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The melody at night, with you

音楽好きの世迷い言

続・Charles Altura

以前、ジャズ・ギタリストのチャールズ・アルトゥーラが気になるという記事を書いたのだが、それから彼がサイド参加した作品を3枚ほど聴いた。アメリカで「ネクスト・ライジングサン」と評判の彼の、ジャズ方面からの視点でレビューしてみたい(お分かりのように、私は1人のアーティストを深く掘り下げるタイプである)。


まずは彼の出世作??と思われる、チック・コリアのアルバムから。なぜか録音年の記載がないが、おそらく2013年初頭だと思われる。

IMG_20190210_082636.jpg


・・・実を言うと、私はチック・コリアが苦手である。何度も書いているようにキメの多いテクニカル・フュージョンが楽しめないのだ。演ってる本人たちは自身の演奏能力を十全に発揮する機会が多くて楽しいのだろうが、なんというかグルーヴに身体を委ねる喜びに欠けるというか・・・勿論、一概にフュージョン全部がダメなわけではないが・・・。

さて、結論から述べると、これはまさしく私の苦手なフュージョンであった。多作で知られるC・コリアとの先入観ということもあると思うのだが、いかにも超絶技巧の職人たちが集まって短時間で仕上げた「こしらえものの秀作」という感じがする。

ところで、アルトゥーラのギターは巧い。凄まじく巧い。youtubeでもライヴ映像を見ることができるが、HR/HM的なメカニカルな能力と、ジャズ・フュージョン的な和声的能力の両方を兼ね備えているという感じがする。アコギでの凄まじい早弾きなども聴けるので、どちらかと言えば前者寄りな印象がこの盤では強いが、以前紹介したD・スティーヴンスの盤では完全なジャズ寄りのプレイだったので、懐の深いギタリストなのだろう。とにかく卓越した指の運動能力に(久々に)耳を奪われた。

ブックレットの写真を見ると、どうやらストップテイルピースのギブソンES-335を使用しているようだ。テイルピースとブリッジの間に布??のようなものを挟んでいる。音色はエレクトリックな他の楽器群に埋もれないよう、基本的には薄く歪ませ、サステインも長めであり、箱モノ的なピッキングニュアンスのふくよかさやアタック感は楽しむことができない。

というわけで、彼が参加していなければおそらく聴くことはなかったであろう作品(苦笑)



続いて、ジャズ・ベーシスト、マット・ブリュワーのリーダー作品『アンスポークン』(2016)。

mattb.jpg

実は彼のオリジナルは苦手である。以前、彼のリーダー作『Mythology』にラーゲ・ルンドが参加しているというので買って聴いたのだが、どれもテンポがノロく、出来損ないのフリージャズかゲンダイオンガクか??と思って頭に来て、短気な私はヤフオクかなにかで売り飛ばしたのだった(だから正直内容はよく覚えていない・・・音源は残してあると思うが。金の無い学生時代と違って、最近はあまり音盤を売らなくなったのだけれど)。


そんなわけで一抹の不安があったものの、アーロン・パークスも参加してるし・・・ということで買ってみた。


結論から言うと不安ド的中。この人はドロドロしたアンダンテ曲しか書かないのか、という記憶があったのだが、今回もそれ。1曲目はまあ掴める旋律があるので許せるが、それ以降はなんだかモヤモヤしててパッとしない曲ばかり(3曲目のフリーゼルの曲はなかなかイイ)。5曲目の『EVIL SONG』という3分ほどの曲は私からすればまさに悪意と邪悪に満ちたキモ過ぎる曲。演奏者のソロらしきソロもなく、意味が分からない。パーカーの『CHERYL』だけはスタンダードだけに、演奏者たちのまっとうなソロが聴けるのが救いだ。

ブリューワーへの悪口が続いてしまったが、アルトゥーラの話だった。はっきり言って、バシッ!と目立つソロがそもそも少なく、高揚感のある曲も少ないので評価に困る。また、音色はやはりセミアコを使用していると思われ、曲によっては薄く歪ませたりして、その音のよく伸びる具合を考えると結構コンプとかのエフェクトも使ってそうな感じ。正直、『ヴィジル』路線の音色で、個人的にはあまり好きではない。


唯一の救いと言えば、パークスのピアノが素晴らしいこと。2曲目の冒頭の繊細なタッチでの抒情的なフレーズにゾクッとする。まるでクラシックピアニストの演奏のようだ。以前、「アーロンはパークスよりゴールドバーグの方が好き」と書いたのだけれど、彼の若い頃の小生意気な「オレ天才なんです」感がいい具合に角が取れてきて、真の天才に仕上がってきた感がある(なんて偉そうなんだ。でも、カートの2012年『スター・オブ・ジュピター』の1曲目「ガンマ・バンド」のソロは難解??な展開に勢いとリズムだけで何が言いたいのか分からんかったし・・・)。というわけで、パークスの煌めく才能ばかりが目立つ盤。おそらく今後、ブリュワーのリーダー作に手を出すことはないだろう。



さて、3つは最新盤。つい3日前に発売されたてホヤホヤの新譜である。

トム・ハレル『インフィニティ』(2018)

tomhha.jpg


いつものようにユニオンに出かけると、いい具合のクリーントーンでバシバシとカッコいいフレーズを弾くギターが耳に飛び込んできた。これはもしやと思ってレジで確認するとこの盤てあり、やはりアルトゥーラのギターであった(!)。

Tom Harrell(tp, flh)
Mark Turner(ts)
Charles Altura(el-g, ac-g)
Ben Street(b)
Johnathan Blake(ds)
Adam Cruz(prec M3 only)


コード楽器がギターのみで、いよいよアルトゥーラの本領が発揮されるかと思い、ワクワクして聴いてみた。


これまでに紹介した4枚と比較して、もっとも一般的なジャズ・フォーマットに近い。全曲がトム・ハレルによるものだが、あまり非ジャズ・ビート的な曲(というかロックっぽいドラム)もあり、単なるジャズ・スタンダード感だけに留まらない。ブリュワーの曲よりは断然好ましい。目玉の1人であるマーク・ターナーはいつ聴いてもマーク・ターナーで、例の高音域からヒュルリと降りてくる手グセフレーズが聴けて思わずニヤリとしてしまう。ドラマーは起伏に富んだビートを叩き出しており、私好みの、なんというかロックなエリック・ハーランド感があって巧いと思った。


アルトゥーラの話をすると、活躍度ではこれまでで一番なのだが、正直なことを言うとジャズ的語彙の限界も見えた感がある。カートやL・ルンドなど、普段から先鋭的なハーモニーを駆使するギタリストばかり聴いているせいだと思うのだけれども、要は物足りないのだ。ハレルがバップ寄りのアドリブを繰り出すために、「空気を読んで」分かりやすいソロを弾いたのかもしれない。アコギでのソロもちょっと普通で、なんだかポップスのセッション・ギタリストが弾いているみたいだ。それでも私が店頭で聴いてカッコいいと思ったフレーズは、D・スティーブンスのリーダー作に参加したときにも聴いた感じの、ペンタ的な1弦につき2音ずつ弾くものに多少の味付けしつつ下降・上昇するもので、手グセなのかもしれない(それでもリカルド・グリーリの「ソレしか弾けないのかお前」みたいな手グセオンパレードでは勿論ない)。また、卓越した指回りを見せつける場面もやっぱり空気を読んだのか少なく、地味なソロが多い。


ギターの音色に関しては根本的な変化が感じられる。録音が2018年の終わり頃なので、これは彼が渋谷ウォーキン『Westville』にエンドースされた後だと思われ、ウェストヴィル製のセミアコギターを使用しているのではないか。クリーントーンはヒラヒラしてて軽めながら不思議と芯があり、同ブランドのサイトでのKurtのyoutubeで聴ける音と同じキャラクターである。これまでの音色より私好みである(単に一般的なジャズ形態の作品に合わせただけかもしれないが。それにしても・・・ウェストヴィルの躍進はすごい。今度はメセニーの"トリビュート・モデル"だってさ。売れるだろうなぁコレ)。


というわけで、アルバム1枚を聴き終わると、曲のモチーフもリフの反復を基調にしていて似通った感があって、おまけにアルトゥーラのソロも地味で、悪くはないのだが惜しい。彼はテレンス・ブランチャード監修の映画でもギターを弾くなど、各方面に引っ張りだこのようだが、いつか腰を据えてジャズなフォーマットでリーダー作を出してほしいと思う。私が一番好むコンテンポラリー・ジャズは、J・レッドマンらのジェイムズ・ファームのような音楽性なのだが、あそこにギタリストとしてアルトゥーラが参加してくれれば最高なのだけれど。おしまい。
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F・ルイージ&デンマーク国立交響楽団来日講演 2019/3/19 サントリ―・ホール

最近はジャズの更新が続いているのだが、もちろんこのブログは元々クラシック音楽がメイン(のつもり)。我が最も敬愛する指揮者、ファビオ・ルイージが、手兵であるデンマーク国立交響楽団を率いて来日したので喜びいさんで聴きに行った。

東芝グランドコンサート2019
2019年3月19日(火) サントリー・ホール
管弦楽:デンマーク国立交響楽団
指揮:ファビオ・ルイージ
ソリスト:アラベラ・美歩・シュタインバッハー(ヴァイオリン)

<プログラムB>
ソレンセン:Evening Land(日本初演)
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 Op.26
(ヴァイオリン:アラベラ・美歩・シュタインバッハー)
アンコール:クライスラー『レチタティーヴォとスケルツォ』
ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 Op.92
アンコール:ゲーゼ『タンゴ・ジェラシー』

彼の観るのは結構久しぶりなこともあり、気合いを入れてチケット発売日当日にPCの前で待ち構え、速攻でルイージの飛び散る汗を浴びられるようなど真ん中を確保。こんなに高いチケ代は久しぶりだが、些かも購入を躊躇せず。

さて、公演のレビューを手短にいい加減に書く。プロの文章はこちらを参照してほしい(小泉元首相が来ていたとは気が付かなかった)。

オケが出てきて、コンマスが日本人と思しき比較的若いアジア系女性なことに、明らかに観客はちょっとどよめいた。私はほぼ眼前で目にできる席だったのだが、とても綺麗な方だった(オケの公式サイトを見たりちょっと調べたが彼女が日本人かどうかはわからなかった)。

そのコンマスの彼女のソロでソレンセンが静かに厳かに始まる。出だしはリリカルで長閑な旋律で涙が出そうになる(幼い頃見たデンマークの田園風景だとか)。オケが入ってくるとタケミツ的な現代曲っぽさが顔を出す。ドロドロした重低音とマーラーの9番の終楽章とショスタコーヴィチのピアノ四重奏を足して3で割ったような、移ろいやすく儚い、しかし時折弦楽器や打楽器がドンドンと強く自己主張をするような(少なくとも田園風ではない)感じ。擬音で表現するならヒュンヒュン、ドンドン、、そこにコンマスのソロが点描的に登場する(彼女は大活躍であった)。とにかく、意外に私には聴きやすく感じられた。終曲後は観客席にライトが当たり、ルイージの手招きで作曲者のソレンセンが登場。ひげ面で不愛想で不機嫌な感じ。しつこい拍手にウンザリした感じで両手を挙げて観客が笑う。

続いて、協奏曲。ブルッフのヴァイオリンコンチェルトでソリストはアラベラさん。クラシカルCD~の加藤さんが2014年のベストCDのNo.1に彼女の弾くモーツァルトの協奏曲を選んでおり、モツ嫌いな私も聴いてビックリする名演だったので、注目していた。ヴァイオリンのコンチェルトをこんなに前で聴いたのは記憶にないが、私のために弾いてくれているのかと錯覚するような「音のぶつかり具合」である。音色は黒光りするような低音の美しさには欠けるが、艶っぽく渋みの無いオーソドックスな感じ。私の好きな久保田巧さんのバッハ無伴奏の音に似ている気がした。聴き慣れない曲なのでアレなんだけども、エネルギッシュでいて雑味がなく、ルイージもオケをグイグイ引っ張っていく。「競争曲」と言うほどでないが、非常に力強さに満ちた演奏。盛大な拍手。アンコールはクライスラーの無伴奏。もう人間技とは思えないピッチの正確さ、ミスの少なさ!実は最近知人にチェロを借りて触って(まさに)遊んでいるのだが、どれだけの才能と努力を費やせばこのような演奏ができるのか?素晴らしかった。

休憩をはさんで、メインのベト7。大好きな曲であり、ウイーン国立響とのライヴ自主製作盤が出ているわけだが、それと比較するととにかく快速で、エンターテインメントな、要するに私がルイージに期待するすべてが凝縮された、円舞的な名演!!!第1楽章はやや管楽器のピッチが気になったが、しなやかでかつテンポが速く、縦の揃いもバッチリなヴァイオリンが素晴らしい。第2楽章のくらーい感じもしつこくなく描く。予想よりも細部の彫りにはこだわってない感じ。第3・4楽章は、もうルイージの独壇場というかなんというか、ただただ自分にぶつかってくる音の洪水に酔いしれた。。終楽章は管のピッチも気にならず、オケ全員が躍るようなルイージの指揮に追随しながら爆走。思わず終演後、人生初のブラヴォーをでかい声で飛ばしてしまったのだが、叫んだのは勿論私だけではなかった。興奮冷めやらぬ中でのアンコールも一切手を抜いた感がなく、大汗をかきながら指揮するルイージに感涙。生きてて良かった…。観客はみなお世辞のような拍手ではなく、対面の2階席のお客さんなども物凄い笑顔で拍手してて、なんだか私まで嬉しくなってしまった。正直、砂被りの前方席は管楽器が頭上を通過する感じがして、音的には良くない気がする(オケの最前列は他に1回しか経験がないのだが)。音のシャワーを浴びれつつ、各楽器のバランスを考えると前から7~10番目の真ん中が個人的には良いのかなと思う。

繰り返される拍手が終わり、団員が立ち上がった時にペア同士で一斉に抱き合ったのには驚いた(初めて見た)。とにかく団員同士の中が良さそうというか、演奏中も能面でなく、周囲と目くばせして笑顔になったりとルイージを中心としたオケのケミストリーを感じる場面が何度もあった。女性の団員が多かった気もする。オケの技量や音色は世界に名だたる有名メジャーオケと比較するとさすがに遜色はあるが、ルイージの出したい音の具現化にはこれくらいの身の軽さが合ってるのかも(それでもやはりRCOを率いて欲しかったが・・・)。コンサート後はなんとルイージのサイン会があったのだが、おそらく長時間並ぶであろうことと翌日の仕事を勘案して、今回は泣く泣く見送ることに。

帰りは同行した友人と渋谷の昭和な焼き鳥屋で軽く打ち上げ。彼とはこの20年近く、あらゆるライヴを一緒に観に行ったが、なんともうすぐパパになるらしい。とっても目出度い気分で帰宅した。ロックやPOPS、ジャズのライヴは出かけるが、クラシックは行かないという人も多いと思う。普段聴かない方にとってハードルが高いのは承知の上なんだけれども、咳払いもグッと堪えて我慢し、椅子に座り直すことすら憚られるような緊張感の中で、「静寂」という形で観客に「音楽への参加」を要請するクラシックのコンサートに、是非一度足を運んでみて頂きたい(まずは年末の第九とか)。ロックとはまた違った演奏者と観客の一体感が味わえると思う。
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Daisuke Abe / On My Way Back Home

続けて日本人ジャズギタリストの作品を。



阿部大輔 『On my way back home』 2004年録音

阿部大輔:guitar
Walter Smith:tenor sax
Aaron Parks:piano
Matt Brewer:bass
Rodney Green:drums
Gretchen Parlat:vocals (tr 4,6)

阿部大輔氏は1978年生まれ、洗足学園短期大学ジャズ・コースで道下和彦氏に師事、同校首席で卒業後渡米、バークリー音楽院でミック・グッドリックらに師事、在学中に"Louis Belson Award"を受賞し、2002年卒業。その後、NYに滞在し、2005年にリリースされたのがこの初リーダー作品である。まずはともかく、御覧の通りメチャクチャメンツが凄い。今をときめくアーロン・パークス、マット・ブリュワー、ロドニー・グリーンら素晴らしいサイドメンを集めている。


さてこのアルバム、全曲阿部氏のペンによるものだが、一番の要点を述べるととにかく曲が良い。いわゆる一般的な編成のジャズ作品だが、どれも印象的なテーマで、見た目の通り(??)いかにも生真面目そうな日本人が書いたバランスの良い(≒ベタすぎない)メロディックな曲が揃っている。タイトルトラックの1曲目、アップテンポでいかにもギタリストが書きそうな旋律。アドリブはやや堅い??感じがしてすぐ終わってしまう。他のソリストも、「曲に馴染んできたかな?」と思うところで終わるので、物足りない。2曲目、メセニーにも通じるキャッチーで分かりやすい佳曲。非常に印象に残る。3曲目、これも比較的速めのテンポ。ギターの音がM・モレノみたいで、プレイも若干そんな印象がある。これはサックスのソロに行く前のサブテーマみたいのが実に美しい。ただし、やはりソロは短い。4曲目、歌が入ってくるが、このヴォーカリストがまた良い声で、おまけに曲もいい(歌詞はなんとロドニー・グリーンが書いたという)。当時二十歳そこそこと思われるパークスの伴奏も光る。曲に合わせ、ここではアコギをプレイしているのが「わかってる」という感じがする。


5曲目、最も長尺の曲(8:15)で、ようやくたっぷりソロを取ってくれたという感じ。クインテットなら10分くらい演奏してほしい。6曲目の歌、さっきよりもアブストラクトでちょいとダークな、不思議な切なさを備えた曲。ギターはフルアコで、歌と時折ユニゾンしつつ、ソロも取る。7曲目、これも快速テンポで、あまり旋律が跳躍しない、1曲目同様な感じのテーマの曲。ブリュワーのベースがようやくグイングイン来る。テナーも一発目にガツンとしたソロで本領発揮。続くギターソロがこれまた短い!(そのあとにドラムソロを入れるせいだろうか。それも短いが)。この曲にはパークスが参加しておらず、阿部氏のバッキングを堪能できる。8曲目、なぜかこの曲だけギターソロの音色がかなり前面に来て力強い(というか各楽器のソロごとに音がフォーカスされて解像度が著しく上がる感じ)。阿部氏のソロは広い音域を跳び回り、抽象的な現代詩をそらんじているような演奏。パークスのソロはやや常識の範囲内かな。スミスのソロも少々盛り上がりにかける。テーマもアルバム前半に比べれば少し取っつきにくいか。終曲、サックスとピアノが巧みなユニゾンで伸びやかなテーマを奏でる。直後にブリュワーのベースソロ。音が少しコモり気味なのが惜しいかな。ギターソロはラーゲ・ルンドみたいな広大なアルペジオが登場する。個人的な好みとしてはやはり短すぎる。


ギターのプレイは先に述べたように、私の知っている他のギタリストで例えるならばマイク・モレノに一番近い気がする。使用ギターはギブソンの1970年初期のES-330で、この年代の個体は日本ではあまり見かけない。サンサンゴと同じシェイプのシンボディながら、センターブロックのないフルアコ構造で、サステインが強すぎず鳴りがふくよかな感じ。モレノっぽいと書いたのは、空間系のエフェクトを強めにかけていること(笑)透明感がありながらも芯のある音色で、けっこう私好みである。録音は各楽器のバランスが良いのだが、曲によってはベースが小さく感じるのが勿体ない(Vo曲は聞こえるがそれ以外がかなり低音が物足りないのでリビングで聴くときはウーハーを上げている)。


というわけで、感想をまとめる。アルバム前半に特に良い曲が揃っており、サイドの演奏も実力通りに素晴らしく、ギターは派手さが無くやや印象には欠けるが好みの音色で、各奏者のソロが短いのが一番惜しいところ。もう15年も前の作品だが古さは全くなく、他の欧米のコンテンポラリー・ジャズギター作品に微塵も聴き劣りしない良作だと思う。現在も阿部氏はNY在住で活躍とのこと。下に氏の動画を貼っておく。この時と同じスタイルの演奏ながら、さらに深みを増した艶やかなギターが聴ける(ドラムが近く、ギターが小さいのが残念・・・)。





なお、彼のHPにはジャズギター講座の紹介があり、「ジャイアント・ステップスをペンタだけで弾く」などの実に有益な動画がある(私はこの手法を、最初にジャズギターを教えて頂いた菅原邦弘先生に、「スコット・ヘンダーソンが「こんなの1日中続けられるよ」と言ってペンタで弾きまくってるんですよ」と習った記憶があるが、知らない方は驚かれるのではないかと思う)。

来日されたらライヴにも行ってみたい。
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Motohiko Ichino / Sketches

普段ジャズギターは90年代以降の盤を中心に聴いている。海外ギタリストの作品が多いが、日本人は布川先生しか聴いていないのかというと、もちろんそんなことはない(文京区立図書館でたくさん聴いた(笑))。今日は珍しく、日本人ジャズギタリストの作品を。


sketches
(サイン付き)


Motohiko Ichino / Sketches (2005録音)
市野 元彦 - guitar
東保 光 - acoustic bass
嘉本 信一郎 - drums
かみむら 泰一 - tenor sax (Tr 2,5,6,10)


市野元彦氏は1968年生まれ。大学卒業後に渡米し、バークリー音楽院にてミック・グットリックらに師事、帰国後2003年のギブソン・ジャズ・ギター・コンテストで優勝している。この作品は彼の初リーダー作である。例によって私は10年ほど前のジャズ・ギター・ブックの記事で市野氏を知った。


ジャズギターは、モダンジャズ・後期モダンジャズ・フュージョン寄り・フリージャズ寄り・コンテンポラリー等に大きく分けられるかと思うが、この作品はジャズをフォーマットとしつつも、どこか音響系・エレクトロニカな雰囲気を漂わせた1枚となっている。全曲が市野氏の作曲で、どれもオリジナリティがある。美しいが抒情的になりすぎないテーマ、やや暗めでモノトーンな録音でセピア色の写真のようにノスタルジックな雰囲気、そして何より磨き選び抜かれたギターのヴォイシングが非常に印象的だ(彼のサイトを見るとそれも頷ける)。CDの帯にあるように「心象風景」「音の~スケッチ」という紹介はまさに、という感じがする。


アルバムの雰囲気を思い切り乱暴に例えると、「エレクトロニカに転向したジョン・アバークロンビーがECMから離脱し親指で弾いたトリオ作品」という感じ(サックスはゲスト的参加)。"アンダーサム"と呼ばれる(らしい)右手の親指中心の奏法による透き通ったギターの音色が素晴らしい(この作品の使用ギターはブックレットに書かれていないが、彼は渋谷ウォーキンのアーチトップ・トリビュート、現在は同店のWestvilleを使っているはず)。


ECMレーベルのような、抒情的だけれどもどこか透徹したそっけないまでに冷たいがゆえに切ないような雰囲気はない。時折、ネックベンド(??)でピッチを揺らすところなど、音響系的というかオーガニックな印象さえ受ける。そして繰り返しになるが、ヴォイシングが本当に美しい。ソロも無駄な音は一切弾かないというか考え抜かれた音を紡いでおり、そのラインは私の知る他のどのギタリストにも例えることができない(アルバムの雰囲気はアバクロ的だが、プレイ自体は全く違う!)。私はこんなブログを書いてるので、ピアノもギターもテクニック重視で派手な超絶技巧作品が好みと思われそうだが、このような一見地味だが知的に洗練された音楽も大好きである。


プレイの中心は転回コードによる、素人ギター弾きの私からするとあまり聴き慣れない、しかし非常に惹きつけられるヴォイシングである。ブルーノートの典型的な用い方をしていないのか泥臭いような雰囲気は一切なく(※ 7曲目で一カ所あった)、洗練された響きがアルバム全体に通奏低音のように流れている。多くの曲はその和音をモチーフにジャズなビートで展開していき、旋律は現代コンテンポラリーのように抽象的ではなく、しかし甘ったるくキャッチーでもない、そしてどこか日本人的なわびさびを感じるもの(私がよく用いる例え)だ。サイドについても書いておこう。サックスが苦味を感じる実に渋い音色を聞かせるのだが、録音のせいかやや一本調子な音に聞こえる。ベースも音像のスケールが小さく、全体的に録音クオリティは少し残念な感じを受ける。ただ、ドラムの距離間は遠目だが、邪魔をしてないのがイイ(これギター作品では重要)。


この後、彼は佐藤浩一氏(布川先生のカルテットのピアニスト)らとrabbittoというグループを結成、より音響的・エレクトロニカに漸近した音楽を奏でている。私的にはそちらも大好きなのだが、一般的なジャズフォーマットからさらに離れ、おまけにギターのソロが少ないので紹介はまた別の機会にしようと思う。


というわけで、オーガニックかつノスタルジーに満ちつつも洗練された印象と、こじんまりとはしているが知的な雰囲気に満ちており、聴けば聴くほど心に沁みてくる懐の深い作品である。私の愛聴盤であり、大変オススメ。
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Kristjan Randalu / Absence (Ben Monder, guitar)

やはりライヴにはかなわない、という盤を。


クリスチャン・ランダル / アブセンス

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Kristjan Randalu, piano
Ben Monder, guitar
Markku Ounaskari, drums

エストニア出身、1972年生まれのジャズ・ピアニストによるトリオ作品だ。2017年録音で発売は昨年、レーベルはECMである。


勿論私のお目当てはベン・モンダーで、youtubeで彼の演奏を探してはmp3に落とすという涙ぐましい作業中に発見したのがこのピアニストとの共演ライヴだ。その後、ECMからトリオが発売されると聴き、早速購入、しかし下に述べる事情で書くのをすっかり忘れてしまい、今に至っている。


さて、ともかく内容を手短に述べると、全曲で静謐な音響と北欧的な抒情性が渦巻くジャズ、という印象。ベースレスかつドラムの音像がやや遠めということもあり、どこかクラシック(or現代音楽)の室内楽的な雰囲気も漂う。きちんとした4ビートジャズはほぼ皆無と言ってよく、フリーフォームでひたすらピアノが甘美にギターと絡み合うのだが、そこに狂気や諧謔が一瞬顔を出すのが彼の作品の特徴と言えるだろう。時折ギクッとする転調を挟んだり、単調なアルペジオの繰り返しにも際どいフレーズを織り交ぜたりして、甘ったるくなりがちな作風を引き締めている(5曲目など不気味さだけの曲もある)のは、なんとなくショスタコを思わせる。


肝心のベン・モンダーだが、サイド参加としての役割に徹しており、ディレイを効かせまくりでフィードバック奏法をするなど音響的な色付けのプレイに留まっている感じ。どこをどう切っても、「ECM」の一言で感想が済んでしまうのはやはりマンフレート・アイヒャーがプロデュースのためか(W・ムースピールの近作もそうだったし・・・)。いつものバリバリにファズの効いた歪んだギター(※ 追記:記憶が曖昧だったので調べたが彼が歪み系エフェクトで使用しているのはRATのディストーションだった)でアドリブを弾きまくる箇所は1つもなく、6曲目で先ほど書いたフィードバック奏法でのディストーションが聴けるくらいである。


というわけで、期待して買ったCDなのだが、聴いた後はポトフだと思って食べたのに食塩水だったかのような味気無さ。ブログに書く価値もないと思って放っておいたわけだ。ところが、話はここからである。


youtubeでのライヴが凄まじいのだ。


アルバム3曲目の「Sisu」が、まるで別物に仕上がっている。ギターのアルペジオとタッピングハーモニクスにピアノの内部奏法、ベースの悩まし気なボウイングで実験音楽的に始まる。いかにもこれから何かが起こりそうな緊張感の中でピアノが変拍子的な曲のリフを弾き始めると、一気にスピーディなジャズへ展開(CDではなんとここで終わり(!)であった)。ランダルのピアノは耽美的な美しさと翳りは残しつつも力強いタッチでアウト感満載のフレーズを弾きまくり、そしてそして、モンダーが超ド級に歪ませたファズトーンで切り込んでくる!「そんなに歪ませたら箱モノ使ってる意味ないじゃん」というこちらの心配はどこ吹く風、ベコベコに潰れまくった音でバリバリにスウィープを決めまくる。グルーヴ感や指の回りがアレなところもあるが、ブッ飛んだ音色の潔さとブチ切れて突き抜けてる感が素晴らしい。ピアノとギターが交互にソロを取り合い、最後には再び元の抒情性を取り戻し、曲は静かに終わる。静寂と嵐、美と狂気が色とりどりのステンドグラスのように曲を彩っている。ファズの効いた歪みまくったギターはその狂気を演出するに十二分に相応しいと言えよう。また、やはりベースの存在感は大きい。アルバムの方はドラム入りなのにベースレスなのはランダルの意向なのかもしれないが、上モノとして自在に飛び回るギターの存在を考えるとベースによる「音の引き締め」は不可欠だったろう。長くなったが、このライヴははっきり言ってあざといし、狙い過ぎでやりすぎだと思う。が、私はこういうのが大好きである。アルバムではファズでのソロをアイヒャーが許さなかったとみるのが自然で、これが良くも悪くもECMなんだろう(大好きなレーベルです、念のため)。




・・・この壮絶な演奏を見た後ではアルバムの味気無さは際立つ。金を返せと言いたいレベルである。なお、youtubeでは他に、アルバムに収録されている別曲の「Lumi」も劇的な変貌を遂げて演奏されており、こちらも一見の価値がある。お試し頂きたい。
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