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The melody at night, with you

音楽好きの世迷い言

ラフマニノフ・ピアノ協奏曲第3番・ネット音源レビュー

K.Buniatishvili(medici,YouTube)を追加(3/12)
X.Kong(YouTube)を追加(2/12)
D.Matsuev(YouTube)、Daniil Trifonovを追加(2/10)
A.Malofeev(YouTube)、Y.Bronfman(YouTube)を追加(2/8)
Y.Wang(YouTube)、D.Matsuev(YouTube)を追加(2/7)
藤田真央(medici.tv)、尾城杏奈(YouTube)を追加(2/4)
A.Melnikov(medici.tv)を追加(2/3)
ブロンフマン&ルイージ&RCO(medici.tv)を追加(2023/2/3)




これまでメインコンテンツ(のつもり)のラフマニノフ・ピアノ協奏曲第3番のレビューは、CD・LP・DVD・Blu-rayなどのフィジカルメディアか、サブスクで聴けるもの、もしくはダウンロード音源として販売されてきたものを対象にしてきた。しかし、販売はされていないがネット上で誰でもアクセスして視聴できるYouTubeなどの動画の演奏がどんどん増えてきたので、それも含めて簡単な感想をまとめていくことにした。


これまでやらなかったのは、対象が膨大な上にいつの間にか動画が削除されてしまうリスクがゼロではないと思ったのと、視聴環境が統一できないので同じ基準でレビューができないと思っていたからである。例えばYouTubeで全部丸々じっくりと見続けるほどのまとまった時間はなかなか取れないし、移動しながらの再生だと途切れたりしてしまう(まあ悪いことをすればその限りではないのかもしれないが…)。そのため下記の音源については聴き込みが十分とは言えないものもある。


というわけで、それらの事情を諸々勘案して頂き、ご笑覧頂ければ幸いである。基準は☆◎○△×でなく、元のラフ3の記事(←こちらはソフト版と呼ぶことにする)同様に☆の数で表す(2023/2/2初出)。


☆☆☆☆☆:Yefim Bronfman/Valery Gergiev/Weiner Philharmoniker/2004.11.21/ossia
リンク元:Youtube
この演奏については過去にも色々書いてきたが、今もって私はこれ以上の演奏に出会っていない。ブルーレイ化されることを長いこと待ち望んでいるが、このようにネットで無料でいつでも見られるのだから気持ちは複雑である。さて、ブロンフマンのミスは皆無ではないし、オケと合わないところやゲルギエフの解釈でイマイチなところもあるものの、やはりトータルで最も満点に近い。細かく書けば、・出だしのピアノが16分音符で駆け上がってオケが入って合奏する箇所(1:22~)が杓子定規すぎる(CDの演奏ほどではないが気になる…)、・両手交差の最高音で1音ミス(6:02前後)、・第2楽章ラストでオケが「バン!」と終わらず「ファーーーーン!」と伸ばすところ(25:56~なんか間抜けな感じがして苦手)、などなどはあるが、そんな些細なところはもはやどうでもよく、全楽章を貫いている推進力やダイナミズム、劇的な表現は理想を超えていると言ってよい。第1楽章の和音連打のスピード、カデンツァの巨大なスケール感と迫力、第2楽章の叙情、爆走する第3楽章・・・この演奏が日本で行われたということに誇りすら抱きたくなる、不朽の名演である。


☆☆☆:Sergei Babayan/Ronald Zollman/National Orchestra of Belgium/1991.5.27/ossia
リンク元:https://concoursreineelisabeth.be/en/watch-listen/
1991年エリザベートコンクールライヴ(第10位。低ッ!)。若きババヤンの熱演。技巧派の彼だがミスやオケと合わないところが意外に多く、下のPlaggeの演奏のほうが完成度は高い。特に、カデンツァの和音部分は相当にテンポが遅い上に弾き損じが多く、音が綺麗に鳴っていないのは不満である(この箇所だけでなく全体を通して和音が綺麗でない傾向がある)。3つ星の中では下の方か。


☆☆☆:Rolf Plagge/Arfred Walter/Grand Orchestre Symphonique de la RTB-Groot Smfonisch Orkest van de Bart of Belgium/1987.6.4/ossia
リンク元:https://concoursreineelisabeth.be/en/watch-listen/
1987年エリザベートコンクールライヴ(第3位)。軽快なテンポでザクザクに弾きまくり、全体の精度ではババヤンを大きく凌駕。しかし、どこか非常に機械的な印象を受ける。カデンツァの後半の和音部分は重低音を利かせつつバキバキと相当なスピードと迫力で良いのだが、終わり近くのa tempoになったところで一瞬譜面が飛んだのか間が空くのでちょっと冷やっとする。また、この直後のaccelerandoの手前の2小節を弾かないという、現代では珍しくなったcutを行っているのが残念(と言いつつ、2001年のクレショフ盤でも行っていた気がする。他にもプレトニョフなんかもやってたような)。Plaggeはこの頃の別のLPか何かを持っていたけれど(行方不明)、その演奏は全く記憶にないので彼がこれほどの技巧派とは思わなかった。


☆☆☆☆:Seong-Jin Cho/James Gaffigan/Bavarian Radio Symphony Orchestra/2022.11.4/ossia
リンク元:YouTube
映像ではなく音声のみなので本当にチョ・ソンジンの演奏かどうか確かめようがないが(こういうところもレビューを書くのを躊躇していた一因)、リンクを辿るとどうやらミュンヘンのライヴで信用できそうではある。それは兎も角、演奏は素晴らしい。急速部分はより速めに、緩徐部分はやや遅めにと、やや作為の味付けを感じないこともないが(ソンジンらしい)全体的にオーソドックスで完成度も極めて高く、技巧的には文句の付けようがない。第3楽章の冒頭もややモゴモゴしてるがスピードは十分。初めに聴いた時は相変わらず優等生的で綺麗にまとめたなあと物足りなさを感じたのだが、何度か聴いているうちに細部の表現の見事さが分かってきた感じ。ショパコンのソナタ第2番で置きにいった演奏をしてから彼にガッカリしてその後積極的に聴いていなかったのだが、技巧も解釈も実力は流石という感じである。


☆☆☆☆:Seong-Jin Cho/Aziz Shokhakimov/Orchestra Sinfonica Nazionale della Rai/2018.3.26/ossia
リンク元:YouTube
上記に先立つこと4年半前、イタリア・トリノでのライヴである。今度は映像付きで、熱気が伝わってくる(映像付きだとどうしても感銘度が高くなるが、なるべく音だけで評価してる・・・つもり)。ミュンヘンライヴよりも全体的に慎重というかテンポが遅めで、迫力は薄いがより彼の叙情性は楽しめる(第1楽章で「おっ」と思う内声の強調もある)。普通の人には一長一短というところだが、私はテンポが速めのほうが好きなのでミュンヘンライヴに軍配を上げたい。カデンツァの終わりでわずかに崩れたところがあるものの、どうして彼はこんなにもミスをしないだろうと思わざるを得ない。


☆☆:Seong-jin Cho/Valery Gergiev/オケ不明/2016/ossia
リンク元:YouTube
オケはよく分からないが爪楊枝状のもので指揮をしているのは間違いなくゲルギエフである。まず音が悪い。非常に音場が狭く(ホールのせいもありそう)、そしてまたピアノの低位が時折前面に出てきたり引っ込んだりする感じがある。mp3ヤケみたいなシャーという感じもある上に、どの音もデッドで粗く、とても現代の音響環境とは思えない(70年代のコンクール録音みたいな感じ)。最大の問題は時折プチプチと途切れるノイズが入ること。ソンジンの演奏は勿論良い。テクニックにキレがあり、テンポも結構速く、歌も良いのだが、第3楽章に入る直前の急速上昇音型の最後の最高音をミスって出ていないのがイタすぎる(音をミスるのはよくあるが、音が出きっていないミスは記憶にない)。というわけで、録音と目立つミスを重く見て2つ星(致命的なポカがあると繰り返し視聴する気が起きない)。これらが無ければ、内容的にここで挙げたソンジンの演奏の中では最良の一つになりそうなのだが…。


☆☆☆:Seong-jin Cho/指揮者・オケ不明/2011/ossia
リンク元:YouTube
第14回チャイコフスキーコンクールのファイナル。上よりもさらに遡ること5年前で、ソンジンの顔には若干あどけなさが残る(わざわざHe was 17 years old, 3rd Prizeと書いてある)。演奏は4つの中でトータルではイマイチなほうか。浜コンで優勝した2009年に彼のライヴCDを聴いてファンになったが、例えばリストのダンテソナタ冒頭での和音の「タメ」などが、この若い頃はまだ作為的に聴こえない自発的な感じを受けていた。この演奏でもossiaのカデンツァで同様のタメが(2018・2022の双方よりもずっと)多めなのが興味深い。もちろん技巧的にはすでに完成していると言えるのだけれど、和音における音の配分がイマイチというか、(ミスは無いものの)一番上と下の音だけが目立つような感じがするのは気のせいか。悪くはないが、やや厳しめに差を付けてみた。


☆☆☆☆:藤田真央/セバスティアン・ヴァイグレ/読売日本交響楽団/2021?/ossia
リンク元:YouTube
いやービックリの大熱演である。技巧的にはソンジンと遜色ない上に、彼よりも怒涛の攻めで守りに入らずバリバリ弾きまくる。大汗をかきながら髪の毛を振り乱しつつピアノを弾く姿がフィギュアスケートの羽生結弦選手にとてもよく似ている。彼の演奏は以前こんな風に書いていたが、コンチェルトとなるとこれらに欠点が薄まり、おまけに(映像付きで)テンポが速めということもあり長所の技巧の鮮やかさが全開。どこかスポーツ競技的な魅力さえ感じる(コンチェルトにあってはこれは褒め言葉である)。このテクニックの鮮やかさは、日本人としては横山幸雄氏の同曲での技巧に並ぶのではないか。ただし、やっぱり音の線の細さや、音色の豊かさという点では(ソンジンに続けて聴くと)かなり気になる。2021年3月18日TV放送とのことだが、ズボラな私は全く気が付かなかった。


☆☆☆☆:Alexander Gavrylyuk/Thomas Dausgaard/BBC Scottish Symphony Orchestra/2017.8.13/ossia
リンク元:YouTube
そう言えば意外にもガヴリリュクのラフ3音源は未だ販売されていないような気がするが、このYouTubeで彼の演奏が堪能できる。先入観ではないと思うのだけれど演奏がいわゆるロシア的というか(彼はウクライナ出身だが)、他の演奏者に比べてやはり「い」。若い時のキレキレな印象とは打って変わって、全体的に濃厚な味付けである。彼も歳を重ねたということなのだろうか。このままのテンポだとヤだなと思ってたが第1楽章の例の和音連打の手前から加速し始めてなかなかのスピードで弾いてるところなどは流石と思う。カデンツァも特濃ソースのてんこ盛りで、その壮大な弾きっぷりはガヴリーロフを思い起こす(血管がブチ切れそうな顔をしながら弾いていて少し心配になる)。第2楽章も同様の印象だが、さすがに沈滞気味のところもあり、ちょっとダレるか(勿論歌は巧いが)。アタッカの直前ではこれまたタメまくる。第3楽章の冒頭もかなりのスピードでおまけにタッチが安定。ただその後はゆったり路線にシフトするので、やや物足りない。全体的に彼のポテンシャルからすると75%の力でミスなく弾いている感じで、個人的にはもっと攻めてテンポを上げて欲しいと思うのは贅沢か。というわけで、4つ星でも最上の部類に挙げたいところなのだが、ところどころでピアノの音が荒く感じられて(彼の責任ではないと思うが)、惜しい。また、オケも一部で管楽器が微妙に音を外している。それでもトータルではソンジンと同格で、濃いめの味付けがある分だけ、こちらの方がラフマニノフらしいと言えるかもしれない。


☆☆☆:Anna Fedorova/Nordwestdeutsche Philharmonie/Gerard Oskamp/2015?/ossia
リンク元:YouTube
一聴してこじんまりとしているというか、音の線が細い。ガヴリリュクやブロンフマンと比べると重量感というか迫力に欠ける。第1楽章の前半で1か所ミスがあって大丈夫かなと思うが、その後はテンポが遅いせいもあって安定する。両手交差がややたどたどしい。和音連打は標準よりちょい速めくらいで頑張ったと思ってると、よくよく聴けばヴォロドスのように「タンッタカタンタン!」と畳みかけるように弾いてる感じもあって、さらにエライと思う(なんと言ってもこの弾き方がリズム的に気持ち良いのである)。ただし、タッチが弱めなのが惜しい。カデンツァはossia。表情は付けているもののガヴリリュクに続けて聴くとサッパリ感は否めない。テンポも遅くないし、このまま頑張れと思ってるとやはり途中でわずかに微妙に音が濁り、そこを境にそれまでの意気軒昂な感じが途切れるのが惜しい(第1楽章のところでもそんな感じがあった)。ちなみに上で書いた昔はよくomitされていた箇所辺りでも少しミスがある。第2楽章は非常に良い。通り一遍に弾きましたというのではなく、テンポが遅いのに見合った切ない感じの叙情が伝わってくる。第3楽章出だしはちょっとミスがあり、そしてまた音が弱い(ワイヤレスイヤホンで聴くと音量を最大にしても物足りない)。前半のスピード感は悪くないが、途中でテンポが落ちたりしてアレレと思うところがなくもない。80~90年代の演奏と比べてライヴとして立派だが、さすがにソンジンやガヴリリュク、藤田氏と同列にするのは相手が悪いか。彼女は3大コンクールでの入賞歴は無さそうだが、ルービンシュタインコンクールで第1位だし、この演奏を聴く限りではソロも聴いてみようかなとは思える佳演。


☆☆☆☆:Behzod Abduraimov/Valery Gergiev/Munich Philharmonic Orchestra/2016.7.18/ossia
リンク元:YouTube
アブドゥライモフのラフ3は結構高く評価していたのを覚えている。その演奏の1年前、指揮がゲルギエフで同じだがオケが違う。どういうコンサートなのか分からない(ゲルギエフと組んだツアーなのかも。タイトルにはBBC Proms 2016とある)。演奏の傾向は似ている。この曲の、70~90年代の演奏における標準的なテンポと解釈と同路線で、現代の基準からすると腰が据わっていてゆったりと歌う解釈である。第1楽章展開部の和音連打も遅くはないが、噛み締めるようなテンポから少しずつ加速する。カデンツァは和音部分の冒頭をサクサク進めて終わりでタメていく感じ。第2楽章は結構独自な歌い方をしてるがセンスは悪くない(コンチェルトなのでアクの強さみたいのが中和されてる感じもあるけど)。第3楽章はミスもあるものの熱演。ただ、数多のライヴと比較してもテクニックが安定している上位の演奏なのだが、ソンジンやガヴリリュク、藤田氏の最上位クラスのテクニシャンに続けて聴くと、タッチの精度で0.5段階落ちる感じはある。しかし、トータルな満足感は彼ら同様、そしてアブドゥライモフの既出盤同様に非常に高い。


☆☆☆:Vitaly Samoshko/Yuri Yanko/the Academic Symphony Orchestra of Kharkiv Philharmonic Society/2018.9.4/ossia
リンク元:YouTube
ヴォンドラチェクの2016年エリザベートライヴが出る前までは私の一番好きな演奏であったサモシュコの新しい演奏である。なんとご本人のアカウント?らしく、165人しか登録していない(2023/2/2)ようなので皆さん是非登録して欲しい。さて、エリザベート後の2009年に出した盤はちょいとイマイチになっていたので技巧の衰えを心配したのだが、その演奏と比べても出だしから勢いが良い。もちろんテクが上がったというよりは弾き慣れた感によるものだろう。Facebookではこのところ太ってきている彼だが、大柄の短髪なのでピアニストというよりは軍人というかアクション映画俳優のようである。相変わらず指をそれほど丸めずに伸ばしてザクザクと金属的なタッチで弾き進める。和音連打のスピードはエリザベートライヴには及ばないが、その後のCD盤よりは速く、手に汗握る。気になるのが、彼の後方の高いところから背中を映した謎のカメラワーク(顔は真正面遠くからのものだけで全く表情が分からない)と、やたらとコントラバスの低音がボォンボォンと目立つ音響。何よりピアノの音像がかなり遠く、非常に気になる(マイクが1本彼の背中に向けられていて、椅子の軋みや譜面をめくる音も拾っている。他にもマイクが立っているのでマルチで取っているのだと思うのだが、この音響のバランスは酷い)。カデンツァもベーゼンのどデカいピアノが鳴り切りまくっていてその迫力も素晴らしいのだが、いかんせん音に距離があってイマイチ伝わりきらない。その後の解釈もこれまでの延長上にあり、ところどころ記憶の混濁??のようなミスがあるものの、第3楽章などはタッチに迷いがないというか弾き慣れている安心感が伝わってくる。たまに鋭く入れる左手の重低音や力強く気合いの入った攻めの姿勢は、やはり自分の好きなタイプの演奏だなと思う。しかし、音響(とカメラワーク)が酷すぎるので4つ星は付けられない。なお、オケもピッチが微妙だったり、管楽器が吹くはずの細かなオブリガードが聴こえない(というか吹いていない??)など、気になる。しかし、このピアノは熱演なのである。非常に惜しい。それでも2009年盤よりもずっと大きな感銘を受けた。旧イケメンということもあって女性人気が凄く、終演後には多くの女性からたくさんの花束を贈られていた。今回、ついでと言ってはなんだが久しぶりに1999年の彼のコンクールを観た(3分割でこちらから見られる)。四半世紀近く前の優勝者とは言え、近年の宇宙人のような技巧派と比べるとさすがに遜色がある。それでも、第1楽章の中盤、激甚なスピードによる和音連打(あのブロンフマンよりもさらに1秒ほども速い!)を聴くたびに、3大コンクールのファイナルという極限の緊張感の中で、守りに入らず攻めに出た彼の気概に心を打たれる。


☆☆:Yunchan Lim/Marin Alsop/Fort Worth Symphony Orchestra/2022.6.17/original
リンク元:YouTube
若干18歳、'2022 Cliburn Gold Medalist'とのことである。どうやらクライバーンコンクールのファイナルの演奏らしい(ガラコンサートかもしれないがよく読んでいない)。こちらの動画は「REMASTERED」と銘打ってあり、そうではない、しかし同一と思われる動画もあるが、そちらは観ていない。指揮はエリザベートコンでも振っている女性指揮者のようである。さて、動画時間が43分とのことなので、カデンツァがossiaなら結構速めの期待できる演奏かと思い再生し始めたが、残念ながら開始20秒でそうではないと分かった。テンポが非常に遅い。また、カデンツァがoriginalなのも残念極まりない。しかし、ポテンシャルはあるピアニストだとは思う。第1楽章の和音連打は徐々にテンポを上げていき、標準的なスピードまで持ち上げる。カデンツァも散々ossiaを聴いた後だとスカスカ感が拭えないけれども、終わりの共通部分では人が変わったようにバリバリ弾きまくり、おまけにキレも凄い。静かになった後のカデンツァでは、譜面が飛んだのではないかというほど間を空けるので驚くが、その後の語り口もなかなかである。第2楽章も遅いテンポに見合った音楽的な充実感がある。やはり人が変わったかのようなキレで突如急速部で弾きまくる箇所があり、二重人格とまではいかないが能ある鷹は爪を隠すタイプなのかもしれない。第3楽章冒頭も、ややタッチは軽めなものの十分なスピードで、おまけに完成度も高い。クライバーンコンクールは三大コンクールに続く格付けかなと個人的には考えているが、それの覇者というだけのことはある。注文を付けたいのがオケで、弦楽器はまあまあなのだが、とにかく管楽器が酷い。特に、第1楽章はホルンがモワッとした音色で音色の輪郭もボヤけており、ピアノと合わずにハラハラする場面がある。このテンポの遅さはひょっとしたらピアノがオケに妥協したのでは、とすら思う(コンクールだから実際には違うだろうが)。というわけで、テンポの遅さとカデンツァの物足りなさで星1つ、オケの酷さでさらに星1つ分減点せざるを得ない。彼はまだ若いし、局所的なキレは物凄いものがあるので、今後化けるかもしれない(Lisztとか、結構Chopinも合いそう)。


☆☆☆☆:Yefim Bronfman/Fabio Luisi/Royal Concertgebouw Orchestra/2022/ossia
リンク元:medici.tv
レビューはこちら

☆☆:Alexey Melnikov/Vasily Petrenko/State Academic Symphony Orchestra of Russia "Evgeny Svetlanov" (Svetlanov Symphony Orchestra)/2019/original
リンク元:medici.tv
mediciのチャイコンの実況ライヴ(第3位)。私の好きなメルニコフの息子かと思ったが、歳の差が17歳しか違わないし、調べても親子という話は出てこないのでどうやら違いそう(ちなみにこの時の第1位のカントロフはあのヴァイオリニストの息子だそうである)。幼く見えるがもう29歳とのことで、その割には演奏の踏み込みが浅い。全体的にテンポはやや速めかなと思うが、小さいミスが幾つかあって気になる。カデンツァがオリジナルなのも痛い。しかし第2楽章の歌はまずまず悪くないがやはり和音での引っかけその他のごく小さいミスがある。細かい妙技系は得意そう。第3楽章はテンポ速めで勢いがあって良い。冒頭も期待以上の出来。このコンクールではチャイコンがマストでさらにもうコンチェルトもう1曲の演奏が要求され、コンチェルト2連発だから本当に酷だと思う(ラフ3が弾かれるとしたら2回目が多いだろうから、あまり良い演奏条件ではないと思う)。なお、チャイコン1番は聴いていない。このとき第2位だった藤田真央氏よりもこの曲のテクでは1段落ちる印象で2つ星。


☆☆☆☆:Mao Fujita/Vasily Petrenko/State Academic Symphony Orchestra of Russia "Evgeny Svetlanov" (Svetlanov Symphony Orchestra)/2019/ossia
リンク元:medici.tv
同上(第2位)。演奏の傾向は上で紹介した日本のTVで放映されたものとほぼ同じ。ただ、曲を通して上記より遅めのテンポにはなっている。特に第1楽章展開部の和音連打はかなり遅くなっており、コンチェルト2曲目で疲れたのか大事を取ったのか。一方、カデンツァは出だしから性急で、ちょっと忙しない。しかし、この人も本当にミスをしない(第1楽章終わり直前に1音のミスだけ目立つか)。音の粒の揃いや正確さや勿論、技術的な余裕度が全てのタッチに現れている。これまでのあらゆるピアノコンクール日本人コンテスタントを全員過去にしてしまうとまでは言わないが、少なくとも狭義のテクニックに関しては相当に抜きんでたものがあるように思う。特に第3楽章冒頭の鮮やかさはユジャ・ワン級に迫りそう(彼女のように細かいフレーズが得意な印象)。この楽章に関しては日本でのTV演奏より20秒弱遅いことと、オケはこちらのほうが良い気がするのでトータルでは五分五分。
※試しにmediciでチャイコンの他の演奏、プロコの7番終楽章とリストのダンテソナタを聴いてみた。プロコは3:50弱くらいのかなり遅めのテンポでガッカリするが、あらゆる声部が明晰に聴こえる上にほとんどインテンポで突き進む。終わり直前の右手跳躍の最高音が若干出切ってないが、ミスらしいミスはほとんどない。ダンテソナタも、例のオクターヴ上昇も偏差値57くらいでちょっと物足りず、やや守りに入ったのかなと思うけれども、完成度が凄い。この曲のチョ・ソンジンの浜コンの演奏と比べると、15歳だったソンジンと比べても音楽性の点でやはり物足りなさを感じる(CDを聴いて感じた通りの印象)。


☆☆☆:尾城杏奈/岩村力/東京交響楽団/2020.8.21/ossia
リンク元:YouTube
ピティナ・ピアノコンペティション特級ファイナル(グランプリ)。PTNAのコンサートは随分前に関本昌平氏のラフ3を聴いた記憶がある。結論から先に述べると、90年代あたりまでのこの曲におけるド標準な解釈で聴いていてどこか懐かしささえ感じる。完成度も十分に立派。さて、第1楽章は現代目線ではやや遅め。テクニックも前時代の標準というと言い方がキツいが、弾き損じも少ない。ミスらしいミスは5分過ぎくらいのなんでもない和音の弾き間違いがあるくらい。展開部の和音連打のスピードも前述の通り標準的だし、何よりその前の煽り方が(往年の演奏を聴くようではあるが)上手い。カデンツァはossia。後半の和音部分直前の両手で急速に(雑巾がけのように)降りてくるところが遅くてたどたどしいが、気になるのはそこくらいか。第2楽章も、本人独自の表現や味付けは感じられないが(失礼)完成度は高い。アタッカで第3楽章に行くところの急速上昇音型は途中が抜けているが最高音はきちんと外さずに弾き終えた、という感じでそれほどミスっぽくはない(ソンジンの2016のミスの仕方は痛すぎる。ちなみにここではオケが「ファーーーーーーー!」と元気良く伸ばす演奏で、好きではない)。冒頭の同音連打もまずまずで、藤田君ほどではないが技巧的に水準のものはありそう。言い方が適切か分からないが、PTNAのレベル向上を強く感じる演奏である。この曲を20年以上根掘り葉掘り聴いているオタクの耳で聴いても立派だと思うし、前述の関本氏のコンサートでは本業は学校の先生がラヴェルか何かのコンチェルトを弾いていたような記憶があるが、その時のコンサートの水準と比較してこの尾城さんの演奏は生で聴いたら十分に感激するレベルである(藤田君の演奏がどう考えても例外であろう)。世界では長いこと韓国人ピアニストの隆盛が続いているが、ショパコンで2人の日本人ピアニストが入賞したように、どうか若い人達にも後に続いて頑張ってほしい。


☆☆:Yuja Wang/Andrés Orozco-Estrada/Wiener Philharmoniker/2019.10.21/original
リンク元:YouTube
第1楽章は遅い。17分半ばくらいかかっている。タッチの変化を加えているが、ストレートにテンポ良く走り出して欲しい感じ。また、随所の歌もそれほど響いてこない(左手の強弱が乏しく表情付けが微妙)。私とはセンスが合わない。展開部出だしをそろそろと弾くところもいちいちスッキリしない。肝心の和音連打も噛み締める感じで、陸上の3段飛びをしてるかのようなヘンな弾き方でガッカリ。トドメにカデンツァがoriginal。その上、やはりそろそろと弾き始めて中盤はあえて弱音に終始するような感じで、申し訳ないがここで完全に興味が途切れる(流し聞きモードに切り替える)。第2楽章、ここまで書いてなかったが音がシュルシュル言ってて酷い。20年位前のビットレートの低いmp3音源を聴いているかのような音で、せっかく歌は悪くないのに台無しである(私はこれをmp3ヤケと呼んでいる)。第3楽章冒頭はすべての演奏の中でも最上位の安定感と鮮やかさ。ここだけ良くてもなあ…という印象。さらに結構独自にテンポを変えるせいか、展開部の前や第1楽章などでオケと縦の線が揃ってない。オケはウィーンフィルなのでさすがに管楽器が魅力的だが、(音響の悪さも手伝って)弦楽器のブ厚さや音色では先日のルイージ&RCOに及ばないか。


☆☆:Denis Matsuev/Alexander Sladkovsky/State Academic Symphony Orchestra of Russia "Evgeny Svetlanov" (Svetlanov Symphony Orchestra)/2018.4.1/ossia
リンク元:medici.tv
ロシアの爆演系ピアニストの系譜に連なるマツーエフによる、ラフマニノフの生誕145周年記念コンサートのライヴ。この人はチャイコン覇者という実力者であり、sacrambowから出たCDやラフ3のCDも色々持っていたが、どんな曲を聴いてもどうしても私の1stチョイスにはならない人だった。第1楽章出だしの、ピアノが16分で駆け上がるところもペダルで変な味付けをしててのっけから合わない。何より、オケが静かなところでもゴリラのような唸り声を時折出しながら弾いており、コワモテのゴツい見た目なもんだから、観ていて興ざめを超えて恐怖すら感じる。両手交差とかテクは余裕を感じるものの、展開部のちょっと前から気持ちが乗り出したのか急にテンポを速めたりして和音連打はかなりのスピード。その割にカデンツァ前半は妙に大人しい。しかし中盤から唸りまくりの強打しまくりである。両手で急速に降りてくるところもタッチが雑というか、どこか投げやりでミスとまではいかないけれども弾き損じがある。後半の和音部分はやはり唸りまくりながら轟音を響かせているが、もはや聴いていても何も入ってこない。ホラー映画のようだ。静かなカデンツァも突然のスタッカートや強打など、この人は大丈夫かなと思う。

この演奏の良いところを探すのならば、オケがとにかく素晴らしいことである。弦も厚みがあって美しく、おまけにピッチや縦の揃いも凄い。傍若無人なピアノのコロコロ変わるテンポにも負けず、指揮者も情熱的に振っていて感動する。管楽器も最近聴いたRCO・VPOに全く引けを取らない。なんというかこの曲への思い入れを持って弾いていることが伝わってくる。第2楽章の出だしは、その美しいオケの豊饒な響きを打ち破るかのようにピアノが無神経にドスドスと入ってきて、すぐにmy worldな歌へ。一言、工夫がなくフツーである。その後も酔っ払いが時折ヒステリックになるような謎のデュナーミク。両手を交差させながらの細かいフレーズのところも、スタカートかつ攻撃的なタッチで一体誰にケンカ売ってんの、という感じ。アタッカ前のピアノソロも独壇場で、それまでのオケが奏でた旋律のテンポ感もお構い無しである。第3楽章冒頭、スピードは十分だがとにかく雑なのだ。藤田君のほうが遥かに鮮やかである。この楽章では主役のはずのピアノが悪役であり、邪悪なピアノに正義の闘いを挑んでいるのがオケなのである。唯我独尊なアゴーギクにも負けず、adlib soloとピーヒャラ吹くところもきちんと吹いて追いかけている管は偉すぎる。緩除部分も、止まりそうなピアノに対し、最初フルート次ホルンで美しく追いすがる。指揮者も、時々ヴァイオリンを励ますかのように、負けるな負けるなと言っているかのように、笑顔を振りまく。これは悲劇か喜劇か。例の行進曲部分は重戦車による恐怖の蹂躙。最後の両手オクターヴの怒涛の迫力が凄まじいのは彼らしい。

終演後、マツーエフはスッと立ち上がり、指揮台で指揮者に笑顔でハグをする。指揮者もわだかまりの素振りを見せずに大人の対応。マツーエフは非常に満足気な様子である。しかし彼が次にハグしたコンマスの目が笑っていないのを私は見逃さなかった。色々酷いことを書いて彼のファンの方には申し訳ないが、正直☆1つのところを、オケの素晴らしい演奏に免じて2つ星という感じだ。この曲でオケを聴いていてここまで凄い(というか偉い)と思ったのはこれが初めてである。この後、幻想曲「岩」を聴いたが、期待通りの素晴らしい演奏で感動した。さすがはスヴェトラの名が冠されたオケである(金管が咆哮することもなく、ひたすら音色が充実)。それにしても、折角ラフマニノフの記念コンサートなのに、このコンチェルトは協調性と親和性の欠片も無いあんまりな演奏で、キャスティングを間違ったんじゃないのかと思わざるを得ない(キーシンとかヴォロドスとか、若手でもトリフォノフとかボジャノフとかゲニューシャスとか幾らでも人材はいたのに…)。気が付いてみると、今年の4月1日はラフマニノフの生誕150周年である。検索してみると色々な団体が記念コンサートを企画しているようだ(クレア・フアンチがパガ狂を弾くらしい)。戦争が始まって今月で1年。肝心のこのロシア国立響の予定表には、まだ4月1日の予定がないようである。


☆:Alexandеr Malofeev/Dimitris Botinis/Russian National Youth Symphony Orchestra/2018.12.30/ossia
リンク元:YouTube
17歳とのことである。出だし、オケがちょっと合ってない感じで心配になる。ピアノが入ってきて、ちょっとよく音が聞こえないか。また、緊張しているのかところどころ音が抜ける。最初の緩徐部分はグッとテンポを落とすがこちらには響いてこない。左手の音が小さく、高揚感というものが薄い。先入観ではないと思うが、マツーエフの後に聴くと迫力というか物足りなさがある。両手交差の後も指揮者の方をしっかり見るなど、オケと合わせようとしているのは伝わってくる。第1主題の再現後からスピードを上げていくがやはり音がよく聞こえない。展開部のスピードはなかなかだがポロポロミスがあって技巧的に苦しそう(緊張かもしれないが…)。ossiaのカデンツの出だしはメチャ遅いが、音数が増えると共に速度を増すが記憶の混濁もあるのかミスが連発。後半の和音部分もテンポがコロコロ変わる上にきちんと音が鳴っていないところが多数。ラストも指は回っているが誤魔化してる感が拭えない(ここで完全に興味が切れる)。第2楽章も、とにかく和音での音が、大きなミスには聞こえないのだがギクッとする感じでちゃんと弾けているのか怪しい。さらに、最近では珍しい観客の咳払いなどのオーディエンスノイズが酷い(客のモラルが低いのか、音響マイクの位置が悪い?)。歌も、謎に立ち止まるなどのアゴーギクが目立つ。第2楽章終わりや第3楽章冒頭はテンポも速めで完成度もまずまず。同音連打のところも、聴いたことのない内声を強調する??など(第1楽章でも結構あった)表現意欲はありそう。しかし中間の細かい部分はやはり非常に誤魔化し気味。というわけで、テクニックがハッタリとまでは言わないが、きちんと弾けていない感じ。☆1つは厳しいかなと思うが、この曲に聴き慣れた方がわざわざYouTubeで聴く(見る)ほどの演奏ではない。


☆:Yefim Bronfman/Lahav Shani/オケ不明/2021/ossia
リンク元:YouTube
とにかくオケが酷い。聴いていられないレベル。第1楽章冒頭、ブロンフマンのピアノが落ち着いてしまう後から入ってくるオケのピッチが音痴そのもの。音響のせいかブロンフマンのピアノも元気がなく聞こえる。展開部のオケとピアノの縦の揃いの合ってなさは記録的で、肝心の和音連打はまずまずだが何故かあまりピアノが聞こえない。おまけにカデンツァ前の静かなところで遠くの子供が泣き出す。そしてカデンツァもブロンフマンにしてはミスがかなり多い。第2楽章も同様。アタッカのところのピアノもミスが多く、そして第3楽章の同音連打のとこでもミス連発。Tsinandali Festival-2021とのことでオケは不明だが(アマチュアなのだろうか…)、あまりに終始オケの音が外れすぎていて最後まで聴き通すのがツラかった。コメントにも「First-rated pianist, a legend of the Rachmaninoff's Piano Concerto No. 2 & 3, was unfortunately accompanied by a disappointing orchestra with an off-pitch brass/wind section and hollow sonority.」とあって、同じ印象を受けたのは私だけではないようだ。というわけでごめんなさい、、これはブロンフマンの無駄遣いです


☆☆☆:Denis Matsuev/Leonard Slatkin/オケ不明/2015?/ossia
リンク元:YouTube
オケは記載がなく不明だが、指揮はコメントにある通りスラットキンである(改修前のNHKホールで第9を見た。良い演奏だった気がする)。コンマスが同じ人なので、上と同じロシア国立響かもしれない。オケは同様に良いが、上記には及ばない。演奏の傾向は上で散々書いたものとほとんど同じだが、こちらのほうが雑でなく比較的丁寧かつ緊張感があり、そして何より唸り声を出していないように思う(老マエストロに敬意を払ったのかな)。細かな部分の解釈は私の好みではないものの、この迫力(ラストなどピアノの木材が鳴り切りまくっているのが分かる)は星4つを付けてもいいかなというところなのだが、微妙に音が良くないことと、オーディエンスノイズがやや気になることから☆3つとする。ちなみに、今回はコンマスも演奏後に笑顔を見せている。


☆☆☆:Daniil Trifonov/Myung-Whun Chung/Orchestre Philharmonique De Radio France/2015.6.19/ossia
リンク元:YouTube
ショパコン3位、チャイコン優勝など、数々のコンクールで傑出した成績を収めるトリフォノフだが、彼もマツーエフ同様に私の趣味とは合わないことの多いピアニストである。既出盤のラフ3も、ショパンのソナタ3番も、(ついでに言うとリストの超絶も)どこかしっくりこない。このライヴも同じ印象だ。まず、全体的にピアノの音ギレが悪く、オケとも縦の線があっていないところが散見される。そして、随所での語り口がイマイチに感じるとしか言いようがない。例えば第1楽章展開部、肝心の和音連打部分のテンポは素晴らしく速いのに、その前の部分の煽り方がどうもスッと入ってこない(テンポの変容が上手くない感じ)。カデンツァも出だしが粘り過ぎだと思う。第3楽章のラスト直前の行進曲部分は遅すぎる(ちなみにアタッカのところで管楽器??が吹き遅れたようなミスをしている気がする…)。最も気になるのは、和音の鳴り方のバランスである。彼の師であるババヤンの(エリザベートの)ラフ3でも感じたが、解釈上??の音ギレの悪さと相まって、鳴り響き方が落ち着かなくてなんだか腰が据わってない印象を曲全体から受けてしまうのだ(それとは関係ないが、この人は椅子から腰を浮かすようにして弾くことが多く、見た目の印象もよくない)。おまけにオケもあまりよくない(出だしのレ~ミレ〜ミからしてピッチも音色も違和感。なんか音が低く感じると思ったらそんな記事があった。尤も、これも私の耳も本当かどうか分からないが)。というわけで、☆4つはあげられないか。


☆:Xiang dong Kong/Edvard Tchivzhel/Sydney Symphony Orchestra/1992/ossia
リンク元:YouTube
1992年シドニー国際ピアノコンクールファイナル(優勝)。第1楽章の第1主題は記憶にある最遅のレベルで、ここで興味が薄れる。この主題以外はそれほど遅くはないのだが、テクニック的にも完成度的にも、ふた昔くらい前のコンサート水準。展開部も遅くはないがミスがあり、カデンツァの和音も同様。ビデオテープからupしたようだが、テープのヨレやヒスノイズもあって音質的にもよくない(出だしの途中でアナウンスが入って驚くが、その後きちんと最初から完全に収録されている)。第3楽章もテンポはともかくミスが多い。淡泊な感想で恐縮だが、わざわざ聴くほどでない。ちなみに2位がオリヴィエ・カザール、4位が有森博氏、6位が若きヴィタリー・サモシュコである(サブスクでプロコ7番の熱演やなぜか6位なのにラフマニノフのパガニーニ狂詩曲が聴ける)。私の記憶が確かなら、ヒロノフさんが2位になったオリヴィエ・カザルのラフ3の自主制作盤??を本人から購入したという話題を(今はもう見れない)HPに書いていた気がする(カザールはファイナルではプロコの3番を弾いた模様)。


☆☆:Khatia Buniatishvili/Neeme Järvi/Verbier Festival Orchestra/2011/ossia
リンク元:medici.tvYouTube
2011年、第18回Verbier Festivalでのライヴ。私はmediciの方で見たが、YouTubeにも同じものが上がっているようだ(心なしか音質はmediciのほうが良い気がする)。単刀直入に、この演奏を見て私は彼女が嫌いになってしまった。衝撃のリストアルバムから注目してたが、その後のショパン・アルバムでは言い訳も書きつつ一部で疑問を呈していた。肝心のラフ3についてはこんな風に高く評価していたのだが、これは本当に自分が書いたのかと思うくらい残念な印象である。まずポツポツと浅くタッチが適当で、クセのあるアゴーギクの何もかもが受け付けられない。ossiaのカデンツァの和音部分の迫力は凄いが、ミスというかなんというかあまり音が美しくない。終楽章の出だしなどはテンポが速いが、ユジャ・ワンや藤田君のような精密さは無いかも。また、オケもイマイチな音色な気がする。終盤になるにつれて印象は上がっていくが、とにかく肝心の第1楽章で勝負が決まってしまったという感じ。彼女のウィキを見てみたところ、グラモフォン誌のレビュー(リスト集に対するもの)がまさに今回(とショパン集、オムニバス集に対して)私が抱いた印象に近かったので引用する。


「彼女の特徴である落ちつかないリズム感、計算外の躍動感、全体的な無計画さも何度か聞いているうちに次第に薄れてくる」



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ラフマニノフ・ピアノ協奏曲第3番聴き比べ | コメント:3 | トラックバック:0 |

Spread Your Sail

このブログ読者の方とジャンルは被ってないかめしれないが、自分にとっては大切なバンドだったもので、書かずにはいられなかった。

Hi-STANDARDドラム恒岡章さん51歳で死去 公式サイトで発表「詳細は現在確認中」
https://www.nikkansports.com/m/entertainment/news/202302150000478_m.html?utm_source=headlines.yahoo.co.jp&utm_medium=referral&utm_campaign=%E4%B8%AD%E6%95%A6%E3%80%8C%E5%93%80%E3%81%97


クソガキでしかなかった10代後半、アホみたいに聴きまくってたバンドで、特にドラムの抜きん出た技量と安定感が本当にロックで最高だった。ハイスタの名曲ランキングには全く出てこないが、『アングリーフィスト』のこの曲こそ私のツボを捉えて話さない、歌詞もメロディもそして疾走感のあるドラムも、何もかもが最高だった。



ご冥福をお祈りします。


雑多な話題 | コメント:0 | トラックバック:0 |

ベートーヴェン・ピアノソナタ第31番聴き比べ

山縣美季(YouTube)を追加(2023/2/14)
ルフェビュール盤、ティソニエール盤を追加(8/26)
シュトゥーダー盤、ザッカーリア盤を追加(2/9)
シーヴェレフ盤、シオヴェッタ盤を追加(2/6)
ピエモンテ―ジ盤を追加(2/3)
グロー盤、シェルバコフ盤、ムニョス盤、フレイレ盤を追加、ボロヴィアク盤に追記(1/26)
ツォン盤、フォッシ盤、内田盤を追加(1/23)
ギルトブルク盤、ハイドシェック盤、ギレリス盤を追加(1/19)
ポミエ盤、エッセール盤を追加(1/17)
グールド盤(1958年)を追加、エル=バシャ盤を追記(1/15)
ロルティ盤、オピッツ盤、グード盤を追加(2022/1/13)




第31番のレビュー一覧(2023/2/14現在、38種類)。

いつも通り評価は☆◎○△×5段階。ベートーヴェンのピアノソナタでは一番好きな曲なので全体的に評価が甘目で○が多い。また、個人的な趣味で古い時代のピアニストが少なめ。一部、感想が短いものは昔聴いた記憶で書いているので、後日追記予定。また、録音時間はNMLのトラック分けの表記に従い、第3楽章が分割されているものがある。


この曲は、私の理想として、
①崇高かつ格調高い解釈
②録音は残響が適度で近めの音像(残響少な目はNG)
③演奏時間は19分前後
④歌い過ぎず歌わな過ぎず節度を持った凛とした演奏
が好み(20種類くらい聴いてようやく固まった)。その観点でレビューを参考にされたい。


グレン・グールド(1956年盤、20:02|7:03/2:07/3:51/7:01):○
第1楽章の情感の漂わせ方が素晴らしい。第2楽章の出だしが遅すぎるのがとにかく一番残念。第3楽章も叙情性は良いのだが、録音が古くてヒスノイズが多めなのも惜しい。


アルフレッド・ブレンデル(1973年盤、19:08|6:49/1:43/10:36):○
第1楽章は比較的遅めのテンポで静かに歌う。祈るような、慈しみのある雰囲気。音色が柔らかく、ヴェールに包まれたようなモヤッとした感じ。第2楽章はキビキビとしてメリハリがあるが、録音のせいでやや損をしているか。それでもタッチの繊細さはトップクラス。第3楽章は再び1楽章のように始めるが、全体的にちょっとかったるい。


マウリツィオ・ポリーニ(1975年盤、17:46|6:03/1:57/9:46):△
いかにもポリーニらしい質実剛健というか、ストレートでお堅い演奏。初めて聴いた演奏がコレだったが、分かりやすくてとっつきやすい曲なのにそれほど好きにならなかった。しかし今聴き直すと甘い曲を適度に引き締めていてそれほど悪くない(少なくとも彼の弾くショパンよりはずっと良い)。ただ、第2楽章のフォルテの和音が幾らなんでもうるさすぎるし、終楽章は全体的にテンポが速すぎで、この時期の彼によく見られる冷徹さが目立って曲のイメージに合わない感じ。


アンドラーシュ・シフ(18:58|6:54/2:17/9:47):×
ECMらしいモノクロームで適度な残響の録音が良いが、やや作為的な音色にも聴こえる。歌い方はいいのだが、第1楽章冒頭の右手のアルペジオがなんだか拍がズレるような気持ち悪さがあり、シフも衰えたか(繰り返しでも同様なのでわざと?)。フォルテでも力まないのは解釈だろうが覇気に欠ける。第2楽章も随所で変なタメというか間がある。和音の切り方に違和感。終楽章はひたすら静的でタルい。若い頃のフンガロトン時代に録音してくれていれば印象はかなり違ったろうにと思う。


アルフレッド・パール(19:54|6:21/2:06/11:27):◎
録音がとにかく良い。適度な残響と実の詰まったピアノの音色が素晴らしく、格調高く崇高な曲の雰囲気にピッタリ。解釈はオーソドックスで演奏も隙がなく、気持ちを込めて変にやり過ぎたりすることがない。これ以上望むのは贅沢かもしれないが、やや優等生的なところがなくもないので、☆は付けないでおく。何度も聴きまくったのでこの演奏が基準。


アブデル・ラーマン・エル=バシャ(旧録音、19:31|6:21/2:13/10:57):○
いかにもエル=バシャらしい、論理的かつ明晰な演奏。録音は少なめの残響と近めの音像で、やや速めのテンポをキープしてサクサク進む。絶対音楽的な印象がある(数学の証明を読むような構築性を感じる)が、語り口は悪くないというかかなり良い。第1楽章から第2楽章もテンポの一貫性により、メリハリに欠けるかなと思いきや意外と不思議な魅力がある。終楽章の前半は淡々としているようで味わい深い(が、フーガの魅力はグールドほどではない)。私がこのソナタに求めている格調高くて崇高なベートーヴェンではないが、これはこれで良い。演奏も録音も(ライヴ盤の)ミュラー盤の上位互換的な雰囲気がある。


イゴール・レヴィ(6:44/2:14/10:43):○ 知的で寝られた優等生的な演奏。ちょっとだけ詳しい感想はコチラへ。


マテウシュ・ボロヴィアク(18:26|6:15/2:06/10:05):
2013年エリザベート国際ライヴ(第3位)。第1楽章は出だしの語り口が非常に上手く、例のアルペジオもタッチが繊細かつ表現が自然でこれは期待できると思って聴いていたが、ライヴゆえわずかにミスが気になる。何より、オーディエンスノイズが一番気になる(咳やクシャミが結構聞こえる。現代の録音なのにデリカシーが無い・・・)。第2楽章はスタジオ録音と比べると録音レベルがコンプレッションされて均一化されているのか、第1楽章との音量差がそれほどなく、強打もうるさく聞こえないのが私には怪我の功名??で良い。第3楽章はやはり咳が気になる。また、レンジの狭い録音のせいで表現がやや平板。フーガも精妙で、なおかつ終盤の音数が増えて高揚していく場面の盛り上げが、ライヴらしく実に素晴らしい。ボロヴィアックは第3位だが、優勝したギルトブルグよりも技巧的に上と思われ、繊細かつ精妙なタッチが素晴らしく、断然印象に残っている(第2位のレミ・ジェニエも良い)。というわけで、彼には是非スタジオ録音してもらいたい。久々に聴いたが、記憶よりも演奏にミスが少なく、パール盤、エッセール盤に次ぐ評価に格上げ。


ピョートル・アンデルジェフスキ(21:50|6:37/2:07/13:06):○
パール盤を聴くまでのしばらくの間はこれがマイベストだったが、今聴き直すと終楽章のテンポが相当に遅めで少しナルシスティックな感がなくもない。もっとシャキッとしてもいいかなというところがあって、モテる優男の弾くベートーヴェンという印象。


ジャン・ミュラー(20:17|6:48/2:12/11:17):△
録音がデッド過ぎてこの曲に合っていないと思う。ピアノの音色自体は悪くない。テクニックはしっかりしているが、ライヴゆえに細部でテンポが揺れたり、トリルが甘かったりするのが残念。


アンティ・シーララ(19:44|6:37/2:20/10:47):○
第1楽章は少しナヨッとしているが悪くない。ゴドフスキーのパッサカリアを弾くだけあってテクニックもいいし、響きにも気を遣っているのだが、残響が多く、モヤッとしているのが惜しい。ラストのフーガはかなり崇高さも醸し出しているが、少し強打が目立つか。


ポール・ルイス(19:10|6:36/2:11/10:23):○
第1楽章は師であるブレンデルと似たような解釈で丁寧かつ几帳面に、声高にならずひっそりと歌う(弱音の響かせ方が似ている)。個人的には彼の弾くシューベルトのソナタのようにもう少し凛とした感じが良いが、センスがあるので悪くない。第2楽章はシューベルトで見せたビシッとした楷書的な演奏。第3楽章が地味でもう一工夫という個性を出してもいいかなと感じるのもブレンデルと同じ。最後の左手がウネるように弾いているのが癖があって違和感。


エフゲニー・スドビン(17:27|6:08/2:05/9:14):△
速めのテンポでスイスイ進む。トレモロなど細部でのタッチの精度がいまひとつ。情感も籠っているが残響過多でちょっと表現が過剰に聴こえてしまう。第2楽章はフォルテのところで「?!」と謎のルバートで立ち止まる箇所あり。終楽章は突然指回りを見せつけるように加速してりとちょっと落ち着かない(演奏時間を見て分かるように全曲と通して結構速め)。


ミヒャエル・コルスティック(19:49|6:22/1:51/11:36):○
第1楽章は標準よりわずかに遅めで、丁寧に歌う。録音のせいか細部がモゴつくところがある。第2楽章はやたらと速いテンポで力強いがややヒステリック。逆に終楽章の前半は遅く沈鬱で落差が激しい。全体的に悪くないのだが、アーティキュレーションでもう少し磨いた感じが欲しい。


ルイ・ロルティ(19:57|6:24/2:06/1:43/2:37/2:21/2:46/2:00):△
第1楽章はちょっと内向的過ぎる。かといってロマン的にテンポを揺らすようなベタベタした感じでなく、ロルティらしい節度のある語り口。タッチがシフ同様優美で柔らかだがダレる感じが否めない。この楽章がこの路線であっても第2楽章はメリハリのある演奏が多いが、ロルティはさほど変わらないまま弾いている。フォルテではあえて力を抜いているかのようで、メリハリという点で違和感。終楽章も同じ。ダンテソナタのように音の響きに気を遣っているが、曲全体を通してのっぺりとした印象になってしまっている。また、例によってシャンドスの残響多めの録音の上に、ちょっと低音がボンつく感じがある(高音のきらめきが薄い)。


ゲルハルト・オピッツ(20:22|6:43/2:07/3:47/7:45):○
残響が相当に多めだがロルティ盤と違って高音のきらめきも不足しない音質である。第1楽章もオーソドックスだが、出だしの音の響かせ方やアゴーギクがパール盤ほどはしっくりこない。途中もやや感傷的に過ぎる。第2楽章も同様。終楽章はさらに勿体ぶって重々しい。オピッツなので良くも悪くも期待通りの出来ではあるが、シャコンヌのような名演ではない。


リチャード・グード(19:47|6:39/2:06/11:02):○
第1楽章の出だしは良いが、例のアルペジオがシフほどではないが何か変。わざとかもしれないが微妙にスムーズでないのが気になる。それ以外の歌い方が自然でスッと入ってくるだけに惜しい。第2楽章では細かいことだがイヤホンやヘッドホンで聴くと床かペダルを踏むようなドンというノイズが気になる。録音は音色が軽めで情報量がやや少ない気もするが、残響が適度かつ音像も明晰。第3楽章の出だしは非常に繊細だが少しわざとらしいか。フーガになるとかなり良く、人間的な温もりのある路線で歌う。終盤は途中からテンポを速めるが、軽いタッチで崇高さが薄まるのが惜しい。


グレン・グールド(1958年盤、23:57|8:39/2:14/4:30/8:34):△
有名なストックホルムライヴ。1956年盤よりヒスノイズが薄く、多少は音質が良い。第1楽章はグールドらしく、実に自然に歌っている(ブラームスの間奏曲での名演を思い出す)。ただし、1956年盤より1分以上遅いので、さすがに遅い。第2楽章の出だしは遅いが、その後キビキビしてくるのも同じ。終楽章は第1楽章同様に1分以上遅いのでかったるい(演奏時間で分かるように最長の部類)。トータルではやや劣るか。


ジャン=ベルナール・ポミエ(21:17|6:10/2:19/12:48):○
第1楽章はやや速めのテンポで、しかし素っ気無くないギリギリの語り口で進む。細部でのエスプリも利いていて上手いが、例のアルペジオが速すぎて技を見せつけるようになっているのが惜しい(でもテンポの揺らしは自然で巧み)。録音がパール盤並みに素晴らしく、明晰で残響も適度(こういうのを聴くとやっぱりベートーヴェンでは録音の比重が大きい)。しかし、第2楽章でごくわずかにピアノの音像が遠くなるのは気のせい?少しタッチの粒が揃わないところがある。終楽章は第1楽章と正反対にじっくりと歌い出す。前半は沈鬱過ぎの感があり、フーガでは一定のテンポを遅めに保ちつつ、心地良く弾いていくのだが、時折入る和音が強すぎるのが残念。終盤は相当にノロい。ここは良いけどこっちが微妙というのが多いが、それでも良い演奏。


ジャン=フランソワ・エッセール(19:39|6:25/2:13/11:01):◎
ようやく見つけたパール盤に匹敵する演奏。やや細めの音色で録音はポミエ盤ほどよくはないが水準以上。第1楽章はフランス的に粘らずサラサラ弾くが、曲自体の持つ魅力によって十分に歌って聴こえる(どうやら私はこの曲に関してはあまり思い入れを入れすぎない演奏の方が好みのようだ)。第2楽章は痩せた感じの音色がフォルテで耳に少しうるさいのが惜しい。時折、グールドのようにうなり声がするのが気になる。第3楽章は随分と立ち止まるが流れが自然で上手く、前半は静かに歌う。中盤も深刻になり過ぎず声高にならずフーガに入る。終盤の指回りも悪くないし、羽目を外してテンポが変に揺れることもない。格調の高さや崇高さを求める方向性の演奏でないことと、終盤の高揚感や細部での磨き具合を考えると、残念ながらトータルではパール盤に及ばないか。


ボリス・ギルトブルク(20:06|7:19/2:10/10:37):○
エリザベート国際の覇者ながら、全く好きなタイプではなかったギルトブルク。そんな彼の演奏でも良く聴こえてしまうくらいに好きな曲である。第1楽章は柔らかく、切ない感じに歌う。自然な呼吸という感じではそれほどない。録音は音が太くて腰が低い感じの音色で、残響のせいもあってちょっと野暮ったい。それがマイナスになっているのが第2楽章。指回りは(ラフ3でやたらとノロノロ弾いた彼にしては)快活なのだが、ペダルで音も濁ってる感じで音色が美しくない。終楽章は高音域のフレーズが多いせいか音色面での印象は改善する。ただし、終盤の急速なフレーズでのわずかなテンポの揺れが少し気になる。


エリック・ハイドシェック(19:42|6:50/1:54/10:58):△
これもエッセールやポミエ同様にフランス的でサラリと情に流されない演奏。指回りも充実。ただ、第1楽章はテンポの変化がやや恣意的で、トリルやその他の急速部分がやたらと速くて少し違和感。格調の高さはないが、どこか朗らかにネアカに歌う。第2楽章、出だしのテンポはそれほどでもないが、やっぱり急速部分ではえらく速く、ちょっと不自然。終楽章も同様。速いところは速く、他はサッパリ薄味だが悪くなく歌う。ラストも力強すぎて、ちょっとこの曲の理想とは違う。


エミール・ギレリス(22:05|7:30/2:20/12:17):○
第1楽章は遅い。しかし、明晰かつ近めの音像のピアノの音色が良い。真っ白な鍵盤が目に浮かぶよう。例のアルペジオはテンポを揺らさず折り目正しくキッチリ弾いていく。ちょっと硬いか。第2楽章もストレート。技巧に淀みはないのだが、無味無臭な感じはする。終楽章も同じだが、最後のところでごくわずかにタッチが不揃い??になる箇所も。全体的に決して悪い演奏ではないのだが、直球過ぎて工夫というか面白味に欠ける。


フー・ツォン(22:12|7:17/2:20/4:25/8:09):○ 第1楽章は相当遅めのテンポだがメチャクチャ歌っている。例のアルペジオが失速しそうなのが惜しい。優雅だがタッチに品があり、英国紳士的な演奏(氏はロンドン在住であったが)。録音はややヒスノイズが乗り、音像が近く、音場の天井が低い感じ。第2楽章もその路線かと思いきや、メリハリが付いていて非常に力強い。優しい先生も叱るときは叱る、という感じ。第3楽章はひたすらに哲学的。それでいて重苦しくはないのが彼のセンスか。音質がもう少し良ければ評価は高いのだが。


マッテオ・フォッシ(19:31|6:43/2:09/3:37/7:02):○
これだけ大量にこのソナタを聴いていると演奏時間で大体自分の好みが掴めてくる。知らないイタリア人ピアニストによる演奏だが、私好みの収録時間だったので聴いてみた(19分~20分弱が良さそう)。そしたら案の定、最もツボに来る丁度良いテンポ。タッチも精緻で、音色の種類は少ないが例のアルペジオも自然だし、柔らかい演奏ながらも腰高な録音のせいで高音が程よく耳に届いて引き締められている。第2楽章も標準的で指回りもスムーズ。終楽章の前半はやや残響多めの録音に高音が耳に突き刺さって乗ってくる感じがあって残念。ラストの高揚感はなかなか良い。


内田光子(20:45|6:40/2:10/3:55/8:00):○
ブレンデル同様にタッチのコントロールが凄い。第1楽章は好みのテンポだが、場面ごとに結構揺らすが自然に聴こえる。第2楽章は他盤同様に力強い。ややオーソドックス過ぎて工夫が欲しいか。終楽章は第1楽章同様にタッチの繊細さが見事。フーガも響きに気を遣いながら格調高く歌っていく。音色が太くもなく細くもなく丁度良いのだが、残響多めの録音で残響音が互いに被りながら広がっていく様があって惜しい。ツォンほど哲学的でなく、曲のイメージ通りに弾いている良さがあるのだけれど、もう少し工夫というか個性が見られても良かったかな。


ネルソン・フレイレ(18:31|6:15/2:00/3:18/6:58):○
第1楽章は実に自然かつ繊細に歌っており惹き付けられるが、例のアルペジオがややスムーズでない感があるのが惜しい。録音がモヤッとして残響が目立つが、優美で柔らかい演奏解釈にはマッチしている。第2楽章はかなり速めのテンポでスイスイ力強く進む。技巧的に破綻はないが、タッチの精度という点で最上級ではないか。第3楽章前半は第1楽章同様の印象。フーガがちょっとフワッとし過ぎで、もう少しハリのある音色でカッチリ弾いて欲しいが、テンポが遅すぎないのは好感が持てる。優美路線一辺倒なので、録音のせいもあると思うけどタッチや音色の表現がもう少しあればなおよかった。


ルイス・ムニョス(18:51|6:05/2:05/10:41):○
知らないチリ人ピアニスト。演奏時間が好みなので手を出してみた。第1楽章は崇高さというよりは人間らしく、しかし威厳を持ちつつ厳かに歌う感じで悪くない。アルペジオはスムーズだが表現が少し硬い。録音のせいか、ピアノの線がやや細め。第2楽章は標準的なテンポと力強さ。ただ、和音の響きが腰高というかパシャとしている感もあり、惜しい。第3楽章前半はタッチの変化が少なく、ややダレる印象。悪くはないけど、もう少し個性というか工夫が、特にデュナーミクで欲しいところ。


コンスタンティン・シェルバコフ(19:03|6:52/2:04/10:07):△
第1楽章はテンポが若干遅め。優美路線と言えるが、フレーズごとに微妙なテンポの揺れが結構ある(あまり自然でない)。冒頭は上手いが、アルペジオが全体的にポツポツ歌う感じで違和感。録音は深い残響が多く、その響きを活かした??アゴーギクが私にはしっかりこない。第2楽章はこんなに風呂場サウンドは他にないのでは、と思うくらいの残響の中で遠慮なくバリバリ弾いている(本人も余韻を計算しながら、あるいはそれを楽しみながら弾いているのではと思うような「間」がある)。第3楽章はやはり語り口がイマイチ。特に終盤の盛り上げどころでテンポは落とさないがフッと力を抜く箇所があって違和感。演奏時間が好みの範囲なので×は付けないが、△の中でもかなりイマイチな部類。


マルクス・グロー(18:48|6:07/2:13/10:28):○
1995年エリザベート国際コンクールライヴ(第1位)。速めのテンポでスイスイ進み、例のアルペジオも素っ気ないほどに速い。サッパリ系の演奏だが前述したように私好みである。気のせいか上に書いたボロヴィアクの演奏と似ているが、細部ではタッチの表情付けやトリルの明瞭さで技巧面でやや劣るか。録音も意外と悪くない(少なくともシェルバコフの風呂場級よりは全然良い)。第2楽章は実にオーソドックスでストレート。途中でわずかに音を引っかける。主題の再現部ではヒヨったのかちょっとタッチが軽めになっている。第3楽章、音色というかタッチの変化が少なく、ちょっと残念。歌おうとしているのだが、基本的なテンポがやや速めなのでアレヨアレヨと中盤まで来てしまい、そこからフーガまでは歩みを緩め、長めに歌うので演奏時間が延びている。フーガでは元の快速に戻り、アッという間に終わる感じ。全体としては工夫が少なく、○の中でも下の方か。


フランチェスコ・ピエモンテージ(17:53|6:19/2:13/9:26):○
2007年エリザベート国際コンクールライヴ(第3位)。このコンクールではなぜかこの曲の収録が多い気がする(3種類目)。第1楽章はやや線の細めの音色でバランス良くベタつかずに歌う。柔らかさと潔さが両立されているこの楽章の「正解」の解釈のひとつだと思う。ただし、録音のせいかもう少し音色を変えてもよいか。第2楽章はメリハリをつけすぎず、柔らかなタッチでうるさく始めないのが好印象。テンポも落とさないので個人的にも嬉しい。その優美さを保ったまま第3楽章の前半に自然につなげていく。ただ、このあたりまで来ると、ドラマ性というか、劇的な慟哭の表現を見せてくれないと物足りない。続くフーガでは格調高く、崇高さを醸し出してほしいというワガママな好みで申し訳ないのだけれど、楽章を通じて同路線なのでちょっとタルい。途中、右手の単音で旋律を奏でるところで音を短く切るところがあって少し違和感。ラストの上昇していくところは音が荒れて美しくない。それでも○は付けられる
しグローよりは良い。


ファブリツィオ・シオヴェッタ (18:42|6:35/1:58/10:09):○
名前はキオヴェッタとも(2人続けてスイス人ピアニスト)。第1楽章は残響多めでモヤッとした録音のせいがイマイチだが、それに合わせたかのような、夢見るような愉悦ある歌い方で惹き込まれる。アルペジオは少し丁寧過ぎるかも。語り口が濃いのに演奏時間がそれほど長くなく、そしてタッチが軽めで繊細なせいか胃もたれする感じはない。第2楽章は多くの奏者同様、メリハリ路線だが、録音のせいか節度を持っているのかそれほど耳にうるさくないのがいい(しかし、録音がイマイチ…)。指回りに不足はないが最上級の精度というわけではない。終楽章も引き続き第1楽章と同じ丁寧路線(このように弾く人は結構多い)。テンポがそれほど遅くないのでモタれないのがいい。フーガも淡々としているが味わい深い。最後の高揚感もある。全体としてアンデルジェフスキに似ているが、あそこまで粘らない。録音がもう少し良ければ・・・。


ニクラス・シーヴェレフ(18:06|6:22/2:04/9:40):△
シオヴェッタと違い、残響少なめで音像が近く、私好み(その反面、呼吸音や唸り声もわずかに聞こえる)。第1楽章は出だしで突然立ち止まったり、謎のスタッカートを入れたり、テンポが微妙に揺れたりして気になる。例のアルペジオでもタッチを色々混ぜてて落ち着かない。表現意欲はあるがあまり成功しているとは思えない。全然知らないピアニストだがNMLには結構な量の録音が上がっている。第2楽章はタッチの不揃いがわざとやってるのかもしれないがイマイチ。第3楽章も、個性的な解釈が少ないこの曲としては結構色々やってるが、元の曲が幅広い解釈を許さない感じもあるのと、彼のセンスが私にはしっくりこない感じ。「シュッ」という呼吸音も第1楽章以上に目立つ。決して悪くはないけれども、もう一度聴くかと言われると微妙。


マウリツィオ・ザッカーリア(17:07|5:47/2:07/9:13):△
第1楽章は雨音が滴るようなチャーミングな音色で、純真無垢に歌う感じ。残念なのが例のアルペジオで、タッチと音価が一定でないというか不揃いで、おまけにボワっとしていて変。ガッカリである。急速部分はハイドシェックのようにそれほど速いわけでないが終盤などはサクサク進むので演奏時間は6分切りで素っ気ない。第2楽章は冒頭の和音を噛み締めるように弾く。その後はテンポを結構コロコロ変えて落ち着かない。第1楽章同様にタッチが曖昧というかゴマカシてる感じもある。終楽章も同様。純真無垢路線でこざっぱりしていて粘らない。フーガでは内声を強調したりもするが、音色の変化が少ないのと淡々としていてイマイチ。最後も思い入れがなくスッと終わってしまう。物足りない。


ミヒャエル・シュトゥーダー(18:33|5:54/2:08/10:31):△
一聴してピアノの音色がひなびた感じがある(フォルテピアノや古いピアノを使っているわけではなさそう)。第1楽章はザッカーリアと同様にこざっぱりしていてテンポもやや速め。音が小さくてスケールが小さい感じ。アルペジオは丁寧だがトリルはちょっとイマイチ。第2楽章はそろそろとキビキビしたタッチで弾いていく。出だしの和音をビシィッと鳴らさないタイプの演奏。少し残響が不自然で、音の情報量が薄いというか少ない感じ。終楽章も同様。覇気が無いとまではいかないが、大人しくて草食系の演奏。それほど悪くないが、物足りないと言うか地味と言うか。


イヴォンヌ・ルフェビュール(17:02|5:47/2:02/9:13):△
1955年の録音ということでヒスノイズが目立つ。しかし、演奏はかなり良い。第1楽章は厳かに品良く歌う。アルペジオやトレモロは万全ではないが、比較的安定。第2楽章はちょっと残念。前の楽章と違い、噛み締めるような重く重厚感のあるタッチで出だしが遅い。急速部分に入ってからは快速なのでこれは惜しい。終楽章はややサッパリしすぎ。録音が悪くなければもう少し評価は高いのだが。


ジェラルド・ティソニエール(20:26|6:59/2:24/11:03):△
第1楽章は私の好みからすると内向的に過ぎる。ただ、その感傷的というよりは温かみのある語り口は悪くない。アルペジオその他でスッと流れないのがもどかしい。第2楽章はどう考えても指回りがイマイチ。終楽章はノスタルジー路線だが、傾きすぎな気がする。


山縣美季(19:32|6:38/2:22/10:32):○
2020年ピアノコンペティション特級セミファイナル(YouTube)。以前記事で書いて注目していたので私の好きな曲ということもあり、聴いてみた。第1楽章は慈しむような、ディナースタインのような路線だがテンポが遅すぎないのが良い。ピアノのせいか録音のせいか、やや音が硬いのが惜しい。自然に呼吸する感じのディナーミクが素晴らしい。第2楽章はストレートかつ力強い。やはり音の硬さが気になる。終楽章は悪くないがやや淡々としている。フーガは声部の弾き分けが巧い。もう少し右手が慟哭してもいい。最後の盛り上がりの高揚感は十分なので、こんな感じで劇的な表現を随所に盛り込んでくれたと思う。気になるミスもほぼ無いし、完成度は非常に高い。コンクールなので優等生的な演奏な印象を受けるが、それでも逸材だと思う。引き続き注目したい。



(ほとんど○ばかりで申し訳ありません。評価は聴き直して変更になる場合があります)
ベートーヴェン・ピアノソナタ第31番聴き比べ | コメント:0 | トラックバック:0 |

ピアノ教室の話

以前、子どもの習い事としてもっとピアノが当たり前になって欲しいという話を書いた


そんな記事を書いたから、というわけではないのだろうが、それから急に妻の自宅レッスンに新しい生徒さんが4人も体験レッスンを希望してきた。1人はまだ会ってないようだが、体験を終えた3人は全員入会するという。息子の習い事、散髪や通院などを考えるとすでにレッスン可能な枠はキャパオーバーだったのだが、なんとか時間帯を調整したようだ。こんなご時世なのに大変有難いことである。今回は、調子に乗って、間違いだらけのピアノ教室選びについてに書いてみたい。ただし、所詮はピアノオタクのサラリーマンの無責任極まりない放言であるので、情報の活用は節度を持って頂くようお願いする。まずは余談から始める。



家を建てた前後、子どもが生まれるのを控えていたために、生徒が多くなっても困るので妻はホームページを作らずにPTNAからの紹介だけで始めた。最初の数年間は生徒さんが数人だったと思う。それから徐々に増え始めたのは、うちの子どもが幼稚園に入り、ママ友の数が急激に増えてからだ。ピアノ講師をしているのが周りにバレると、意外に人はピアノの先生を探しているものだと知った。また、うちの家の向かいにママ友グループの親玉のようなママが住んでいるのだが、その人から始まって人伝いに4~5人は紹介が来たのではないかと思う。紹介の仲介の紹介で、仲介者とは1度も会ったことがない、というケースもある。


今回来た4人のうちの2人は、なんと同じ教室からの転向であった。やはりうちに来ている生徒さんの紹介で、同じ小学校のクラスの子が探していたのだという。話を聴くと「先生が急に教えられなくなった」とのことで、どうやら産休のようだ。ホームページを見て我々は驚いた。



月3回 7000円 1レッスン40分 入会金なし



簡潔な料金体系、誠に明朗である(検索して頂ければ分かるがこのような教室は全国にある)。さて皆さん、これを見てどう思うだろうか。高いだろうか、それとも安いだろうか。「安い」と思ったアナタ。結論から言うと、ここには大きな罠が潜んでいる。



まず第一に、


・料金体系が1つということは講師の実力に疑問符が付く


ということである。ピアノ教室では、学齢別や教わる内容のレベル・グレード別に料金が違うのが一般的である(我が家も勿論そうである。ちなみに妻によると、一番教えるのが大変な幼児が一番安いのが一番キツいと言う)。にも関わらず料金体系が1つというのは、教える側の講師がそのことを知らないか、もしくは中・上級レベルの生徒が来ることをはじめから想定していないということになる。前者はあまりに世間知らずだし、後者は講師自身が生徒を選ぶ可能性が高く、その実力は推して知るべしだ。



次に、


・この料金は決して安くない


ということである。月3回は年36回なので、実はこれは非常に少ないレッスン回数なのだ。例えば某大手音楽教室は年40回である(妻はまだ自宅だけでなく大手教室でも教えているので情報はダダ漏れである)。普通、良心的なところは月回数ではなくこの「年間回数」をきちんと明示し、そのシステムを入会時に説明する。ちなみに我が家では年42回でやっている。年間で6回分、金額にして14000円も差が出てくる。ちなみに年52週あって42回というと少なく感じるかもしれないが、盆・暮・正月に祝日関係で5回分くらいはレッスンできないし、生徒さん都合の学校行事やら家族旅行やらの休みが入ると残りの5回もあっという間になくなる。36回の教室と我が家とはたった6回の違いと思うかもしれないが、「6週」と考えてもらえば違いが非常に大きいのが分かると思う。1年間のうちに42回消化するのは実は結構大変なのである。例えば、突然の体調不良、風邪やコロナ感染などは我が家では無料の振替をしてあげているので、実際にはほとんど毎週休みなくレッスンしているような感覚だ。振替がどこまで可能かは、月謝と同じくらい重要である。



では、某大手は年40回だし、大手のほうが質が良くてが安くて安心なのか、というと全くそんなことはない。まず客観的なところから説明すると、


・1レッスン30分な上に、入会金、管理費がかかる


のだ。妻が担当している年40回の大手も30分である。しかも月額8000円からで、分あたりの単価が高い。小さい子の学校の話や話し好きのおばあちゃんだと世間話をするだけで20分すぎてしまうこともあるという。30分と40分はたった10分の違いだが、年40回もやるので6時間以上、金額で24000円の差になる(大体が30分で何を教えられるのかという疑問も湧くが…)。


入会金についても説明しておこう。世の中では変な人もピアノを習いたがるので、簡単に入会してきたはいいが適当なクレームを付けてすぐに退会・休会したり、突然再開したりと、こちらからお断りしたいようなやべえヤツは山ほどいるのだ。そういう人にご遠慮頂くために、世の中の音楽教室は入会金を取っているわけだ(話はズレるが、賃貸マンションの礼金の慣習とは違う)。簡単に再入会できると、その人のために時間枠を調整する必要も出てくるので、入退会に費用が発生するという縛りをかけておかしな人がやって来るのを未然に防いでいるというわけである。某大手の入会金は1万円を超える。


トドメが管理費である。エアコンなどの冷暖房代、それに受付さん等の人件費を名目に、管理費が2000円近く取られる。もちろん毎月である。夏冬なら理解して頂けるかもしれないが、春秋もキッチリと同額取られるので注意して欲しい。ちなみに我が家では管理費は取ってないし、入会金は2000円である。体験レッスンも無料ではなく2000円頂いているが、入会してくれた方にはその分を入会金に回すという良心っぷりである(体験を無料にすると「体験荒らし」みたいのがやってくる。世の中にはヒマで迷惑な輩がたくさんいるのだ)。他にもテキストや楽譜などの教材費がかかるが、普通は使う分の実費しか取らないはずだ。大手ではどのような教材をどのくらい使うのか分からないのに、5000円近く取るところもあるようだ。



しかしながら、大手の名前が付いた音楽教室で最も問題となるのは、そもそもが講師なのである。



大体が、小さい頃から音楽に特異な才能を発揮して○○○○され、○○しか○○○に音大を出た○○○○○の人間が、教育に向いた人物である確率は非常に○○。言葉が酷くて誠に申し訳ないが、私の知る限り、妻の周りのおよそ90%の大手ピアノ講師が、社会性の○い○○○な方ばかりだった。生徒の実力に合ってない難しい曲ばかりをレッスンしてコンクールに出したり、30年前からアップデートしていない化石のようなテキストを使っていたり、教え方が悪すぎてすぐ生徒が辞めてしまうのに「なぜかしら~なぜかしら~」と一向に気付かないご婦人だったり、辞めたがる生徒を引き留めて受付にクレームが入ったり、、、諸事情で音大のピアノ科卒の女性を普通の人よりたくさん知っている私が思うに、数学科の変人率(アスペ率)と音大ピアノ科の変人率(浮世離れ率)は近しいものがある。それはともかく、大手の教室なのになぜこのようなことが起きるのか。



それは、大手だから、である。



大病院の医師が手術で執刀すると聞いたら誰もがその実力を疑わないように、大手の音楽教室の講師に問題があるとは普通の人は思わない。しかし、大手だから、広告・宣伝をしているから、だから生徒が来るのである。社会性の無い講師が多くても、一度入会してしまえば、自分が習っている先生の問題点はなかなか直視できないし、すぐには辞められないものだ。ではどうすれば良いピアノ教室を探せるのだろうか。私の考えを述べよう。



習い事は結局先生という「人」で決まるので、自分(あるいは子ども)に合った良い先生を見つけるのが最優先、である。



冒頭で書いた個人教室の先生の話の続き。どう考えても、彼女は本格的なピアノを教えられないことは明らかである。しかし、そこが閉鎖してうちに新しく来た生徒さん曰く、その先生は元小学校の音楽の先生で(それも正規の専任だったらしい)、教えるのは非常に上手かった、とのことである。妻の職場でも、声楽科出身で本格的なピアノは弾けないが、子どものやる気を上手に引き出して教えるのが上手い先生もいれば、コンクールの出場歴があるのに人間性が酷く生徒が全く上達しない芸大卒の先生もいる。もちろん音大を目指すレベルで上手くなりたいなら、後者がいいという人もいるだろう(大抵ピアノ教室のホームページのプロフィールには音大名が書いてあり、音大の中には純然たるヒエラルキーが存在するが、それを門外漢の私がここで云々するのは避けたい)。兎も角、習う目的と求める水準によって講師との相性はケースバイケースであり、何を優先したいのか、まずはそこを子どもと相談した上ではっきりさせることだ。


大手は上で述べたように講師の質のピンキリが激しい。体験レッスンと違う先生にあてられることも普通にあるので(妻は大手教室で無料の体験担当ばかりやらされ、自分ではこれ以上生徒を持てないので他の先生の生徒を増やすことに貢献していると自虐を言う)、大手だからと言って信用してはいけない。むしろ、自分の街の、あるいは自宅近くの、個人で教室を開いているところが意外に狙い目だと思う(大手や大学で教えた経験があって、独立した人ならなお良い)。何より、大手に頼らず個人で教室を開講・維持しているというのは、相応の実力と社会性がある証拠である。ネット上の口コミも参考にはできるが、嫌がらせのようなコメントを書く変人もいるのでそこそこの参考程度に留め、それこそ近所のママ友など、直接の知り合いの口コミで講師の人となりを仕入れたほうが情報の確度が高い。まとめよう。



・大手より近所の個人教室がコスパ良く狙い目

・年間のレッスン回数と時間、料金体系を必ずチェック

・可能な限り事前に評判をチェックし体験レッスンを必ず受けて人柄で決める

・レッスンを休んだ時の振替がどこまで可能か聴く

・講師のプロフィールで指導できるレベルが分かるがそれも目的次第


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Fabio Luisi conducts Rachmaninov and Tchaikovsky — With Yefim Bronfman

夢ではない。詐欺のコラージュでもない。ルイージ&RCOwithブロンフマンによるラフマニノフ・ピアノ協奏曲第3番である。



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Yefim Bronfman/Fabio Luisi/Royal Concertgebouw Orchestra/2022/ossia


私の最も好きな指揮者が、世界3大オケと、そして私の最も好きなコンチェルトで最高の演奏をしたピアニストと共演したのである。YouTubeでのラフ3動画レビューを始めようと決意してから色々検索をしていたのだが、Googleはお利口さんなもので私のフェイバリットを次々とお勧めしてくるからパニックである。そんな中でmedici.tvのプロモとしてこのコンビによる動画が現れたのだ。mediciはなぜか以前IDだけ登録していたがサブスクは申し込んでなかった。ちょうど年間12000円が50%OFFで6000円だという。月500円。すでに色々サブスクをしているが、CDやレコードも買わなくなったことだし、私にとってこの演奏を観るだけでも6000円の価値はあろうと思い、契約してみた。


前置きが長くなってしまったが心穏やかにレビューはできない奇跡のメンツであるので、それを予めご了承頂きたい。プロモ動画では演奏の一部が映っていて、そこを観る限りではオケとブロンフマンがズレており、彼の技巧の衰えが顕著(今年65歳)であろうと想像できた。第1楽章、もう開始3秒でこのオケの素晴らしさが分かる。弦も管も涙がチョチョ切れるような音色で奏でられており、ああこの曲は協奏曲なのだと痛感する。さて、ブロンフマンであるが演奏は1990年のCD盤、伝説の名演である2004ゲルギエフVPO2009ラトルBPOの(当然ではあるが)延長線上にある。出だしのPiu mossoの16分のところ、駆け上がってオケとの合奏になるところでテンポが落ち付いた感じになってしまうのもCDの頃から変わらない。期待と不安が半々の展開部の和音連打、結果は予想通りで2004より10%近くテンポが遅い感じを受ける。お待ちかねのカデンツァ、ピアノのせいかなんなのか、音が丸めで左手の重低音が物足りない。もちろん破綻はなく、相変わらず和音の配分が綺麗で深々と鳴っているし、その後の静かなところのカデンツァも情感たっぷりである。


bronfman_luisi2.png


そのまま第2楽章。とにかくオケが凄すぎる。ホルンも、完璧ではないが他のオケとは次元が違う。ブロンフマンは結構ルイジのほうを見て協奏を意識しているようである。この楽章は齢を重ねた分のいぶし銀な感じがある。ソコロフほど濃すぎず、オーソドックスな解釈でストレートに聴かせる印象だ(フツー過ぎて物足りないという人もいるかもしれない)。アタッカ部分の迫力も以前ほどではないが、きちんと急速部分もキメる。キッと指揮者を観るのも変わらずにカッコいい。第3楽章、ここが最も期待未満の箇所である。冒頭の同音連打や細かい妙技が、爆走する2004より10~15%ほども遅く感じる。ミスが無く、完成度の高さという点で何の不満もないのだが、これはちょっと残念。プロモで見れてた部分のズレは通して観てみるとそれほど気にならなかった。


演奏時間はおよそ16:51/10:31/13:49で、ここからも私の印象通りな感じ。録音はメチャクチャ良く、このところ立て続けに見ているYouTube動画とは一線を画す。特に、第3楽章の終盤、行進曲的な箇所が終わって短いカデンツの後のオケの弦のウネるような表現が素晴らしく、ルイージの仕込みを感じる。ただし、全体的に管楽器の音色は期待したほどではないかも。内容から考えると技巧の衰えは2009と比較しても隠せないし、ブロンフマンの演奏には、数十回と弾いたであろう手慣れたコンチェルトに対する「おシゴト感」を感じないこともない(2009はやはりラトルの解釈で遅めだったのかなと思う)。これらの点と、映像上やオーディエンスノイズなどの瑕疵を考えると、この2022は2009よりもトータルでは同じ4つ星でも上に付けたい感じ。ブロンフマンの名前が先に立つピアノを聴くためというよりは、オケも楽しむ協奏曲として聴くべきだろう。


同じプログラムのチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」、(ルイージはレパが少ないとハイティンクにも言われて)どこのオケでもこの曲を演ってる気がするが、それはともかくこの演奏がスゴ過ぎて唖然とする。オケの性能に加え、ルイージの一つの旋律内であってもしなやかかつ自然に強弱を付けて歌わせ、そして優雅に踊るだけでなく巨匠然としたここぞというところでの劇的かつ爆発的な表現もしっかり忘れないところが素晴らしい。素晴らしすぎて第3楽章の後にかなりの数の観客が拍手してしまうが気持ちは分かる。こんな素晴らしい指揮者が日本最高のオケを率いているというのに、例のコロナキャンセル以来ご縁がない。定期会員にも仕事のせいで申し込めなかったが、マーラーの8番を演るそうなのでなんとかチケットを手に入れたい。


そして何度も何度も書いてるが、お願いだからルイージにはRCOとマーラーの9番を録音して欲しい。
ラフマニノフ・ピアノ協奏曲第3番聴き比べ | コメント:0 | トラックバック:0 |
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