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音楽好きの世迷い言
The melody at night, with you
最近聴いている音楽 vol.80 ~NML様様~
2018-09-15-Sat  CATEGORY: 雑多な話題
初心に帰って、最近聴いているアルバムを。

前回書いたように、最近クラシックはもっぱらNMLである。Bluetoothで送受信機に飛ばし、光ケーブルでプレーヤーに繋いで音を出している。音質は曇りガラスを何枚か重ねたように聴こえたり、そのガラスに色が付いて感じることもままあるが、聴き放題には代えられない。

① 第9回浜松国際ピアノコンクール2015を抜粋
ブラックで働いていた時の開催だったので、いつの間にか終わっていた浜コン。優勝者のアレクサンダー・ガジェヴによる、バッハ=ブゾーニのシャコンヌ、プロコの協奏曲第3番を聴いた。

シャコンヌは相当完成度が高く、ミスも少なく、技術的なキレもある。勿体ぶり方はロシア系(?)ほどでなく、14分と少しで演奏時間が終わるので、バランスの取れた名演と言えそう(欲を言えば、オピッツやレーゼルのように13分台がいいのだけれど)。前半の高速アルペジオが続く場面で、オピッツほどの畳みかけがないのが惜しい(というか、オピッツの気合いが凄すぎる)。ともかく、ライヴとしては最上級の部類に入るのでは。生で聴いたら卒倒しそうだ。

プロコの3番は耳タコでどちらかと言えば敬遠する曲だが、かなりいい。勢いというかキレというか、ブっ飛んだところもあって楽しめる。オケも、「コイツはヤベーな」と空気を読んだのか、各楽器の独走部分ではテンポを速めで開始するような箇所もあった気がする。最終楽章のラストはちょっとガチャガチャしていて粗かったのが残念。

これは凄そうなピアニストだ、と思い調べてみたら、ブゾーニのファイナリストになっているらしい。浜コンを制したのが20歳の時とのことだから、期待できる。というわけで、次も聴いてみた。

② アレクサンダー・ガジェヴ/リスト・ダンテを読んで
浜コン優勝後の2017年録音のリスト&シューマン作品集より、この曲だけをつまみ食い。演奏時間が18分超えなことにテクと勢いを心配したが、果てして聴いてみると急速部分は攻めまくりである。前半のオクターヴ連打で上がるところはグレムザーほどではないが、打鍵に覇気がみなぎっており、緩徐部分での歌い方にもセンスがある(クリッヒェルのような格調高いタイプではない)。語り口はややテンポを落とし過ぎであざとい気がするが、メリハリの付け方が上手い。ラストも凄まじい。トリルが非常に高速で金属的なタッチが印象的な佳演であった。彼にはラフマニノフが合いそうだ。今後も是非注目してみたい。

③ 小林愛実/ニュー・ステージ~リスト&ショパンを弾く
ショパコンのソナタ2番で神が降りていた小林愛実のスタジオ録音。コンクールの緊張感が好きな私としてはどうかなと思ったが、テクではライヴ以上の完成度で素晴らしい。安心して聴ける。お待ちかねの第3章もやはり凄い出来で、この楽章を弾かせたら彼女より凄い人はそうはいないのではないか、というくらい巧い。神は降りてきていないが、トータルで◎は付けられよう。

リストは巡礼の年イタリアから抜粋。例によって興味はダンテソナタである。これも良かった。テクではガジェヴにかなうべくもないのだが、歌い方が非常に柔らかく、スッと心に入って来る。彼女はテクニシャン系などではなく、音楽表現で聴かせるタイプなのだと改めて再確認した。最後の愛の夢第3番も実に優しい語り口で、そして「狙って歌ってる感」が皆無で、自然体なのが良い。全体としてとても楽しめた。

④ アレクサンドル・メルニコフ/シューベルト・ショパン・リスト・ストラヴィンスキー:ピアノ作品集
メルニコフのオムニバス集。とにかく収録曲が凄い。シューベルトのさすらい人、ショパンのエチュードOp.10、リストのドン・ジョバンニ、そしてストラヴィンスキーはペトリューシュカというテンコ盛りである!

収録順にさすらい人から聴く。まず、ピアノの音がなんだか変。ブックレットによると、1800年代前半のメルニコフ所有のAlois Graffというピアノを使用しているらしい。音の輝きというか重厚感に欠ける気がしないでもない上に、残響で贅肉の付いた音質で、聴きようによっては戦後の録音みたいに感じる人がいるかも。あまり耳に慣れていない曲だが、演奏は非常にいい!短調の緩徐場面ではどこかモヤッとした録音で、白黒の深刻なドキュメント映像を見ているかのようだ。最後も盛り上げまくって、聴き終えた後の高揚感がある。

ショパンのエチュード作品10。この頃から嫁がコメントし始め、「音符が全然違うじゃない」とまたまたいつものツッコミを入れてくる。10-1は「左手が全然違う」と言い、10-3は「これなんて幾らアンタでもわかるでしょ」という・・・確かに違う。それはともかく、10-1はちょっとフレーズが流れ気味で(1:49)、10-2はややモタつく。ちなみにこちらは他人のコレクションである1837年製のエラールのピアノで録音したそうである。やはり音に輝きがなく、録音の問題なんだろうがモヤッとした残響に包まれている。10-4はヤブウォンスキほどではないがかなりのスピード感があっていい(1:55!!)。10-5はテンポはまずまずながら、柔らかい音楽性で聴かせる。10-6は苦手曲でコメントできず。10-7は明晰さが欲しい曲だが、その点ではクッキリさがやや不足か。尤も、責任はピアノと録音にありそうだが。10-8は凄まじく脱力しているさまが見えるようで、上手い。ちょっと迫力に欠けるのと、フレーズのつなぎ目が見えるのが惜しい。10-9、ダイナミクスに欠け、スケールが小さめだが、モノクロームな美しさがあって良い。10-10、10-11、そろそろ印象が鈍くなってきた。10-12、演奏時間は2:36で平均程度なものの、迫力があって悪くない。全体として、やっぱりメルニコフって上手いんだなぁという印象。ちなみに嫁は、「こんな人の演奏のどこがいいの?全部同じ弾き方じゃない!」とバッサリ切り捨てていた。彼女曰く、どの曲にも同じアゴーギクで弾いてるらしい。

さて、ドン・ジョバンニ。こちらはブラームスのソナタでも使ったというメルニコフ所有の1875年製のベーゼンドルファーを使用。当然ながら音色はあのアルバムと同様の印象である。演奏は不思議なタメや、音の改編が見られ(流石に私でもわかる)るものの、演奏としては悪くない。傾向としては、テクニシャンが音楽性で聴かせているペトロフ盤のような感じか。個人的にキレや金属的な張りのある音が欲しいが、それは彼の趣味ではないのだろう。

書き疲れてきたので先を急ぐ。最後のペトリューシュカ。これだけ難曲を並べて最後にこれを持ってくるのは大丈夫か?と思うが、健闘以上に弾けていると思ったら、こちらは2014年製のスタインウェイを使用とのことである。音を変えてるのかな?と思う所や、内声の強調の仕方に面白さがある。全体的にもっとストレートに弾いてもいいと思ったが。

というわけで、ユニオンに中古落ちしてきたらフィジカル・メディアで買ってもいいかなと思う盤ばかりだった。遅まきながら、ガジェヴは要チェックしたい。
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タチアナ・シェバノワのショパン・ピアノソナタ第3番メロディア録音LP
2018-09-06-Thu  CATEGORY: 雑多な話題
最近更新頻度が落ちているので、お気軽に書いてなんとか回数を稼ぎたいと思っている。

以前、ショパンソナタ第3番の聴き比べのところで、タチアナ・シェバノワの1980年のショパンコンクールの実況録音LPについて書いたことがあったが、今回はその少し後の1982年のメロディアでの録音をユニオンで見つけたので買ってみた。

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ソナタは1982年の録音、それ以外は1970年代終わりの録音で、ソナタに関して言えばショパコンから2年経った頃の演奏ということになる。

シェバノワのショパンについては、1990年代にポニーキャニオンから前奏曲集のCDが出ており(ちなみに同じ演奏?の高音質盤?がARTONレーベルからやや高値で出ていたのをユニオン新宿クラ館で見たことがある。曖昧な記憶で申し訳ない)、さらに2000年~2010年代には、NIFC(例の黒ジャケに赤字のレーベル)からソナタ2番やマズルカ等の録音がある。さらにDUXからショパン作品全集の最初の数枚に、ピアノコンチェルトやソナタ1番の録音も2010年前後に行っており、今でもそれらは入手できるが、ソナタ3番の演奏は見当たらなかった。

ショパコンのLPを入手後によくよく調べてみたところ、ebayでは1980年代初めのショパンのメロディア録音がCD化されており、かなりの高値で取引されていた。これと同一の演奏かは未確認だが、1985年のショパン録音がビクターから邦盤CDで出ている(ご想像の通り、ビクターの廃盤CDは強烈にレアであり、ユニオンの店頭で見かけたことは一度もない)。残念ながらそれらのアルバムにはソナタ3番の録音は含まれていないが、ebayを見る限りレコードではソナタ3番の録音があることがわかった。海外からの送料をケチって、できれば日本で安く買えないかなと頭の片隅に記憶を残していたところ、今回1000円を切る価格で捕獲できた。しかも、こちらもビクター邦盤だった。ひょっとしたら、CD黎明期あたりにこれもCD化されているのかもしれない。

そんなわけで、ショパコンの演奏がなかなかよかったので期待してこのレコードを聴いてみた。100種類以上もソナタ3番の演奏を聴いていると、出だしの数秒で「なんとなく」全体の演奏の傾向が思い浮かぶようになってきた。外れることもあるが、概ね7割くらいは予想が裏切られることはない。その意味でこの演奏は「線が細めで精緻でお上品」という出だし30秒の印象だったが、その評価は最後まであまり大きくは変わらなかった。スタジオ録音のせいか、覇気がないとまでは言わないがショパコンのような緊張感と少しの熱っぽさに欠け、どことなく平板である。録音のせいか低音の伸びがあまりなく、和音も軽い。指回りにはプラモデルの組み立てを見ているような細やかさが第2章などで見られるが、第3楽章は(まだそれほど聴き込んでいないが)少し真面目過ぎる感じがする。唯一終楽章が4分51秒表記で、精緻で清潔感のある軽やかなテクニックが堪能できる。全体としてはショパコンには及ばないものの、○評価だろうか。悪くはないが、なにか一つでも「飛びぬけて良い」部分があれば、繰り返し聴けるのかもしれないが、これから聴き込んでみないと。


ところで、読者の方からオススメ頂いた福間さんのソナタ3番や、メルニコフのショパンエチュード&ドン・ジョバンニ&ペトリューシュカなどの好盤が出ていてナクソスのNMLで聴きまくっているのだが、なかなか感想を書けない。USB-DACに繋いでハイレゾやNMLを再生していたMacBookが壊れたため、仕事用にしているWinのノートPCで鳴らしてやっすいトランスミッターを使い、Bluetooth5.0で飛ばしてアンプに繋いで聴いているのだけれど、想像を絶して音が悪いので、こんなリスニング環境で感想なぞ書いてよいのだろうかと悩んでいるところである。そのうち、音の悪さ・使い勝手の悪さにガッカリしているAmazonで買った安物ワイヤレスイヤホンの感想も書いて、読者の皆様のオススメのリスニング方法を募りたいところである。
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人生最高の映画とショパン・コンクール
2018-08-17-Fri  CATEGORY: 雑多な話題
私は色々と凝り性なのだが、異なった分野で好きな対象同士が思いがけずクロスオーバーすることがあると、普段の何倍も興奮する。




レーザーディスクの話である。




クロード・ルルーシュ監督、ジャン・ポール・ベルモンド主演『レ・ミゼラブル~輝く光の中で~』という1995年のフランス映画が、長いこと我が人生最高の映画であった。初めて見たのは高校生の時、今は廃れたビデオテープ(VHS)を映画好きの母親が借りてきたのだ。ヴィクトル・ユーゴーの同名小説をモチーフとして20世紀の時代設定にリメイクしたこの映画の内容は他に譲るが、3時間という長さを感じさせない人間模様の壮麗な物語に、何度も何度も繰り返し観た覚えがある。


私が調べた限り、残念ながら日本語字幕付きはBlu-ray化どころかDVD化すらされておらず(仏版はされている)、VHSとLDのみという状況が続いている。この映画を最後に観たのは2000年代初めに板橋区成増に住んでいた時だ。東上線の方の商店街に個人営業のレンタルビデオ屋があり、マニアックな映画がVHSで大量に揃っていた。相当な映画マニアと思われる店長がオススメの古い名作映画をランキング付けで紹介していて、片っぱしから借りて観ていた。今でも覚えているのは、ベタな作品ばかりで恐縮だが『探偵スル―ス』、『小さな恋のメロディ』(確かこれは2位だった)、『時計仕掛けのオレンジ』、『日の名残り』(勿論、映画の方を先に観た)、『汚れた血』辺りで、なんとなく70~80年代の英仏映画が多かった気がする。ビデオテープが消えたのと同じように、15年以上前にこのビデオ屋もなくなってしまった。それ以来、この映画を観ることはできなくなっていた。



レーザーディスクの話だった。



久しぶりにAmazonで検索をかけたら、この映画の日本語字幕付きLDの出品がヒットした。4000円と「マイベスト映画」に出せる額としてそこまで高くはない。以前ラフォレのLDのところで書いたようにLDプレーヤーは所有していなかったが、ひとまずソフトを買ってみた。次にどうやって視聴するかだが、LDをダビングしてくれる業者は街やネットでもあまり見つからないし、だいいち料金がべらぼうに高い。そこで、いい加減この機会に買ってしまおうとハードオフで思い切って購入することにした。Amazonだと不良品の時の返品が手間だが、店舗で買えば保証も付くし、そのうえ車で買いに行ったので送料もかからない。店に数台あったLDプレーヤーのうち、一番安いものを選んで買った。事前にアマゾンと価格を比較したが、どちらも8000円ほどだった。

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(サイズ比較のためにそこらにあったCDも載せてみた)

左はやはりLDで、同じく未だBD化・DVD化されていないクレーメル&ガヴリーロフによるショスタコのVnソナタ。このコンビの演奏はVictor盤も捨てがたいが、やはり映像付きは格別だ(LDでしか手に入らないというのはなんともポイントが高い気がする)。LDデッキを家のBDプレーヤーに繋ぎ、ムダに最高画質でダビングした。LDの映像はフィルムがよじれたりかすれたりしてるかのような、要するにビデオと同じクオリティなのだが、VHSのようにテープが伸びて音のピッチが狂ったりしないのが良い。ただし、「こんなものどこに置くのよ!」という嫁の叫びに耐える必要があった。

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(見た目はCDのような銀盤だがレコードと同じサイズで厚みもあるため迫力がある)

そんなわけで、十数年ぶりに「マイベスト」だった映画を3時間かけて観直したわけだが、私も齢を重ねて捻くれてきたせいか、学生時代ほどの感銘は受けなかった。それでも十指には入るだろう(ここ数年忙しかったので子どものアニメ映画以外で映画を本気で観たのは久々だった)。ちなみに他に思いつくお気に入りは『善き人のためのソナタ』だろうか(やっぱりどこかに音楽が絡んでしまう笑)。



音楽のブログだった。



この作品を久しぶりに観てとあることに気が付いた。冒頭のキャスティング紹介字幕の中に「Erik Berchot」という名を見つけたのだ。途端に頭を働かせて記憶をたどったが、私の知っているこの人名にはピアニストしかいない。


果たして注意して観ていると、ピアノだけをバリバリ弾きまくる俳優が、ほんの短い時間だが何度か出てくる。それも、端役と呼ぶにはあまりに印象的に登場するのだ。おまけに「フリ」ではなく、どうやら本当にピアノを弾いているようだ。ネタバレを防ぐために最小限の情報にとどめると、スヴェトラーノフのコンチェルトみたいな、B級ド真ん中(失礼)のドロドロした大げさな感じの悲劇的ロマンなピアノ協奏曲で面白い。ガンガン弾く場面はかなりクローズアップされている。そしてそのピアノを弾いている俳優は、ショパンのソナタ第2番聴き比べの2013/2/14の追記で話題にしていた、確かにエリック・ベルショだったのだ。

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(レコード棚から5年半ぶりに奇跡の発掘)

彼の名を知っている人は、相当なショパン・コンクール・ファンだろう。1980年、ダン・タイ・ソンが優勝したコンクールでベルショは第6位だった。

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(まさかのサイン?付きだった)

このレコードは今フランスAmazonで売られている1990年録音と思われるCDとは別音源のようだ。以前、御茶ノ水のユニオンで見かけたのとジャケが違う気がするが…ちなみに、Discogsでも調べてみたが、やはり情報が薄かった。しかし、調べれば色々出てくる。映画音楽の作曲家、フランシス・レイやミシェル・ルグランの曲のピアノ版?を近年録音しているようだし、日米仏アマゾンではショパンモノが2種ほど引っかかるし、さらにヤフオクではなんと邦盤のみと思われる「ピアノ・エレガンス」というシリーズ??CDが売りに出ている(vol.1はともかくvol.3は収録曲がちょっとアレだが…)。どうやら日本とそこそこ縁があるらしく、ネットで検索するとけっこう情報がある。

今年還暦の彼は、Facebookのアカウントを持ち、まだまだ現役で活動しているようである。御大シャルル・アズナヴール94歳奇跡の来日の記事をシェアしているので、彼も9月に同行して来日するのかもしれない。『レ・ミゼラブル』でバリバリ弾きまくっているあのコンチェルトの録音が欲しいが、どうやらなさそうだ(F・レイやM・ルグランがあのような曲を書かないだろうから、ひょっとしたらベルショの筆によるもの?ご存じの方がいらっしゃったらぜひ教えてほしい)。

ともかく、「十数年ぶりに昔の彼女に会ったらやっぱり美人だったけど、まあ嫁を選んだのもあながち間違いではなかったかな」と思いつつ、この間の自分の音楽遍歴によって今回の発見に至ったことを考えると、「やっぱり人生には不思議な縁がある」と感じた(何を言ってるんだ)。オタクはどこまでもオタク、ということで。



夜中にショパンのソナタ2番などかけると家人が怒り出すので、このレコードを5年半ぶりに聴き直すのはもう少し後になりそうである。
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最近聴いている音楽 vol.79 ~神が降りてきた演奏~
2018-06-24-Sun  CATEGORY: 雑多な話題
神が降りてくる、などと簡単に使ってはいけないのかもしれない。


解釈・再現芸術であるクラシックでは、譜面の創造主である作曲者と、その解釈と再現者である演奏者、そして演奏会においてはそれらを目撃する観客が居て音楽が成立するわけだが、これまで「神が降りてくる」ような演奏にはお目にかかったことがなかった。


「神がかった」演奏なら幾つかある。例えば、有名なロマノフスキのブゾーニ・コンクールのガラ・コンサートライヴ。あの冒頭のバッハ=ブゾーニのコラールは神がかってるとしか思えない(まぁあのアルバム全体が神がかっているが)。「神が降りてくる」とのニュアンスの(私なりの)違いは、演奏者にそれだけに相応しい実力や底力が備わっている、という感じだろうか。


その意味で私は、「神が降りてくる」演奏を、演奏者が己の実力(特に、純粋にメカニカル面でのテクニック)を遥かに超えて、作曲者・観客との声無き対話の中で崇高で感動的な演奏を行うこと、と定義したい。ロックやジャズなら「ヘタウマ」がある程度許容されるジャンルであるので、ライヴの熱っぽさやその他の要因でそのような奇跡が起きるのも珍しいことではない。

例えばジミヘンのライヴは、現代のギタリストのレベルからするとフィンガリングやピッキングの面でかなり正確さに欠けるのは否めない(それが彼独特の味のあるグルーヴに繋がっており、「巧い」ことは勿論わかっているのだが今したいのはその話ではない)。けれども、彼のライヴではしょっちゅう神が降りて来ているような気が私にはする。マイルスも、指があんまり回らないペッターであることは明らかだが、よく言われるように彼はミストーンすら美しいし、もはや言語化できない宗教的なまでのカリスマ感が時折演奏に漂っている(それが彼の超人的な実力なのだ、と言われればそれまでなのだが)。あるいはレディオヘッドのトム・ヨークのCreepの弾き語りライヴ。神は努力する者に微笑むらしく、学生時代何度も足を運んだライヴハウスでも、アマチュアのロックバンドの演奏にも何度か神が降りてくることがあった。恥ずかしながら私自身にも、能力を超えたギターソロを弾けたことがあって(残念ながらスタジオでのリハーサルでだったが)、その「最高到達点」を運よく録音していたのは幸運だった。


前置きが長くなったが、クラシックの話である。他のジャンルよりも技術が多くを占めるこの音楽の中で、「神がかっている」演奏はあり得ても、「神が降りてくる」演奏はないのではないかと思っていた。今回ご紹介するのは、私が遭遇した、その意味で稀な演奏である。


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小林愛実、ショパンコンクール2015のライヴである。これについては当時感想を書いていて、その時すでに「神が降りてくる」演奏と評していた。けれどもyoutubeの動画であるし、何度も繰り返し聴いたわけではないので確定的な評価を下していたわけではなかった。いつかCDをきちんと入手して聴き込もうと思っていたが、この度ようやくユニオンでget。

映像なしで何度も聴くと、テクニックの粗が気になる。冒頭のノクターンはまだしも、エチュード10-4、25-5はかなりキツい。明らかなミスというよりは、音が鳴りきっていないところや、拍が飛ぶようなリズム感の悪さ、和音連打でスムーズでないところが散見される。バラード1番も重音部分のぎこちなさが気になる。youtubeで見たソナタ第2番の第1・2楽章も同様である。彼女が技巧派ではなく、音楽性で聴かせるタイプなのだろうとここまでの演奏で理解しているのだが、弾き損じは少な目なものの音が幾分ひ弱で、テクニック面では他の出場者(例えばR-アムランやチョ・ソンジン)に比べてかなり見劣りする感が否めない。ところが、である。

以前書いたように、第3楽章は出だしから何かそれまでとは違った雰囲気が漂っている。コンクールの張り詰めた緊張感と、教会での祈りにも似た静謐さの、ちょうど境目のような感じだ。そこで彼女は何かにとり憑かれたかのように弾き進める。スポーツのアスリートで言うなら「ゾーン」に入ったという感じだろうか。技術的には前の2楽章より困難はなく、音楽性に秀でる彼女向きの楽章だろうとは思うのだが、些かの迷いもなく演奏は進んでいく。ついでに言うならオーディエンスノイズも大きなものは一カ所を除いてほぼ皆無だ(観ている者にも何かが起きるという予感があったのだろうか)。

そして再現部、5:30辺りを過ぎた頃からそれは起き始める。6:30、神が降りている。ここでの彼女の凛としたピアノの音色は、美しいとか儚いとか切ないとかそういった形容詞がもはやあてられないほどに心に響く。録音も素晴らしい(この回のショパコンは総じて録音が良い)。是非、実際のピアノの音量位の大ヴォリュームで「降臨」を目の当たりにして頂きたい。ちなみに私が常々主張している「第3楽章は8分台前半~半ばが理想」説だが、この演奏は弾き終わりが8:18位である。この演奏を聴くと、速いとか遅いとかそういった要求が一切頭をよぎらないので、その意味でもまた自説を支持したくなる(勿論、個人的な好みだが)。

アルバム全体としては、個人的に△の評価になってしまう。けれどもこのソナタ2番第3楽章の演奏は、「神が降りてきた」と言いたくなるような、何か超然とした魅力がある。小さい頃から天才少女と注目され、様々なプレッシャーがあったであろうことは想像に難くない。天才と言えども人知れず数えきれない努力を重ねたことだろう。この演奏は、ショパンコンクールという大舞台にまで昇りつめたそんな彼女への、神様からのご褒美だったのかもしれない。コンクールの結果はどうであれ、私の知る100種の中で第3楽章に関してはこの演奏が理想を超える最高のもののひとつである。
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最近聴いている音楽 vol.78~ショパンのピアノソナタ第3番2種~
2018-05-21-Mon  CATEGORY: 雑多な話題
この数カ月更新が止まっていたので、感想が未記入の盤が溜まっている。徐々に出していこうと思う。


まずは、飽きもせずショパンのピアノソナタ第3番。

シェフ&トリフォ

1枚目、画像で左と真ん中のCDが、マルガリータ・シェフチェンコ(b.1967)という旧ソビエト出身の女流ピアニストのもの。録音は1990年で、23歳になったばかりの時の演奏である。これが極めて模範的で、スタジオ録音ながらライヴのような演奏の生っぽいフレッシュさに溢れている(ライナーには、「あまりテイクを多くとることもなく、ほとんどライヴのように」演奏していたとある)。第1楽章は取り立てて特徴が見当たらないほどスタンダードだが、随所で丁寧で清楚に心を込めて歌う姿勢が感じられてよい。第2楽章も(ヴェレッドよりも)指回りはスムーズ。第3楽章が白眉で、実に自然で違和感なく音楽に浸れる。終楽章、テンポはやや遅めだが、カチッと強弱を付けており、演奏時間5:25という長さをそれほどは感じない。なお、この1990年のショパン・コンクールで彼女は第4位に入賞しているので、実力はホンモノである(ちなみに1位なし、2位がケヴィン・ケナー、3位が横山幸雄、4位が彼女とCorrado Rollero。ウィキによると本選には及川浩治、フィリップ・ジュジアーノ、田部京子、有森博が残ったようで、日本人大活躍の回であったようだ)。演奏の傾向としては、タチアナ・シェバノワのような印象だが、彼女よりももっと女性的で柔らかい感じ。今のところを付けられる。ユニオンでは、この15年くらいで数回しか見かけた記憶が無いレア?なCDだが、買って良かった(余談だが、彼女はこの後1994年の第2回浜松国際で奨励賞を受賞している。ハイライトCDにはスカルラッティのソナタとショパンの舟歌が収録されている)。


さてさてもう1枚はダニール・トリフォノフのショパコンライヴ。コンクール後の活躍はご存知の通りだが、スタジオ録音がイマイチだったのでコンクールのライヴは入手を後回しにしていた。第1楽章はこちらも模範的。第2楽章はこれも非常に整った演奏だが、中間部のノクターン的な箇所が音色の変化という点でやや物足りないか。第3楽章は以前聴いたスタジオ録音よりもライヴということもあるのか気持ちがこもっている感じで悪くない。演奏時間は9:04だが、実際にはそれ以上に遅く感じる。終楽章、4:50ということなので「拍手入りでこの時間なら相当期待できる!」と思ってこのCDを買ったわけなのだが、実際に4:50だったのが惜しい。それでも、スタジオ録音より断然良く、急速部分の正確さが凄い。欲を言うと、最後のラスト1分間で拍が飛ぶというかリズムがヨレる感じがあって、勿体ない。トータルでちょっと甘いがこれも


2種類良い盤が続くと自分の基準がブレているのではないかと思って不安になる。そういう時は何回か聴き込んだ直後に、マイベストの☆印盤を聴いて補正するのがいい。バルボーザは耳タコなので、R-アムランのショパコンライヴを聴く。うーんやはり120種余りの中でただ2つの「☆」評価を与えた私の判断は間違っていないようだ。単にテクニックが優秀なだけでなく、和音の響かせ方、歌いどころでの絶妙なアゴーギク、デュナーミクがグッとくるものがある。第4楽章のタメはやはり気になるが、コンクールライヴのみなぎる緊張感の中、このテンポは天晴れとしか言いようがない。申し訳ないが、先の2種より2段階くらい上にしたくなる。まあとりあえず両方○印にひとつ下げておこう。
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