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The melody at night, with you

音楽好きの世迷い言

落ち穂拾いその1〜藤井一興 / イゴール・マルケヴィチ:ピアノ作品集 

15年ほど前は、クラシック愛好家の方の入魂ホームページがたくさんあって私もたくさん勉強させて頂いた(今も新しいサイトが出来ているのかもしれないが、私はひたすら新規開拓を怠っているのでご教示頂けると有難い)。



その中の一つに、本職がピアニストである八木良平さんの「Piano Space」がある。



残念ながら、こちらも他の老舗サイト同様に更新が止まって10年近く経つが、当時プロの方が音盤を紹介するのは珍しく、私にはとても参考になった。もちろん掲載されている盤を探して集めた。今回は落ち穂拾いとして、その中からイゴール・マルケヴィチの作品を取り上げた藤井一興氏の作品を紹介。



マルケ



1. ヘンデルの主題による変奏曲、フーガとアンヴォワ
2. 詩人ステファン
3. 画家の死のための瞑想曲



tr.1と2が藤井氏のピアノによるマルケヴィチの作品で、tr.3はベルナール・ガレという作曲家のフルートとハープの作品(ガレ自身がハープを演奏している模様)。



八木さんのサイトを見てこのアルバムを探し始め、半年くらい経った頃にユニオン新宿のクラシック館でまずLPを発見した。素晴らしい曲と演奏に感激し、もしやと思って海外Amazonを回遊したところCDも見つけた。それから10年以上経って、ふと記事にしようと思い出したわけだ。なお、レコードにはガレの作品は収録されておらず、CD化に際して収録時間を埋めるために追加されたようだ。叙情的で牧歌的でフツーな作風が聴きやすいが、マルケヴィチと全く雰囲気が異なるので、正直アルバムの統一感を損なっている。



さて、楽譜付きで見事な解説をされている八木さんのレビューに付け加えることは何もないのだが、あえて蛇足するなら曲と演奏の相性が非常に良い。藤井氏は近年TVに出るようになり、個性的な髪型(失礼)でトンデモ系ピアニストと世間の方に誤解されてはいないかと思うのだが、少なくとも若かりし頃は相当なテクニシャンである(比較的近年に出したショパンのピアノソナタはまだ聴いていない)。



ヘンデルの美しい主題の後、相当にヘンテコな変奏曲が延々と続く。その複雑怪奇な響きは、これまでのどの作曲家にも似ていない。強いてあげれば、プロコフィエフとショスタコーヴィチに似てなくもないが、八木さんが書かれているようにジャズ「風」な和声が斬新で面白い(ちなみに言っておくと、カプースチンのようにまんま「ジャズ」ではなく、あくまで「風」な音づかいが登場するというだけであるので、カプースチン好きの方は誤解なさらぬよう)。上げられている譜面の第4変奏の1小節目は左手がE9のアルペジオに乗せて右手はAメロディックマイナー(=Eリディアン♭7th、♮Dが強烈)での下降、3・4拍目はF#のよく分からない左手の音型に→ Cリディアン(=Eエオリアン)の(ほぼ)単純なスケール下降、2小節目はディミニッシュにクロマチックを混ぜて下降したものと思われる(早くも分析断念)が、散りばめられたテンションの響きがエグい。わざと「変」な和声の道を辿るような音使いに対し、藤井氏は軽快に、そして快速に弾き進む。時折ミスタッチと思われる音も入るがほとんど気にならない。 Finnissyのような原曲がどこかに消えたようなアレンジでないのもいい(笑)。2曲目の詩人ステファンも同様の雰囲気で、さらに技巧的に鮮やかな箇所があって聴きごたえがある。重い印象にしない演奏が巧みだ。



というわけで、10年以上前は入手に苦労したこの面白い作品は、今ではNMLで聴くことができる。良い時代になったものである。どうでもいい余談だが、裏ジャケの藤井氏の写真が、泣く子も黙る数学者の柏原正樹氏に似ていてドキッとする。


fujiimar.jpg

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私的殿堂入り名演一覧

幾つか追加・変更(2021/12/3)
幾つか追加(2021/11/29)



メインコンテンツのショパンのソナタやラフマニノフのコンチェルトほどの数は聴いていないが、比較的多くの種類の演奏を聴いた曲、もしくはマイナーで録音数が少ないが決定的な演奏と思う曲のうち、特に大きな感銘を受けた演奏を一覧にまとめてみた。いわば私的殿堂入りの一覧である。今後さらに上回るものが見つかれば随時入れ替えをしていきたい。私のピアノ演奏に関する嗜好を端的に表すものとして参考にしてもらえれば幸いだし、私とピアニストの趣味の近い方には特に推薦できる演奏だと思う(2021/11/27)。


本当は各曲についてショパンのソナタのように同曲異演をどれだけ聴き込んでいるのか書くべきだが、面倒なので省いた。有名曲でこの一覧にないものは、そこまで抜きんでた演奏が見つかっていないか、あるいは単にそれほどの種類を聴き込んでいない曲である。どれもにわかには上回る演奏が早々出てこなさそうな名演を集めたつもりだが、1つに絞れない曲や、あと一歩惜しいという演奏には次点 と書いたものも幾つか出てしまったのでご了承願いたい(昔書いた関連記事のリンクをピアニスト名に張ってあります)。


アルカン
◦ イソップの響宴:イゴール・ローマ

J・S・バッハ
◦ 平均律クラヴィーア第1巻:ティル・フェルナー
◦ 平均律クラヴィーア第2巻:グレン・グールド
◦ イタリア協奏曲:ニコライ・ルガンスキー(Victor盤)
◦ ゴルトベルク変奏曲:次点 キット・アームストロング(Blu-ray)
◦ 半音階的幻想曲とフーガ:デヴィッド・グレイルザンマー
◦ イギリス組曲第3番:シモーヌ・ディナースタイン
◦ イギリス組曲第6番:ピョートル・アンデルジェフスキ
◦ フランス組曲第5番:シモーヌ・ディナースタイン

バッハ-ブゾーニ
◦ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番よりシャコンヌ:ゲルハルト・オピッツ
◦ コラール「来たれ、異教徒の救い主よ」:アレクサンダー・ロマノフスキ

ベートーヴェン
◦ ピアノソナタ第1番:アレクセイ・ゴルラッチ
◦ ピアノソナタ第5番:ゲオルグ・フリードリヒ・シェンク
◦ ピアノソナタ第8番「悲愴」:ヘルベルト・シュフ
◦ ピアノソナタ第14番「月光」:次点 アナトリー・ヴェデルニコフ
◦ ピアノソナタ第16番:ヘルベルト・シュフ
◦ ピアノソナタ第17番「テンペスト」:ヘルベルト・シュフ
◦ ピアノソナタ第21番「ワルトシュタイン」:次点 ゲオルグ・フリードリヒ・シェンク
◦ ピアノソナタ第23番「熱情」:次点 ヘルベルト・シュフ
◦ ピアノソナタ第27番:セヴェリン・フォン・エッカードシュタイン
◦ ピアノソナタ第28番:アルフレッド・パール
◦ ピアノソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」:次点 ゲオルグ・フリードリヒ・シェンク、マルクス・ベッカー、グレン・グールド
◦ ピアノソナタ第30番:次点 アルフレッド・パール、リチャード・グード
◦ ピアノソナタ第31番::次点 アルフレッド・パール
◦ ピアノソナタ第32番:シモーヌ・ディナースタイン

ブラームス
◦ ピアノソナタ第1番:次点 アレクサンドル・メルニコフ、クリスティアン・ツィマーマン
◦ ピアノソナタ第2番:次点 アレクサンドル・メルニコフ、クリスティアン・ツィマーマン
◦ ピアノソナタ第3番:次点 クリスティアン・ツィマーマン
◦ 間奏曲Op.117-1:グレン・グールド
◦ パガニーニの主題による変奏曲:次点 エフゲニー・キーシン、セルゲイ・タラソフ(第1巻のみ)
◦ ピアノ協奏曲第2番:ボリス・ベレゾフスキー

ショパン
◦ エチュード全集:ルイ・ロルティ
◦ エチュードOp.10:クシシュトフ・ヤブウォンスキ(クラウン盤)
◦ 24の前奏曲:次点 ロール・ファヴル=カーン
◦ スケルツォ全曲:ベンジャミン・グローヴナー
◦ マズルカ集:アントニオ・バルボーザ(再録音)
◦ ワルツ集:ロール・ファヴル=カーン
◦ バラード第3番:ロール・ファヴル=カーン
◦ バラード第4番:ロール・ファヴル=カーン、次点 セルゲイ・タラソフ、マルク・ラフォレ
◦ アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ:ロール・ファヴル=カーン
◦ 幻想ポロネーズ:次点 ギャリック・オールソン(旧録音、EMI)、シャルル・リシャール=アムラン
◦ ピアノソナタ第2番(第3楽章限定):小林愛実
◦ ピアノソナタ第2番:アントニオ・バルボーザ(LP)
◦ ピアノソナタ第3番:アントニオ・バルボーザ(LP)次点 シャルル・リシャール=アムラン

フランク
◦ 前奏曲、フーガと変奏曲(ピアノ版):アナトリー・ヴェデルニコフ

ゴドフスキー
◦ パッサカリア:次点 マルク=アンドレ・アムラン(再録音、Hyperion盤)

アイヴズ
◦ ピアノソナタ第2番「マサチューセッツ州コンコード 1840-60年」:マルク=アンドレ・アムラン

ヤナーチェク
◦ ピアノソナタ「1905年10月1日 街頭にて」:ヘルベルト・シュフ

メンデルスゾーン
◦ 無言歌集:セルゲイ・ババヤン

リスト
◦ ピアノソナタ:ベンジャミン・グロヴナー、カティア・ブニアティシヴィリ
◦ 超絶技巧練習曲全曲:ウラディミール・オフチニコフ(再録音、EMI)
◦ 超絶技巧練習曲より第5番「鬼火」:エフゲニー・キーシン、横山幸雄
◦ 超絶技巧練習曲より第8番「狩」:エフゲニー・キーシン、ウラディミール・オフチニコフ(再録音、EMI)
◦ メフィストワルツ第1番:ニコラス・エコノム、カティア・ブニアティシヴィリ、アレクサンダー・ルビャンツェフ
◦ パガニーニの主題による大練習曲:ゴラン・フィリペツ
◦ パガニーニの主題による超絶技巧練習曲:ニコライ・ペトロフ、ゴラン・フィリペツ
◦ ハンガリー狂詩曲第2番:次点 オレクシィ・コルタコフ(ホロヴィッツ版)、マルク=アンドレ・アムラン、レオニード・クズミン
◦ スケルツォとマーチ:ニコライ・デミジェンコ、次点 アレクサンドル・ピロジェンコ
◦ 小人の踊り:次点 岡田博美
◦ 巡礼の年スイスより「オーベルマンの谷」:アルカディ・ヴォロドス
◦ 巡礼の年イタリアより「 ダンテを読んで」:次点 ウラディミール・オフチニコフ、ベルント・グレムザー、アレクサンダー・クリッヒェル
◦ 巡礼の年ヴェネツィアとナポリより「タランテラ」:ベンジャミン・グロヴナー
◦ ノルマの回想:ジョバンニ・ベルッチ
◦ ドン・ジョバンニ幻想曲:次点 ニコライ・デミジェンコ(LP)、ニコライ・ペトロフ、レオニード・クズミン

マクダウェル
◦ ピアノ協奏曲第2番:レオニード・クズミン

メトネル
◦ ピアノソナタ第7番「夜の風」:セヴェリン・フォン・エッカードシュタイン
◦ ピアノ協奏曲第2番:ニコライ・デミジェンコ、マルク=アンドレ・アムラン

プロコフィエフ
◦ ピアノソナタ第1番:アブデル・ラーマン・エル=バシャ
◦ ピアノソナタ第2番:アレクサンダー・ロマノフスキ
◦ ピアノソナタ第7番:マウリツィオ・ポリーニ
◦ ピアノソナタ第8番:次点 アレクサンドル・メルニコフ、セヴェリン・フォン・エッカードシュタイン、アンドレイ・ガヴリーロフ(EMI、DG)
◦ ピアノ協奏曲第3番:デニス・マツーエフ、ユジャ・ワン

ラフマニノフ
◦ ピアノソナタ第2番:レオニード・クズミン(旧録音、Russian Disc盤)、次点 レオニード・クズミン(再録音、Ogam盤)
◦ 楽興の時Op.16 No.2:アルカディ・ヴォロドス
◦ ピアノ協奏曲第2番:次点 カティア・ブニアティシヴィリ、スティーヴン・ハフ
◦ ピアノ協奏曲第3番:次点 ルーカス・ヴォンドラチェク

ラモー
◦ 6つのガヴォット:デヴィッド・グレイルザンマー

ラヴェル:
◦ 夜のガスパール:ルイ・ロルティ、ヘルベルト・シュフ、ベンジャミン・グロヴナー
◦ 水の戯れ:ルイ・ロルティ

リムスキー=コルサコフ
◦ 交響組曲「シェエラザード」クルサーノフ編ピアノ版:ニコライ・トカレフ(スタジオ録音盤)

サン=サーンス-ビゼー
◦ ピアノ協奏曲第2番ピアノ版:ニコライ・ペトロフ

スカルラッティ
◦ ピアノソナタ集(抜粋):セルゲイ・ババヤン、デヴィッド・グレイルザンマー

シャルヴェンカ
◦ ピアノ協奏曲第4番:スティーヴン・ハフ

シューベルト
◦ ピアノソナタ第13番:セルゲイ・タラソフ次点 アミール・テベニヒン、ヘルベルト・シュフ
◦ ピアノソナタ第14番:ポール・ルイス(再録音)セヴェリン・フォン・エッカードシュタイン
◦ ピアノソナタ第15番「レリーク」:ポール・ルイス、セヴェリン・フォン・エッカードシュタイン
◦ ピアノソナタ第18番:ポール・ルイス、ヘルベルト・シュフ
◦ ピアノソナタ第19番:ポール・ルイス(旧録音)

シチェドリン
◦ ピアノソナタ第1番:ニコライ・ペトロフ(LP)
◦ 2つのポリフォニックな小品よりバッソ・オスティナート:レオニード・クズミン
◦ ピアノ協奏曲第4番:ニコライ・ペトロフ

スクリャービン
◦ エチュード全集:アンドレイ・コロベイニコフ
◦ エチュードOp.8-12:次点 ヴィタリー・サモシュコ
◦ エチュードOp.42-5:次点 アンドレイ・ガヴリーロフ
◦ ピアノソナタ第1番:マルク=アンドレ・アムラン
◦ ピアノソナタ第2番:ニコライ・デミジェンコ
◦ 幻想曲:セルゲイ・タラソフ
◦ ピアノソナタ第4番:次点 アンドレイ・ガヴリーロフ、マルク=アンドレ・アムラン
◦ ピアノソナタ第9番:ヘルベルト・シュフ
◦ 焔に向かって:ニコライ・デミジェンコ

ショスタコーヴィチ
◦ ピアノ五重奏曲:リューボフ・エドリーナ
◦ 24の前奏曲とフーガ:アレクサンドル・メルニコフ

チャイコフスキー
◦ ピアノ協奏曲第1番:スティーヴン・ハフ
◦ ピアノ協奏曲第2番:スティーヴン・ハフ

チャイコフスキー=フェインベルク
◦ 交響曲第6番「悲愴」スケルツォピアノ版:ヴァディム・ルデンコ次点 アルカディ・ヴォロドス

チャイコフスキー-プレトニョフ
◦ 組曲「くるみ割り人形」:ヴァディム・ルデンコ

ヴァイン
◦ ピアノソナタ第1番:セルゲイ・ババヤン

ワーグナー-リスト
◦ タンホイザー序曲:次点 ユーリ・ファヴォリン


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働くということ

コロナは我々に働くということの在り方を根本的に問い直させた。



職場ではテレワークが劇的に進み、飲み会も無くなった。先日飲んだ学生時代の友人も、息子のサッカー少年団で顔を合わせるパパ友も、ほぼ全員テレワークで出社は月に数回と言っている(少年団に熱心な人たちは皆例外なく大手企業で、海外転勤でいなくなる人も多い。子育てに熱心な人は仕事も出来るらしい。私は反例だが)。満員電車での通勤が減ったり、職場での不要な飲み会が減るのは喜ばしいし、私は合理主義なのでとても良いことだと考える。飲食店は大変だと思うが、仲間との飲み会や家族との食事ではこれまで通り利用するので、応援したい。



さて、先日記事にした、良い企業にはリスペクトを、の続き。



ワークマンの加盟店は「夫婦で経営が条件」のなぜ



私はワークマンの製品のコスパが良くて愛用している。デザインもまずまず良くなってきたし、車通勤している人間として(職人さん向けのお店なので)駐車場が必ずあるのもいい。BBQにも使えるアウトドア用のダウンジャケットが欲しくてずっと狙っているのだが、雑誌で紹介されたためにあっという間に品切れで買うことができなかった。ともかく、こういう記事を読むとますます応援したくなる。これからの時代は、企業の姿勢や志向にリスペクトして価値を見いだし、商品やサービス以外の対価を支払う時代が日本にもやって来ると思う(職場にいるヨーロッパネイティブは「欧州では高くても志のある企業の製品を買うよ」と言ってる)。私がよく見ている筋肉系YouTuberの方も、よくTシャツなどのアパレルを販売されているが、「買ってくれる皆さんはこの服のデザインとか機能性で買うというよりも、僕の生き方に共感しリスペクトして買ってくれる人が多いです。だから僕は皆さんにリスペクトしてもらえるように頑張ります」と言っている。本当にそう思う。



翻って、従業員に低賃金で長時間労働させているブラック企業は、一部の経営者だけが美味しい思いをしているのか、それともそうしないと破綻してしまうからなのか。前者ならそういうサイコパスで人の心の無い人間が社長の会社は即刻辞めるべきだし、後者ならそもそも日本の生産性の低さを助長しているわけで、そのような会社に対して外部の知見のある人がアドバイスをする仕組みなどを国が作れないのかなと思う。ともかく、私が経営者ならワークマンが言うように一緒に働く人たちには幸せになって欲しいと考えるが、経営というものは難しいのだろう。私には自分でお金を生み出す能力がないし、そもそもそういう志向性で働いていないので、あまりいい加減なことは言えない。




ところで、我が社は事務系の社員以外、裁量労働制を採っている。




ほぼ全員が(一応)専門研究者扱いなので、出退勤は基本的に自由だし、そもそもタイムカードがない。自己責任で会議や業務に支障が出ない限りいつ休んでもよいし、何連休したって構わない。名目上の有給休暇はあるが、皆お盆前の5日間を指定するだけだ。その反面、大きな案件があれば昼夜を問わずぶっ続けでやることもあるし、進行状況によっては休みを取れず何十連勤にもなることがある。現に私は先月文化の日から1度も休むことなく23連勤であった。ちなみに今の職場での最多忙記録は3カ月で休日1日だが、超絶ブラックだった前の職場に比べればこれでも天国である(前の職場では重要業務の度にいちいち「この日に休んだら処分するぞ」という指示書を1人1人に手渡ししてくるところであった。この世の地獄である)。



転職して入社する時に上司から「ある意味うちは個人事業主の集合体みたいなものだから」と言われたが、本当にその通りだった。勿論、世の中は聖人ばかりではないので、この裁量労働制を悪用する輩が社にはたくさんいる。私の隣りの席の輩である。ちょっと前の記事で、福島原発が水素爆発する映像を見て「僕の東電株が・・・!」と叫んだという男だが、とにかく仕事をしない



以前にもほんの一部紹介したことがあるが、例えば繁忙期の全員出勤業務の日にサボる。残業代が付かないからだ。にも関わらず、会社から出る昼の弁当だけはこっそり取りに来る。みんなが人海戦術で必死に仕事をしているのに、誰にも顔を合わさずに弁当だけを取りにくる能力とその神経が凄い。なぜそれを知っているかというと、受付の警備員さんが教えてくれたからだ。


エアコンの温度に異常にこだわるのも、他人に会議で座る席を強制してくるのも、5分に1度席を立ってどこかへ行くのも、職場で一番の自閉症スペクトラムかつADHDだからである(本人に自覚は無いが、本人以外は全員がそう思って納得している)。お昼時と夕方には決まって自転車で爆走しつつどこかへと出かけていくが、近所のスーパーで揚げたての総菜を買うのと、オツトメ品の第一陣を購入するためだとスーパーで遭遇したという同僚が教えてくれた。部署の冷凍庫には奴が買い込んだ総菜がギッシリ詰まっており、冷蔵庫には箱買いしている野菜ジュースが占拠しており、買い置きが底をついてスペースが空いた隙に他人が飲み物を入れようものなら激怒して喰って掛かってくる。奴曰く、「ここは僕の場所」であり、「僕に優先権がある」とのことだ。職場では「永遠の5歳児」と言われている。日がなコーヒーを飲みながら新聞を読み、気になる記事はコピーして保存するのがルーティーンである。奴のデスクの上はゴミの山なのに、コピーを取る際には毎回除菌シートでコピー機を拭いている。浄水器付きでない蛇口の水は絶対に飲まないくせに、浄水器の水を入れて2日間放置したティファールで湯を沸かしてコーヒーを飲む。一体どんな素晴らしい業績を出しているのか知らないが、こんな人間が一般企業で勤められるのが不思議に思うほどの振る舞いである。


何度か書いているように、博士号を持っている人間が半数近くいるという特異な職場なので、濃淡あれどこの男のようなアスペルガーばかりである。管理職はごく少数の非アスペルガーが勤めている。しかし、当然彼らを「管理」できるわけもなく、管理職についた人間は働き過ぎでよく倒れる。管理職になると自由も減るし、手当ての割りに激務なのでうちの会社では誰もやりたがらない。そのため、うちの職場で研究職については互選で任期付きの管理職を選ぶことになっているほどである。変な人間が管理職になると、そこからの数年間は職場がおかしなことになるので、結局いつも人望のある同じ人が選ばれる。彼らは他人への共感力があり、他人の分まで働いてしまうので、管理職になってしばらくすると倒れる。平社員からすると誠に申し訳ないことである。こう考えてみると、(少なくともうちの職場の)女性陣はみな一様に他人への共感力が高い人が多く、色々なことによく気が付くので管理職や上司に向いていると思うのだが、我が社も日本社会同様に女性の割合はまだまだ少ない。


多様性は重要である。同じような専門性を持った人間の集団だと時代の変遷にすぐ取り残されてしまうので、人事では「自分たちよりも優秀な人間を性別や国籍に関わらず採用すること」とうちのトップは明言している。イギリス、アメリカ、フランス、中国が多いが、ロシアもいる(なぜか東南アジアが少ない)。性的マイノリティも公表しているだけで3人、色々あって公表してない人を含めると職場の1割弱くらいいると思う。思想信条も自由な考えの人間が多いせいか、会議ではあらぬ方向から、しかし建設的な意見が出てくることもしばしばである。割合的にはリベラルが多いとは思うが、右も左も極端な人間がそれぞれちゃんと一定数いて、選挙前にはいつも喧嘩をしている。職場の人間に共通しているのは、自由を尊ぶということくらいだろうか。そのせいで、先に述べたような輩の振る舞いも咎められにくいというのもあるのだが。


ブラックで働き、10円ハゲが出来、血尿が出、鬱になった私にとって、転職してやってきた今の職場の待遇は天国に近いのだが、働き甲斐や社会貢献という意味では前職に劣る。コロナが落ち着いたら、ボランティアを再開したいと思う。
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個人的最大のニュース

コロナ2年目、今年の音楽業界における個人的最大のニュースは4月にやってきた。




ファビオ・ルイージ NHK交響楽団 首席指揮者に就任




私が最も愛する指揮者、ルイージがN響の首席に就いたのだ。マーラーの9番(海賊盤)を聴いて感激して以来、彼の音源を集めに集めてのめり込んだ。ヤンソンス後のロイヤル・コンセルトヘボウのシェフには是非ともルイージを、と思っていたのだが(何度も客演してRCOのブルーレイでも大地の歌を演奏してるし)、残念ながらガッティに。オペラでの評価の高い彼だが、ドレスデン・シュターツカペレと喧嘩別れした後、ウィーン交響楽団からデンマーク交響楽団へと微妙な横滑りをするなど、ヤキモキしていた私にとって大大大逆転である。ルイージを連れてくるN響のセンスが素晴らしいし(謎の上から目線)、引き受けるルイージももちろん最高。日本は本当に良いところですよ!(PMFを引き受けて何度も来日してるし、よく知っているのでしょう)。




・・・なのに・・・なぜ









・・・仕方ない。仕方ない、冒頭に書いたようにコロナ2年目、、、幾ら感染者が減っているとは言え、ヤバい変異株が現れているこの状況、、、私だってよく分かってるし、私は首相の素早い決断を断固支持する(ちなみにうちの職場にはサバティカルという名のバカンスで今まさにナミビアに行っているバカ野郎がいる。帰れねーよとフェイスブックで叫んでる)。頭では分かっているつもりだがしかし、、、払い戻しくらいしてくれよN響!!尾高さんは嫌いじゃないけど、尾高さんが聴きたくて17500円も払ったわけじゃないんだよ!チケットの一般販売の11時に合わせ、仕事中になんとか理由つけて無理やり抜け出してトイレに籠ってこっそりチケットを苦労して買ったんだよこっちは!


職場の音楽好きの先輩は、先日のルイージのチャイ5@サントリーホールを、数席残っていたというA席を当日購入して聴いたとのこと。「緩急が自在でダイナミックで、本当に最高だったよ。一足先にゴメンね」と感激されており(羨ましすぎる)、私のルイージ推しの影響を受けて「私もA太君に習って第9の芸劇買っちゃったよ」と仰っていたのに、この絶望的なメールを読んでお互いにテンションダダ下がりである。




しょうがない、今回はルイージを連れてきたN響に免じて許してあげよう。苦境に立つ音楽業界への、ちょっとした寄付と思って諦めよう。




はー泣ける。。。



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私的殿堂入り一覧・補遺1~好きなピアニストについて~

一覧を作ってみたものの、ブログの記事で取り上げていない曲について、マイベスト(ないしは次点)だと紹介するのも無責任かなと思い、ちょっとずつ補足のコメント記事を書いていこうと思う。


まず、最初に全体的な言い訳をしておきたい。


お気に入りのピアニストについては、1つのアルバムの収録曲がまとめて好きになってしまうことが往々にしてある。例えば先日紹介したばかりのヘルベルト・シュフのベートーヴェンなどは、ソナタを丸々選んでしまった。好きなピアニストのアルバムは繰り返し聴いてしまうのでそれが好みの「基準」になってしまうことも多い。ラヴェルの「夜のガスパール」などは、技巧のキレで言えばグロヴナーやティエンポに軍配が上がると思うのだが、細部での表現の凄まじさを根掘り葉掘り聴いてしまうとシュフが基準になってしまう。また、彼の場合は熱情ソナタなど実演で聴いて感銘を受け過ぎたという影響もある。


同じことがセルゲイ・タラソフのA&E盤や、シモーヌ・ディナースタインの『ベルリン・コンサート』にも言える。タラソフのA&E盤からはシューベルトのソナタ第13番、スクリャービンの幻想曲、ブラームスのパガニーニ変奏曲の3曲、ディナースタインのベルリン・コンサートからはフランス組曲第5番とベートーヴェンのソナタ32番の2曲を選んでしまった。


タラソフの盤はとにかく録音が良いのと、彼の技巧と音楽性のバランスの取れた演奏が全曲を通して素晴らしく、トータルなピアノアルバムを10枚選べと言われたら間違いなく入る1枚だと思うのでお許し頂きたい(ちなみに家でも車でもかけすぎて妻には「シューベルトのソナタは練習した頃を思い出すし聞き飽きたからかけるな」と言われる)。なお、ブラームスのパガニーニ変奏曲は、最終変奏だけキーシンのものに波形編集して差し替えて聴いている。ちゃんと最後の和音はタラソフのものに戻すなど、かなりこだわって編集した(苦笑)。


私はディナースタインの優美で柔らかで理知的でありながらも叙情性に富んだ演奏が大好きである。彼女のこのアルバムから選んだソナタ32番は、ベートーヴェン最後のピアノソナタということもあり(実際に最後に完成したのは31番との説もある。ちなみに私が好きなベトソナはベタに31番)、ことさら神格化して難しく考える方が多い気がするが、むしろ私はジャズの登場も感じさせるハネたリズムと躍動感、人間らしい喜びの表現に感銘を受ける。ディナースタインはその丁度良いところを実に的確に表現していると感じる。以前、超絶技巧のピアノ編曲についてのサイトを立ち上げられていた夏井さんという方がこの曲に関して(うろ覚えだが)「第2楽章はクラスターの世界がそこまで来ている」という文を書かれていたが、ベートーヴェンの新鮮な創作意欲を端的に表していると思う。


また、そもそも我が教祖とも言えるkyushimaさんの影響は否定しがたい。というか、クラシック音楽に対してここまで客観的かつ明晰な筆致で的確な批評を行った方を、私は他に知らない。もちろん一度もお会いしたことはないし、何度か情報提供のメールを送らせて頂いただけだが、私の音楽人生に極めて大きな影響を与えてくれたサイトであり恩人であることは間違いない。残念なことにkyushimaさんの更新は長いこと止まってしまっているが、それでも未だに私の取り上げた曲のベストがkyushimaさんとほとんど被ってしまっている曲が幾つかある。特にリストはそれが顕著であるが、技巧曲では早々名演など出てこないので仕方ない。


よい機会なので、私が現在好きなピアニストについて久々に書いておくと、現役勢では、


ヘルベルト・シュフ、デヴィッド・グレイルザンマー、シモーヌ・ディナースタイン、ベンジャミン・グロヴナー、ロール・ファヴル=カーン、アレクサンドル・メルニコフ、セヴェリン・フォン・エッカードシュタイン、ゴラン・フィリペツ、ルーカス・ヴォンドラチェク、シャルル・リシャール-アムラン、カティア・ブニアティシヴィリ、アレクサンダー・ガジェヴ、クレア・フアンチ、アレクセイ・ゴルラッチ、チョ・ソンジン


が、アルバムを出したならともかく聴いてみようかと思うピアニストである。特に最初の7人は私にとって極めて「本塁打率」が高く、別格に好きである。お気に入りのピアニストに上げたサモシュコは今はもう若い頃のような熱演をしなくなったので残念である。ベテランになりつつあるアムランやクズミン、ヴォロドス、キーシン、ルガンスキー、ガヴリリュク、ロマノフスキ、ユジャ・ワンらもテクニシャンが多いし好きだが、トータルで考えると打率はそれほど高くない。ちなみに若手でバリバリCDを出しているのにあまりホームランを打ってくれないピアニストだとダニール・トリフォノフがいるが、ベルリンフィルのサブスク映像で見たコンサートは良かったので、録音作品(レコード)とライヴでの評価は違うことは十分ありうると思ってる。


もうなかなか新録音は望めないベテランや大ベテラン、亡くなってしまった過去のピアニストでは、


セルゲイ・タラソフ、ルイ・ロルティ、ウラディーミル・オフチニコフ、ニコライ・デミジェンコ、マルク・ラフォレ、アントニオ・バルボーザ、グレン・グールド、ニコライ・ペトロフ、アナトリー・ヴェデルニコフ


の打率が高い。特に、アントニオ・バルボーザは世間では人気女流ヴァイオリニストのワンダ・ウィウコミルスカの伴奏者くらいとしか認識されてないように思うが、私にとってはショパンのソナタ2作でホームランを残すという二刀流の偉業を成し遂げた、本当に素晴らしいピアニストだと思う(もちろん、彼の演奏の全てが良いわけではないが。また、コニサー・ソサエティの録音がモヤッとしていてよくないのが残念)。古いものは録音がよくないこともあって、例えばグールドなどは大好きなのだが、意外にマイベストとして選んだのは少なかった。


日本人を選んでないじゃないか、と言われるとイヤなので挙げると、


(若い頃の)高橋悠治、(若い頃の)岡田博美、横山幸雄、福間洸太朗、松本和将


の各氏が好きである。特に松本氏は私の知る限り、日本人ピアニストでは抜群の音楽センスを備えていると思う。


どのピアニストが良いかを一度に知る機会として、やはりコンクールの実況ライヴを聴くのが一番である。先日のショパンコンクールでは無料でYouTubeでたっぷり10人以上のピアニストを聴いて「知る」ことが出来たし(本当に良い時代になった)、エリザベート国際や浜松国際のライヴなども上位演奏者の特徴を掴むことができる(おまけにコンクールならではの緊張感の中での名演率も高い)。


基本的に私はレコ芸など読まず、HMVの新譜情報も定期的にチェックしないので「流行り」や「最新の話題」には極めて疎い。たまーに古くからの常連の方(こんなブログでもいらっしゃる)がメールで情報提供を下さるのだが、大変ありがたい。当ブログは来年まさかの15周年を迎える。飽きっぽい私だが、どちらかと言えばoutputすることで得られる生活の「ハリ」のためにここまで続けてこれた。今後とも読者の方の参考になる話題を提供できればと思っている。
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