




そんな中、最近の私を熱くさせたのがこちら。日本のダブ・ポップバンド、Polarisのアナログ7インチ2枚である。


polarisneu.jpg



フィッシュマンズ活動休止後の私の嘆きを癒すに十分なクオリティの楽曲、オオヤユウスケのささやくような浮遊感のあるヴォーカル、フィッシュマンズそのものの柏原譲のたゆたうベース、そしてあまりに心地良過ぎる坂田学のビート!(父親はジャズサックスプレイヤーの坂田明)彼の早過ぎる脱退は返す返すも残念・・・。


写真右は、そんなポラリス初期の名曲でクラムボンの原田郁子も参加した『深呼吸』『コスモス』の、14年(!!)の時を経て先月アナログ化された7インチ盤だ。ファンとしてこれは興奮せざるを得ない。


ところが聴いてみると、残念ながら音が良くない・・・。レコード向きの彼らの音楽にあってまさかそんなことはなかろう、と信じたくなくて何度も聴き直したが、やはりよくない。『コスモス』はそれほど悪くないが、『深呼吸』のほうは音の歪みが酷い。それも、ヴィニールの内周のほうでもないのに、AMラジオのような高音の飽和というか歪みというか、カスレがある。プレーヤーを新調したばかりで調整不足なのもあるかもしれないし、盤を持ち上げるとビリビリと静電気が酷いのでそのせいかもしれない。兎も角、残念である。


左側は2013年に出た『Neu/とける』のアナログ限定盤。こちらの音は非常に良い!オオヤユウスケは2010年にベルリンに移住して活動を始めたせいもあるのか、どことなく私の好きなジャーマン・プログレ感がわずかに漂う(というかプログレファンは「Neu」というタイトルを見てプログレを感じずにいられないはず。強引?)。サポートドラマーあらきゆうこの打ち込み風な、しかし矛盾するようだが実にヒューマンなドラムをバックに、ノイジーなギターのフィードバックノイズとアルペジオが重なっていく佳曲だ。新しいポラリスが聴ける。「とける」のほうはどちらかと言えば、今までのポラリスの延長上にある。「Neu」「とける」の両方にクラムボンのミトがキーボードで参加しているのもポイントが高い。両曲ともアナログにドンピシャな音だ。


ところで、これまで私はフツーの人よりは比較的多くのライヴを観てきたと思うが、その中でも「メンツ・対バンが最高」だったライヴは、15年くらい前?に日比谷野音で行われたクールドライブ・クラムボン・ポラリス・スクービードゥの4バンドの合同ライヴである。音楽性やレーベルなどのつながりを考えれば十分にあり得る4バンドなのだが、今振り返ってみても当時死ぬほど聴きまくった(今でも)大好きな4アーティストが一堂に介したわけで(COOL DRIVEの『流星キセキ』はジャズのサックス仲間を入れてライヴでカバーしたことがある)、私にとっては惑星直列級のライヴであった。そう言えば、スクービードゥもニートビーツのMR.PANこと真鍋氏のコダワリのスタジオで録音したカバー集のモノラル盤も素晴らしい音だった(持ってるのは再発だが)。今度引っぱり出してみよう。クラムボンやクールドライブもアナログで再発しないかな。結局のところ、完全にレコードブームに乗せられすぎな私であった。
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一瞬の煌めき~Keith Crossが残した2作品~
2017-06-17-Sat  CATEGORY: ロック・ポピュラー音盤紹介
私は学生時代からプログレを細々と断続的に聴き続けているのだが、ここ数年は特にフォーク寄りの作品も聴くようになった。今回はその中で無人島行きスーツケースへ新たに収めることとなった1枚をご紹介する。


T.2. 『IT'LL ALL WORK OUT OF BOOMLAND』


1970年、イギリスのDeccaから出たハードロックバンド、T.2.のデビュー盤である(再発SHM-CDではT.2と表記されているが、ここではジャケに忠実にT.2.と表記する)。


ブリティッシュ・プログレ・ハードの系列に連なるこのアルバムは、サイケとブルースを基調にしつつも、暗く陰りのあるいかにも英国然としたハード・ロックを聴かせてくれる1枚だ。アンダーグラウンドの匂い立つような(良い意味で)B級感のあふれる内容となっている。メンバーはトリオ編成で、リーダーでドラムとリード・ヴォーカルのピーター・ダントン、ベースとコーラスのバーナード・ジンクス、そしてギター、キーボードにコーラスのキース・クロスだ。


1曲目「IN CIRCLES」、出だしからキース・クロスの不愛想なリフに乗せた歪んだギターの音色が全開で、思わず身を乗り出す。当時の写真を見ると、P-90をマウントしたレスポールを使っているのだろうか、独特の抜けが良くも太い音色がたまらなく魅力的。曲はダントンの筆によると思われるが、地下的ブリティッシュ・ハードロックでありながら随所にプログレ的な展開を見せる。トリオ編成でも薄くならない音響のアレンジに加え、執拗な反復、静と動の対比が見事だ。ダントンのドラムも手数が多めでなかなか演奏力がある。


クロスのギターはクリームなどの影響を見せつつ、よく言えばシンプル、悪く言えばやや単純稚拙なフレージングもあるものの、演奏は実に堂々としたものだ。トレモロピッキングによるハーモナイズド・チョーキングや、ブルージー過ぎないフレーズは個人的にかなりのツボである。勢いと指に任せた速弾きも悪くない。ネット上の情報を信じるなら、なんとこの時17歳。当時教則本も少なかったであろう中で、ディミニッシュを駆け上がるリフ、フィードバック奏法によるノイズやクリーントーンでのカッティングなどなど、時折洗練された音使いを聴かせる。重ねて書くが、ギターの歪みのセンスが良い!彼はメロトロンも担当しているようだから、クラシックピアノの素養があるのかもしれない(ポッと出の17歳がこれだけのギターに加えてキーボードまで弾けるというのはそれくらいしか思いつかない)。


この後、T.2.は解散。90年代に入って評価の高まりを受けてクロス抜きで再結成する。音源を出すが、不参加のキース・クロスの動向は杳として知れない。




彼は何者なんだろうか。




ティーンながら抜群のギターを奏でる彼は、T.2.解散後の1972年に1枚のアルバムを同じくDeccaから出す。そこではT.2.で聴かせたハードなギターとはまるで違う、別人のように老成されたプログレッシヴ・フォークを聴かせるのだ。そしてこのアルバムこそが、私にとって無人島行きの新たな1枚である。


Keith Cross & Peter Ross 『Bored Civilians』


keithcross


寒々とした街角を歩く2人の男を写したジャケットが郷愁を誘うが、それにたがわぬ、そしてそれ以上に洗練されたプログレッシヴ・フォークの傑作である。


キース・クロスの相棒はSSWのピーター・ロス。彼の曲はボブ・ディランの影響を感じさせ、アメリカ音楽的な「キャッチーさ」を内包しつつも厳然たるブリティッシュ・フォークとして踏みとどまっているのは、やはりキースの深い思索を感じる作曲センスによるだろう。

1曲目、ロスの「THE LAST OCEAN RIDER」、美しいアコギのストロークで幕を上げる。エモーショナルなヴォーカルが曲を進めるが、バンドが入ってくると単なるフォークソングではない姿を見せる。エレキギターのブルージーな挨拶代わりの短いソロを挟んで、アコギのアルペジオに導かれるように程良い疾走感のフォーク・ロックが始まるのだ。重ねられるギターがどこまでも美しい。2曲目、アルバムタイトルのクロスによる「BORED CIVILIANS」。ジャケットそのままの、寂しげなアコースティックの音色。3曲目はサンディ・デニーも書いたフォザリンゲイ「PEACE TO THE END」、なぜかこれがEPとしてシングルカットされているようだ。ポップで作品の中ではやや浮いている感もあるが、豊かな彩りを加えているとも言える。2人のヴォーカルは判別しかねるが(ネット上によるとクリーンで透明感のある方がキース・クロスらしい)、どちらもなかなか上手く味わい深い。

前半のハイライトは4曲目、クロスの「STORY TO A FRIEND」。コンガなどのパーカッションも交えつつ、後ろに重心の乗った軽快なビートでロスがハスキーでソウルフルに歌い上げたなら、それはもはやブラック・フィーリングすら感じさせる。T.2.でも聴かれた静と動の対比はここでも巧みで、気が付くとCaravanのジミー・ヘイスティングスのフルートと心地よいシンセに手を引かれながら駆け出していくさまは、カンタベリー・ミュージックの最良のエッセンスが抽出されているとも言えるだろう。これは最もプログレッシヴな1曲。5曲目のロス「LOVING YOU TAKES SO LONG」はそのまま現代のUKチャートを駆け上がりそうな(そして米国的歌メロを備えた)名曲。ロスはこれを切なく切なく歌い上げる。45年前とは思えない、古さを微塵も感じさせない曲の完成度だ。6曲目のクロス「PASTELS」はフォーキーで幾重にも重なったコーラスが美しい。ビートルズ的なエヴァーグリーン感にすら溢れている。アコギのアルペジオもT.2.からは想像も付かないsensibleなもの。7曲目、ロスの「THE DEAD SALUTE」は、どこかカントリーな雰囲気が漂う明るい曲。8曲目、クロスの「BO RADLEY」は美しいピアノの伴奏が印象的なバラード。胸が熱くなる。


ラストの共作「FLY HOME」はこれがフォークアルバムだということを今一度思い出させてくれるギターのストロークで始まり、2人のヴォーカルは抒情的なメロディを紡いでいく。やがてストリングスが加わり、霧がかった明け方の街をそっと去っていくような、そんな静かな美しさに満ちている。再発CDのボーナストラック2曲は、これまたかぶと虫的なUKソング。その高すぎるクオリティに不勉強な私は「誰かのヒット曲のカバーなのか??」とすら思ってしまう。こちらは韓国盤も出ているようだ(BIG PINKなど韓国はフォーク再発にアツい)。


多彩なゲストも光っており、ベースはNick Lowe、エルトン・ジョンのバンドやプロコル・ハルムにも参加したDee Murray。ドラムはSteve ChapmanかTony Carr。Sid Gardnerはベースとキーボード、Jenny Masonはコーラス。Lea Nicholsonはマイク・オールドフィールドもその作品に参加しているヴォーカリスト。ナザレスにも在籍したBilly Rankinはギターでの参加のようだが、当時13歳??しかもチェロを学んでいたというから、ストリングスでの参加が彼か。Tony Sharpはオックスフォード大でも教鞭を取ったオルガニスト??Andy SneddonはEast of Edenにも参加したベーシスト。Chirissie Stewartはベーシスト(やたらベースが多いな)。Brian Coleは1972年に亡くなったアメリカ人ベーシストと出てくるので不明。プロデュースはPeter Sames、60年代半ばからプロデューサーとして活躍した人らしい。アレンジと指揮はTony Sharpが担当しているとある。Googleで調べただけなので、詳細をご存じの方はご教示頂けると幸いだ。


2枚に共通しているのは、Deccaだからなのか録音が良いということだ。どちらもアナログで聴きたい音質である。しかし、2枚ともアナログは高い。恐ろしく高い。特に、「Bored~」の方は「幻の名盤叢書」でも2つ星のレア盤であり、状態良好のものはDiscogsで€800以上からというありさまだ。ごく最近ebayでユニオンにあるものより状態の良いの盤が出たが、やはり手が出せない価格までアッという間に昇ってしまった。


17歳でのT.2.、そして多彩なゲストの中でも19歳ながら老練たる作曲センスを見せつけたこの「Bored Civilians」。Keith Cross、1953年生まれだという彼は、存命ならば今どこで何をしているのだろう?これらの傑作を世に出した後、彼はどうしていたのだろう?

10代の終わりに眩いばかりの煌めきを放つ2枚のアルバムを残して、彼は歴史の狭間に埋もれてしまった。
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いしうらまさゆき〜作りかけのうた〜
2015-09-15-Tue  CATEGORY: ロック・ポピュラー音盤紹介
突然のポップ音盤紹介(というか初めての宣伝です)。

私の友人で、シンガーソングライター兼音楽雑文家のいしうらまさゆき氏による4枚目のアルバムが明日発売されます。





彼とはよく一緒にディスクユニオンへ出かけ(我々はそれを「爆撃する」と呼んでいる)、いしうら氏はロック・ポップス中心、私はジャズ・クラシック中心にレコードを買いあさる音盤仲間です。彼は優れたシンガーソングライターであるだけでなく、私の数倍に及ぶレコード・CDを架蔵しており、60年代〜70年代ミュージックにかけては比肩する者のない(と私には思える)膨大な知識の持ち主で、いつも大変勉強させてもらっています。


このブログをご覧の方はクラシックリスナーの方が多いと思いますが、興味のある方は是非試聴してみてください。レコード屋でジミー・ペイジに遭遇したとか、1枚のレコードから音楽を通して文化に話を広げていって最後はスティーブ・ジョブズの「Stay hungry,Stay foolish」の引用元を推察する話など、ドラマチックかつ起伏に富んだ文章と超絶技巧詳細かつ膨大な知識が織り込まれたブログは必見です!
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